ダンまち世界の転移者 作:慧春
「それでね、ベル君と来たら! ボクというものが在りながら『ヴァレン某』とかいう、どこぞの馬の骨とも解らないような……あ~~ッ! 納得いかない!!」
「あ、ああ……そう、なのですか?」
「そうだとも! 大体何でよりにもよって『ロキ』の所の冒険者なんかにぃ~~!」
「ロキ? それは幾らか街で噂を聞きましたね。有名なところなのですか?」
『ロキ』……そう聞いてオレの頭を過るのは、北欧神話の『悪神ロキ』だが……こちらの世界ではかなり大きなファミリアとかいう組織の旗頭であり、なんと『女神』らしい。
うん、意味解らんな……普通ロキと言えば男神な筈だよな。なんで女体化してるんだ?
それとも、やはりオレの知るロキとは名前が同じなだけの別人(神)なのか?
「うん……悔しいけど『ロキ・ファミリア』は、フレイヤの所と並んでこのオラリオで最強のファミリアの一つだよ――て、あれ? アイオロス君は知らないのかい? 結構有名な話だと思うけど……」
「田舎暮しだったものでして……世間知らずなんです」
「……ふ~ん? まぁ、嘘ではないらしいけど…」
おっと、神に嘘は通じない……だったか?
まぁ、さっきの田舎暮らしというのも、別に嘘ではないし(青春の大半を山籠りなどで消費した)、世間知らずというのも、この世界については来たばかりなので何も知らないので間違っていない。
だが、流石に何か隠したことぐらいは気付かれたか……どのような純真そうな見た目をしていても『神』は『神』だ。出来るだけ発言には気を付けなければな。
「よっとッ! 着いたよ!! ここがボクのファミリア――『ヘスティア・ファミリア』の
「こ、これは……!」
女神ヘスティアに案内され、路地裏を進むこと数分――今、俺の目の前にかなり年季の入った外観の教会があった……
というか、ハッキリ言ってボロい。兎に角、ボロい。
「……中々にシックな教会ですね。なんというか……一目で貴女達の生活レベルが解る外観です……」
「う……た、たしかにパッと見はこんなんだけど、中身は中々なんだよ?!」
『地下が在って、基本はそこで生活してるのさ!』と自慢気に無駄にたわわな胸を張りながらそう言ってくる『神様』を見ると『貧困なんかに負けないぜ!』という健気さと、そんな状態にも関わらず『得たいの知れない』俺なんかを招き入れて泊めてくれる献身さと優しさに涙しそうになる。
俺の世界の神もこんな感じで、自分の事よりも眷属や他人のことを思いやれる素晴らしい『神格者』ならば、あんな地上を賭けた闘争など起こらなかったんだろうが、悲しいことにそんな神は俺の知る限りでは『我が女神』ぐらいだった……
「それに、ベル君も頑張ってくれてるしね! そう遠くない内にこんな生活ともオサラバさせてくれる筈だよ!!」
前言撤回……言ってることが完全にヒモのそれだ。
まぁ、話を聞いた限りでは、本人(本神?)も芋売りなんてとてもではないが『神のやることではないバイト』で生活費の稼ぎに貢献しているらしいので、世の
「そうですか、私からは頑張ってくれなどという陳腐な応援しかできませんが……」
「う、兎に角、こんな所でよければだけど、何時までだって居てくれても良いからね?」
「その事なのだが……女神ヘスティア様」
「なんだい? あと、そんな畏まった口の聞き方じゃなくて良いぜ? ボクは気にしないよ」
「そうですか……でも、私の癖みたいなものなので――それでですが」
そう、幼い頃から『
そんなことを思いながら、俺は質問を続けようと口を開く――
「何故、自分のような得たいの知れない人間を自らの居城に招き入れて下さり、尚且つ、これ程までに過剰な信頼を?」
「ん? ボク自身が信用できそうだなって判断したからだけど?」
「ですから、それは何故? 私はさっき会ったばかりの通りすがりの人間ではないですか……」
「これでもボクは……『神』だよ?」
「!?」
「信用できる者とそうでない者との違いくらいは解るつもりだよ。そのボクの直感が君を『悪い子供』じゃないって判断したんだよ。確かに君は『秘密』が多そうだけど……」
「甘い……ですね………」
女神ヘスティアの言葉を聞き、彼女の思いを知ったオレの口から出たのはそんな言葉だった。
何故、オレがこんな言葉を言ったのか……それは、解らない。冷静に考えると、こんなことを言って女神の不況を買おうモノならば、オレは折角の寝床を失うことになるのだが、それ以上に何故か言わなければいけない気がした……人間が神に対して言うような言葉では談じてない。直ぐにでも非礼を詫びなければいけない。そう思い至った。
だが、そんなオレの非礼の言葉に対して彼女は――
「うん。自覚はあるよ。でも、これもボクが自分で決めたことだよ。これで、もし何かあってもボクは後悔しないし、君を恨みも憎みもしないよ……結局はボクの自己満足だしね……」
「――ッ!?」
「それに君は――傷付いた子供みたいだから、放っておけないよ」
オレはどこまでも誠実な言葉と善意に、今度こそ絶句した――
つい、彼女から目を背け、顔を俯くように足元を見ると、そこには水滴で濡れた地面があった。
雨か? いや、先程から雨など降っていない……そもそも、山籠りの長いオレは、雨雲が近づくと空気の湿りや気配で何となく解る。そのオレが降るまで気付かない等ということがある筈が……
「あ、アイオロス君!? 泣いているのかい?」
慌てて、目元を見ると右目から――次から次に雫が溢れるように頬を伝って地面に落ちていた。
驚いた……自分にもまだ涙を流せるような人間性が有ったとは……とっくに枯れ果てたと思っていたのだがな。
