ダンまち世界の転移者   作:慧春

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 今回はかなり急いで仕上げたので可笑しな部分などが有るかもしれません。

 それから、tsタグは回収させて頂きました。
 最初は私のもう一つの投稿作品である『妖精世界の憑依者』のように登場人物を性転換させたら面白そうだなと深く考えずに付けたタグですが、話を進ませていくにつれて難しいなと判断し撤回させていただきました。
 
 本作品をts 二次創作と思って見ていた皆さんには深くお詫び申し上げます。




少年の情景と追跡者

 

 

 

 オラリオのとある路地裏――そこには、とうの昔にその存在を周囲の住民から忘れ去られた寂れた教会がある。

 神々が実際に降りてきてからというもの、下界の住民はそのほとんどが神に対しての信仰を失ってしまった。無論、全ての者達がそうであるという訳ではないが……その理由は『神々(かれら)』の実物を見てしまったが故か、或いは別の理由があるのかは定かではない。

 しかし、神ではなく別の存在を信仰をする者達は一定数存在する。その対象は高名な英雄や精霊であったりと様々だ。

 恐らくはこの教会もそういった物なのだろう。

 

 時刻は既に早朝――朝日が上り、夜になれば街灯の光すら一切届かない暗い路地裏にも日差しが差し、教会の周囲を明るく照らしていた。

 

 そこで今、二人のヒューマンと思われる人影があった。

 足をその場に止めて目を瞑りながら腕を振るい、その度にその手に持ったナイフが紫紺の軌跡を描いていた。

 

「フッ! ヤッ!!」

 

 その動きは、中々に様になっており、戦闘に関わる職に着く者が見れば、振るう者が日常的にその『武器(ナイフ)』を戦闘に使っているのだということが解るだろう。

 そして、この場にいるもう一人の者は戦闘に関わるどころか、一歩間違えれば世界すらも滅ぶような険しい戦いを乗り越えてきた歴戦の強者である。

 なので当然、それが理解できた。

 そして、それだけではなく、光速の動きすらも見抜くその視覚には常人では見ることの出来ない多くのモノを捉えており、観察しながら頭の中で一つ一つの動きの特徴とその理由を考察していく……

 

 男はアイオロス――異世界より死して、この世界に迷いこんだ者であり、最強の聖闘士(セイント)と呼ばれた漢だった――

 

「そこまで……もう良いぞ、ベル」

 

 アイオロスは、両手を叩きながら、己の目の前でナイフを振るう少年にそう言って静止を呼び掛ける。

 その声に聞いた、少年はそれまでやっていた演武と呼ぶには少々未熟にすぎる動きを止め、フゥ~と息を吐いて『目を瞑って実際に敵が居るという想定で武器を振ってみてくれ』という指示を出したアイオロスの方を向いた。

 

「あ、あの、どうでした?」

 

「ん~、何と言うかな……」

 

 何故か自分をキラキラした目で見てくる兎のような特徴の純朴そうな少年の問いに、アイオロスは腕を胸の前で組んで答えに窮したような態度を取る……

 

 ――彼は戸惑っていた。

 

 昨夜から、やたらと自分に対して熱い視線を向けてくる少年の態度に――そして、たった今見た動きに対して……

 

 いや、少年の視線についてはある程度は解る……これは、過去に弟のアイオリアやほとんど弟子みたいな存在だったシュラが自分に向けていた尊敬や情景といった類いの視線で、そこに邪な感情は込められていないと彼は感じた。

 しかし、アイオロスにはイマイチ自分が何故そのような視線を向けられるのかが解らなかった。

 少年からしたら、アイオロスは自分と女神の二人が暮らす世界に突如として割り込んできたイレギュラーな筈だ。それも、異世界人などという意味不明な不審な存在……ハッキリと拒絶されるか、そうでなければ距離を置くかのどちらかと予想していたのだ。

 昨夜の様子からして、どちらかと言うと人見知りな気がして、自分に対してどう接すれば良いのか解らないという雰囲気をバリバリに発していた。

 

