ソードアート・オンラインーEverlasthing oathー   作:ゆぅ駄狼

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帰って来ました。


助けてあげて

 唇に残る熱は暖かく、感覚は癖になりそうな物だった。

 周りの視線すらも気にする余裕もなく、ケイスケは感覚の残る自分の唇に、指で触れながら頭の中を整理する。

 数秒間の沈黙、咄嗟に出た言葉は、

 

「お前、な、何やってんだよ!?」

 

 と、顔を真っ赤にしてそう吠えただけ。

 その態度にユウキは不満があるようで、若干上目遣いをして頬を膨らませる。

 

「ボクの初めてをあげたのに怒られるなんて思わなかったよ……。そんな風に言われちゃうと凄くへこんじゃうかも……」

 

 俯いて分かり易く落ち込むユウキ。

 頬を染めるユウキに"初めて"、と言われるとキスとは違う"初めて"を連想してしまう。

 なんというか、いやらしい──そんな風に思う自分はかなりの煩悩の塊なのだろうか。

 

「へ、変な言い方するんじゃねぇよ!」

 

「だって、ボクの初めてだったんだよ!?別に変でもないし、間違ってもないと思うんだけど」

 

 ユウキはケイスケを見上げ、叫ぶ。

 その迫力に一歩、ケイスケは後退りをする。

 後退りをするケイスケに、互いの間を埋めようと、ユウキは詰め寄って行く。

 

「ちか、近けぇよ! 俺が悪かった、だから一旦離れろって!」

 

「どうせ、ケイスケは人生で一度もキスとかしたことないんでしょ。だからボクの初めてを粗末に扱うんだ。いいもん、もう一回してやるからね」

 

 ユウキがそう言うと、ケイスケの身体が急にグイッと下がる。

 首元を強引に掴まれ、無理矢理引っ張られてしまっては成す術もない。

 

「ん……」

 

「──────」

 

 二度目の口付け。

 一回目とは違い、唇を重ねている時間が長い。

 顔だけでなく、体全体が炎に包まれているかのように熱くて狂ってしまいそうだ。

 

 理性を失ってしまう前に、突き放す形でユウキと距離を取る。

 

「ふざけんなよ………」

 

 ユウキの大胆な行動に戸惑いが隠せない。

 出会った当時は元気一杯の憎たらしい女の子が、デスゲームが始まって以来は若干の大人しさを兼ね備え出した女の子が──更なるレベルアップを成し遂げてしまったなんて。

 

「好きってことを伝えるのに場所なんて関係ないよーだ」

 

「……それでも、パーティメンバーの前で好意を伝えるのは勘弁してもらいたいな」

 

「ひゃっ!?」

 

 猫が驚いて飛び上がるように、まんまユウキはビクッと跳ね上がった。

 声のする方に振り返ると、片手で顔を覆って呆れている男──キリトがいた。

 女性にも引けを取らない、可愛らしく整った顔立ち。男性としては余裕でイケメンの部類に入るだろう。

 

「こ、こいつが勝手に──」

 

「そんなことはどうでもいい。俺を呼び出したのにはワケがあるんだろ、ならさっさと本題に入って欲しい」

 

 キリトには微笑むなどの茶々を入れる様子は全く伺えず、それどころか不機嫌気味に見える。

 キス……のことは後回しにして、早い内に用を済ませたほうが良さそうだ。

 後でユウキに好き勝手にされそうだが、それは重々承知して、切り替えることにしよう。

 

「そうだな、今はどうでもいいか」

 

「むむ……」

 

「あぁ、どうでもいい。それで、何の用だ?」

 

「むむむっ……」

 

 ユウキはジト目でケイスケとキリトを睨み、クイクイっとケイスケの服の袖を引っ張っている。

 反応は敢えてスルーしているが、なんでだろうか……可愛い。

 

「要件としては、だな。俺以外のベータテスターを探していて、どうにか明日までにベータテスター達を集めたいんだ」

 

「ベータテスターを……?」

 

「うー……」

 

