ソードアート・オンラインーEverlasthing oathー 作:ゆぅ駄狼
仮想世界から現実世界に戻る感覚は、眠りから目覚める感覚に似ているとケイスケは思う。
カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいて、部屋の中は豆電球を照らしたくらいの薄暗さになっている。
「一ヶ月で十二層───あの時は何回も死んだけど、アイツらの戦法は全部覚えた。製品版では一ヶ月で二十層は行ける」
ベータテストを無我夢中になって仮想世界に入り浸っていたケイスケは百層まであると言われる鉄の城・アインクラッド──ある一人のプレイヤーが十層まで行くのが限界と言っていたのをケイスケだけは十二層まで
「実質、今は俺が最強のプレイヤーか。ゲームは好きだったけど、オンラインで最強ってのは今回が初めてだな。でも、思ったより実感がわかねぇや」
ケイスケは再び瞼を閉じる。
今日は製品版が発売され、今頃は店は行列になってとんでもない人混みだろう。
カラッカラに乾いた空気、身を焦がすような灼熱の大地、人口密度が異常過ぎる夏の秋葉原を思い浮かべていると、キィとドアが開く。
「圭介、起きないとお前を舐める」
「ドアの隙間からボソッと言うな」
ケイスケは目を細めて顔をしかめる。
起きろと言われたが、意識が覚醒していても布団の中にいると出る気が損なわれてしまう。
仕方なく、安らぎの地から離れて身支度を済ませる。
そして、朝食を摂らずに玄関に直行。すると、昨日の時点で叔父には外出すると伝えていた事もあり、叔父が玄関で見送りする為に待っていた。
行ってらっしゃい、と叔父の一言に対し、ケイスケは返事を返す。
「行ってきます」
玄関の扉を開け、叔父に手を振る。
ソードアート・オンラインを買いに行くまでの間、今までのプレイを頭の中で振り返っていた。
最初に驚いたのはモンスターに対して。他のゲームではスライム相当であるモンスターに攻撃されると意外に吹き飛ばされて、痛覚が無いのに痛いと言ってしまった。
『いやぁぁぁぁらめぇえええええええっっっ!』
次に驚いたのは第一層のボス、『イルファング・ザ・コボルト・ロード』に対してだ。
自分や他のプレイヤーとは別格の体格、明らかに大きさが別次元の武器。最初は勝てないと思っていたのだが、案外簡単に倒す事が出来た。
製品版では
アスファルトを蹴るようにして走り、店に辿り着くと思った通り、行列が出来ている。小学生から大人、幅広い年齢層の人達が並んで列が進むのを待っていた。
「すげー混んでる………だけど───」
待つ必要がない、何故ならベータテスターには特権があり、パッケージに付いてきた"引き換え券のような物"を店員に渡すと優先的に会計を済ませてくれる。だから、急ぐ必要は無かったのだ。
ついでに説明すると、ベータテスターじゃない人はナーヴギアを持っていないのでそれ自体も買う事になる。店にとっては良い収入源になるだろう。
自分を入れ、ベータテスター達は製品版を購入するだけで済み、出費は激しく無い。逆に持ってない人は十数万円はするナーヴギアを購入すると同時に製品版までも購入しなければいけない。
行列を掻い潜り、製品版を手にする。購入し、急いで家に向かう。
「ただいま、叔父さん」
玄関の扉を開き、叔父に声を掛けるとリビングの方から、愛してるよ、と返事が返って来る───が無視。
返事を聞くと自分の部屋へと向かい、ナーヴギアに製品版のソードアート・オンラインをインストールさせる。約15分、長い待機時間。待っている間に出来る事と言ったら説明書を読破するなど、他には部屋を整理したり、窓から景色を眺めたり、携帯を
ダウンロード状況が100%になるとすぐさまナーヴギアを被り、布団へと横になる。そして、身体全体を手で触る。
最初はあまり信じれなかったのだが、ナーヴギアを装着して身体を触ると身体の微弱な電磁波を感じ取ってプレイヤーを認識するらしい。
