ダンまち世界の転移者   作:慧春

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 急いで仕上げたので、もしかしたらおかしな部分があるかもしれないです。
 ご容赦ください。


銀河を射抜け!射手座の電光

 

 

 

小宇宙(コスモ)』――小さな宇宙と呼ばれるそれは、人間の五感を越えた第六感を更に越えた先に存在する『第七感(セブンセンシズ)』に由来する力である。

 嘗て人は第七感を当たり前のように使えていた……しかし、進化に至る道を辿る過程で第七感は衰え、失い、やがて第六感すらも失ってしまった。

 

 宇宙に存在する星々から、そこらの道端に落ちている石ころ、人間の肉体に至るまで――この世界に存在するあらゆる物質は宇宙誕生の爆発……ビッグバンによって生まれた。

 それ故に『小宇宙(コスモ)』とは全ての生き物に宿っており、同時ほとんどの生物はそれを知覚出来ず感じることもできない。

 誰もが内に可能性を秘めておきながらも、それを使える者はほんの極僅か――

 

 そして、この世界に存在する全ての物質は原子で出来ており、その原子を破壊する程の力を秘めたエネルギー、それこそが『小宇宙(コスモ)』なのだ。

 その『小宇宙(コスモ)』による闘法を極めた『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』達は全員が『第七感(セブンセンシズ)』に目覚めており、彼等は小宇宙(コスモ)の神髄とまで呼ばれる第七感(セブンセンシズ)に目覚めているが故に、並みの聖闘士には不可能な闘技の数々を繰り出せるのだ――

 

 ある者は『凍気』を操り、またある者は『時空』を飛び越え、またある者は他者の『五感』に干渉して剥奪し、またある者は己が手足を『聖剣』へと昇華した。

 だが、それらは言ってしまえば個人の持つ特殊技法に過ぎず、当然使い手は極一部に限られている。

 

 しかし、それらとは別に黄金聖闘士(ゴールドセイント)を最強たらしめる共通の『奥義』が存在する。

 

 神話の時代より、素手による戦闘を主とする聖闘士にとっては最も使用頻度の高い技は『高速拳』と呼ばれ、その速度は最も階級の低い『青銅聖闘士(ブロンズセイント)』ですら音速を越える『マッハ1』であり、基本技であるが故にその応用性は高く、使い手の小宇宙が高まれば高まる程に、その速度は増していき――やがては『光』の速さへと至る。

 

 それこそが、聖闘士の闘技の基本にして究極と言われる奥義――『光速拳』なのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 オラリオの片隅の路地裏――とある女神が住居とする教会からそれなりに離れた場所――そこでは今、常人には理解できない可思議な事が起こっていた。

 

 通路の幅が4 M(メドル)にも満たない細い通路は、その左右を高い建物に並び立つことによって形成されている。

 

 そこで今――四つの影が激しく動き回っていた。

 その速度は速く、所によっては容易く音速を越え、凄まじい速度を持って動き続ける……

 

 それら四つの影は、良く見れば人であり、またそれぞれが別々の種類の武器を持っていた。

 そして、四つの影の正体――【金炎の四戦士(ブリンガル)】と呼ばれる小人族(パルゥム)達は、『剣』を『槍』を『槌』を『斧』を……彼等はそれぞれの武器をたった一人の男を(・・・・・・・・・・・・)狙って振るっていた。

 

 だが――

 

「くそッ! 何で当たらねぇんだよッ!?」

 

 ――そう、当たらない。

 

 彼等は、このオラリオで――いや、この世界を探しても並ぶ者の少ない強者だ。

 かの『ロキ・ファミリア』とオラリオのトップを争う二大派閥――『フレイヤ・ファミリア』に所属し、その実力は『Lv.5』でありながら、卓越した連携により集団では『Lv .6』を越えた戦闘力を発揮する『小人族(パルゥム)』の四つ子――【金炎の四戦士(ブリンガル)】の名で知られる冒険者達……【勇者(ブレイバー)】と並び立つ小人族(パルゥム)の英雄だ。

 

 その彼等の振るう武器は、第一級冒険者である彼等が扱うに相応しい業物であり、それを振るう彼等の実力も疑うべくもなく一流を遥かに越える『超一流』の域にある。当然、その技の練度も、そこらの冒険者など比べ物になら無い程に洗練されている。

 

 だが――当たらない。

 

