ダンまち世界の転移者   作:慧春

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 今月中に出せたら、良いなぐらいに思っていたのですが、ついつい暇な時間に指を動かしていたら、かんせいしました。
 なので、投稿します。





広まる小宇宙、リヴィラの街の死闘!

 

  

 

「ふむ、流石は『異界の花』だな……不思議な香りだ」

 

 オラリオの中央通り(メインストリート)……そこは、オラリオの街の中央――『ダンジョン』へと向かう冒険者がまばらに見える。

 本来であるのならば、街の住民達で溢れかえるそこは、それらの人々を迎え入れる店が所狭しと並んでいる。しかし、現在は朝早くと言うこともあり、殆どの店舗はまだ開いておらず、開店に向けての準備を整えている段階だ。

 

 そんな店の一つ――中央通り(メインストリート)の片隅の小さな花屋に、一人の男が花を興味津々と言った様子で物色していた。

 

「こちらは蓮の花に見えるが……香りは微妙に違うな。少し薄いか? 実に興味深い……他はどうなっているんだ?」

 

「あ、あの~~お客様、まだ開店準備中で――ッ!?」

 

 その花屋の店員であるエルフの女性が、少し困った様子でその男性に開店準備中であることを知らせようとしたところで女性の動きは完全に止まった。

 そして、徐々にエルフの女性店員である彼女の頬は桜色に染まっていき――やがては限界点を越えたのか、完全に真っ赤になり、見惚れるようにボーとしはじめる。それは、端から見たら『魅了(チャーム)』にでも陥ったかのように見えないこともない。

 いや、その例えは決して間違ってはいない。何故なら、彼女は間違いなく魅了されているからだ。

 その男の……人を越えた美に――

 

「ああ、すまない。花に――いや、植物には眼がなくてね。つい我を忘れてしまった」

 

「はひ、へ?」

 

「この美しい花達が人目に触れるのを邪魔するつもりは無いのだ。私はこれで失礼する――」

 

「ま、待ってください!」

 

 エルフの店員『マリル』は、ほんの少しだが名残惜しげに蓮の花を元の場所に戻し、その場を去ろうとしていた男をつい呼び止めてしまった。

 それは、完全に無意識の行動であり、彼女は自分でも己が何のために呼び止めたのか解らなかった。

 

 それは、或いは彼女の女としての本能が『この麗人』との出会いをこのまま終わりにしたくないと働き掛けた結果なのかもしれない。

 

 マリルは、呼び止められたことで足を止めてこちらを向く男を改めて見る……

 

(う、美しすぎますぅ~~、ヒューマンの殿方よね? まるで『神様』みたい)

 

 彼女の種族であるエルフには、美しい外見を持った者が多い……かくいう彼女も、エルフ故に自分の外観が他の種族の者達の多くより優れているという自覚がある。

 現に、彼女が働いているこの花屋には彼女以外にも女性店員が三人いるが、その中で最も客に話し掛けられるのは自分であるし、余り誇りたくはないが、ナンパ目的で声をかけられる事も日常茶飯事だ。

 

 だが、彼女の目の前に立つ『彼』は、そんな自分歯牙にも掛けない――いや、文字通り神懸かった美しい外見を持つ神すらも超越する美しさを持っていた。

 余りの圧倒的な差がそこに在るが故に、嫉妬の気持ちすらも湧いてこない。突き抜けた美は、嫉妬や妬みの気持ちなど周囲に与えない。ただ、その『美』は他者を圧倒し、魅了する――彼の美しさはそんな感慨をマリルに与えた。

 

「……何か?」

 

「あ、えと……そうだ! ぼ、冒険者の方でしょうか?」

 

 引き留めた理由を訪ねる彼に、マリルは一瞬焦りながら、慌てて口にした言葉はそんな在り来たりな質問だった。

 誤魔化すために出た質問ではあるが、それを質問したのは、彼女が彼に常人とは逸脱したような雰囲気を感じ取ったからだ……無論、美しさは常人など逸脱しているが、それとはまた違う『何か』が彼にはある気がした。

 

