ダンまち世界の転移者 作:慧春
試験もいよいよラストスパートということで、試験前に投稿させていただきます。
誤字脱字の指摘よろしくお願いします!
疾走する――
淡い光を放つ、ダンジョンの壁に照らされる通路を少年は最近自信が着いてきた足で駆ける。
少年の目の前には『キラーアント』――名前の通り、蟻のような特徴を備えたモンスターが四体……
「ハアッ!」
『ガギィッ』
雄々しい、叫びと共に少年――ベル・クラネルは、手に持つ得物を疾走の勢いのままに得物に振るう!
速度の乗った『
(よし、まずは一匹!)
『ギギィ!』
『ギィギギッ!』
仲間を殺された事によって、残り三匹のキラーアント達は当然ベルの存在に気づき、彼を食らおうとその手の鉤爪をベルに向かって振るうが――
「フッ! ヤッ!!」
その鉤爪の付いた腕部を間接の部分から左手に持つもう一つの得物であるギルドから支給された短刀で切断する――、一瞬で切断された為か、その事を気付かずにそのままにキラーアントは、腕を振るうが当然武器が着いておらず、短くなった腕はベルには当たらずに空を切るだけであった。
「ハッ!」
そのまま、腕を失ったキラーアントの頭部にヘスティア・ナイフを一閃し、最初に倒した個体と同じく頭部を切断すると、間髪入れずに体の動きを最小限に回転させ、一番近くの個体の頭部に全体重を乗せた回し蹴りを食らわした。
(二匹、三匹……よし、これで――)
ベルは回し蹴りを受けた個体の頭部が、明後日の方向に飛んでいくのを横目で確認しながら、最後の一匹に向かう――
「――ラストォ!!」
『ギ――』
最後の個体に断末魔さえも上げさせることなく、ベルは危なげ無く最後の個体の頭部を切り裂く――
「――ふぅ~……」
辺りにモンスターの影がない事を確認しながら、戦闘を終えたベルは息を吐いた……当然、この間も一切油断などしない。
何処から『敵』が現れるか解らないダンジョンの中において、戦闘を終えた後の油断が、最も命取りであると『師』から叩き込まれているからだ。
文字通り『肉体』に……故にベルは緊張を解きこそすれど、ダンジョンの中では一切の油断はしない。
熟練の冒険者がダンジョンの中で経験を積み、自然と学んでいく事を、ベルは既に身に付けつつあった。
「ベル様~!」
「あ、リリ」
油断せず辺りを見据えていたベルの後ろから、サポーターの少女『リリルカ・アーデ』が追い付く。
リリルカは、つい先日サポーターとしてベルと契約を結んだ『ソーマ・ファミリア』に所属する冒険者であるが、本人曰く、既に冒険者としての大成を諦め、専ら契約を結んだ冒険者の専属のサポーターとして専念しているらしい。
彼女は、素早い手捌きでキラーアントの死骸から魔石を取り出していく……それを見て、ベルもまた彼女を手伝うべく、魔石を取り出す作業に入るが、彼女とは圧倒的に手際が違う。
サポーター専門を自称するだけあり、その手際は冒険者になって半月足らずのベルとは隔絶しており、ベルが拙い手際で一匹のキラーアントから魔石を取り出す頃には、彼女は既に他の三匹の魔石とドロップアイテムを自身のバックパックに仕舞い終えていた……
その自分よりも年下の『
「それにしても……凄まじいですね……」
リリルカは、魔石を失い、崩れ落ちていくキラーアントの死骸を見ながら、ふと小声で呟いた……
彼女達の通った後には――正確には、ベルの通った後には、大量の今のような魔石を失ったモンスターの死骸が転がっている。
それらは、全て、ベルが一人で倒し、彼女が魔石を抜き取ったが故に出来た光景なのだが……そのほとんどのモンスターの死骸が、先程のキラーアントと同じく頭部をを失った物なのだ。
末恐ろしい……ベルに対してリリルカが抱いた感想がそれである。
恐らくは、自身に何らかの制約でも課しているのか、先程からベルはモンスターを倒す際には、頭部又は急所を狙って仕留めているのだ。
その中には、人間大の大きさを持つキラーアントやウォーシャドウと違い、小さいモンスターも居る……にも、関わらず全て急所を狙っている……この結果を見るに、ベルは他の並み居る冒険者達とは違い、富や名誉を求めて居るわけではない。