 第一級冒険者――『Lv.5』の中でも特に敏捷に優れた『ステイタス』を駆使し、地を蹴り、壁を蹴り、仲間の身体すらも蹴って、不規則かつ複雑な動きで、時にフェイントをいれ、スキルを駆使してそれぞれ四種類の武器による卓越した動きで、全力を持ってアイオロスに襲いかかる。

 

 だが、それでも――尚、当たらない。

 

 抜き身の剣の斬撃を、鋭い槍の突きを、重い両槌の振り下ろしを、力強い斧の凪ぎ払いを――そのほとんどを回避し、当たる軌道にある攻撃を掌で、拳で、脚で受け止め、逸らし、受け流す――彼等の洗練された武を、より洗練された武を持って捌き切る。

 

 第一級冒険者である彼等の攻撃速度は音速を優に越え、ある時は『マッハ5』にすら達する。

 それらの攻撃を容易く受け流し続けているアイオロスは、しかし。真剣な表情の裏で驚愕していた――

 

(驚いた…まさか、これほどまでに『やる』とは……身体能力は文句無しに『白銀聖闘士(シルバーセイント)』クラスか!!)

 

 彼は、心の底からの驚愕――そして、その心境には彼等に対しての敬意が芽生え始めていた。

 これほどまでに至るのに、彼等が数十年にも渡って血ヘドを吐くような努力をして、技を練り上げてきたであろう事が、彼等の攻撃を逸らす度に伝わってくる。

 

 何よりも驚嘆に値するのは、これだけの身体能力を見せ付けておきながらも、目の前の小人族(パルゥム)達が小宇宙(コスモ)一切燃やしていない(・・・・・・・・・・・・・)と言うことだ……

 

 通常、聖闘士が超人的な力を発揮するには己の内なる小宇宙(コスモ)を燃焼させる事が必要不可欠だ。

 それをしなければ聖闘士の力は発揮されないし、聖衣(クロス)もただの重いプロテクターに過ぎない。

 無論、常軌を逸した修行を乗り越え、闘いに生きる聖闘士達の肉体は一般人のそれを遥かに上回っているが、所詮は人間の延長線上に過ぎないのだ。

 実際、小宇宙の究極とよばれる第七感(セブンセンシズ)に目覚めた黄金聖闘士(ゴールドセイント)すらも、小宇宙を使えなければ、そこらの青銅聖闘士(ブロンズセイント)にすら勝てないだろう。

 

 小宇宙を燃やせない黄金聖闘士(ゴールドセイント)と小宇宙を燃やせる青銅聖闘士(ブロンズセイント)とでは、青銅聖闘士の方に軍配が上がる。それほど小宇宙の有る無しで聖闘士の実力は変わってくるのだ。

 

(それなのに、コイツらは小宇宙を燃やすことなく『白銀』並の戦闘能力を持っている……身体能力だけなら素の状態のオレ以上か……しかし――)

 

 アイオロスは確信した――この程度の腕前なら自分の脅威には成り得ない……と。

 

 そして、現在彼をほぼ一方的に攻撃している小人族(パルゥム)の冒険者達も又、目の前の聖闘士(おとこ)が自分達よりも遥かに格上であることを認めていた。

 無論、彼等もこのオラリオで――いや、世界でも並ぶ者の少ない強者であり、美しき『美の女神』の寵愛を受けた者であるという自負と誇りがある。

 なので、本来であるならば、敵の方が強いなど頑として認めないだろう――しかし、その誇りもここまで圧倒的な『格の違い』を見せつけられてしまっては認めざるを得ない。

 

 ――よって、彼等はアイオロスに対しての攻撃意識を切り替えた。彼等に恩恵を与えた『美の神』はアイオロスの事を気に入っている為、彼等はアイオロスを己が主神の基へと連れていくことが目的だが――彼等はそれを一時的に忘却することに決めたのだ。

 先程までの急所狙っていない――言ってしまえば『殺す気の無い攻撃』から『殺すつもりの攻撃』へと意識を切り替える。

 

 それは、彼等がアイオロスを手加減して生け捕りが可能なほど容易い敵ではないと認めた証であり、彼等自身は認めないであろうが、己よりも格上の戦士であるアイオロスへの嫉妬と敵意、そして尊敬すべき敵への敬意故にだった。

 

 だが、それは――

 

「……悪いが、殺気を持って襲い掛かってくる相手に加減は出来んぞ?」

 

