お楽しみいただければ幸いです。
~~前回までのあらすじ~~
突如として現れた謎の少女。そんな彼女が纏っていたのは、
2年前のライブでの事件の際に紛失したはずの完全聖遺物、
『ネフシュタンの鎧』だった。そして、鎧の少女は
ノイズを操る杖を保持していた。それを入手しようと
戦った明日夢は、重傷を負ってしまった。しかし、逆に
その事が響に戦うと言う事の現実を突きつける結果となり、
彼女もまた、戦うための決意を固めたのだった。
鎧をまとっていた謎の少女との闘いから数日が過ぎた日。
その日二課の指令室には弦十郎と了子、翼、響、そして
明日夢が集まっていた。今日は、ある報告があったのだ。
弦十郎「さて、今日はみんなに集まってもらったわけだが、
重大発表がある。……あの鎧の少女の身元がわかった」
その一言に、目を見開き驚く翼と響。
響「わかったって、本当なんですか!?」
弦十郎「あぁ。……あの少女との戦闘の時、翼からの報告で
少女は傷つき離脱して行ったと聞いた後、念のため
明日夢の体や衣服に付着していた血液を調べた所、
明日夢本人とは別の血液が見つかった。そこから
いろいろと調べた結果、相手の身元がわかった」
翼「それで、その身元と言うのは?」
弦十郎「うむ。モニターに例の情報を」
あおい「はい」
カタカタとパソコンが操作されるとモニターに幼い少女の顔写真
などが映し出された。
響「これが、あの子の素顔」
翼「……。司令、この写真の顔立ちですと、かなり前の物なのでは
ないですか?」
弦十郎「あぁ。これは今から8年以上前の物だ。彼女の名は
『雪音クリス』。ヴァイオリニストの父と声楽家の母の
間に生まれたハーフで、その出生から俺たち二課が
装者の候補として目をつけていたのだが……」
響「何があったんですか?」
了子「……テロよ」
響「え?」
弦十郎「NGOの活動として南米へと赴いた雪音夫妻と、それに同行していた
彼女だったが、夫妻はテロに巻き込まれて死亡。彼女はそれ以降、
6年もの間テロリストに監禁されていた」
響「そんな!?」
翼「……解せぬな」
弦十郎「そして2年前。例のライブ事件の少し前、彼女は国連軍に保護され、
日本に帰国した。だが、俺たちが接触するよりも先に彼女は
失踪。俺たち二課は総力を挙げて彼女を捜索した。だが、
ライブでの事件などもあって捜索はすぐに打ち切られた。
……そんな彼女が、俺たちの前に立ちふさがるとはな」
翼「………」
驚愕している響と押し黙る翼。
弦十郎「ともかく。相手の素性はわかった。俺たちは今後彼女を
探す。響君と翼はいつも通り、ノイズとの戦いに備えて
おいてくれ。明日夢は。……とりあえず、今は戦う事は
禁止する。その体が治りきらない内はお前を前線に出すわけには
いかない。良いな?」
明日夢「……はい。わかっています」
数日後のある日。
ジャージ姿で司令室のソファに倒れこむ響。彼女は弦十郎に依頼して、
今日は早朝から彼とトレーニングをしていたのだ。で、訓練終わりに
司令室に来て、今はあおいから貰ったスポーツドリンクを飲んでいた。
のだが。そんな折、一つ彼女が気になった事があった。
響「あの。今更且つ自分でやると言っておいてなんですけど、
何も私のような女子高生に頼る事ないんじゃないですか?