彼は明確に――ダンジョンで『修行』をしている。リリルカは、そう感じ取った。
凄まじい……彼女がベルをそう評したのは、別にベルが強いからではない。
確かにベルは現時点でリリルカよりも高い実力を持っているが、それはリリルカの【
サポーターとして彼女は多くの冒険者を見てきたのだ。以下にベルが強かろうと、それはLv.1の中での話しである。Lv.1の冒険者とは隔絶した実力をもつ上級冒険者達がオラリオには多数存在し、それらの者達がベルよりも遥かに強い事を彼女は知っている。
リリルカが何よりも驚いているのは、ベルの成長速度だ……ほんの数日前までは、ただの冒険者なりたての田舎の少年だった……
(それにしたって、冒険者になりたてのヒューマンにしては異常に【ステイタス】が高いとは思いましたけど……これは、もう才能がどうとかの話ではなさそうです……)
リリルカは確信する。このままの成長速度で飛躍し続けていけば、そう遠くない内にレベルアップすら果たしてしまうだろう……と。
レベルアップとは、ただ鍛えたり、戦ったりするだけでは出来ない……それを成すには、人が――下界の子らに恩恵を与えた『神々』すらも称賛する偉業を成し遂げる必要があるのだ。
偉業とは、文字通りの意味で『偉大なる業績』のこと――ダンジョン内での偉業で一番分かりやすいのは、格上の敵との闘争に勝利することである。
それも、少々上程度の生半可な格上では駄目だ。文字通りの意味でレベルが違う相手との闘争が不可欠だろう。Lv.1のベルならば、Lv.2以上にカテゴライズされる魔物がそれに当たる。
だが、そんなことは普通は絶対に成し得ないだろう。事実、オラリオに数多くいる冒険者の内、その大半がLv.1のままにその生涯を終えるか、冒険者を引退しているのだ。
だが、ベルの成長力はそれらの事実を知るリリルカをして、そんな偉業を成し遂げてしまえるのではと考えさせてしまうほど異常である。
そして、ベルはリリルカの思う通り、冒険者になり半月にも満たない期間で既に【ステイタス】の項目が大半がC~B……【敏捷】と【耐久】に至ってはAに到っている。
これらは、全て彼の師匠と毎朝行われている修行の名を借りた壮絶なイジメ――もとい、組手の成果だ。
毎朝にわたって『格上』という言葉すらも生温い、超絶した『英雄』にボコボコにされては、彼の扱う『小宇宙』という異能の力による治癒によって、肉体的には数時間で完全に復活させられ、更には対人経験以外も積むために毎日欠かさずにダンジョンに送り出されるというサイクルを毎日行っていれば、ベルでなくとも耐久は成長するだろう。
ベルは既に毎日のように、アイオロスに弟子入りしたことを後悔しているが、それでも、弱音を吐かずに今も続けているのは、その厳しい修行の見返りとして、この急激な成長が伴っている。
目標に向かって着実に進んでいるという感覚は、毎日の後悔を塗り潰すほどの実感としてベルの中に刻まれているのだ。
そして、現実としてベルはステイタス的にも、技術的にも飛躍し続けている――全ては『
『
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
自らの弟子であるベルがダンジョンに赴き、今日の食いぶちとファミリアの資金を稼いでいるその頃――彼の『師匠』であり【射手座の
「なるほど……やはり、ベルの成長にはカラクリが在りましたか……」
「そうだよ…よりにもよって本人の
「【
幼い容姿の女神と、逞しい肉体の偉丈夫が真剣な音声で話し合うの内容は、彼女の眷属であり、彼の弟子である一人の少年について……
「しかも、あれは【ステイタス】のみにならず、それには反映されない『技術』にも効果が及んでいますね」
「あぁ~、やっぱり?」
「ええ、ここ数日は日毎にキレと重さが増しています――『
アイオロスは、今朝の修行風景を思い出すと、自らの胸の内を明かす……そう、ここ数日のベルは明らかに『異常』であった――と。
恐らくは、アイオロスが師として教えたことを、その日の内にダンジョンで実践し、自分なりに研ぎすましているのだろう――次の日の朝に、修行を始めると、前日とは明らかに違う練度の動きを見せる。