 しかし、それは『殺気がない以上、怪我をさせるのは憚れるな……』と割りと本気で思っていたアイオロスの考えを変えさせるには十分――つまり、彼等は『最強の聖闘士(セイント)』と呼ばれた漢をその気にさせてしまうという誤った選択を取ってしまった。

 

「燃えろ――オレの『小宇宙(コスモ)』よ!!」

 

 アイオロスを中心に空気に震えが生じた――それは、アイオロスの小宇宙(コスモ)の高まりによって発生した現象だ。

 

 それを見て、それまで全力を持ってアイオロスを殺しに掛かっていた四人の小人族(パルゥム)達の攻撃の手を止めた。

 それは、彼等が歴戦の冒険者であるが故に起こした行動だった。

 

 彼等【金炎の四戦士(ブリンガル)】はそれなりに長い時間を戦いに捧げた歴戦の冒険者である。だからこそ、得体の知れない出来事が目の前で起こった時の対処方法は、慌てるでも、許容を越えてフリーズするでもない――冷静に状況を観察することだ。

 

 彼等は幾多の戦いを経験した第一級冒険者であるからこそ、アイオロスの小宇宙の高まりを肌で感じ取った――故に、それまで戦闘で高揚していた頭と心は一瞬にして冷え、何が起こっても対処が出来るが如く、アイオロスから少し距離を取った――

 

 しかし――どれ程、頭で冷静を取り繕うと、如何に距離を取ろうと、彼等の脳裏に掠めた得体の知れない『恐怖』と『不安』を拭い去ることは出来ない。

 

 小人族(パルゥム)の四つ子は、ハッキリと自分達に迫り来る敗北の予感を感じ取った――感じ取ってしまったのだ。

 繰り返すが、彼等は歴戦の冒険者だ。

 それ故に、金炎の四戦士(ブリンガル)は、自分達とアイオロスとの『格』の違いを本能で理解できてしまった。

 

「悪く思うな……小人の戦士達よ」

 

 アイオロスの両の腕が宙をなぞる――まるでそれは、空に何かを描いているかのような動き……そして、彼等は不思議な光景を幻視した。

 

 それは、アイオロスの黄金の小宇宙が象る幻……四人の小人族(パルゥム)は、アイオロスの小宇宙に天に弓を構える、翼の生えた黄金の人馬が見えた――その弓が自分達の方にゆっくりと向けられていく……彼等はその幻想的な光景に見惚れながらも、まるで死刑執行を待つ囚人になってしまったかのような錯覚を覚え――思い出した。

 彼等が女神の言葉を――

 

 

『あんなにも目映い黄金の輝きを放つ魂は初めてだわ――しかも、それだけじゃ無い――』

 

 ――人の魂が、あんな形をしている訳がない。

 

 彼等の敬愛する『彼女(・・・)』――美の女神曰く、人の魂には色や輝きがあり、それの純度や大きさでおおまかな才能や強さ、性格などが解るらしいのだ。

 事実、それを見ることのできる彼女の選んだ眷族で構成されたファミリアは、オラリオで屈指の力を誇るのだ。

 

『ああ――欲しい。欲しいわ! 私はあの黄金の人馬を象った魂が欲しい!! あの子(ベル)みたいに未成熟なら、ある程度『完成する』まで待つのも悪くないけど……『彼』は既に完成しているわ――なら待つ必要は無いわね』

 

 そう言うと、彼女は目の前に膝を折る彼等に命じた――

 

『連れてきてちょうだい。私の前に彼を――あの愛しい黄金の人馬を……私の為に――』

 

 それらの光景はまるで走馬灯のように一瞬で彼等の頭に蘇る。

 下手をすれば、最近では一番執心していた新米の冒険者――『ベル・クラネル』を越えるほどに熱く、激しく彼女はアイオロスを求めていた。

 その原因は、彼の魂が有り得ない形をしていたからではないか?

 

 そして、それは――『黄金の弓をつがえる人馬』だとも言っていなかったか?