 良く食い入るように見てみれば、貴族が着るような上品な仕立ての服の上から解る彼の肉体は細身ではあるが、意外と鍛えこんでいる様にガッシリとしている。

 

「フム……生憎だが私はどこの神の恩恵も受けてはいないな……」

 

「そう……なんですか」

 

 彼女は、彼と会話したという現実に酔いしれそうになる頭を懸命に働かせて、自分の勘が外れたことに意外に思う。

 

 このままでは会話が終わってしまう――

 

「あ、あの――あと少しで開店なので……その……」

 

 顔を赤らめて上目使いにマリルは彼の顔を見やる――それは、道行く通行人が思わず足を止めて見いってしまうほどの破壊力を秘めていた。

 

 その様子を見て、彼女が何を言いたいのか悟ったのか、彼は微笑みながら声を掛けようとした――が、口を開く寸前に『何か』を感じ取ったかのような明後日の方向に体ごと勢い良く振り向いた。

 

「………この『小宇宙(コスモ)』――アイオリア――いや、アイオロスの【アトミック・サンダーボルト】か………誰かと戦っているのか? 奴は一体何を?」

 

「あ、あの、どうかしましたか?」

 

 先程まで浮かべていた涼しげで柔らかな笑みは消え、真剣な表情と雰囲気で、彼女には理解のできない事を呟く男……その真剣な雰囲気に圧倒されながらも、どうにか平静を保ちながら訪ねる。

 

「ああ、すまないな。直ぐにでもやらなければならない急用が出来た」

 

「そ、そうですか……」

 

 マリルは残念に思いながらも、彼のどこか鬼気迫るオーラに、今度は引き止めることは出来なかった――

 

「――また来させて貰おう」

 

「へ?」

 

「この店の花達と――『君』という可憐な花に会うために……な」

 

 男は微笑みながら、これまでのどの言葉よりも甘い音声で彼女に囁くように告げる。

 

「――!?」

 

「それでは――可憐な妖精よ。また会おう」

 

 そう言いながら、彼は先程感じ取った小宇宙の場所に向かう。

 その徐々に離れていく背中をぽうっと見ていた彼女は、完全に姿が見えなくなると同時にハッ! と我に変える。

 

「名前……聞きそびれちゃったわね……」

 

 この日、射手座の黄金聖闘士(ゴールドセイント)がこの世界で初めて小宇宙を燃やした時とほぼ同時刻――一人の恋する乙女が生まれたのだった。

 

 

 

 

 

「アイオロス程の者が小宇宙を燃やすだけに飽きたらず、技すらも使うとは……この付近で大規模な小宇宙の燃焼はアイオロスのそれしか感じなかったが……」

 

 花屋から、十分な距離を取ったと判断するや否や、直ぐに自らも小宇宙を燃焼させて、身体能力を飛躍的に上げ、急いでその場所に向かって走る――

 

「ならば、相手は冒険者とかいう輩か……アイオロスに技を使わせるとは――それほどまでに出来ると言うのか?」

 

 もし、アイオロスが技を使わざるをえない状況にまで追い込まれたと言うならば、それは由々しき事態だ。

 冒険者という存在の認識を改める必要がある。

 

「何れにせよ、接触しなければならんか……」

 

 『魚座(ビスケス)黄金聖闘士(ゴールドセイント)』――『アフロディーテ』は、跳躍でその場を跳び、建物を飛び越えながら友のもとへと向かった。

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

「……む?」

 

「どうかしたのかい? 『童虎君』」

 

 オラリオから少し離れた荒野に張られた天幕の側で一人の『青年』が、ある方向に顔を向け、考え込むような――何かを憂いるような寂しげな表情を見せる。

 それを見ていた旅人風の衣装を着た『男神』が声を掛ける。青年とは昨日知り合ったばかりではあるが、男神にとって彼は常に飄々としていて、どこか見た目の年齢にそぐわない老成した雰囲気を感じていたが、この様な表情もするのだなと意外に思った。

 

「あっちはオラリオの方だね。何か感じたのかい? 随分機嫌が良さそうに見えるけど……」

 

