ソードアート・オンラインーEverlasthing oathー   作:ゆぅ駄狼

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第1章
今日は誕生日


 ──朝だぞ、早く起きろー。

 

 声と共に、とある一室で安眠を取っていた少年が目を覚ます。

 少年の瞼が開くと、燃え上がる炎を連想する紅い瞳に弱々しい光が宿る。

 茶色の髪は寝グセでくしゃくしゃになっていて、少年はそんな寝グセだらけの髪型を自分の手で更に悪化させた。

 

「んー……眠い………」

 

 上体を起こして目を擦る。

 今日の夢はなんだか思い出したくない物だった気がする。

 

『もっと叩いてください』

 

 頭の中に浮かんできた十八禁感満載の夢を振り払うべく、圭介は頭を横に数回振った。

 思い出してはいけない物だった気がした。というより、思い出してはいけないと断定出来る。

 

「起きるか………」

 

 ベッドから起き上がり、カーテンを開け、朝の日差しに御対面。起きたばかりの圭介には少し(まぶ)しく、目を細める。

 欠伸(あくび)をしていると背後のドアがきぃと開く。

 

「よう、圭介。起きたか?」

 

「あぁ、今起き──」

 

 瞬間的に息が止まった。

 目に映ったのは破壊力抜群の叔父の姿。筋トレを続けた結果、ボディービルダー並みに強化された上腕二頭筋、小刻みに振動させる事を可能にした胸筋、中学生が見たら()()()()()と言い表す程、六つに割れた腹筋。筋肉を隠す衣類は一枚のエプロン。

 所謂(いわゆる)、裸エプロンの姿で部屋に入ってきた。危険を感じないわけがない。

 

「そ、そんなにまじまじと見つめるなよ………えっち」

 

「──────」

 

「へへへ……ご飯ならとっくに出来てるから早く降りてこいよ?」

 

 終始、絶句したままである。

 叔父はキレのある方向転換をするとエプロンが宙を踊り、後ろ姿を見ている圭介は不覚にも、滑らかなラインが描かれている美しい尻を目撃した。

 

「中々に強烈な朝を迎えた桐崎圭介である……」

 

 叔父が部屋を出て行くのを確認すると、慣れないナレーションを自演し、独り虚しく溜息を吐く。

 ナレーションがあったら主人公っぽくなるなぁ、なんて思っていない。

 別に、主人公になっちゃえば彼女が出来るなんて思ってないもん。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 桐崎圭介、高校二年生、十七歳である彼に彼女はいない。

 通っている学校は工業系云々で比較的女子が少ないから、というわけではなく、むしろそれなりに難関である進学校に入学していて、女子率も高い方だ。

 

「はむ……やっぱり朝トーストより白米の方が俺的にはいいな」

 

 焼きたてのトーストをサクッと音を立てながら食べ、コップに注がれた牛乳を飲む爽やかな彼の姿を見た乙女達は『かっこいい……』と揃ってこう言うに違いない。

 恵まれた容姿、女子の視線を集めるイケメンだからといって、他の男子生徒達に疎まれることもなく、それどころか男子生徒達は皆、圭介を『良き友人』、『親友』と称している。

 元々のコミュニケーション能力が高いおかげで男子生徒達からも支持を得ているのだ。

 

「叔父さん、番組変えてもいい?」

 

「んー、別にええよ」

 

 テレビのリモコンを操作する、そんな彼にも悩みが一つや二つあるものだ。

 

 彼女が欲しい(切実)。

 

 学生時代とは青春そのものであり、とてつもなく恋人が欲しくなる時期。現状でもまぁまぁ充実しているとは言え、彼女がいなくては本物のリア充にはなれないと思っている。

 かなり前に、男同士の何気ない下衆い話をしている時に、圭介にもその時期が到来してきて、彼女が欲しいと呟いたら。

 

『圭介ならいけるっしょ。イケメンだしょ』

 

『確率的に言えば99.99999………の確率で告白が成功するかと』

 

『たぬきそばうまぁ!』

 

『それよりC組のあいつ、胸大きいとおもわねぇか? なぁ、思うよなぁっ!』

 

 無論、これは『進学校』での何気ない会話だ。

 当然と言えば当然で、年頃の圭介達にも恋バナをすることは少なからずある。

 

「あ、新しいゲーム機じゃん。圭介は知ってるか?」

 

「ナーヴギアでしょ。スマホ開いてネット見ててもちらほらと出てくるから知りたくなくても知るよ」

 

 彼女が欲しいとは言っても、圭介にとっては簡単ではない。

 もし、圭介が彼女を作ったとしても、男子は何も言わないであろう。

 が、女子の方はどうだろうか。女子は男関係のことになってしまうと紛争地帯に駆り出された戦士になったのではと錯覚するほどに恐ろしい存在へと豹変する。

 女子同士で一人を除け者にし、悪口を言ってイジメのターゲットにする。圭介になれば尚更、女子達は過剰に反応してしまう。

 故に入学して以来、圭介は校内で学校行事以外の世間話で女の子と喋ったのは一度きり。

 

「ナーヴギアか。高いけど買ってみるかな」

 

「なんだ圭介、ゲーマーの血が騒いでんのか? この引きこもりめ」

 

「ゲーマーは否定しないけど、引きこもりは否定する」

 

 そう言って、トーストを食べ切った圭介は、残り僅かな牛乳を飲み干して椅子から立ち上がった。

 部屋に戻ろうとする圭介の背中を眺めていた叔父は不敵な笑みを浮かべ、おい、と圭介を呼び止める。

 

「忘れ物があるぞ、圭介」

 

 クイクイっと叔父は人差し指を自分の足元に向けている。

 実はリビングに降りてきた時からあったダンボール箱。叔父の物だと思って気には留めていなかったが、どうも叔父の態度がこれを持って行けと言っているようだ。

 

「なんだよこれ」

 

「お前の欲しがってた物だよ。扱いは大切にな、ゲーマー野郎」

 

 叔父は笑顔でそう吐き捨て、圭介はダンボール箱を開けた。

 中には新品のナーヴギアとソードアート・オンラインと称されたゲームのパッケージ。

 誰から見てもヘルメットに見えるナーヴギアは格好良い物ではなく、ただ単に被ってゲームをする為の機械。

 

 ────やってみるかな。

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