 だが、夕食の終わりにアイオロスが自分の過去を明かしてから態度が急変した……

 それまでは、話し掛けたくても、どう話しかけたら良いのか解らない感じでモジモジしていたのが、唐突にぐいぐい話し掛けてくるようになった。

 

 彼の居た世界は一体どのような世界だったのか、今までに、どのような戦いを繰り広げてきたのか――少年は就寝までの限られた時間をフル活用して、彼に色々な事を質問した。

 そして、基本的に人の良いアイオロスは律儀にそれらの質問に出来る限り答えた。

 それによって益々、少年は彼に対しての態度を変化させていった。

 

 アイオロスは元々の世界では平凡な生涯を生きた普通の人間だった。しかし『アイオロス』として生まれた今生は、聖闘士として様々な戦いに身を投じた百戦錬磨の戦士である。

 聖闘士になるためには常人なら発狂するレベルの修行を数年行わねばならず、その過程で良い具合に常人としての感覚が狂ってしまうのだ。

 そして、それは若干八才にして黄金聖闘士(ゴールドセイント)になったアイオロスも例外ではなく、最初はなまじ前世があった分、常人としての感覚が強かったが、やがて修行で『小宇宙(コスモ)』という超常の力を身に付ける過程で他の聖闘士と同じように狂ってしまったのだ。

 

 彼にとって、地上の愛と正義の為に戦うことは当然の事(・・・・・・・)であり、それに命を懸けるのも当たり前の事だ。

 だが、彼は忘れている……他の多くの人間にとっては『世界』は自分で守るものではなく、多くの人間は世界と同じで守られる側であるという事を……

 ベル・クラネルという少年にとっては、世界を守るために神々という巨大な存在を相手に己の身1つで闘う『聖闘士』という存在は彼が憧れる英雄譚に登場する英雄の様に思えた。

 そんな存在が、現実として自分の前に居る……それを認識すると同時にベルは生まれて初めて憧れの存在に――実在する『本物の英雄』に会えたかのように感じてしまったのだ。

 そんな訳でベルがアイオロスに対して向けている感情は憧れの英雄を見る年頃の男の子という感じだ。

 しかし、二度目の人生の大半を修行に費やした結果、感覚の(バグ)ってしまった彼はそんなことを察せる筈もなく、結局理解することを諦めてしまう。

 

 そして、彼が今戸惑っている最大の理由が、ベルの現段階の実力である……

 本人が言うには、ベルはまだ武器を握って間もない……つい半月前まで、ただの田舎者で武器など握ったこともなく、当然戦いの心得もなかったとのこと。

 それにしては、ベルは少々強すぎる(・・・・・・・・・・・)

 と言っても、別段飛び抜けているという訳でもない……なんせ、技は見た限りでは『我流』で師は居ないのだろう。動きも彼から見たら隙だらけも良いところだし、聖闘士として見たら『青銅(ブロンズ)』の域にすら至らない『雑兵』程度……総合的に未熟に過ぎるレベルだ。

 

 しかし、逆に言えば、師もなく武器を握って一月も経たずにこのレベルはハッキリ言って異常だ……

 

 特に身体能力が凄まじい――それこそ、これだけ高ければ下手な相手なら技など要らないほどに……戦う力など無かった筈の少年を半月で一人前以上の戦士にするとは、これが神の『恩恵(・・・・)』か……とアイオロスは戦慄する。

 

 もし、ベルに才能があるのであればまだ納得できた。だが、アイオロスが見たところ、ベルに別段戦いの才能があるようには見えない。

 正真正銘、少年は天賦の才能を持たない……それこそ武器を振るうよりも畑仕事をしている方が余程似合う華奢な身体だ。

 何処にでも居る平凡な少年……それが彼の結論であり、それが今の演武を見て腑に落ちない理由でもある。

 技術も我流で彼から見たら未熟でも、十分に『実戦で使い物になる』程度ではあるのだ。

 

「(極普通の子供が天賦の才無しに半月でここまでになるのか? それとも『恩恵(ファルナ)』以外にも何かがあるのか……)」

 