 そう、目の前の『これ』のような――

 

 

「黄金の矢よ、銀河を射抜け――!!」

 

 高められた小宇宙は、右腕に集中していき――放電と共に解き放たれた――

 

「【アトミック・サンダーボルト!!】」

 

 

 オラリオの片隅の一角で、電光が走り抜けた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

 アイオロスが初めてこの世界で小宇宙を燃やした時より、遡ること数時間――ダンジョン18階層。

 そこは、冒険者達の運営する荒くれ者達の街――リヴィラ……そこは、冒険者達がそこよりも更にダンジョンの深層を目指すための中継地点として活用され、補給やそれまでに手に入れた魔石やドロップアイテム等を売り払ったりで、普段は賑わいを見せている。

 

 しかし、今リヴィラの街からは所々から火が上がり、そこに住まい、或いは訪れていた冒険者達の悲鳴が辺りから響き渡っていた――

 

「なん…で、こんな場所にモンスターが……ッ! おい! 何モンスターの侵入を許してやがる! 見張りは何してた!!」

 

「フィリア祭の時といい、こいつら何処から現れるのよ!!」

 

「皆ー! 逃げちゃダメだってば!!」

 

 ロキ・ファミリア所属のアマゾネスの姉妹は、街を襲う花のような特徴を持つ食人花のモンスターに騒然となる広場に向かって駆け寄り、次々とパニックに陥っている街の冒険者を救出していく。

 

「敵は魔力に反応する。リヴェリア、出来る限り大規模な魔法で付近のモンスターを集めろ! ボールスは他の冒険者達に五人一組で小隊を作らせて対処してくれ! 数で当たれば各班一匹は押さえられる!」

 

「わかった」

 

「お、おう!!」

 

 オラリオにおける数少ない第一級冒険者であり、世界にその名を轟かす【ロキ・ファミリア】の団長を務める小人族――『フィン・ディムナ』は、目の前の参上を前にして、その場にいる二人の冒険者にそう指示を出した。

 そして、その場の二人――彼と同じく『ロキ・ファミリア』に所属する幹部の一人にして、オラリオ最強の魔導師『リヴェリア』は団長であるフィンの言葉に即座に頷くとその場から離れ、魔法円(マジックサークル)を展開する。

 

 一方で、もう片方のボルスと呼ばれた男もまた戸惑いながらも頷き、返事をして怒号を挙げながら、指示を飛ばす。

 彼は内心では街に在住する唯一のLv.3として、普段リヴィラの街の纏め役として幅を利かせているボルスとしてはフィンに従うのは正直余り、面白くない。

 だが、彼も荒くれ者なりに、このリヴィラの街とそこに住まう冒険者達には愛着がある。それ故に、内心の不快感を押し留めながら、彼に従ったのだ。

 決して、自分を遥かに上回るLv.6のフィンにビビったからではない……筈だ。

 

 そして、フィンもまた己の手に持つ長槍をその小さな体からは想像も出来ない程に力強く振るい、次々と街の冒険者達では一人で手に終えない食人花のモンスターを葬っていく。

 その様子を見て、街の冒険者達の指揮は上がり、徐々にモンスター達を押し返していく。

 

 ロキ・ファミリアの第一級冒険者達の活躍によって、最初こそ戸惑ったが、形成は徐々に街の冒険者に傾いていく……そんな中で、フィンはどうしょうもない違和感を感じていた。

 

「この状況は……作為的過ぎやしないか?」

 

 彼は、自分の親指が疼くのを感じながら、思考を走らせる――フィンは優れた戦闘能力と頭脳を持ち合わせた英傑と呼ぶに相応しい冒険者である。その思考力もまた常人よりも数段優れている。

 そして、彼の頭で幾つもの仮説が巡り――やがて、それらが収束していき、一つの結論に達した。

 

「まさか……いや、それしか考えられない」

 

 自らの脳裏を過ったその有り得ない可能性(・・・・・・・・・・・・)を否定する材料が見つからない事、更にはそれを裏付けるようにモンスターの作為的な動き――フィンはそれが正しいのだと直感的に悟った。

 

 フィンは直ぐ様に、街の岸際にまで走り抜け、欄干の下を覗きこむと驚愕し、息を呑む。

 高さ二百M以上もある絶壁の下には、現在街を襲っている食人花のモンスターが夥しい群れをなして、水面から崖を登ってきていたのだ。

 

「敵は『調教師(テイマー)』か………!」

 

 信じられないが……今までに息を潜め、姿を隠していたモンスターが一斉に姿を表し、襲い掛かってきたこと――それ以外には考えられなかった。

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

「ハァハァ……どうなってるんだよぉ~、何だって街にモンスターが? 殺人鬼はどうなったんだ?」

 

「そんな事、私も解りません。でも、一刻も早く団長達と合流しないと……」

 

