今までの話を作品全体のプロローグとして、これからは一定の艦娘に焦点を当てて物語を薦めていこうと思います。これからもゆっくりと更新していくつもりですので、なにとぞ今作品をよろしくお願いします。
目標は完結です!(目標が低い!)
昔懐かしい洋楽が響き渡る昼下がりの喫茶店。カウンターの奥ではヒゲがチャームポイントの渋いマスターがミルを挽いている。そんな彼が作ったコーヒーを、笑顔がすてきなバイトの女学生が世間話にふける奥様方や老眼鏡をかけて新聞を読むおじいさんに注文通り置いていく。
そんな風情のある店内に、ひときわ目を引く一角があった。
「遅いわね……」
「もう、何してるのよあの子は」
「はーやーくー。おなかすいたー」
落ち着いた様子で喫茶店の扉を見つめる初風、腕時計を見てそわそわしている天津風、時津風はお預けをくらった犬のようにばたばたと足を揺らしている。いや、実際に時津風の目の前には一足先にがっつり冷えたオレンジジュースが置かれており、彼女の視線はそこに釘付けだった。
とある住宅街の奥まったところにあるこの喫茶店は、地元の中高年以外なかなか来ないために彼女たちのような
一見の来客は珍しい。加えてそれが見目麗しい三人の美少女だというのだ。目立たないはずがない。
「お待たせしました、ストロベリーパンケーキ二つとアップルパンケーキ一つです」
と、時津風に追い打ちをかけるように、先ほど彼女たちが注文した食べ物が目の前に並べられる。ほかほかと湯気が立ち上り、それと一緒にそれぞれにかかったソースのフルーティな香りが空気に溶けてゆく。
そのおいしそうな香りに我慢している少女はいわずもがな、思わず扉や時計を見ていた他の二人もにおいにつられて食べ物の方へと目を向ける。
と、その時ちょうどカランカランとドアベルが音を立てて開いた。
「はぁ……はぁ……」
店に訪れたのは春らしい色合いのTシャツにいかにも動きやすそうなハーフパンツに身を包み、肩から提げた鞄についた手のひらサイズの望遠鏡がどことなく目を引く少女だった。
彼女は焦った様子で店内を見回し、ある一点に焦点を合わせたところでホッとしたように微笑む。美しさよりも可愛さが勝るその笑顔は、きっと数多の男性を魅了するだろう。数年後の美貌が約束されているその容姿に、ひそかに自分の外見に自信を持っていたウェイターは今日四度目の歯ぎしりをする。
そんな彼女の視線に最初に気づいたのは、入り口が見える位置に座っている初風だった。
「あ、雪風来たよ」
「え? あ、本当だわ」
「おーい雪風-。こっちこっちー」
入り口に背を向けて座っていた二人も、友人の言葉を聞いて後ろを振り返る。無事三人と目が合った雪風は、慌ただしく傍によって初風の隣に座る。そして、最近天津風から嫉妬の視線をよく受けるようになった胸の前で手を合わせた。
「遅れてごめんなさい!」
● ○ ●
やっとのことで始まった女子高生たちのおしゃべり会。
ブルーベリーソースがかかったパンケーキが遅れて運ばれてきたも交えての最初の話題は、つい先ほどのことについてだった。
「雪風が遅れるなんて珍しいね」
「ちょっと旅館でトラブルがあって、予定よりちょっと遅くにおわっちゃったの」
「トラブル? 雪風、大丈夫なの?」
「うん。大丈夫大丈夫」
見ている人を明るくさせるような笑顔で、雪風はそう言う。
彼女をよく知らない人物なら一緒にニコニコと笑ってしまいそうだが、そこは十年来の友人たち。雪風の危なっかしさをよく知っていた。
「もしもの時は大和さんや一崎に相談しなよ?」
「あんた、一人で抱え込んじゃうんだから」
「わかってます! これでも女中の一人なんですから!」
「そういうところが心配なのよ」
「そういうところが心配なの」
胸を張る雪風だったが、二人に突っ込まれてうぐ、と言葉に詰まる。
「ぷはぁ」
と、雪風のパンケーキが運ばれてきてから今まで食べるのに夢中だった時津風が、オレンジジュースを飲み干して顔を上げた。あれだけ勢いよくがっついていたにしては、パンケーキはきれいに平らげられていた。頬に食べかすがくっついていたが。
そのことに気づいた天津風が、もう、と苦笑しながら、時津風の頬についたパンケーキのかけらをぬぐう。だが、天津風本人は口の端についた小麦色のかけらに気づいていないようだ。
「あ、天津風もついてるよ」
「え? あぁ、ありがと……ってちょっ!」
制止の声も空しく、時津風はペロリとのほっぺについたかけらをなめ取った。
羞恥のせいで煙が出そうなほど顔を赤くする天津風。