オレは気が付いたら自然と膝を折っていた。
そして、地面に拳を当てて膝まずき、目の前の小さな神に頭を垂れる――
「我が忠誠は既に女神アテナに捧げております。それ故に私は貴女のファミリアには成れない――」
そう、オレはとっくに『
一時は
だが、やらずには居られない。
「ですが、私は貴女に深い感謝を抱いております。故にこの世界に関して無知蒙昧なこの身ではありますが、可能な限り貴女のために尽くしましょう――女神ヘスティアよ」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
「異世界……それに
ヘスティアは、蝋燭の灯りが消えた暗い室内で一人、先程『彼』から聞いた言葉を呟いた……
彼女の最愛の『
相変わらず並みでは考えられないぶっ飛んだ上昇率だったが、もう完全に慣れてしまい、そのまま三人で夕食を取ったのだが――その席で新たな教会の住人となったアイオロスが『もはや、ここまで世話になった貴女に対して隠し事はすまい……』と言って彼は自身の事について話してくれたのだが……
「ハァ~、流石に予想外すぎるよぉ……」
そう。彼には何かあるとは思っていた。
その態度とどこか浮世絵離れした佇まい、それに戦闘に疎い自分でも一目で『強い』と解るほどの『何か』を持っているアイオロスに対して彼女は当初は微かとはいえ疑いと警戒を持って接していたのだが、幾らか言葉を交わす内にその二つは完全に霧散し、彼が何かに傷付いている下界の子供であると判断した。
そして、何か明かせないことが在るという事も含めて自分が面倒を見ようとしたのだが、その内容が完全に彼女の予想を越えていた。
この世界とは全く違う『ちきゅう』と言う世界に、強大な力を持った『神々』……そして、女神アテナと共に地上の愛と正義の為に戦う気高い聖闘士――『
武器を嫌う女神のために『
ヘスティアは『神』だ。神とは生まれからして地上の不完全な存在たちとは隔絶した存在であり、全知全能である。それ故に神としての力を封印していたとしても、下界の子供の嘘は完全に見抜ける……それは、生まれが別世界で幾多の神々と渡り合ったとは言え、所詮は人間に過ぎないアイオロスも例外ではない。
その彼女が見た限りでは、彼は一つも嘘を言っていない。それ故に普通ならば鼻で笑い飛ばせるような話しでも信じざるを得ない。
「ベル君はベル君で簡単に懐いちゃうしなぁ~」
いや、ヘスティアも別に彼自身は自らが判断したように信用に値する人間ではあると思ってはいるが、アイオロスの話す話しを聞き、自身も聖闘士であると言った彼に終始『英雄』を見るようなキラキラした目を向けていた事を思いだし、幾ら何でも簡単に信用しすぎではないか? と子供の将来を本気で心配する母親のごとくベルの将来を危ぶんだ。
「それに、こんなもの見せられたら信じるしかないもんな……」
そう言う、彼女の目の前には弓をつがえるケンタウロスを模したと思われる黄金の像が鎮座していた。
『射手座の
本来であるなら、『
そして、ヘスティアはこの射手座の聖衣から、とてつもない神秘を感じていた。このようなレベルの防具などこのオラリオには存在していない。
これほどとなると『鍛冶』の発展アビリティを持つハイスミス達すら造れる者は皆無だろう。その事が武器防具に疎いヘスティアでも簡単に理解できてしまえるのだ。
「とは言え、ここまでされちゃったら、もう聞かなかった事にする事も出来ないしね」
口に出しつつも、彼を放り出す……そんな考えなど最初から彼女には不思議と無かった。
彼は元の世界に帰還したいと言っていた。そして、ヘスティアはそんな彼に出きる限り尽力したいと考える……
「これからどうなるのかな?」
ポツリと口から漏れた疑問に答えるものは居ないままに、闇に溶け込むように消えていき、彼女もまた一つ欠伸をすると微睡みに身を任せ、眠りについた……
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
ヘスティアが眠りについたのと同時刻――
地下深く、ダンジョン18階層――冒険者達から『
黒い聖職者のような格好で、背中にはかなり精巧に造られた芸術品のような箱を担いでいる長身の男性――
「ダンジョン……か」
また、奇妙な所に来てしまったなと男は呟きながらリヴィラの街から離れていき、やがて南方に存在する森の中に入って行った。
男の名前は『シュラ』――最強を誇る十二人の『
その彼の思考は、迷いの中にあった。
彼はこの世界で目覚めたその時――目が覚めた時、側には誰もおらず、ひたすらに壁から或いは天井や床から湧き続けるモンスターを葬りながら下へ下へと足を運んだ結果が、今の状況だ。
最初は情報収集の方を優先していたが、下に行けば行くほどにモンスター達が強くなるという法則に気付き、完全に修行がメインになっていた。
その事を思いだし、彼は自分自身の節操の無さに少し呆れるも、それが自分の本質だと理解しているので反省も後悔もしない。
それに彼が下に向かった最初の理由は『
「ここで18階層……確か現在の最深部は58階層だったか……」
そもそも、彼は光速の動きをもってほとんど丸一日懸けて、三回階段を降りた……計算すると、彼が目覚めたのは15階層という事になるが、58階層ともなるとここから40階層分の距離があり、しかも下に行けば行くほどモンスターは強くなり、より迷宮が複雑になる。
気が遠くなる話だとシュラは思った。
先程街で聞いた話によれば、このダンジョンの上にはオラリオという街があるらしく、そこはさっきのリヴィラの比ではないぐらいに栄えているとか……先にそこに行って準備を整えるべきか?