と言うか、シンフォギアと鬼以外にノイズを倒せる武器って
無いんですか?外国とか?」
弦十郎「少なくとも、公には無い。無論、外国にもだ。
響君、君はノイズが現れた事件に関してのニュースは
見ているか?」
響「はい。学食のテレビでたまには」
弦十郎「あれだって、表向きは自衛隊が倒したと言う事になっているが、
実際に倒しているのは君や翼、明日夢達だ。改めて言うが、
ギアとギアの装者に関する情報は超一級の秘匿情報だ。
一般人はおろか、政治家でも知る人間は少ないって事だ」
響「え~?その割には私結構、暴れてると思うんですけど~」
あおい「情報操作や封鎖とかも私たちの仕事ですからね」
弦十郎「とにかく、そんな情報封鎖などもありギアの存在は
公には公開されていないわけだが……」
朔也「とはいえ、無理を通す事も多いから今や俺たちの事を
快く思ってない官僚や省庁も多い。挙句には、特災害対策機動部
二課の正式名称を縮めて、特機物なんて揶揄されてる」
あおい「情報の秘匿は政府上層部の指示だってのにね。
やりきれない」
朔也「いずれシンフォギアを有効な外交カードにしようと目論んでる
んだろう。ノイズは全世界共通の災害であり、被害も大きい。
どのみち、世界各国から見ればノイズと戦う術は喉から手が出る
程の代物だろうからね」
響「で、でも。ギアを渡しちゃったら私たち、ノイズと戦えなく
なっちゃうんじゃ」
弦十郎「確かにな。だが、政府の役人どもは既に代わりを見つけている」
響「代わり、ですか?」
と言う弦十郎の言葉に疑問符を浮かべる響。
あおい「それって、まさか明日夢君みたいな鬼の事ですか?」
響「え?でも、確か鬼ってマカモウとか言う妖怪と戦ってるんじゃ」
弦十郎「そうだ。鬼の使命は魔化魍の退治であってノイズの殲滅
ではない。が、問題はそこじゃない。朔也、3年前の関東での
ノイズの戦いの映像記録があっただろ。夏頃の」
朔也「3年前の、夏。……あぁ、あれですね」
カタカタとパソコンを操作する朔也。やがて大型スクリーンに一つに
映像が流れ出した。
トドロキ『せいっ!』
響「え?」
唐突に映像に現れたのは、明日夢の鬼の姿にも似た別の鬼、『轟鬼』の
姿だった。
それに驚く響。動画は最初ピントが合っていなかったがすぐに
動画を取っていた撮影者が修正したのか、数秒で普通に映りだした。
動画の中では、ギターの形をした大剣、『音撃弦』で迫りくるノイズを
切り裂くトドロキの姿が流れ続けていた。
響「これって……」
弦十郎「これは今から3年前の夏。市街地に現れたノイズに対して
たまたま近くに居た鬼の一人が戦った際の映像だ。
撮影者は民間人だが、映像自体は既に国が保管している
物以外全て削除されている」
音撃弦を逆手持ちにしてノイズの群れを切り裂くトドロキを
食い入るように見つめている響。
「この時点で、役人どもにとって重要なのは、ギア以外にも
ノイズに対抗できる存在が日本に存在していた、と言う事だ。
鬼の起源は遥か昔にまで遡る。一説には、戦国時代から鬼は
存在していたと言う説まである」
響「そ、そんな昔から鬼って居たんですか!?」
弦十郎「仮説の一つだがな。……だが、もしそうだとするなら、
太古の昔から既に、鬼は魔化魍とノイズ。双方から人々を
守ってきたのかもしれないな」
響「……。えっと、どういう事ですか?」
あおい「ノイズの存在が確認されているのは有史以前。つまり、
大昔からと言う事よ。今から13年前の国連総会で初めて
ノイズと言う固有名称こそ付けられたけど、それ以前から
既に存在していたと言う事」
弦十郎「そして、同じように500年以上前から連綿と鬼たちが
人に害をなす存在と戦い続けていたのであれば、同じく
古くから人にあだなしてきたノイズと戦っていたとしても、
何ら不思議ではない」
と、今まで響の方を向いていた弦十郎がスクリーンの方に視線を