「おぉ、ヘルメス殿…いや何――壮健ぶりを確かめることが出来たのでな……安心したのですじゃ」

 

「壮健? 昨日言っていた探しているという仲間かい?」

 

 男神――ヘルメスは、人懐っこい笑顔で……その本性を巧妙に隠した笑みを浮かべながら、彼――『童虎』に訪ねる。

 

「ええ――友ですな」

 

 そう言うと、彼は笑顔を浮かべる。一見すると人の良さそうな笑みに見える……しかし、それだけではないと短い期間の付き合いとはいえ、ヘルメスは確信していた。

 

 この童虎という青年は、確かに一見すると人の良い好青年だ。神であるヘルメスや、その眷属であり神に匹敵する美貌を持つ『アスフィ・アンドロメダ』の様な分かりやすい美形ではないが、どちらかというと中性的で愛嬌のある顔やその雰囲気も相まって瞬く間に『ヘルメス・ファミリア』とヘルメス本人からの信用を勝ち取っている。

 

 彼等の出会いは、ヘルメスが何時ものように他の神や人には言えない少々後ろ暗い理由でオラリオの外に数人の団員と共に来ていたのだが、とある遺跡の調査の際に、そこに住み着いていたモンスターと戦闘に陥った。その際にちょっとしたトラブルでヘルメスが団員達では庇えない位置に孤立し、更には悪いことは続くとばかりに都市外では大変珍しい大量のモンスターに襲われた。

 

 何時もならば、『Lv.3』にして(実はLv.4)【万能者(ペルセウス)】の名で知られるファミリアの団長『アスフィ』が同行するため、主神が孤立する様な事態は起こりえないのだが、間が悪く今回のヘルメス・ファミリアの都市外遠征に彼女は参加せず、オラリオのホームにて待機していた。

 

 主神が危険にさらされ、団員達が叫びを挙げる中――突如として、まるで瞬間移動でもしたかのようにその場に現れた童虎がヘルメスを救ったのだった。

 最初は得たいの知れないものでも見るように遠巻きに見ていた団員達も、直ぐにヘルメスと笑い合い、打ち解けた童虎の人柄に惹かれ、あっという間に仲良くなっていった。

 特に、童虎から近接戦闘の手解きを受けた前衛を担当する団員達は、身体能力で自分達に劣りながら、技量で自分達を超越する強さを持った童虎に尊敬を籠めて『老師』と呼ぶほどに心酔している。

 

 しかし、ヘルメスは童虎を信用しつつも、やはり神故の勘の良さで童虎の中に『底知れない何か』を感じ取ってしまい、それが彼を心から信頼するのに『まった』を掛けていたのだ。

 人当たりは良く、気がつけばするりと懐に入ってくるような気安さ、こちらの全てを包み込むような包容力に、時折見せる人としての器量……そう、彼は『でかい』のだ。

 ヘルメスや団員達には、その170M(メドル)足らずの背中が、一回りも二回りも巨大に見えた――まるで、数百年の時を生きた、巨大な大樹を思わせる。それほどまでに童虎は『器』が違うのだ。

 

 確かに下界の(ヒューマン)の筈……なのに、何故か彼からは神にも通じる『何か』をヘルメスは感じていた――

 

「世界が変われど、その小宇宙に迷いは無い……か、アイオロスよ……お主は――」

 

 ――つくづく、救われん男よ――

 

 再び、ここから離れたオラリオの地に向かって、何かを小声で呟く童虎――ヘルメスにその言葉の意味は分からないが、憐れむようにも…悲しんでいる様にも聴こえた。彼の瞳は、済んだ色をしており、道化師を自称するヘルメスを持ってしても、その奥に在るものを見抜くことは叶わなかった………

 

 

 最古の黄金聖闘士(ゴールドセイント)――『天秤座(ライブラ)の童虎』は自らの後輩に当たる聖闘士(セイント)の名を呟き――憂いる様な笑みを浮かべながら、オラリオに背を向けた。

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

聖闘士(セイント)……だと?」

 