しかし、まさか、このような場所に街があるとはな……と、先程の西側に在った商売魂の逞しい冒険者達の街を思い出した所で、彼は森の奥から妙な小宇宙を感じた。
「これは――」
彼はその『
それ故に、この『
駆け出した彼は『
そのまま、立ちはだかる木々や枝、岩石をも自らの手刀で切り払いながら、真っ直ぐにその場へと向かう。
そして、ものの数秒と掛からず呆気なく目的地へと到着した。端からみたら瞬間移動や空間転移と見間違わんばかりの速度でシュラは『彼』の前に現れた。
「やはり貴様か……シャカ!」
そこに居たのは、彼と同じく『
『
その両目は平時と変わらず固く閉じられていた。
「久しいな『
「貴様もなシャカ……だが、俺だけではなく他の
シャカは無表情に、シュラもまた鋭さを帯びた険しい表情だが、だが二人はお互いにどこか柔らかい雰囲気を纏っていた。
彼等二人は互いにとっての譲れない物の為に聖域の処女宮で殺し合った関係ではあれど、あれはお互いに決して本意では無かったのだ。
だから二人の
「シャカよ……俺とお前、二人の『
「ああ、シュラ。君も薄々感じては居ると思うが、恐らくは――いや、確実に十二人の『
「おぉ! やはりそうか」
シャカの言う通り、シュラも何となく予感はしていたが、神に最も近いと呼ばれる男に肯定されたことにより、予感は確信へと至った。
ならば、今シャカと再会したように他の『
アテナのために死んだ後も共に戦った『デスマスク』『アフロディーテ』『カミュ』『サガ』の四人に兄弟分である『アイオリア』。
そして――彼の師であり、兄であり、遠い目標であったあの漢との再会も果たせる。、
だとすれば、後は――
「シャカ、他の
「ふむ。私が感じ取った限りでは、このダンジョンと呼ばれる地下世界に居るのは私達も含めて3人……残りはこのシャカの力を以てしても位置が特定できない。君も感じているであろう邪悪な
「そうか……」
シャカのその言葉を聞き、それまでの再会の喜びから一転、何処か彼は沈鬱とした雰囲気が漂い始めた。
そして、シャカも彼が何を思ってそのような質問をしたのかを理解しているが故に何も口にはしなかった。シャカは普段は己を中心に世界が回っていると信じて疑わない天上天下唯我独尊を地で行く位に我の強い男ではあるが、友の心情を組むぐらいのことは出きる。
シャカはあれで意外に空気の読める男なのだ。
その後はシュラとシャカはお互いに知りうる限りの情報を話し合ったが、やはりこちらに来てから一日も経っていない事もあり、微かな時間では手に入れられる情報も限られてくる。
結局二人はお互いにほとんど目新しい情報は無かった。
「シャカ、これからお前はどうするのだ?」
「私はもう暫し、ここに留まろうと思っている。時が来たら地上に上がる事となるだろう」
「そうか……ならば、俺はもう行くことにする。また暫しの別れだ」
「なるほど……因みにどちらへ――愚問だったか」
「ああ、シャカよ俺は――地上を目指す!」
有言実行とばかりに、早速この階層に入ってきた時に使った階段を目指して歩み始める一人の漢。
彼は確信していた。
恐らくは自分の『捜し人』はここには居ない。
ならば、地上に出るのが一番手っ取り早い。
このダンジョンの中に居ると言うもう一人の『
(あの男ならば、俺やシャカが手を焼かずとも如何様にも生き残れるだろう。俺の今すべきは地上に出て、一刻も早く一人でも多くの『
そう考えながら森を出たところで、リヴィラの街の方角で火が上がっているのを彼は見た――
(なんだあれは――火の手? モンスターに襲われているのか? それにこれは、女の悲鳴!?)
思考は一瞬――彼は直ぐ様に悲鳴の上がる場所へと駆けた。
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