移し、響もそれに続いた。
トドロキ『音撃斬!雷電激震!』
そして、動画の中ではトドロキが最後の大型ノイズを音撃で撃破する様が
流れていた。
響は、トドロキの奏でる音撃に聞き入っていた。
弦十郎「……もしかすると」
と言う彼の言葉に、視線をスクリーンから弦十郎に戻す響。
「鬼とは、古来の人々が作り出した、今のギアとは全く異なる
シンフォギアなのかもしれないな」
響「鬼が、シンフォギア?」
弦十郎「まぁ、あくまでも俺の仮説だがな。……で、話しを戻すが、
今見てもらった動画は当然国会に提出された。それを受けて
時の政府はすぐさま鬼の調査に乗り出した。それから程なくして、
日本全国に数十人の鬼が居る事がわかった」
響「え、えぇぇ!?鬼ってそんなにいるんですか!?」
弦十郎「あぁ。現に関東地方だけで10人以上の鬼が活動している」
響「えぇ!?じゃあ、はっきり言って装者って鬼よりめっちゃ少ないって
事ですか!?」
朔也「まぁ、そうだろうな。日本の装者は、響ちゃん翼ちゃんに奏ちゃんと
全国で3人。対する鬼は関東だけで10人以上。全国を含めると、
確か軽く5、60は超えたと思ったけど?」
弦十郎「そしてだ。ここからが最も重要な部分なんだが、そもそも
鬼になる事には何ら才能などは一切関係ない。あるのは、
ひたすらな努力だ」
響「へ?……えぇぇぇぇっ!?」
弦十郎「鬼になるには極限まで心身、つまり心と体を鍛えなければ
ならない。だが、逆を言えばそれができてしまえば誰でも
鬼になれると言う事だ。俺の聞いた話では、過去には
女性の鬼も居たそうだ」
響「女の人でも鬼になれるんですか!?」
弦十郎「少なくともそうらしい。それでだが、今の話を総合するとだ。
まずギアはその大本となる聖遺物の欠片が必要だ。だが
これは唯でさえどこにあるか分からない上に数が少ない。
ましてや仮にギアがあったとしても適合する装者が居ない
限り宝の持ち腐れだ」
響「た、確かに」
弦十郎「それにギアとはここ最近になって登場した言わば
新参者であり未だに技術的に不透明な所も多い。
対して鬼は今まで連綿と続く歴史の中で幾度となく
人間を魔化魍から守ってきた。俺が言うのも何だが、
実績に関しては申し分ない。ましてや明日夢が鬼として
ノイズと戦い、確実に撃破している事は俺たちの報告書で
政府に報告済みだ。それにだ」
響「ま、まだあるんですか!?」
弦十郎「知っての通り、鬼は大量のディスクアニマルを使役している。
で、響君もそのアニマルたちがノイズと戦える存在である事は
知っているだろう?」
響「あ」
と、この時響の中には、2年前のライブ会場での戦いとつい一か月程前
初めてギアを使用した時、自分を助けてくれたディスクアニマル達の
勇姿が思い起こされていた。
弦十郎「極論になってしまうかもしれないが、自衛官であろうが
警官であろうが普段の服装や装備にディスクアニマルを数枚と
それを起動する音叉と言った装備があればノイズと戦う事
自体は可能になってしまう」
響「え?あの音叉って鬼にならないともらえないんじゃ……」
弦十郎「いや。明日夢の話では、現役の鬼を師匠としてサポートしつつ
修行を積む者もいて、彼らは練習用の音叉や笛、弦を持たされている
らしい。無論、それで変身する事もできるそうだ」
響「えぇぇぇっ!?じゃあ鬼の必要な物って結構数あるんですか!?」
弦十郎「そうらしいな。そして、それとディスクアニマルをセットに
しておけばいい。万が一の時はアニマルを起動して護衛を
任せる事ができる。……人間の不倶戴天の敵ノイズに対し、
人間よりも小さな彼らの方がよっぽど対抗できると言うのも、
皮肉な物だな」
響「で、でも。どうしてディスクアニマルはノイズと戦えるんですか?」
弦十郎「俺も専門家ではないからあくまでも推察程度だが、
アニマルの起動には、変身具から放たれる独特な音。