 水晶の光に照らされた、夜の18階層。

 リヴィラの街の群晶街路(クラスター・ストリート)では、四人の人物達が対峙していた。

 

 そして、正面から対峙する鎧の殺人鬼と黄金聖闘士(ゴールドセイント)――山羊座(カプリコーン)のシュラ。

 彼等二人は互いを牽制するように睨み合っており、その場の空間は、右腕を斬られた殺人鬼の『殺気』とシュラの刃の様な『闘気』が、凄まじい勢いで攻めぎあっていた。

 

 シュラの後ろに庇われるように、二人のヒューマンとエルフの冒険者達は、両者の放つ『気』に当てられたのか、その首筋には止めどない冷や汗が流れ落ちる。

 レフィーヤに至っては先程呆気なく殺され掛けた為か、顔を蒼白にし、その表情を恐怖に染める。

 アイズもまた、両者が己よりも『上』の存在であることを感じ取り、緊張する。

 

「貴様は――」

 

「貴方がハシャーナさんを殺した人?」

 

 顔の半分を隠した黒い殺人鬼が、シュラにた向けて何かを言おうとしたところで、それを重ねるように(空気を読まず)アイズが問い質した――

 

「だったらどうした?」

 

 それにイラついたのか、殺人鬼の殺意が一瞬だけアイズに向くも、直ぐに挑発するように答えを返した――

 

 アイズとレフィーヤの中で、目の前の鎧男が『容疑者』ではなく『犯人』になった瞬間であった。

 しかし――

 

「女の声……」 

 

「あ、貴方は男性の筈じゃあ……?」

 

「いや――」

 

 アイズとレフィーヤは、共に外観と声のチグハグな印象に疑問の声を上げるが、シュラは既に見抜いていた――

 

「先程の動きの違和感……その鎧は貴様の肉体にサイズが合っていないな…それに、先程絶った肉と骨の感触といい――」

 

 ――只人では有るまい。

 

 そう、シュラは殺人鬼の鎧から微かに聴こえる音や動きに違和感を感じ取り、装備の消耗具合から、着ているそれらの装備が、恐らくは別人の物であること事までを見抜いていた。

 

 それだけではなく、シュラは聖域(サンクチュアリ)に置いて、主に『アテナ』や『教皇』に対する背心者――つまりは裏切りである聖闘士の粛清を任されていた。その任務で多くの聖闘士(殆どが聖衣(クロス)を纏えぬ半端者ではあるが)を教皇の名の基にその聖剣を持って始末してきたのである。

 その時の経験から、目の前の『女』の肉体が明らかに『常人』の域を遥かに越えていることを感じた。

 

 歴戦の聖闘士であるシュラの指摘に、殺人鬼は「ほう」と何処か感心したかの様な声を上げる。

 

「その顔は『被り物』か」

 

「そこまで解るか……」

 

「え?」

 

 シュラの言葉の意味が解らず、レフィーヤは疑問の声をあげる……アイズもイマイチ理解できていないのか、どこか不思議そうにしている……

 

「簡単な話だ――死体から顔の皮を引き剥がして『被っている』だけだ」

 

「……は? ――!?」

 

毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の体液に浸せば人の皮の腐敗は防げる……知らなかったか?」

 

 そこまで言われて、レフィーヤとアイズもようやく『被り物』の意味を理解した――だが、それを考えて背筋が凍るような悪寒が彼女達の体に走る――

 

「それじゃあ……その顔はハシャーナさんの?」

 

 レフィーヤは口に出して改めてゾッとする。

 それは、彼女の知る限り人間の諸行ではない。いっそ悪魔の諸行と呼ぶに相応しいとレフィーヤは思った。

 

「いい加減『宝玉(タネ)』を渡してもらうぞ――その為に私はこんなところで騒ぎまで起こしたのだからな」

 

 そう言いながら、彼女(・・・・)は一瞬でレフィーヤに迫る。

 

 ――狙いはこの赤ん坊?