 広場に向かって、なるべく食人花のモンスターの少ない進路を取りながら、二人の少女が駆けていた。

 二人の少女――ロキ・ファミリア所属のエルフ『レフィーヤ』とヘルメス・ファミリア所属の犬人(シアンロープ)の『ルルネ』の二人は、広場に行き他のロキ・ファミリアの面々と合流するべく足を動かしていた。

 

 食人花のモンスターは、推定でLv.3以上の戦闘能力があり、尚且つ打撃系の攻撃は意味を殆どなさない。なので、彼女達では現状太刀打ちできない。

 二人は、共に第二級冒険者――Lv.3なのだが、レフィーヤは完全な魔導師タイプであり、武器も杖しか持たないので近接戦闘には不向きである。ルルネもまた一人で相手に出来るのは一匹が限度で大量に来られてはとてもではないが、太刀打ちなど出来ない。

 

 彼女達が――特に魔導師であるレフィーヤが力を振るうには、前衛が不可欠であるが故に、団長であるフィンや他の冒険者達のいる広場まで行かなければならないのだ。

 

「それに、アイズさんも心配ですし……」

 

 レフィーヤは小声で心情を口ずさむ。

 彼女の頭には、自分達を逃がすために食人花のモンスターを惹き付けて別れた情景の存在――『アイズ・ヴァレンシュタイン』の事が離れない。

 

 彼女は、レフィーヤと同じくロキ・ファミリアに所属する冒険者だ。その実力はオラリオ最強の剣士の名を欲しいままにする程高く、数少ない第一級冒険者の一人だ。

 レフィーヤは、彼女の実力に心の底からの信頼……いや、心酔すらしている。自分程度が心配するのも烏滸がましいという事も解っている。だが、心配なものは心配なのだ。

 

 レフィーヤにとって彼女は、いつの日か共に肩を並べたいという目標であり、憧れの存在なのだから――

 

「ここは……群晶街路(クラスターストリート)

 

「あと、ちょっと……もう少しで広場です。ルルネさん……慎重に行きますよ」

 

「解ってるよ。私たちじゃ、あの変なモンスターには――うわッ!? ば、爆発!?」

 

「あれは――リヴェリア様の魔法!!」

 

 辺りに響き渡る轟音――リヴィラの街から吹き上がる炎――彼女達が目指している広場の方角からだ。

 そして、それの後に続くように遠くの方で歓声が響く。

 それを見て、レフィーヤは一瞬で誰が放った魔法かを悟り、ルルネもまたオラリオ最強の魔導師が放つ桁違いの魔法の威力に心胆が冷え上がる思いがした。

 ルルネは先程まで、とある件の――リヴィラで起こった『殺人事件』の容疑者だったので、一つ間違えれば、あれが自分に向けられていたかもしれないのかと戦慄したのだ……あんな魔法、避けられる気も耐えられる気も全くしない。先程、自分を常識はずれの動きで簡単に捕らえた【剣姫】と良い……【ロキ・ファミリア】は絶対に敵に回したくないと【ヘルメス・ファミリア】の冒険者『ルルネ・ルーイ』は心底思った。

 

 今からでも、トンズラしようかとルルネが思ったところで、彼女の犬人(シアンロープ)としての鋭い感覚が己を見る悪意の視線の存在を捉えた。

 

「――! 誰だッ!?」

 

 凄まじい火炎魔法によって生じた炎が、リヴィラの街を赤く染める……その光景にレフィーヤは己が目指す場所の遠さを改めて感じ入り、暫し呆然としていたが、ハッとしたように先へと進もうとするが、ルルネの挙げた警戒の声にルルネと同じ方に振り替える――

 

「ほう、気付いたか……」

 

 彼女達の耳に女の声が聴こえてくる……

 そして、炎に照らされる水晶の道に一人の男が現れた。

 

 全身に黒い鎧を纏い、兜を被った浅黒い顔には、半分程が包帯で覆われており、露になっている左目は、無感動に焦点だけがレフィーヤ達を向いている。

 

「大した力は感じないが……お前達冒険者はつくづく侮れんな。と言っても――」

 

「お、女の声?」

 

「止まって下さい!!」

 

 見た目は、完全に男性の冒険者……にも関わらず聴こえてくる声は女性特有の高い声だ。

 その光景に酷いアンバランスさを感じ、不気味に思う二人の少女だが、第二級冒険者である二人の目には、眼前の相手が食人花のモンスターよりも脅威に映った。

 その証拠に、レフィーヤの体は微かに震え、ルルネも青白い顔で怯えた様子を見せている。

 

