ダンまち世界の転移者   作:慧春

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女神との邂逅

 

 

 

 『聖闘士(セイント)』――それは、女神アテナに仕える戦士達の総称だ。

 

 神話の時代から、冥王ハーデスや海王ポセイドン等の地上の支配を目論む神々と戦う為に、女神アテナは自ら人の身として地上に生まれ落ち、邪悪な神々と幾度となく激戦を繰り広げてきた。

 そして、そんな女神アテナのもとに集う戦士達は、武器を嫌う彼女の為に星座を象った聖衣(クロス)と呼ばれる鎧のみを着て、素手で彼女の為……地上の愛と正義の為に闘ったという。

 曰く――その拳は大地を砕き、蹴りは天を裂くと言われた。

 

 そして、そんな『聖闘士(セイント)』達の中でも最高の力を持つ者は、黄道十二星を象る黄金に輝く聖衣を与えられ、『聖域(サンクチュアリ)』の女神の住居である十二宮の守護を任される。

 彼等十二人は『聖闘士(セイント)』の中でも隔絶した力を持ち、人智を越えた力量と圧倒的な『小宇宙(コスモ)』を持つ――それが『黄金聖闘士(ゴールドセイント)

 

 そんな黄金聖闘士が一人……彼は今、射手座を象ったと思われるレリーフが描かれた黄金の箱を背負いながら、天を仰いでいた……

 

「ハァ………」

 

 賑やかな西洋を思わせる町並みを歩きながら、途方に暮れるように溜め息を吐いた。

 彼の名前は『アイオロス』――かつて、最強の聖闘士と謳われた男だ。

 

「異世界……というのは想像できたがな」

 

 ――まさか、地球ですら無いとは、本当にまいったな。

 彼の口から、そんな言葉が漏れる。

 

 そう、彼は自分がそれまで生きていた世界とは別の世界に来たという事については、彼自身が転生者である事から何となく理解していたが、流石に地球ですら無いとは思わず、戸惑いを隠せなかった。

 

 まぁ、彼が最初に生きた世界では世界観そのものが違う創作物などありふれていたし、彼も幾らかは見たことがあるので比較的簡単に受け入れてはいる。

 しかし、世界観が違えば、当然言葉や文化、常識等も違うわけであるから、慣れるまでにはまだ時間がかかりそうだ。

 

『迷宮都市オラリオにダンジョン……下界に降りてきた神々に、その眷属(ファミリア)か……』

 

 彼は、先程足を運んだバベルという塔の受付で受けた説明を思い出しながら、感慨深げに呟いた。

 

(この先、一体どうしたものか……取り合えず生きてはいる以上は聖域に帰還せねばなるまい。だが、現状はその方法が全く解らない――)

 

 そうだ。アイオロスは、死んだ筈の自分が何故、こんな見知らぬ世界で、再び生を受けたのか、その理由が全く解らず、また聖闘士としては真っ先に元居た世界に――アテナや他の聖闘士達がいる聖域に帰還するべきだと考えるが、現状その方法が全く当てすらないのだ。

 

(『ダンジョン』とか言う場所や自身の存在を昇華するという『神の恩恵(ファルナ)』とやらに興味が無い訳ではないが……) 

 

 己の力がより強力になるというのは、強さを求める彼からしたら魅力的ではあるのだが、如何せん、話を聞く限りでは恩恵とは、その名の通り、どうやら神の加護のような物らしい。

 他の聖闘士の多くがそうであるように女神アテナに絶対の忠誠を誓うアイオロスからしたら、彼女以外の神に加護を受け取ることは二君に仕えるに等しいのだ。

 なので、彼の中では神の恩恵を受けるという選択肢はない。

 しかし、悲しいが今のアイオロスは異世界に転移したことによって一文無しとなっている。

 金銭を稼ぐ為には、ダンジョンに潜るのが手っ取り早いと説明を受けたので、取り合えず明日、ダンジョンに向かおうと彼は決めた。

 必要とは言え、鍛え上げた聖闘士としての技を金を稼ぐ為に使うというのは少々……いや、かなり気まずいが仕方ない……これも生きていく為だと彼は割り切ることにした。

 

