ソードアート・オンラインーEverlasthing oathー   作:ゆぅ駄狼

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神になった男の悪戯

 ソードアート・オンラインでの時間は現実の時間と同じで、こっちの世界が昼間であると現実も昼間になっている。

 予想通り、長い時間を一人の初心者に費やしてしまう。昼間から夕暮れがになるまで質問漬けにされ、ソードスキルについても何度も復習した。SAO内での教師になれる事間違いなし、ソードスキル専門だが。

 その話とは別に、相手がやけに親しく話し掛けてくることに若干イラッとする。君のアバター、カッコ良いよねっ!とか。自分のアバターはデフォルトのまんまであり、手は一切加えていないから。と内心ツッコミを入れる。

 

「俺はもう落ちる。後は頑張れ」

 

「うん、ありがと。えっと、名前………」

 

「ケイスケだよ」

 

「ケイスケ、またね」

 

「またね、じゃない。もう会わないから」

 

 右手の人差し指を空中でスライドさせる。パネル式のメニューが開き、『option』をタッチした。視線を下へと下げて行き、『logout』を───………無い。『ログアウト』が無い。

 

「運営のミスか? おい、お前」

 

「ボクはユウキっていうの!」

 

「あーはいはい、ユウキ。お前の方にログアウトあるか?」

 

「待ってね───」

 

 ケイスケを真似て、ユウキも同じ動作でメニューウィンドウを開いて、言われた通り確認するが。

 

「ないよ?」

 

「お前さ。きょとんとしてるけど、どういうことか分かってます?」

 

「うん!」

 

 危機感ゼロ、重度の天然らしく、今の状況を理解していないようだ。頼りにはならないので仕方無く、ケイスケは一人で考え込む。

 ログアウト不可能、運営にとってもヤバいのではないのか。一時的な問題だとしても仮想世界という檻に、大勢の生きている人間を閉じ込めているのだ。

 が、明日の朝に(おが)める報道はソードアート・オンラインの記事で一杯になる気がする、とケイスケは結局、ユウキと同じく呑気に思う。

 

「業者も焦ってるだろうな」

 

「なんで焦るの?」

 

「考えろ」

 

「ボク達は今、抜け出せないんでしょ?」

 

 存外、ちゃんと状況を理解していたようだ。

 

「なんだ、分かって………────鐘?」

 

「聞こえるね」

 

 夕陽が俺達を照らす中、始まりの街方面から鐘の音が聞こえてくる。時間は五時丁度。

 可笑しい───鐘を鳴らしてどうしようと言うのだろうか。ベータテストをしていた時は十二時や六時に鐘を鳴らすのが普通だった。

 

「な、なんだっ!?」

 

「わわわっ!」

 

 二人の体を光が包み、微妙に振動する。不快な感覚に、ユウキは咄嗟に俺の身体に抱き掴まる。

 

「抱き着くな離れろ!」

 

「そんな事言ってる場合じゃ無いよ!」

 

 身体が光に包まれ、何処かへと飛ばされる。光が消えると草原ではない違う場所に転移していた。

 

「始まりの街?」

 

「ねぇ、これは一体どうなってるの?」

 

「分かるわけないだろ」

 

 飛ばされた先は鐘がなっていた始まりの街で、何故か大勢のプレイヤーが集められていた。

 ケイスケ達と同じようで突然転移させられたようなのだが、やけに空が紅い。

 不安を(あお)ってくるような空気。 此処(ここ)にいるプレイヤーは全員ログアウトが出来ないという事態に気付いているみたいだ。

 

 ──運営に異常でも起きたんかな。

 

 時間が経つと無数の『Warning!』の文字が紅い空一帯に張り巡らされていく。

 気味が悪い文字だらけの空を見てプレイヤー達は、「なんかのパフォーマンスか?」、「なんだなんだ」などと野次(やじ)を飛ばす。

 やがて文字からドロドロの血液のようなモノが溢れ出し、血液のようなモノはローブに身を包んだ男になっていく。

 

「プレイヤーの諸君、私のゲームへようこそ私は茅場晶彦。既に殆どのプレイヤーは気付いていると思うが──メニューからログアウトが消滅していると思われる。これは不具合などではない。ソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

 周りが騒めき出す。ログアウトが無い、意味するのは現実にも戻れないということ───つまり、人間を仮想世界に『監禁』するということではないのか? プレイヤー達の間で疑問が生まれる。