「――やはり脅威ではないな」

 

 それは、一瞬の事だった。

 その男の皮を被った何か(・・・・・・・・・・・・・・)は、エルフのレフィーヤはおろか、身体能力や反射神経に優れた犬人(シアンロープ)のルルネすら知覚できない速度で間合いに入り込み、レフィーヤの細い首を掴み上げた。

 

「が、あぁ……」

 

 そのままレフィーヤの首を握り潰すが如く、掴み上げた右腕の五指に力を入れる。

 レフィーヤも抵抗するが、その圧倒的な膂力の前に徐々に意識が薄れていく――

 

「う、うわぁぁあ!!」

 

 片手でレフィーヤの首を掴み上げた『何か』……その行動を止めるためにルルネは己に出せる全力の力を持って、襲い掛かる。

 第二級冒険者――Lv.3の正真正銘、全力の力が込められた最速の一撃……恐怖を振り払うように放たれたそれは、音速の一歩手前の域にまで至った。

 

 しかし――

 

「邪魔だ……」

 

 その一撃は、レフィーヤを掴む手とは逆の左手で、鬱陶しい蝿でも払うように弾かれた――

 

 如何にルルネが自分の力を振り絞り、全力を尽くそうと所詮は『Lv.3』……それ以上の力を持つ者が相手では、抵抗すら許されずに一蹴されて終わりだ。

 ルルネのそれとは違い、技も何もあったものではない粗雑で乱暴な一撃……だが、その一撃でルルネの技を正面から撃ち破られ、弾き飛ばされたことにより意識は完全に落ちた――つまり、それが二人の実力の差を如実に表していた。

 

 絶望――それがこの場における唯一の味方であるルルネが、己とそう変わらない実力を持った実力者が一瞬で戦闘不能にされた光景を見たレフィーヤの感情だった。

 

 だが、その絶望は――直ぐ様に視界に映った黄金の輝きに切り裂かれた。

 

「何!?」

 

 彼女は、一瞬の浮遊感と共に自分の体が地面に落ちるのを感じた。

 水晶の散らばった地面に膝から崩れ落ち、咳き込む彼女が見た物は――黄金の輝きだった。

 

「アイ…ズ……さん?」

 

 その黄金を意識の失いかけている彼女は、一瞬、彼女の憧れる【剣姫(アイズ)】の黄金の髪と見間違えた――しかし、違うと直ぐに気付いた。

 

「おう…ごんの………鎧?」

 

 レフィーヤから見える大きな背中は黄金に輝く『闘衣(バトルクロス)』に覆われていた。

 

「貴様……何者だ?」

 

 レフィーヤは、今の状況を思い出し、ハッとそちらに目を向ける――黄金の鎧を纏った人物の10M離れた場所に先程まで自分の首を掴んでいた謎の『何か』が立っていた。

 そして、彼女は驚愕した――謎の……男の皮を被った何かの右腕が肘から先がまるでとてつもない切れ味の刃物で切り裂かれたかのように切断されていたのだ。

 辺りを見渡せば、自分の直ぐ側にその切断された右腕の肘から先が落ちていた。

 

 彼女は現在の状況を完全に理解した。

 首を折られる寸前だったレフィーヤは、目の前の黄金の鎧の人物によって救われたのだ。

 首を掴んでいた右腕を切断する事によって……先程の浮遊感は、一瞬で自分を持ち上げていた右腕が切断された為に自分が地面に落ちたからだったのだ。

 

「何者か……だと?」

 

 その『男の皮を被った何者』かは、レフィーヤ達を前にした時とは、比べ物にならないほどの警戒を顕にしながら、目の前の『黄金の鎧を纏った何者』かの一挙一動に注目していた。

 

「レフィーヤ!」

 

「アイズさん!?」

 

 地面にへたりこむレフィーヤの前に、風を纏って剣を持った少女が着地した。

 それは、彼女の情景――アイズ・ヴァレンシュタインがそこに現れた。

 

「アテナの――聖闘士(セイント)だ」

 

 ロキ・ファミリアに所属する二人の冒険者――【剣姫】【千の妖精(サウザンド)】の眼前で、謎の殺人鬼と思わしき存在と『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』――二人が対峙した。

 

 

 

 




 何とか、五月中に投稿できました……
 誤字脱字等があったら指摘よろしくお願いします!
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