 彼の心に疑問が浮かんだ……

 

「アイオロスさん?」

 

「あ、ああ……すまない」

 

 余りに真剣な顔で考え込んでいたアイオロスに対して、キラキラした目を一転して不安げな表情で話しかけるベル……

 

「そうだな……正直、戦闘者として君に言いたいことや教えたいことは山ほどあるし、動きも改善が必要と思う所は多々ある。それこそ、多すぎてどこから指摘すれば良いのか解らんくらいにな」

 

「そ、そうですよねぇ~」

 

 ベルは異世界の英雄からの中々に辛めの採点に残念そうに溜め息を吐いた。

 だが、同時に当たり前だとも思っている。

 自分など、ほんの数日前までは包丁や鋏以外の刃物など持ったことが無いズブの素人だ。

 モンスターとの戦闘で幾らかの経験を積んでステイタスは伸び、それに応じて身体能力は向上したが、それだけなのだ……『半月前よりはマシ』それが、ベルが自分で思っている自己評価だ。

 

 だが、ベルはそれでは満足出来ない。

 己の主神であるヘスティアやギルドの受付でベルを担当をしてくれているハーフエルフの女性『エイナ』が言うには、普通の冒険者では考えられない速度でベルが成長していると太鼓判は押されているが、彼の目的には全然足りないのだ。

 

 少年が目標とする『情景の少女』は、彼の遥か先――距離を数えるのが馬鹿らしいほど遠くに居るのだから……

 

 ベルは、物語の英雄に憧れて、故郷から遠く離れ、ダンジョンのあるオラリオの街に単身で来た。

 ただし、憧れていると言っても、英雄になりたいという訳ではなく、英雄の様に素敵な女性とダンジョンで出逢い、あわよくば物語に出てくる彼等のように様にハーレムを築きたいという割と不純な目的であった。

 

 そのような事が目的でオラリオに来たは良いものの、見るからにひ弱そうな田舎の少年など、基本的に戦闘が関わってくるダンジョン探索を主とするファミリアに相手にされるわけもなく、どのファミリアからも門前払いを受けたのだが……

 その後に、ヘスティアから誘いを受けて彼女の眷族となってからも、冒険者としてダンジョンに潜りはじめた。

 たが、当然都合の良い出逢いなど訪れる事もなく五日が過ぎた頃だった。

 一体当時の少年は何を思ったのか、身の丈に合わない階層に降りた。ギルドで自分を担当をしてくれている『エイル・チュール』に散々に『冒険をするな』『三階層から下にはまだ降りるな』と言われたにも関わらずである。

 

 そして、好奇心猫を殺すと言わんばかりに、運に助けられて五階層までほぼ無傷で辿り着いたベルの前に、身の丈に2 M(メドル)を越える筋骨粒々な肉体を持ったモンスター『ミノタウロス』が現れた。

 そのモンスターの圧倒的な存在感に呑まれてしまったベルは何とか、恐怖で脚がすくむ思いを必死に振り払い、文字通り脱兎の如く逃走した。

 当然、恩恵を受けて日の浅いベルがLv.2にカテゴライズされるモンスターであるミノタウロスから逃げ切れる筈もなく、ダンジョンの壁際まで追い込まれてしまった。

 

 その時、ベルは彼にとって運命を変える邂逅を果たした――『アイズ・ヴァレンシュタイン』……十六才の若さで『Lv.5』に到達し【剣姫】の二つ名で知られるオラリオでも屈指の第一級冒険者に数えられる少女である。

 

 彼女は、追い詰められたベルを瞬く間に救った。

 そして、その瞬間ベルもまた、勇者に助けられた姫君の如く、瞬く間に恋に落ちてしまった。

 

 そして、その後に彼女にただ焦がれていたベルは、とある酒場での一件――偶然にも彼女の派閥である『ロキ・ファミリア』の遠征帰還を祝う宴会に遭遇してしまい、彼女の同派閥の冒険者の一人であり、こちらも彼女と同じくオラリオで並ぶ者の少ない第一級冒険者である『ベート・ローガ』に己の失態を嘲笑され、同時に弱い者では彼女のとなりに並ぶことなど出来ないという現実を知った。