所謂『清めの音』が必要なようだ。これは鬼がノイズや魔化魍を
倒す時にも使われる。だからこそ、清めの音の力でアニマル達は
ノイズと戦う事ができるのではないかと俺は考えている。
……もし、本当に鬼が魔化魍だけではなく、ノイズからも人々を
守るために生まれたのだとしたら、数多くの先人たる鬼たちが
この国の今を守った事になるのかもな」
響「それって……」
あおい「先人たちの命を懸けた戦いが、今に繋がる。そう言う事ですね」
朔也「だが、俺たちはそれを知らなかった。……皮肉な話ですね。
過去から現在に至るまで、ノイズと魔化魍から人間を守っていた
鬼の存在が、今になって世間に、と言うか政治家たちに知られるなんて」
そんな朔也の言葉に、ほかの3人が少しばかり沈黙する。
弦十郎「話を戻すならば、要は政治家たちが目を付けたのはコストと
言った事柄と言うわけだ。双方の変身に必要な道具、即ち
ギアと変身装具のコスト。戦力足りえるであろう人材確保の
難しさ。どれだけ信頼性があるか。……皮肉な話だが、
鬼のそれは全てシンフォギアを上回っている」
響「それって、なれる人の数も、変身に必要なアイテムも、実績も。
全部ギアより上って考えられてるって事ですよね」
弦十郎「少なくとも、役人連中はな。……この先、どう転ぶのやら」
そう言いながら弦十郎は天井を仰いだ。
そんな時だった。
響「あれ?そう言えば了子さん、どこですか?」
弦十郎「ん?あぁ、了子君なら今は、『永田町』だ」
と、司令室ではそんな話し合いが続いていた一方、
自分の仕事場である医務室に居た明日夢は……
デスクの椅子に座り、書類にペンを走らせる明日夢だったが、
不意にその手が止まり、明日夢は椅子の背もたれに体を預けて
天井を見上げた。
そんな彼の中で、未だに僅かな鈍い痛みが生まれていた。
『今の僕は戦えない、か』
一人そう思っていた時、彼の頭の中に師匠ともいえる男の
言葉が蘇った。
『自分のやりたい事、やれる事、やればいいんだよ。少しずつさ。
それが、強さになるんだ』
それこそ、今の自分と同じ姿を持った鬼の一言だった。
「ヒビキさん。僕も、やれる事、やってみようと思います」
久しく会っていなかった師匠の顔を思い浮かべながら、明日夢は
一人呟いた。
その時、ふと彼の目に一つの写真が映った。
それは明日夢がここに来て数年が経った時、あのライブ事件の少し前に
奏、翼、明日夢の3人で撮った写真だった。それを見て、彼はある事を
思い出した。
「そう言えば、最近忙しくて奏ちゃんと連絡取れてなかったけど、
大丈夫かな?」
そう言ってポケットの中のスマホを取り出す明日夢。
今奏は猛士で鬼になるための修行をしているわけだが、その進捗状況は
メールで届く事になっていた。メールボックスを開く明日夢。しかし、
そこには猛士からのメールは届いていなかった。
一度写真に視線を移してから、再びスマホの画面に目を向ける明日夢。
『今って電話しても大丈夫かな?練習中だと邪魔になるだろうし』
と、彼は少しばかり迷ったが電話をすることにした。
数秒、呼び出し音がなっていたが、奏の方はすぐに電話に出た。
奏『もしもし?明日夢先生?』
明日夢「あ、奏ちゃん。久しぶり。今って時間大丈夫?忙しいなら
また後で掛けなおすけど」
奏『あぁ大丈夫だぜ。今ちょっと休憩中なんだ』
明日夢「そっか。練習の方はどう?結構キツイでしょ?」
奏『ま~ね。師匠は結構いい人だけど練習がハードでさ~。
ちょっち甘く見てたわ。もう体バキバキだよ』
明日夢「アハハ、まぁ、トドロキさんは良い人だから、しっかりね」
そう、今の奏は現役の鬼の一人、『戸田山登巳蔵』こと『トドロキ』を
師匠として鬼になるための修練に励んでいた。
「あんまり無理しないでね。こっちは大丈夫だから」
と、言ったものの、いきなり奏が黙り込んでしまった。
「あれ?奏ちゃん?」