 

 殺人鬼の言葉から『タネ』と呼ばれるものが何であるかをレフィーヤが思考したのも束の間、先程のように、彼女の直ぐ側にまで死が迫って来た……

 

 レフィーヤに迫る黒い刃にアイズが反応しようとするも、その規格外の速度に意識では反応できても体が追い付かない。

 天賦の才能を持ち、尚且つ『Lv.5』であるアイズですらそれなのだ、当然近接戦闘が不得手であり、Lv.3に過ぎないレフィーヤでは反応などできようはずもなく、呆気なく命運が尽きようとしていた――そして、実際にそうなっていただろう……この『漢』が居なければ――

 

「チッ!」

 

「――させん!」 

 

 同じく、ほんの一瞬でレフィーヤの近くにまで辿り着いたシュラは、その右腕(エクスカリバー)を殺人鬼の首を絶つために振るい、それを見た殺人鬼も体を捻り、攻撃の目標をレフィーヤからシュラに切り換える。

 

 シュッ! というお互いの『武器』が超高速で風を切りぶつかり合う――何の抵抗も、切り裂かれる音すらせずに鎧の女が左腕で振るう大剣がその刃の半ば辺りで綺麗に両断された――

 

 

「「………………へ?」」

 

 

 アイズ、そしてレフィーヤも緊迫した状況にはまったくそぐわない弛緩した声を口から漏らす。

 その光景に、自身が剣士であるアイズと【ロキ・ファミリア】の冒険者として多くの強者を間近で見続けたレフィーヤは、大剣が素手(・・・・)で抵抗さえ許されずに両断された瞬間を……そして、僅か数M先で行われた刹那の攻防の果てに、地面にカランと転がる大剣の刃の片割れを目を点にして見詰めた。

 

 その大剣も、恐らくはハシャーナが使っていた物なのだろう。それは『Lv.4』の第二級冒険者が愛用していただけあり、アイズの愛剣たる『デスペラード』にすら迫る……いや『不壊属性』を付与されるの代償に切れ味は只の一流に留まる為、恐らくは切れ味だけならば上回る程の名剣だ。一目で鍛えた鍛冶師(スミス)の腕が知れる――それほどの逸品だ。

 それを――

 

「武器を……素手で切った?」

 

「そ、そんな――有り得ないです……」

 

 驚愕を顕にするアイズと、信じられないとばかりに首を振るレフィーヤ……共通しているのは、目の前の常軌を逸した光景に唖然としていること――

 

 

「なん……だと……?」

 

 

 そして、手に持つ大剣を呆気なく斬られた殺人鬼もまた驚愕した――しかし、アイズ達とは違い、彼女? には悠長に驚愕などしている間など無い。

 何故なら直ぐ側に、それを行った『敵』が直ぐ1M(メドル)先に居るからだ――

 

「チッ!」

 

 殺人鬼は直ぐに致命的とも言える『隙』を晒した己の行動を恥じる。相手が凡百の冒険者ならば、このような一瞬の隙など、隙の内に入らないが、敵は余りに手練れだ――必ず来る! そう、確信した彼女は来るべき衝撃に備えながら、レフィーヤに迫った時以上の速度で後方に下がる。

 

 しかし――その、隙は突かれること無く、彼女は高速移動の勢いで地面を足で削りながら、シュラから20M(メドル)程離れた場所に止まる……

 

「ハァ……ハァ……」

 

 殺人鬼は自らの命が助かったことに安堵を覚えるが、それ以上に疑問なのは、何故自分は怪我の一つもしていないのか? 

 殺人鬼の彼女は、考える――そして、次の瞬間には頭の中が沸騰するような怒りが沸き上がってきた。

 

「貴様……っ! 何のつもりだ?」

 

 目の前の男の力量を測り間違えたか? あの一瞬にも満たない刹那の隙を突けるような腕がなかったのか?