 それを知ったベルはただ漠然と彼女の側に近付きたいと焦がれるだけであった自分を心の底から恥じ、同時に彼女に――【剣姫】に追い付きたいと強く思った。

 

(僕は……もっと強くなりたい。あの人の隣に並べるぐらいに……そして、いつの日か――)

 

「ベル」

 

「――は、はい!」

 

 自分の『目指すべき目標』と『その為の目的』を再認識した所で、突然アイオロスから声を掛けらたベルは上擦った声で返事をした。

 そして、彼の鋭い眼光が真剣に己を映している事を察し、緊張した様子で佇まいを直した。

 

「オレはこれから此処で世話になる身の上だ。それにヘスティア様からも君に『色々教えてくれ』とも言われている。だから、君に戦いを教える分には何の文句は無い」

 

「は、はい! あ、ありがとうございます……」

 

 その言葉に、自身が英雄と尊敬するアイオロスに戦い方を師事できる事に、パッと表情を明るくした。

 

「だから、まず最初に聞いておきたいんだが――君にとっての強さの『方向性』は何だ?」

 

「強さの……『方向』ですか?」

 

「ああ……目指すべき場所……と言っても良い」

 

 それを聞いて、ベルの頭に浮かんだのは、やはり自分にとっての目標である情景の存在だった。

 

「さっき言った君の評価は全て、対人戦を想定した上での話だ。君は敵の攻撃を怖がっているのか……少し『避ける』という事に念頭を置き過ぎている気はするが、モンスターという異形の存在と戦うと想定するなら君は我流ではあるが既に『そこそこ』の域にあると思う」

 

 先程までのベルの動きはアイオロスがベルに『目を瞑って実際に敵が居るという想定で武器を振ってみてくれ』と指示を出して、させた動きだった。

 実際に敵を想定した動きをやらせたのは『戦い方』や『どのような敵と普段戦っているのか』を見極める為で、眼を瞑らせたのは、単にその方がイメージが働くからだ。

 

「これは予想だが、君は対人――人との戦闘経験が少ないか全く無いんじゃないか?」

 

「――っ!?」

 

 ベルは驚愕した……アイオロスが自分とは比べ物にならないぐらいに強く、経験豊富という事は何となく察していたが、それでもそこまで明確に見抜かれるとは思わなかった。

 アイオロスの言う通り、ベルは人との交戦記録は全くの皆無であり、これまで戦ってきたのはダンジョンの『上層』と呼ばれる中でも更に浅い階層のモンスターばかりであった。

 そして、その経験は大半がゴブリンやコボルト等の小柄なベルよりも更に小さな人型モンスターか、それよりも数は少ないがキラーアント等の完全に人型から逸脱した異形のモンスターだ。

 ベルが今までに戦った中で最大の敵は『シルバーバック』というダンジョンの上層の中でも比較的深い階層にいるモンスター(ミノタウロスとは遭遇しただけなのでカウントしない)だ。

 

「なんで、解ったのか……という顔だな? 簡単だ。君の動きは『人間』という生き物との戦いを想定していない。それぐらいなら一目で解る……」

 

 そうだ。ベルの動きは人間という相手を想定していない……一度でも実戦で人と交戦したことがあるなら、人間は『思考しながら戦う』という事を知っている筈だ。

 そして、それを知っているなら否応なく、大なり小なり動きに『それに対する動作』が出る筈なのだ。

 

 だが、アイオロスが見た限りではベルは、正確に敵を頭で想定しているにも関わらず、それがない。

 ベルは、受付嬢のエイナに慎重に敵を良く見て慎重に戦う事を口酸っぱく言われているので、一応は動きの端々に慎重さが見てとれるのだが、それは『何をやって来るか解らないモンスター』を普段相手にしているからだろう。