奏「……無理するなって、その言葉。先生にそのまま返すよ」
明日夢「え?」
奏「少し前、翼からメールで聞いたんだ。先生が無茶したって」
その言葉に、少しばかり息を詰まらせる明日夢。
明日夢「そっか。……でも、全然大丈夫だよ。大した怪我じゃ——」
奏「全然大丈夫じゃねえよ!」
唐突に、明日夢の声を遮るように電話越しに奏が叫んだ。
「もう、もう嫌なんだよ。誰かが私の前から消えていくのは」
明日夢「………。ごめん」
電話越しに奏の嗚咽が明日夢の耳に届く。
奏の両親は聖遺物の発掘チームだった。だが、ノイズに襲撃され奏は両親と
妹を失っている。元々、奏が戦いに身を投じた理由も家族の復讐が理由だ。
奏「先生が、どんな気持ちで戦ってるのかは、わかってるつもりだ。
けど、けどよ。それでも、私は、先生に、消えて欲しくないんだよ」
明日夢「……。ごめんね、奏ちゃん。僕も焦り過ぎたのかもしれない。
戦いを終わらせられるならって思って、無茶して。
僕が怪我しても、誰も喜ばないって事を後回しにして。
奏ちゃんに心配させて。ごめんね」
奏「ぐすっ、別に、わかってるなら、良いけどよ。もう、絶対
一人で無茶しないでくれよ?」
明日夢「うん」
それから少し話をした後、電話を切る明日夢。
『そうだ。いくら戦いを終わらせたって、誰かが泣いてちゃ、
意味なんてない。自分の命も守れないようなら、僕は誰かの
命何て守る事だって、できる訳がない』
静かに天井を見つめていた時だった。
『PLLLLL!』
施設内の内線電話が鳴り、その受話器を取る明日夢。
「はい。こちら医務室、明日夢で——」
弦十郎『明日夢!今すぐ司令室へ来てくれ!広木防衛大臣が暗殺された!』
と、明日夢の返事を待たずにそんな言葉が受話器から飛び出した。
明日夢「わ、わかりました!すぐに行きます!」
受話器を戻した明日夢は仕事着の白衣を纏いながら部屋を飛び出した。
『確か、今日は了子さんが防衛大臣と会う約束だったはず!』
そう思いながら廊下をかける明日夢は、数十秒で司令室に飛び込んできた。
「弦十郎さん!」
弦十郎「おぉ、来たか明日夢」
今、司令室には弦十郎、翼、響、そして、了子の姿があった。
それにひとまず安堵して息を突く明日夢。
弦十郎の話では、事件後了子と通信ができなかったらしいが、実際には
了子の持っていた通信機の故障が原因らしく、弦十郎や明日夢達は
ほっと息を突いた。そして、了子が持っていたケースには政府から受領した
機密情報入りのチップが保存されていた。
しかし、この時明日夢達は気づいていなかった。そのケースの隅に、
血が付着している事を。
その後、二課のメンバーを集めた前で了子による報告が行われた。
彼女の説明によると、ここ最近二課の基地、もっと言えばリディアンの
付近一帯にノイズが頻発して現れるのは、この基地の最奥部、
『アビス』と呼ばれる区画に保管されている完全聖遺物『デュランダル』が
狙いであり、それを永田町、つまりは政府機関の最深部にあたる
特別電算室、通称記憶の遺跡に移送する事が決定した。
移送開始は明日の朝午前5時から。
そして、それまで響は休む事になった。
で、彼女は彼女で朝っぱらからクラスメイト兼ルームメイトの未来に
小さなメモだけを書き残して修行やらなんやらに行ってしまった為、
その事を説明するように詰め寄られたのだが、ギアや二課の事を
話す事はできないがため、荷物を持つと響は逃げるように部屋を
飛び出したのだった。
で、二課施設の廊下の一角に座っていた響は、未来を怒らせたかも、と
心配しつつため息をついたのだった。
と、そこへ。
明日夢「あれ?響ちゃん」
いつもの白衣姿の明日夢が現れた。
響「あぁ、明日夢先生」
明日夢「こんな所でどうしたの?と言うか、ため息をついてた
みたいだけど、困りごと?」
響「はい。困りごとなんですよ~」
明日夢「そっか。……よかったら医務室で相談に乗るよ?