 てしてしてし……とユウキが力無く叩いて来てくすぐったい。

 やめろ、の意味を込めて力強くユウキの頭をわしゃわしゃと撫でるとすぐに大人しくなるから別に問題はないが。

 

 キリトが何かをボソボソと呟いている気がするが、話が全く入って来ない。

 だって、横にいる子の反応が可愛いんですもの。

 

「帰っていいか?」

 

「なんでだよ」

 

 ユウキに集中していた視線を、帰りたがるキリトに視線を戻すと──怒っていらっしゃるようだ。

 見下すような瞳、中には光が一切見えない。

 これがゴミを見る少年の純粋な瞳なのか、怖過ぎる。

 

「帰るなよ、呼んだ意味がなくなるだろうが」

 

「……どっちにしろ、呼んだところで無意味だったな。俺はこの世界にベータテスターの知人がいるわけでもないし、探すにしたって三人じゃ絶対に無理だ。攻略に参加するプレイヤーの居場所を把握してるのか? もしかするとレベル上げで草原エリアの各地にいるかもしれない。明日に備えて宿の個室で一日を過ごすプレイヤーがいるかもしれないな、そうなったら手は付けられない。だから、絶対に無理だ」

 

「だぁぁ! 無理無理って無理無理づくしのてんこ盛り野郎かお前は!」

 

 意見はごもっとも、大声で叫んだところでキリトの正論に反論は浮かばず、反論出来る範囲だとしても、反論する程の国語力はケイスケにはない。

 ケイスケは面倒臭そうに顔をしかめ、手のひらで自分の額をトントンと叩き、

 

「確かに無理かもしれねぇけどさ、諦めたら駄目なんだ。折れそうになったことは何度もあったけど、今回ばかりは折れたら駄目なんだよ」

 

「……悪いけど、俺じゃ力にはなれないよ。あんたがベータテスターを集める意味が分からないままだけど……俺には関係ない」

 

 すまない、とそれだけ言って背中を向け、キリトは去ろうとする。

 

「───っ!」

 

 その立ち去ろうとする姿がディアベルを連想させ、ふと思う。

 何の確信もない、ただの勘だが──いや、シックスセンス的な感覚で感じる。

 

「なぁ、お前ってベータテスター……ってオチがあったりするか?」

 

 ケイスケの言葉にキリトは立ち止まり、動かなくなる。

 まさかとは思ったが、本当にそのまさかなのか。もしそうなら、一人増えただけでかなりの戦力になる。……筈だった。

 

「俺はベータテスターじゃない。そこら辺にいるプレイヤー達となんら変わりない、ごく普通のプレイヤーだよ。期待させて悪かったな」

 

 現実は甘くない、とはこう言うことを示すようだ。

 根拠無し、九割がた当てずっぽうで言っただけ、そこに微かな希望を勝手に抱いていただけ。

 落ち込んだ心境を顔に出さずに、ケイスケは、そうか、と言って今度こそキリトを呼び止めることはなく見送った。

 

「落ち込むことはないよ。頑張って探していればいつかは見つかる。今のケイスケとボクに出来ることを全力で取り組めばいい」

 

「俺が落ち込んでるように見えんのか。お前はエスパーか何かかよ」

 

「サイコキネシスは使えないけどなぁ……」

 

「使えたらスゲーわ。驚くどころじゃない、ってかそんな能力あるんならサクサクとボス倒しちまえって思うんだが……、まぁフザケた話は此処までにしよう。こんな話こそ今は本当にどうでもいいモンだ」

 

 ベータテスターを探す上で、最有力候補のキリトがケイスケの頼みを断った今、制限時間は少なくなってしまったから厳しい状況。

 世間話をしている暇はない。

 

「いっそのこと、ボク達だけで何とかするっていう……」

 

「絶対に駄目だ。お前が危険に晒されるだろうが。最終手段としては俺が一人でやる」

 

「ボクにとって絶対に駄目だと思うのはそれだよ。ケイスケが死んだり傷付いたりしたらボクは死ぬからね」

 

「死ぬ気はねぇし、傷付いたりは……っておい。戦えなくね?」

 

「ばーか」

 