 決して、その動きを見て相手の動きを『先読み』するためではない。そうアイオロスは考えた。

 

 そう、今のベルの戦闘能力は対モンスターに特化しているのだ。

 そして、その考えは当たっていた――

 

「す、凄いです……本当に見ただけでそこまで……」

 

 ベルの何の裏もない称賛の言葉に、アイオロスは何処か照れ臭そうに左の頬を指で掻いた。

 そして、照れ臭さを誤魔化すように言葉を続けた――

 

「このままの現状でならハッキリ言って今のままでも余り問題はない」

 

 アイオロスはベルと視線を合わせて真剣に言葉を重ねていく。まるで問い掛けるように――

 

「経験不足は、経験を積まないと解決しないが、お前は若いから経験なんてまだ幾らでも積める……対人を想定したら隙が生じるのも我流なら仕方ない」

 

 だが、それもいずれ仲間が見付かった時にでも試合するなりすればカバーできるようになる。もちろん、真に対人戦を極めるなら実戦は不可欠だが……と続けた。

 要するに――

 

「お前の『欠点』は時間が解決してくれる程度の問題なんだ」

 

 暗にオレの教えなど要らないのではないのか? と仄めかす。

 

「そ、それは……」 

 

「普通に冒険者をやっていくならそれで良い筈だ。何も無理してまで強さを求めなくても、お前なら直ぐに『それなり』の冒険者になれるさ……」

 

 このまま、強さだけを求めてモンスターと戦ってもベルの『ステイタス』は上がり続けるだろう。だが、それだとどうしてもステイタスによって上がった身体能力に頼る歪なスタイルになってしまう。

 普通の冒険者ならば、そんなに直ぐにはアビリティは成長しないので生じない問題だが、ベルの場合は成長が早すぎることの弊害で、そうなってしまう……アイオロスはそれを心配していた。

 

「それに、手っ取り早く強くなるには格上か、同等以上の敵と戦うのが最速だが、それだと必然的に無茶を――いや、『冒険』をすることになる……解ると思うが、それは死ぬ確率が上がる――ヘスティア様や君の周りの人間は君がそれをするのを望まないだろう」

 

 アイオロスの言葉を聞いて、ベルは押し黙る……『冒険者は冒険をしてはいけない』――心優しいハーフエルフの受付嬢に言われたその言葉が脳裏を過る。

 それだけではない。己の主神であるヘスティアは言うまでもなく、他にもミノタウロスに追い掛けられたと聞いて、血相を変えて自分のことを心配してくれたエイナ……もはや行き着けとなりつつある酒場『豊穣の女主人』のシル……ほとんど毎日ダンジョンに潜るベルの為にに昼食を作って渡してくれる彼女も――自分が無茶をすると彼女達が悲しむ事となる。ベルは自分を心配してくれる人がいることが嬉しい反面、申し訳無いとも思い考え込むように視線を下げる。

 アイオロスはその様子は言いたいことはあるのに、何が言いたいのか迷っている風に感じた。

 

「別に難しい話ではないんだ。要は『ベル・クラネルは何を目指しているか』という話だからな」

 

「――っ!」

 

 アイオロスのその言葉を聞いて、ベルはそれまで自分の中に渦巻いていた様々な考えや感情が一つに収束していくのを感じた――

 

「お前は強くなりたい……しかし、それは何の為にだ? 富や権力、他者からの称賛や尊敬が欲しいからか? それとも、強くなって何かを成したいのか? 或いは、何かを守る為にか? ベル、お前は何を目指している?」

 

(何を目指しているのか? そんなものはとっくに分かっているじゃないか!)