 いや、違う――目の前の男は自分よりも『早い』、そしてあんな派手な格好をしておきながら、腕を斬られるその瞬間にまで自分にその存在を気取らせ無いだけの『巧みさ』も持ち合わせている。殺人鬼は今更、目の前の男にそれができないとは思えなかった。

 ならば、考えられることはただ1つ――

 

「何故、私を見逃した! 舐めているのか!!」

 

 見逃された……それが余程の屈辱なのか、その声は女の怒りを感じさせる物だった。

 

 怒りの声を前にしても、シュラの顔は一切変わらず、冷静な表情で殺人鬼の動きに注目している。

 

「……勘違いするな。お前には訊きたいことがある――だから殺す気が無い。それだけだ――」

 

「聞きたいこと……だと?」

 

「ああ――何故貴様は『小宇宙(コスモ)』を扱える(・・・・・・)?」

 

 シュラの核心を突いた問い掛けに、殺人鬼は息を呑む――そして、その反応と小宇宙の揺らぎを見て、シュラは何かを『確信』したように、更に己の内なる小宇宙を燃焼させた。

 

「こす、も?」

 

「コスモ……ですか?」

 

 そして、目の前の黄金の鎧を纏う謎の人物が発した『コスモ』という単語の意味が解らず【ロキ・ファミリア】の若き冒険者達は、異口同音でその謎の言葉を口にする……

 

「く、くくっ!」

 

 噴き出すような、くぐもった声が殺人鬼の方から聞こえてくる……その声にその場の全員の視線が集まる。

 

「ク、ククク! ハッハハハッハッ!!」

 

 笑う――その笑い声は、愉快染みて聴こえるようで、蔑んでいる様にも聴こえた。

 

「な、何が――」

 

「そうか……やはり、お前が【十二星座の戦士(ゾディアック)】――『黄金聖闘士(ゴールドセイント)』か――」

 

「……何?」

 

 ゾディアック? ゴールドセイント? またまたアイズ達の頭に疑問符が過る。

 

「なるほど……我々の事を知っている様だな――訊くことが増えてしまったな」

 

 シュラは、黄金の小宇宙を燃やし、右腕を構えて、目の前の相手に切り掛かろうとする。

 

「ああ――やはり、邪魔だな」

 

 そう言うと、殺人鬼は左手に握る大剣を地面に突き刺し、自身の鎧を自らの腕力で無理矢理、力任せに引き剥がす――引き剥がされた黒い鎧の下からは、それだけで男性を虜にする豊満で引き締まった魅力的な肢体が露になる。

 最後に、左手で顔に被っていたハシャーナという冒険者の顔の人皮で出来たマスクを剥ぎ取る――そして、得体の知れない殺人鬼は、一人の妖艶な美女へと姿を変えた――

 

 更に彼女は、小宇宙を燃焼しながら(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)何かを引き寄せる様に左腕を前にかざした。

 すると、レフィーヤの直ぐ側に落ちている、シュラによって切断された右腕が宙を浮き、彼女の左腕に向かって飛んだ。

 

 何をする気なのか――それがその場の人間全員が思った疑問。アイズは『万能回復薬(エリクサー)』でも持っているのかと警戒するが、流石に切断された腕を付ける事など出来ない筈だと思い直す。

 

 そして、彼女はその右腕を――本来の場所へと左手で継ぎ合わせた(・・・・・・・・・・・)。そして、驚くことが起こる――なんと、彼女の右腕が断面から完璧にくっつき、再生した。

 

「流石に黄金聖闘士(ゴールドセイント)を相手に片腕のハンデはキツいからな……」

 

 驚いたか? とばかりに嘲笑うようなドヤ顔でシュラたちに向き直る女――

 

 

「薄々、思ってはいたが――やはり『化生』の類いか……」

 

「ここで、貴様らと争う予定はなかったが、あの『お方』への手土産だ。死んで貰うぞ――」

 

 

 二人から、先程のような『殺気』と『闘気』が消える――だが、その場にいるアイズとレフィーヤは、何故かさっきよりも生きた心地がしなかった。

 

 高位の冒険者であるからか――或いは、その『素質』が在るのか……二人の冒険者は、その場に満ちる暴力的な小宇宙(コスモ)の高まりを微かに感じていたのだ。

 

 

「行くぞ――!」

 

「参る――!」

 

 

 アイズとレフィーヤ……二人の視界に幾つもの光が瞬いた――

 

 

 

 

 




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