ココアくらいなら出せるし。少しは落ち着けると思うよ?」
響「う~ん。わかりました。じゃあ、お邪魔します」
と言うと、響は明日夢について行って医務室へと向かった。
そして、そこで先ほどの悩み事を話す響。
明日夢「そっか。ルームメイトの子に」
響「はい。私とか、二課の事を話せないって言うのは十分わかっている
つもりなんです。でも、言えなくて、仮に言っちゃたら、
巻き込んじゃうだろうし。それで悶々としちゃって。さっき
だって殆ど何も言わずに飛び出しちゃって」
明日夢「……。こればっかりはね。どうしようもない、って一言で
片付けられれば良いんだろうけど、そう簡単じゃないし」
響「やっぱり、これって難しい問題なんですよね」
明日夢「そうだね。……言えないって事は人によってかなりのストレスに
なる。特に、親友や友人、家族に対して何かを隠すって言うのは
心に対して負担も大きい」
そう言う明日夢の意見を聞きながら、ココアを飲む響。
「まぁ、僕でよければだけど、日々の愚痴とかなら聞くよ。
どうせ、今はこんな体だから戦う事もできないし、
医師として、みんなのメンタルをケアするのも今の僕に
できる役目だからね」
そう言いながら笑みを浮かべる明日夢に、響はある疑問を投げかけた。
響「どうして、明日夢先生は医師になろうとしたんですか?
最初は、ヒビキさんって鬼の人の弟子だったんですよね?」
明日夢「確かに。僕は一度鬼になりたいって思った事もある。でも、
そう言うのは、何て言ったら良いのかな。…ヒビキさんの真似
みたいになる、のかな。そう思ってたらヒビキさん
『みたいな』鬼になりたいって言うのは自分の中で、
それでいいのか?って思うようになったんだ。何も鬼になる事
だけが人助けじゃない。警官、消防士、そして医師。
鬼だけが人助けじゃないって思ってさ。それに、ヒビキさんに
言われたんだ」
響「何を言われたんですか?」
明日夢「……。『自分の生きる道を決められない奴に、何の人助けが
できるんだよ』ってさ」
響「自分の、道」
明日夢「それから、かな。悩んで、考えて、医師になろうって思って。
いっぱい勉強して、医師になって。色々がんばって、
弦十郎さんにスカウトされて、2年前、ぶっつけ本番で
鬼になって、それから医師としてリディアンにも
行って、響ちゃんと出会った」
そう言って、近くにあった写真立てに映る自分と奏、翼の3人の
写真を見つめる明日夢。
対して響は、そんな彼に大人な雰囲気を感じていた。
「それが、僕が今まで辿ってきた道なんだよ、きっと」
そう言って笑みを漏らす明日夢。
しかし、この時の響は、同じ名前を持つ鬼、ヒビキの言葉を
頭の中で繰り返していた。
響『≪自分の道を決められない奴に、何の人助けが
できるんだ≫、かぁ』
図らずも、自分と同じ名前を持つ人生の先輩の言葉は、響の
中にも響いたのだった。
「明日夢さん。私、できるでしょうか?デュランダルを守る事。
……私、初めてギアを纏って、戦って、翼さん達と同じ場所に
立てた気がして、舞い上がって。でも、戦いの事、全然わかんなくて。
そんな私に、翼さん達みたいに、戦えるんでしょうか?」
その問いに、明日夢は……。
明日夢「響ちゃん。君はどんなに頑張ったって、他の誰かになんて
なれない。けど、それは僕も同じだ。僕がどんなに頑張ったって