 

 そう、少年にとって――目指す場所はもうずっと決まっているのだから――

 

「アイオロスさん……僕は――」

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

「それじゃ、行ってきます!!」

 

 大きな声でそう言って、ダンジョンに向けて走り出す背中を見て感慨深い思いがオレの心に去来する。

 

 その背中には迷いはなく、少しずつ離れていくにつれて小さくなっていくが、心なしか昨日よりも大きくなっている気すらする。

 

 原因はまぁ、さっきのベルの言葉だなと、考えて思い返す――オレの問いに対して、ベルの出した結論と答え――

 

 

 

 

『隣に立ちたいと思う人が居ます。取り敢えず胸を張ってそこに行けるぐらいにつよくなりたいです! でも、神様やエイナさんにシルさん……他の人達が僕を心配してくれてることも知ってます』

 

『それなら――』

 

『それでも僕は――諦めたくありません! 僕は――』

 

 

 

 

「英雄になりたい……か。若いな」

 

 少年の純粋な……余りにも純粋すぎる願いとその決意を思いだし、オレのポツリと漏らす。

 あの純粋さや真っ直ぐな心根は今のオレには無いものだ。

 

 ベルか……あの少年を見てるとどうも『星矢』の事を思い出す。

 あの、理不尽とも思えるような逆境を幾度も乗り越え、不可能を可能にしてきた若き『天馬座(ペガサス)聖闘士(セイント)』を――

 

「そう言えば、星矢も無茶ばっかしてマリンに叱られてたって話だったな……」

 

 う~ん、確か原作では、むしろマリンの方がかなり無茶ぶりの修行を星矢に課していたイメージが有ったんだか……

 だが、星矢は諦めが悪く、良く青臭い理想論を言っていたが、あいつの場合は結局はその我儘を押し通せるだけの力と可能性をいつも示してきた……それ故に、あいつに触れた者達は、星矢に懸けてみたくなる。

 そして、そんな星矢だからこそオレの『射手座の黄金聖衣(ゴールドクロス)』も何度もあいつを助けたのだろう。

 

「さて、これからどうするかな……」

 

 ベルの背中を見送ったオレは、これから一体どのような行動を起こすべきか思案する。

 ヘスティア様は、既に神友のヘファイストスなる神の元へバイトに行っているので、今この教会にはオレ一人だ。ハッキリ言って信頼しすぎな気もするが……

 

 ベルについては結局、短時間で教えられることなどたかが知れているので、少々の戦闘の基礎を教えるだけに留め、ダンジョンに送り出した。

 これから少しずつ戦い方を教えていくと約束した手前は、ベルとオレは師弟関係だ。オレにはアイツをオレ以上に強くする義務が生じる訳だ。

 才能にはそんなに恵まれてなさそうだが、そんなものは努力の数と実戦で幾らでも補える。実際オレだって、『アイオロスの肉体』が特別製なだけで前世は極普通の一般人だったのだ。

 それに才能はなくとも素直そうな心根だしな、【恩恵(ファルナ)】とやらもあるし、大丈夫だろう。

 『小宇宙(コスモ)』による闘法を教えるかは、まだ検討中だがな……やはり、この世界にいる人間や神々は小宇宙(コスモ)について認識していないようだしな。

 どう考えても、知られたら面倒な事態になるに決まっている。

 

 

 それにしても、これからについて、昨日散々に無い頭を総動員して考えたが、やはり答えはでない。

 オレの目的は依然変わらず、元の世界への帰還だ。それは揺るがない……しかし、それを成すためには一体何をすれば良いのか全く検討もつかない。

 オレ自身の帰還――それが無理でもせめて、オレの『黄金聖衣(ゴールドクロス)』だけでも向こうに帰さなければ……これは、アテナの『聖闘士(セイント)』達には絶対に必要な物だ。

 

「目的はハッキリしているというのに、手段が見えてこない……ままならんな」

 

 だが、まぁ取り敢えずは差し迫った厄介事を片付けるか――

 

「さて――ついてこれるか(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 オレは、教会の前から一気に路地裏に駆け出す――瞬く間にオレの速度は、音速を越え『マッハ2』程度の速度で複雑な路地裏を駆ける。

 途中で人にぶつからないように慎重に人の気配を探りながら、一分間にも満たない短い時間で教会からそこそこ離れた細い通路に到着した。

 ま、これだけ離れれば十分か……

 

「よし、もういいぞ……出て来い!」

 