そんな彼女の姿に首をかしげつつかすかな甘みを堪能する時津風の姿に、正面でその様子を見ていた二人は口をそろえてこう言った。
「「ごちそうさまでした」」
「あれ、初風と雪風はもうおなかいっぱいなの?」
二人仲良く両手を合わせると、まだおなかが空いているらしい時津風がめざとくまだ残っている友人たちのパンケーキを狙ってくる。……ほら、フォークが近づいてきた。
さりげなく左手で自分の皿を手前に引きながら、初風は少しだけ愛想の混じった笑みを浮かべた。
「ううん、まだ食べるよ。こっちの話だから気にしないで」
「雪風もあげないよ!」
雪風もとびきりの笑顔で応戦する。甘いものを狙う輩はたとえ友人であっても真っ向から戦うのが雪風たち四人の共通理解だ。そうしなければ、おなかを空かせた時津風にペロリと平らげられてしまう。それだけは絶対に避けなければならないことだ。
しばしのにらみ合いの後、最終的に時津風はぐぬぬ、とフォークを引っ込めた。
また時津風の気がそちらに向かないうちに、雪風は話題を変えることにした。
「ところで、今日は何の用だったの?」
すると、それまでパンケーキに意識が向いていた時津風の顔がぴょこんと跳ね上がった。
「雪風ー、ゴールデンウィーク空いてるー?」
「え?」
「ちょっと時津風、もうちょっと順序立てて話しなさい。雪風が困ってるでしょ」
「ゴールデンウィークにちょっと旅行しようと思ってるの。それで、雪風もどうかなって思ったんだけど……」
さすがに難しいかな。
尻すぼみになった初風の言葉は、言外にそう告げていた。
「ちょっと難しいかも。ゴールデンウィークはかき入れ時だって大和さんも言ってたし」
「えー、遊ぼうよー。最近遊べなかったんだからさー」
「わがまま言わないの、時津風。サービス業はこの時期忙しいんだから」
「そうそう。むしろ私たちが暇すぎだよね」
「それは初風だけよ。部活にすら入ってないんだから」
自由人な二人に、あきれた様子で天津風がツッコミを入れる。
そんな彼女の姿はまるで……
「お母さんみたいだね!」
「誰がお母さんよ、誰が!」
噛みつくように反応する天津風に、雪風を含む三人から笑いが漏れる。
再びこんな他愛のない話ができるようになったのは、大和の旅館が本格的にスタートしてからだ。
深海棲艦の脅威が去ってから、戦いの名残が消えていくとともに艦娘は二つの選択を迫られるようになった。
一つは大和たちのように働き、生計を立てる艦娘。もっとも、自らで働く場所を作るというのは少数派で、たいてい海軍のコネを使って既存の企業に就職するのが一般的だ。また、軍に艦娘として残り、国防のために働く少女 もう一つは一般の学校に通い、教養を身につけようとする艦娘だ。何をしたいかは明確に決まっていないけど、戦いから離れて平和を謳歌したい。そんな要望に応えたのがこの措置である。実はこの方法、艦娘と一般人の関係を良好にすることにも一役買っている。
を良好にすることにも一役買っている。
雪風たち四人は後者に入り、晴彦や大和が住んでいる地域の共学高校に通う二年生だった。
だが、そんな中でも雪風は大和たちの旅館のためにバイトという形で奮闘していた。
週四回のペースで旅館に足を運び、仕事を覚えて家に帰ってはその日教えてもらったことを夜遅くまで復習をする日々。
今にも倒れそうな状態の雪風を心配する天津風たちの告げ口によって、晴彦たちが一ヶ月旅館への雪風の出入りを禁止するまでは、睡眠時間が三時間ほどだったという。
今では落ち着いて、友人たちと一緒に学生生活を謳歌していた。
「でも、始まって半月も経ってないのに、もうそんなに人が来るの?」
「いろいろなところで宣伝してもらったから、ゴールデンウィークは予約でいっぱいだよ!」
「へぇ。これも雪風の幸運のおかげなのかしらね」
「そんなことないよ! 晴彦さんや大和さんたちの努力のおかげなんだから!」
そう言って誇らしげに笑う雪風に、初風と天津風の口元には微笑が浮かんでいた。
「すぴー、すぴー」
彼女らの傍らでは、いつの間にか時津風が机に突っ伏してすやすやと寝息を立てている。おなかがいっぱいになったのだろうか。
ゴールデンウィーク前最後の休日、昼下がりは穏やかな雰囲気に包まれていた。
感想・評価をよろしくお願いします。
新規でお気に入り登録してくださった方、ありがとうございました。
打ち切り宣言してもまだお気に入り登録したままいてくれた方も、ありがとうございました。嬉しかったです。
追伸
初めて予約投稿をしたので、もし不具合があればまた投稿しなおすかもしれません。