 それだけ言うと、ユウキはケイスケの腕に抱き付いてそっぽを向く。

 一人では戦うのは絶対に駄目……とユウキはそう言ったが、このまま他のベータテスターが集まらないままなら、最後の手段として、自分が攻略の切り札になるしかない。

 ──やるかやらないかじゃない、やらないといけないんだ。自分の為にも、ディアベルの為にも。

 

「ユウキは宿で休んでてくれないか? 人探しなら俺一人でやる。人が集まりそうな場所なら目星が付いてるし、それに探すだけなら安全だからお前が心配することもないだろ?」

 

「……どうしよっかな」

 

「考える前に先ずは腕から離れろ、暑苦しい」

 

「仕方ないなぁ」

 

 ユウキは名残惜しそうに腕から離れる。

 不満そうな顔をしているユウキはケイスケに向き直して、分かった、と言い、

 

「大人しく待ってる。本当は付いて行きたいんだけど、たまにはケイスケの言うことを聞いてみることにするよ」

 

「たまにはっつーか、いつも言うことを聞いてる気がしないでもないけどな」

 

「ボクってそんなに偉い子だった?」

 

「あーあー、偉いえら────」

 

 適当に返事を返そうとした時だった。

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 頭の中に不快な感覚がある。

 金槌で殴られているような、内側から無理矢理こじ開けられる感覚。

 

「なんだ……あ、あ………うぁ……痛い……痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い!」

 

 頭を抑えながら、膝から崩れ落ちていく。

 気を抜けば意識を刈り取られる程の痛み、間違いなくこれは痛覚が反応している。

 耐えられない痛さで、瞳に涙が浮かんでくる。

 

「ケイスケ……ケイスケ!」

 

 心配してくるユウキの声に反応することすら出来ない。

 痛覚が存在しない仮想世界でどうして、痛みを感じてしまうのか。

 システムの不具合……バグの発生……様々な点が考えられる。意識が朦朧とする中、ケイスケは考える。

 痛みに耐えて考える。イベントの一部かもしれない。きっと、このまま気を失って、何処かに転移させられる可能性もありうる。始まりの街で、鐘の音が転移するイベントを発生させたように、茅場晶彦が何かを仕組んで──

 

「はぁ………あ……あ……う………あ……」

 

 頭痛だけではない。

 今度は──体の中、心臓辺りに違和感を感じる。

 針……違う、ナイフ……そうだ、ナイフ。この大きさはナイフだ。それで抉られる感覚が、心臓、あた、り、に?

 

 待て、待て、待ってくれ。それは流石にヤバい。

 

「はっ……はっ……はっ……!」

 

「─────」

 

 ユウキは何かを叫んでいるみたいだ。

 でも聞こえない。それどころではない。

 刃が心臓をノックするようにつついている。その度に鋭い痛みがケイスケを襲う。

 

『とてもとても、痛かったよ。心臓を刺すんだ。死ぬ程の痛みってまさにこれだと思う。お前にこれを背負う程の覚悟はないだろうね。安心しろよ、心臓って刺しても案外、すぐには死なないんだぜ?遺言くらいなら残せるよ』

 

「やぁ……め、ろ……」

 

 体に誰かが乗っているのか。

 死体のように冷たい体温の誰かが、直接ナイフを心臓に目掛けて突き刺そうとしている。

 

『ディアベルは死ぬ。アスナも死ぬ。キリトは殺した。茅場も殺した。クラインも、エギルも、リズもシリカも……終わりの日にあの場にいた奴ら全員殺してやった……ユウキを見殺しにしたお前らが憎くて、憎い。憎い。憎い。憎い。憎い……ぁぁああ………』

 

 不意に、耳元に冷たい吐息がかかる。

 悪寒が走る。まるで、『死』そのものが体を包もうとしているようだ。

 

『お前も殺してやる』

 

「────」

 

 フッと、途端に頭と心臓の違和感が無くなった。

 叩き抉じ開けられる痛みも、抉られる痛みも、元々無かったように、連れ去られたように。

 

「はぁ……はぁ……なんなんだよ、クソ………」

 