響ちゃん達のようにギアを纏う事もできない。僕たちはみんな、
自分にしかなれない。だから、なろうとしたって、人が
なれるのは未来の自分だ。だから響ちゃんも自分と自分自身の
力を信じればいいんだ。誰かみたいに戦う必要なんてない。
自分自身の中にある物を、全力で出していけばいいんだ。
響ちゃんが自分を信じている限り、きっとできるよ」
響「自分を、信じる」
そう言って、響は自分自身の手を見つめ、そして、笑みを浮かべた。
「わっかりました~!不詳響!全力でがんばります!あと、
そのためにちょっと休んできま~す!」
そう言うと、ココアを一気飲みした響は医務室を飛び出していったの
だった。
それを医務室の扉から顔を出して見送る明日夢。
明日夢「寝坊しないようにね~」
響「は~い!」
と、最後に声をかけた明日夢は、笑みを浮かべながら医務室の中へと
戻って行ったのだった。
数時間後。
とうとう輸送任務開始時間がやってきた。
輸送作戦のため、了子の私物の車に了子自身に響とデュランダルの入った
ケースを乗せ、その周囲を4台のSPの車が同行・警護する。
弦十郎と翼は二課のヘリに搭乗して空中から車列に同行。翼は万が一の
ための予備戦力だった。
二課司令室には明日夢が残り、現場とのやり取りを行う。
広木防衛大臣暗殺の犯人逮捕と言う名目で各地に検問が設置され、
道路上の渋滞や一般の車の立ち入りは禁止されていた。
こうして作戦が始まった。
弦十郎「明日夢、そっちはどうだ?」
ヘリのサイドハッチから頭を出して周囲を警戒していた弦十郎が
本部へ通信を入れた。
明日夢『今の所ノイズの波形はキャッチされていません。
ただ、僕個人の感ですが、この先長距離の橋に差し掛かります。
逃げ場の少ない橋上は』
弦十郎「恰好の狙い目だな。……各車、橋上では特に周囲を警戒しろ。
何があるか分からんぞ」
と、警告はしたものの、実際その通りとなった。
進行方向上の橋の一部が没落。その穴を避けきれなかったSPの車一台が
転落、爆発した。
その後、脱落者を出しながらも橋を渡り切った一行。だが、間髪入れずに
新たな攻撃が行われた。
車がマンホールの上を通過する瞬間に水が吹き出し、車を吹き飛ばした。
明日夢「ッ!攻撃、下水から!?」
あおい「下水道内にノイズの波形を検知しました!」
明日夢「現場の各車とヘリに通達!それと、車列に極力マンホールの
直上を通らないように警告を!」
朔也「了解っ!」
何とか、その事を伝達しようとするが、時すでに遅く更に2台の車が
撃破された。
朔也「クソ!この短時間に!」
あおい「ッ!不味いです!この先には薬品工場が!」
朔也「おいおい!そんな所で戦闘になって、もし仮に薬物に引火でも
したら!」
弦十郎『いや!それを逆手に取る!』
明日夢「弦十郎さん!?」
弦十郎『奴らの狙いがデュランダルそのものだとすれば、デュランダルの
破壊は奴らの本意ではないはずだ!誰だって火薬庫でマッチを
持った奴と一緒に居たくはないだろうからな!ましてやそいつが、
自分にとって大切な物を抱えているとすれば、簡単に
手出しできなくなるはずだ!逆に工場内で敵を迎撃するぞ!
翼!準備を!』
翼『はい!』
明日夢「……。わかりました」
そう言って、明日夢は密に唇を嚙んだ。
『わかってる……!今の僕が戦えないって事は!