「それにしても『神』か……」

 

 神々はその多くが天界での退屈な日常を嫌い、刺激を求めて下界に降りてきた者が大半らしいが、アイオロスにはイマイチ理解できなかった。

 何せ、彼の知っている『神』と言えば、自らの主であるアテナを除けば、世界を海に沈めようとしたした『海王ポセイドン』や『G・E(グレイテスト・エクリプス)』によって地上を永遠の闇で支配しようとした『冥王ハーデス』などの地上に害をなすような神が真っ先に頭に浮かぶのだが、この世界の神は、かの神々程に出鱈目でも悪辣でもないらしい。

 

 話を聞くところ、この世界の神々は地上に生まれた者達と同じような制限を己に課して、あえて全知全能の力を封じているとか………そういったところが、イマイチ彼の中で神々のイメージと重ならないのだ。

 

「取り合えずは寝床を探すところから……だな」

 

 空腹に関しては、修行時代に断食をしていたこともあり、二三日ならば、体の中のエネルギーを小宇宙を介して上手く操作すれば特に問題ない。

 だが、一晩中町を彷徨くわけにもいかないので休める場所を探すの速いほど良い。

 

 そう、自らの行動方針を定めたアイオロスはふと上を見上げる――そこにあったのは、一面の夜空とそこに浮かぶ星の光だった。

 屋外であることと、この世界には電気の光が無いため、このような町中でもハッキリと見える。

 

 流石に異世界であるため、ハッキリ見えても自分の知る星座は一つも無い――そこに残念と思わなくもないが、自分の知らない星を眺めるもの新鮮で悪くないとアイオロスは思った。

 

「そう言えば、アイツ等は一体どうなったのだろうか………」

 

 アイオロスは、夜空に輝く星を見て、自分と共に闘った仲間達を思い浮かべた。

 十一人の『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』やある意味では弟子に等しく、最後には全てを託した『青銅聖闘士(ブロンズセイント)』の少年達……

 

 彼の知っている原作通りに事が進んだならば、『青銅聖闘士(ブロンズセイント)』の少年達はハーデスに勝った筈だ。

 いや、彼は少年達を信じているので勝ったどうかという点には一切疑問を抱いていない。

 アイオロスが最も疑問に思っていること――それは、自分以外の『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』達の行方である。

 

 本来、死んだ『聖闘士(セイント)』のいく末は、冥界と決まっていたが、冥界はハーデスの死後消滅したはずである。

 ならば、天界か――とも思うが、確信はない。

 それに、自分という例がある以上、どうしても思ってしまう。彼等もまた自分のようにこの世界に来ているのではないか? と。

 

「まぁ、それは追い追い調べるとするか――先ずは寝床だ……」

 

 そう言いながら、町の中を歩いていくが、無一文のアイオロスが泊まれるところなど限られてくる。

 先ず、泊まるために料金の発生する旅館などは全滅である。

 となると、金が要らず、尚且つ寝床にするに辺り誰にも迷惑の掛からない場所……人の寄り付かない屋根のある廃墟などがベストだなと結論付けて、そんな都合の良さそうな場所を探すべく、裏道などを歩く……

 

「お~い! ベルく~ん!! ぎゃわ!!」

 

「ムッ?」

 

 角を曲がったところで、突然、アイオロスの目の前に少女が飛び出してきて、彼にぶつかりそうになったが、アイオロスはつい癖で『光速(マッハ90万弱)』の速度で華麗に避けた。

 しかし、少女は、彼に衝突することを避けるために無理な動きをしようとして、背中から転倒しようとしていた。

 だが――

 

「へ? あれ?」

 

 ――当然、女子供が目の前で転ぼうとしているのを、何もせず見て見ぬふりをするアイオロスではなく、彼女の身体は地面に落ちる寸前に彼に抱き止められていた。

 

「すまない。大丈夫か?」

 

「え、あ、うん。ボクは大丈夫だよ」

 