 システムの不具合よりかはイベントに近いモノだ。

 不具合で痛覚があってたまるものか。自分だけがずっと痛覚アリ設定なんてハードモードではないか。

 そう思いつつ、立ち上がって自分の手の甲を抓ってみる。

 が、痛みは無く、抓られているという違和感しか残らない。

 

「痛くねぇ……マジでなんなんだよ」

 

「凄く苦しそうだったけど、大丈夫?突然倒れちゃったから驚いたよ……」

 

 あぁ悪い、とケイスケは小さく返事をして、痛みの残っていない左胸に触れる。

 デスゲームの恐怖が知らず知らずの内に大きくなって、それが妄想と幻覚になっただけなのか。休めていない日が多いから精神的に痛めているのかもしれない。

 昨日は……ユウキのおかげで十分過ぎるくらいに休めてはいたのだが。

 

「もしかして、ボクが心配してくれると思って痛いフリをしてたとか。この世界で痛い思いをしようとしても出来ないからね」

 

「……あー、そうそう。そうなんだよ。お前を困らせて楽しもうと思ってな」

 

 さっき起きた現象は紛れもない事実で、痛いフリなど演技をしていたわけではない。

 しかし、ユウキの言う通り、この世界では痛覚が無く、痛い思いをしたくても出来ない。

 デスゲームが始まってもう少しで一ヶ月。疲労も溜まっているだろうし、一層のボスをこれから攻略となると恐怖だって募る。

 

 ユウキは怒気を少し含んだ瞳でケイスケを睨む。

 

「むっ、困るどころかこっちは泣きそうになったんだけど。もう絶対にそんなことしないでよね!」

 

「悪かった。それじゃ俺は行くから、寝る時は風邪を引かないように布団をちゃんと掛けて寝ろよ」

 

「うん、分かった。……あれ、風邪は引かないってケイスケ言ってなかった?」

 

「風邪なんて引くわけねぇだろ、馬鹿か」

 

 ケイスケがそう言うと、ユウキは不貞腐れたらしく、片頰を膨らませながら、てしてしとケイスケを叩く。

 そんなユウキの頭を優しく撫でてあげると、猫みたく心地良さそうにして大人しくなる。このやり取りは何度目になるか分からないが、不思議と自然に頬が緩んでしまう。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

 ユウキは頭の上に乗っている手を両手で掴んで頷いた。

 行くと言っているのに、手を離してくれない辺り、可愛気を感じてしまう。

 無理に手を引こうとするとユウキは、うーっと唸る。

 が、甘い時間はもうお終いだ。さっきの不可解な現象で、元々少ない残り時間が更に減ってしまっているのだから。

 

 手を離して噴水広場から街中の通りへと向かう。

 道中、ケイスケは再び左胸を気にして、手を置いてみる。

 強く押してみたり、叩いたりして圧をかけてみるが、やはり痛みは無く、ケイスケは安堵と不安が入り混じって複雑な溜息を吐く。

 

「頑張り過ぎて疲労困憊って感じか……毎日ユウキを心配したり、今なんてディアベル関係で頑張りまくってるからな。やること全部終わったらゆっくり休まないと流石に危ない。サクッと終わらせてぇな」

 

 さっさと終わらせる為に思考を巡らせる。

 ベータテスターが集まる……というよりは第一層攻略会議に来ていたプレイヤーが集まりそうなのは酒場。

 情報収集と言えば酒場であろう。ドラコエやファイナルファンタジア等の有名ゲームでも、物語の重要な人物は大抵酒場にいる。

 探している重要人物はゲームNPCでは無く、本物の人間なのだが、何となく酒場に群がっている気がするから行ってみることに。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、ケイスケは急に振り返る。

 何故なら、

 

「あれ、肩を叩かれた気がしたんだけどな……」

 

 背後には誰もいない。

 近くを歩いている人も大していなく、肩を叩くのは不可能な範囲だ。

 

『助けて……』

 

「───っ!」

 

 ノイズ混じりで女の子の声が聞こえた気がする。

 周りを見渡しても、助けを求めているような女性プレイヤーは一人もいない。

 