仮想世界の動きをどう再現しているのかと聞かれたら納得する。
更にこのナーヴギア、ゲームをプレイしている間は首から下の神経を全て
ただ、人体への悪影響はない事が確認されているから問題はない。
「リンク・スタート」
ベータテストの時にも言っていた、仮想世界へとフルダイブする為の
『Welcome.to.SwordArtOnline!』
『ようこそソードアート・オンラインへ』という文字が消えるとアバター作成画面へと強制的に切り替えられる。
アバターに関してはあまりこだわりは無い。
大勢のプレイヤー達は他のプレイヤーと被らないように『瞳』、『髪型』、『体型』など細い所まで自分好みにしていくが、逆にデフォルトで始める人は割と少ない。
そもそも、一人のプレイヤーが
「名前は圭介でいいかな、どうせ本名付けようなんて人は少ないし」
ベータテストの時と同じ名前。オンラインゲームで本名を使う人は数少ないから被る事もあまり無い。ただ、自分の他に"ケイスケ"と付けた人がいたら名前を再設定しなければいけない。
今回は自分が一番最初のケイスケで唯一のケイスケになった。アバターの外見はデフォルトのまま、名前はケイスケ。
初期設定が終了すると光に包まれ、一つの街へと放り出される。
『始まりの街』と言われる街で、アバター作成が終わると全てのプレイヤーは自動的にこの街に飛ばされ、ソードアート・オンラインの第一歩を踏みしめる。
変化は無し、か。と内心呟く。
右手を開閉させながら街の中を見渡すと初心者プレイヤーが多く、初期装備を確認したり、この世界での初期状態で持っている『金』、もとい『コル』を確認している者が沢山いた。
やるべき事を理解しているケイスケは迷う事なく外のエリアへと向かい出す。
「ねぇねぇ!」
背後から呼ぶ声がし、前進していた足を止める。
振り返ると、宝石のアメジストと類似した綺麗な紫色の髪を揺らし、ケイスケと同じ瞳の色をした少女が上目遣いをしていた。
「君ってベータテスターなの? 突然なんだけど色々教えてくれないかな。始めたばかりだからあんまり要領が掴めなくて。剣の使い方とかも全然わかんなくて困ってるんだ」
少女は初期装備である安物の剣を適当に振るっては剣をまじまじと見つめ、分からないと言わんばかりに首を傾げる。
教えてあげてもいい、と言う気持ちにケイスケはなるものの、そうしている間に他のプレイヤーに追い抜かれてしまうのが癪に思う。
ベータテスト時と言えど、自分は最強のプレイヤーだったのだから。
「悪いけど他を当たってくれ。俺は急いでるからさ、本当にごめんな」
んじゃ、と手を挙げて去ろうとした。
が、腕を引っ張られて急ブレーキが掛かり、後ろに転倒しそうになる。
「ボクの直感が、君が良いって言ってるの!」
──そんな馬鹿な……お前の
『直感』が便利な言葉で困ってしまうと思ったケイスケは顔を引き攣らせて苦笑し、
「ふざけんな、直感で人を選ぶんじゃねぇよ!」
女の勘は怖いものだ。直感でベータテスター最強のプレイヤーを選び抜き、教師にしようとするのだから。
「色々教えてくれるまで絶対に離さない。永久的にこのまま化石になるまで一生一緒になるんだからね!?」
勘違いしそうな発言。とんでも迷惑な美少女にケイスケは呆れるが、この勢いだとマジの域で化石にされそうになり、折れる。
「それだけは勘弁しろよ! 分かったからとっとと離せ、馬鹿!」
小さい女の子はパッと掴んでいた服を手放す。全力で前に進もうとしていたケイスケは突然放された勢いで前のめりになって顔を地面に叩きつけることになる。
「ありがとねお兄さん!」
「は、はは……どう致しまして………」
最悪な初日。レクチャーするだけの時間を攻略に費やしていたら一層攻略準備は大体終わるのでは?不安に心を蝕まれながらも移動を始める。
色々となると『ソードスキル』についても説明しないといけない。
言葉じゃ説明しにくいモノを初心者に教えていたらいつ終わるか……、とケイスケは心の中で溜息を吐いた。