でも、それがこんなに歯痒いなんて……!』
そう思いながら、彼は司令室のモニターを見つめた。
一方の車列は、何とか工場の敷地内に侵入したが、残っていた
最後の1台も撃破され、了子の車も障害物にタイヤを取られて
転倒、スピンしてしまった。
何とか車から脱出した響と了子の目に、あのネフシュタンの鎧を
纏った少女、『雪音クリス』の姿が映った。
と、その時ノイズの攻撃が了子の車に命中し、爆発。それによって
生じた煙が煙幕となって、ヘリから地上の様子が分からなくなって
しまった。
と、その時。
響『Balwisyall Nescell Gungnir tron』
響がガングニールを纏う時の聖詠が響いた。
己が歌を歌いながら戦おうとする響だったが、ブーツについた
ヒールが邪魔になった彼女は、そのヒールを破壊して、両手を
前にするように構えた。
響『そうだ。明日夢先生が言ってくれたように、誰かみたいに戦う
なんて思う必要はない。私は——』
その時、一体のノイズが突進してきた。
「私なんだぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そのノイズに対して、重い拳を叩き込む響。彼女はそのまま、
流れるように我流の格闘術で無数のノイズを屠って行った。
そして、その様子を見ていたネフシュタンの少女、クリスは驚愕していた。
クリス「あいつ、戦えるようになっている?」
『まぁ良い。今日の狙いは、あのケースの中身——』
と、その時だった。
翼『Imyuteus amenohabakiri tron』
唐突に、クリスの上空から聖詠が聞こえたかと思うと、彼女の周囲に
短剣が突き刺さった。
クリス「ちっ!そういやあんたも居たんだったけなぁ!」
それは翼の天羽々斬の技、『千ノ落涙』だった。
そしてクリスが見上げた先には、ヘリから一直線にクリスの方に
向かって来る翼の姿だった。
翼「デュランダルは渡さん!」
クリス「てめぇに守れるかなぁっ!」
次の瞬間、翼の剣とクリスの鞭がぶつかり合うのだった。
一方、ノイズと戦っていた響とその近くで戦いを見守っていた了子。
と、その時、デュランダルを収めていたケースの各部が赤く発光
しながら警告音を鳴らし、ケースのロックが解除された。
了子「この反応。……まさか!」
と、彼女が口にした次の瞬間。
ケースを破ってデュランダルがひとりでに浮き上がった。
そして、空中に浮かびながら黄金の光を放ち始めた。
翼「ッ!?何だ!?」
その事に一瞬気を取られた翼。その時。
クリス「よそ見たぁ」
翼「しまったっ!」
その一瞬を狙ってクリスの紫色の鞭が放たれた。
クリス「良い度胸だなぁっ!」
翼「ぐぅっ!」
繰り出される攻撃を剣で防ぎはしたものの、翼は大きく吹き飛ばされ、
建物に激突してしまった。
そして、それを見たクリスはそのままデュランダルを掴もうと
宙に浮かぶそれに向かって跳躍した。
クリス「デュランダル、貰っ——」
『ドンッ!』
響「渡す」
と、その時、クリスの後ろからタックルを命中させた響。
「ものかぁぁぁぁっ!!」
そして、響がデュランダルをキャッチした、その時。
デュランダルから波動のようなものが溢れ出し、それをその場にいた
4人。響、翼、クリス、了子が知覚していた。
だが、それだけではなかった。
デュランダルをキャッチした響を基点とし、エネルギーの柱の様な物が
現れた。
そして、響がうめき声を放ちながらもそれを頭上に掲げると、デュランダルは
錆びついていた刀身が形を変え、更に錆がはがれるようにして輝かしい
刀身が現れた。だが、それだけに留まらず、今の響は目が赤く変色し、
さながら悪魔のようだった。
ヘリのモニター越しとはいえ、それを見た明日夢は悪寒を感じ、
マイクを掴んだ。
明日夢「翼ちゃん!弦十郎さん!了子さん!今すぐそこから
逃げてください!早く!」
だが、その叫びが届いたのは翼と弦十郎だけだった。
響は、クリスがソロモンの杖で召喚したノイズに目掛けて、
エネルギーを纏い刀身が長くなったデュランダルを振り下ろした。
そして、その刀身はノイズを切り裂き、更に薬品工場の
プラントにまで達した。
同時に、プラントが大爆発を起こしてしまうのだった。
司令室のモニター一面爆炎が覆い、余りの光に明日夢達が目を
背けた。そして、光が収まった明日夢は、モニターに視線を戻し、
絶句した。
工場の施設は壊滅し、巨大な黒煙が立ち上っていたのだった。
明日夢「響ちゃん。了子さん」
そして、明日夢はその中心に居たであろう二人の名前を静かに
漏らすのだった。
第5話 END
これほど間が開いてしまいすみませんでした。
次回はもっと早くに投稿できるように頑張るつもりです。