 少女は、直前まで転ぶ筈が、今は見知らぬ男に抱き締められているという現実を認識し、戸惑いと羞恥で顔を僅かに赤らめながらアイオロスの問いに答えた。

 

 一方でアイオロスも、自分のせいで幼い少女が傷付かずすんで安心すると同じに、彼女の中に内包された巨大な『小宇宙(コスモ)』を感じ取り驚いていた……

 

(何だ、この巨大な『小宇宙(コスモ)』は……明らかに俺以上――)

 

 この巨大でどこか清涼さを感じさせる『小宇宙(コスモ)』……彼の知るアテナやハーデスに比べれば少し劣るが、これは紛れもない神の『小宇宙(コスモ)』!

 

 彼は悟った。目の前に居る少女の姿をした何者かが『女神』である――と。

 

 こうして、眷属思いの『優しい女神』と射手座の『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』が邂逅を果たした……

 

 この出会いが、彼に何をもたらすのか――それはまだ本人達すらも解らなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 アイオロスが天を仰いでいた同時刻――彼が立ち寄ったギルドが管理する五十階建ての建物『バベル』の地下深くに広がるダンジョンでは、一人の黄金の鎧を纏った男が巨大なモンスターと対峙していた……

 

『ブラァア!』

 

 奇声を挙げながら飛び掛かってくる巨体のモンスター『階層主(モンスターレックス)』と呼ばれる怪物――『ゴライオス』を前にしても男は一切動じない。

 否――冒険者の大半を占める下級冒険者ならば聴いただけで震え上がるほどの怒声を前にしてもむしろ余裕そうですらあった。

 それもその筈だ――彼は、こことは違う世界で幾度となくこれ以上の怪物と――或いは『神』と対峙してきたのだから――

 

 その男は武人だった――それ故にその生涯において闘い続けた。

 

 その男は求道者だった――それ故に常に己の限界を越えることを念頭に置き、強さを求め続けた。

 

 そして、何よりもその男は『聖闘士(セイント)』だった――八十八の星座を冠する聖闘士達の頂点……十二人の『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』が一角。

 

 それ故に――この程度の怪物の攻撃程度怖れるに足らず。

 

「ぬるい!」

 

 ただ一言、そう言いながら片手を天に掲げ――降り下ろす!

 聖闘士の最高速……光速を持って振るわれた手刀はまさに『聖剣』を思わせる切れ味で容易くモンスターの肉体を紙のように切り裂き、縦に切り裂かれた肉体は綺麗に断たれた断面を覗かせながら左右に倒れる。

 

「我が四肢は既に聖剣へと至った――しかし、未だ『あの男』の次元には至らず……か」

 

 口調こそ残念そうな響きだが、その顔には微かだが笑みが浮かんでいた。

 そう、彼は尊敬し、情景の人物が自分自身の未だに辿り着いていない次元に……己の一歩も二歩も先に居るということが嬉しくて仕方ない。それでこそ追い付きがいがあるものだと……

 

 彼を知る人物なら間違いなくそれを悟り、呆れた声を漏らすだろう。『あれに追い付こうとするなどどうかしてる』と――

 

 だが、彼はそれで良かった。目指す高みは高いほど良い。

 そもそも、『双子座(ジェミニ)』と並んで規格外の存在であるあの男も、自分と同じ『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』なのだ。

 ならば、彼に出来て自分に出来ない筈はない。

 

 彼には何故自分が二度目――いや、冥王に与えられた仮初めの命も含めれば三度目の生をこのような場所で受けたのか……それは解らない。

 しかし、生きるための目標は彼の心に刻み付けられている。

 

「俺はこの三度目の生で貴方を……越える!!」

 

 胸に決意を秘め、『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』――『山羊座(カプリコーン)』のシュラは十八階層に足を踏み入れた。

 

 彼の聖剣を超越するための闘いはまだ始まったばかりであった……そして、彼は『楽園』と呼ばれるそこで、かつての仲間と再開することになるのだが、それは別の話だ。

 

 

 

 

 

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