 

「そして、この世界で死亡、又は現実世界の君達の頭に装着されたナーヴギアが強制的に外されると信号素子のマイクロウェーブが脳を焼き尽くし死に至らせる。現に、強制的に外された例もある」

 

 ローブの男──茅場晶彦がそう言うと、茅場の隣に巨大モニターが出現し、見てみると、亡くなった人達が運ばれる映像をリアルタイムで日本中に報道されている。

 

「現在、確認したところ──213人。この数は、強制的にナーヴギアを外されて亡くなった者達の数だ。が、心配することはない。既に、君達の殆どは然るべき施設に連れて行かれ、身の保証はされている。そして、君達が今いるのはアインクラッドの最下層、第一層だ。百層をクリアすればこの世界はクリアされ全員がログアウトすることができる。安心してプレイしてくれたまえ」

 

 『百層』───無理、とは言わないが出来る保証が無い。

 HP(ヒットポイント)がゼロになる恐怖と戦いながら実際に剣を握り、死ぬ覚悟で戦いに出る奴なんてそんなにいる筈が無い。元々はたかがゲームだったのだから。俺自身、実際に死ぬなんて信じている訳では無いけれど──もし、本当だったら永遠に消える。

 

「最後に私からのプレゼントを用意した。アイテムストレージを確認してくれたまえ」

 

 周りのプレイヤーはメニューを開き、続いてアイテムストレージを開く。自分自身も周りのプレイヤーと同様、確認してみるが───確かに一つある。『手鏡』と表記された、持っていなかったアイテムが其処にある。

 手鏡をタッチするとアイテムが具現化される。……手元に現れたのは何の変哲(へんてつ)も無い手鏡。

 

「────ッ!?」

 

 手鏡で自分を認識すると転移した時と同じ光に包まれた。しかし、身体は何とも無い。………と思っていたのだが、本来なってはならない事が起きていた。

 皆、現実の顔になっている。自分自身も。皆の現実の顔が明かされていく。

 

「おいおい……もしかして、これが心躍る瞬間って奴か? 現実世界の顔がまんまコピーされてるじゃんかよ。ただでさえ理想のゲームが今、完全体になって生まれた臭が随分と匂ってくるな。なぁ、お前もそう思わね───」

 

「君、もしかしてケイスケ?」

 

「は?」

 

 ロングの黒髪が揺れ、透き通った黒の瞳で上目遣いする女の子。

 本物の女の子がずっと話し掛けて来てたなんて思いもしなかったと、ケイスケは驚く。

 ユウキがオドオドしながら周囲を見渡している。可愛いからやめろ、と口には出さないが心の中で静かに文句を垂れる。

 文句でも無いが。真実に驚愕(きょうがく)しつつも女の子をベタ褒めしていると────

 

「誰だお前」

 

 不意に正直な感想が口から零れてしまった。

 

「えー、さっきまでずっと一緒だったのに……」

 

 そう言い、ユウキはジト目で見てくる。

 本当は分かっているけどもこれだけは言っておかないと納得出来ない。ごめんなさい、性別詐欺だなんて疑って。

 

「それではチュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈る」

 

 茅場が言い放つと周りは一斉に騒ぎ始める。

 泣いて膝をつく者、恐怖に心を狩られてその場で発狂する者。次の街を目指す者。正しい判断が出来ているのは三番目の次の街を目指すという行動をとったプレイヤー達だけ。

 ケイスケもその部類に入るが、隣の女の子が足枷(あしかせ)となって自由に動けない。

 HPゼロが『死』を意味する。これが本当なら、ユウキを置いていったとして、ユウキが何処かで死んだら自分が見殺しにしたようなものだ。

 見知った人を見殺しにする、それも女の子を。心地良いものではない、なら───共に行動する他ない。

 

「ユウキ、来い」

 

 普通に考えて女の子にあんまり無理をしてもらいたくないという気持ちが強かった。

 しかし、この世界はレベルがものを言う世界だ。多少はレベルを上げといた方がいいと思う。ユウキの手を引っ張って次の街を目指そうとする。

 

「まぁ、なるようになるかと思うし。運命に身を任して進んでみるか、先ずは次の街を目指して、レベル上げしないとな」

 

「………うん」

 

 絶望そのものに変わってしまった世界で、泣き崩れる人の群れを避けながら、二人は次の街である『トールバーナ』へと向かって行った。

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