『助けて……』

 

 気のせいではない。女の子が助けを求めている。

 息を切らして声を震わせながら、「助けて」と言ってきている。

 

『助けて……』

 

「───」

 

 声の主を探して周りを見渡すが、いない。何処にいるのか、そう思いながら前へと向き直す。

 ──いた。

 自分が向かっていた方向に、人はいなかった筈なのに、気色悪い──人間に似た何かが其処に立っている。

 

「お前は……」

 

 輪郭がぼやけて、背丈がはっきりと分からない黒い影。

 得体の知れない黒い影は、静かにケイスケへと歩み寄るが、一歩歩み寄るたびにケイスケは後退りする。

 自分以外の他のプレイヤーには目視出来ない物体。怖くて堪らない。

 捕まったらどうなってしまうんだろう、という恐怖感と不安がケイスケを煽る。

 

「幻覚ってレベルじゃないだろ……こいつに触れたら危ない気が──」

 

 ──マジかよ……体が動かねぇ……。

 足が地面と縫い合わされているかのように固定されていて、動くことが出来ない。

 黒い影は止まることなく迫り、手が届く距離まで近付いた。

 

『助けて……』

 

「────」

 

 黒い影が喋っているのか、先程聞こえた女の子の声がした。

 黒い影は手を伸ばして、ケイスケの頬に添える。

 冷たい──さっきの現象で背中に乗っていた誰かと同じく、この黒い影に身を包んだ女の子も死体みたく冷たい。

 デスゲームが始まって以来、数十日の間で儚くも死んでしまった人の亡霊……そうでなければ理解し難い現象だ。

 

「お前はどうして俺に関わろうとするんだ。俺の体を痛めつけたのはお前なのか?」

 

『助けて……』

 

「答えろよ、こっちは死ぬかと思ったんだ。意味も分からずに頭ん中をぶっ叩かれたり、胸を刺されたこっちの身にもなってみやがれってんだクソ野郎!!」

 

 黒い影に対して、ケイスケは激情を張り上げることで答える。

 抱いていた恐怖は怒りに変わり、息を荒げて、肩を揺らしながらケイスケは正面に立つ黒い影を睨み続ける。

 

『助けて……』

 

「人に助けを求める前に、自分で何とかするって努力はしたのかよ!? あぁ!? 俺は今、まさに努力の途中なんだよ!! 邪魔すんじゃねぇ!!」

 

『助けて……』

 

「うるせぇよ!!」

 

 頬に添えられた手を振り払う。

 足は動くようになっていて、体は自由が利く。縛られている時間は終わったらしい。

 ケイスケは後方に飛んで黒い影と距離を取る。

 振り払われた黒い影は動く様子も無く、ジッと黙ってケイスケを見つめているように佇んでいる。

 そして数秒すると再び、

 

『助……けて……』

 

 泣きそうな声で助けを求めてくる。

 見ていると憐れで、次第に怒りも収まっていく。

 亡霊でも、黒い影でも、目の前にいるのは女の子。痛い思いをさせられたのは確かに腹が立つことだったが、自分の存在を気付かせたいが為にそういった行動を取ったのかもしれない。

 悪いのはこの女の子じゃない。デスゲームを始めた茅場晶彦ただ一人だ。

 

「悪かった、言い過ぎたよ。お前は悪くない……いや、痛い事をしたのは悪いけどよ……許してやる。特別にな」

 

『助けて……』

 

 黒い影を身に纏った女の子は同じ事を呟くばかりで違う言葉を発する気配はない。

 そんな女の子にケイスケは先程とは打って変わり、優しく接しようと試みる。

 

「んで、お前はどう助けて欲しいんだ。俺は時間がないから早めに答えてくれよ」

 

『…………』

 

 黒い影は黙り込む。

 ケイスケはどうしたのかと、首を傾げて返事を待つ。

 

『助……けて……あげ……』

 

 か細い声でそれだけ言うと、黒い影は消えてしまう。

 数分しか時間が経っていない筈なのに、ケイスケが佇んでいた街通りは暗くなり始めていた。

 

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