 オレは細い路地裏の通路に響く程度の音量で相手(・・・)に告げた。

 

 そしたら、オレの正面から二人の武装した人影が現れ、また反対側の通路……オレの背中の方からも人が近づいてくる気配を感じとる。気配を見る限りこちらも二人――

 

「子供……いや『小人族(パルゥム)』か?」

 

 オレはオレの正面と後方を塞ぐ四人の特徴を見て、確認を込めて呟く……

 

「……」

 

「だんまりか……お前達の視線は昨日の――ギルドを出て少しした位からずっと感じていた。あの教会に居るときも最低でも二人は外に張り付いてたな?」

 

 自分でも低いと解る声量で、更に尋ねる。

 そう言うと、彼等は表面上は変わったようには見えないが、動揺するように小宇宙(コスモ)がざわついたのを感じた。

 

「俺達の主がお前の事を連れてこいとの仰せだ」

 

「一緒に来てもらう……」

 

「主は出来る限り『穏便』に呼んできてくれとの事だが――」

 

「断ると言うのならその限りじゃねぇぞ!!」

 

 四人は良く似た声で、話を一人一人区切りながらこちらに通告(・・・)してきた。

 容姿も良く似てるし、もしかしたら四つ子だったりするのだろうか?

 それにしても――

 

「随分、高圧的で勝手な要求だな……まぁ、こちらも子供(・・・)のやることに一々反応するのも大人げないので流すが……」

 

「おちょくってんのテメェ!」

 

「子供じゃねぇよ!!」

 

「俺達はもう三十越えてんだよっ!」

 

 いや、本気で子供と思った訳じゃ無いけどね……昨日ヘスティア様から恩恵(ファルナ)について教えを受けているので何と無くそれぐらいの察しはつく。

 それにしても、こちらの挑発に面白いぐらい乗ってくれた……案外、沸点が低いんだな……全く『三十』にもなって――ん? 『三十』? 

 

「なっ、年上……だとっ!?」

 

 オレは内心の驚愕を隠すことなく言葉に出す。

 それほど驚いたのだ……いや、恩恵で実年齢ほど老けておらずとも、普通は年齢を感じさせるような仕草が動作に出てくる筈なんだが……それらを合わせて『小人族(パルゥム)』という事を差し引いても、オレは精々、こいつらを二十代の前半辺りと思っていたのだが……おかしいな、彼等の仕草は血気盛んな若い者に特有の物だが……

 

「ああ、精神年齢が低いのか」

 

 オレは疑問が晴れたとばかりに、手をポンと鳴らす――

 それと同時にオレの周囲四ヶ所からブチッ! と何かが切れたような音がした……その音に釣られて発生源である彼等の顔を見ると、凄いことになってた。

 ある者は、顔に凄い数の血管が浮かび鬼のような形相になっていたり、逆に怒りが振り切れて完全な無表情になっていたりと全員別々の表情をしている。

 

「上等だッ!!」

 

「もう『フレイヤ様』の命令なんざ関係ねぇ!!」

 

「手足ぶった切ってあの『お方』の前に引きずり渡してやる!!」

 

「そして、俺達【炎金の四戦士(ブリンガル)】を嘗めたこと――」

 

「「「「後悔させてやる!!」」」」

 

 言葉が終わると同時に、四人の『小人族(パルゥム)』はそれぞれの得物――剣を槍を槌を斧を振りかぶりオレに襲い掛かる――

 

 オレはそれに対応するために意識を戦闘に集中して『小宇宙(コスモ)』を燃焼する。

 

 こんなに簡単に行くとは――ちょうど良い機会だ。

 音速を越えた動きに容易く着いてきた事といい、立ち振舞いといい……コイツらは同じ冒険者でも、ベルより遥かに出来る。

 

 

「オラリオの冒険者の力量を測らせてもらうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 あ~、アイオロスの所が長くなりすぎて、シュラの方を押し込むとこれ以上に長くなって読みにくいかなとかなと判断し、今回は見送らさせて頂きます。
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