まるで、最後に稽古をつけた日から、数日間の期間を開けたかのような錯覚を覚えるほどに『動き』その物が向上しているのだ。
最初は、その成長の早さを『若いな』ですませていたアイオロスもそれが毎日起これば、流石に異常に気付き、おかしいと思うようになる。
冒険者が皆、こんな速度で強くなったら、簡単に聖闘士を越えるぞ――と、思い至るになって、ようやくヘスティアに事情を聞くことを決意したのであった。
そして、現在は『それ』――【
それにしても……と、アイオロスは考える……この【
それによると、ベルの『想いの先にいる人物』は確か――
「想いが強ければ強いほど効果が上昇する……なるほど――つまりは、その【剣姫】に対する懸想の気持ちが――」
「あ"ぁアア!! 何でよりにもよってロキの所の眷属何かに!! 身近にボクというものが在りながら~~、ベル君の浮気者め!!」
【剣姫】と、アイズ・ヴァレンシュタインの名前を出した途端に、まるで発狂したかのように雰囲気が一変する女神――それを見た瞬間、アイオロスは己が触れてはいけないものに触れてしまったことを悟った。
「へ、ヘスティア様」
「なんで…なんで、ボクじゃないんだよ!? ボクはベル君なら何時でもバッチ来いって思って――なんだい?」
怒りの表情で、ここにはいない剣姫なる少女とベルに対しての不平不満を言い募る女神にアイオロスは、恐る恐る声を掛けた。
世界が変わろうと、女の嫉妬は怖いなと再度認識したが、今日は用件があるので、外に出掛ける旨を伝える――
「アイオロス君が外に出掛けるなんて珍しいね? 最近は、ホームに籠りきりだったのに……」
そのニートの様な言い方は勘弁願いたいな、と思いつつも、ヘスティアの頭から、ベルとアイズ・ヴァレンシュタインの二人の話題を追い出せたことに、内心安堵する。
だが、ヘスティアの言う通り、ここ数日のアイオロスはホームに居る時間の方が長い……外に出ていないと言うわけではないのだが、ヘスティアが『ヘファイストス』なる女神の元へバイトに、ベルがダンジョンに修行と資金稼ぎにそれぞれ出掛けている間、居候の義務としてホームを護っているのだ。
ヘスティア・ファミリアのホームが元のボロ協会であったのなら、泥棒などが入ってくる心配はしなくてもいいのだが、数日前にアイオロスは自身を拾ってくれた女神ヘスティアが廃墟同然の教会で寝食をしているのが堪えられずに、一人で改築――たったの三日足らずで、廃墟同然だった教会は『女神ヘスティア』を奉る新築の教会へと変化を遂げた――
その改装具合足るや、夜通しでの工事のため、一夜だけ他の場所で寝てくれと頼まれ、二人がヘスティアの神友であるミアハのファミリアに泊まり、翌日帰ってきた時には、あまりの変貌具合に顎が外れるのではないかと思うぐらいに口を開けていたのは、アイオロスの記憶にも新しい。
そんな訳で、以前のボロ教会であれば、泥棒すらもスルーほどのボロ具合故に、盗人の心配をしなくても良かったが、今のホームは神の根城と言うに相応しい立派な外観である為、人が居ないと間違いなく目を付けられる――実際、アイオロスは既に何度もそういった輩を確保し、住居不法侵入の現行犯としてギルドに突き出しているのだ。
それ故に、アイオロスが外出をするのは、二人が帰ってきてから――それも、食事の用意から、片付けまでの全てを終わらせ、ベルとヘスティアの二人が寝静まった頃に出ていくのだ。
無論、大恩あるヘスティアと、翌日には修行が決まっているベルの安眠を守るための罠を用意した後に――
「あ、もしかして……仲間の子達を探しに行くのかい?」
ヘスティアは、彼と同じく、この世界に存在するであろう彼の仲間を探すのかと思ったので、それを尋ねる。
「ええ……それも、ありますが――それは、そんなに簡単にはいかないと思いますし、それとは別件で少々、要件がありまして……」
「簡単にはいかない?」
「はい。恐らくは我等
そうであるならば、探すのは困難だ――何せ、アイオロス達の居た地球と違い、この世界では情報の伝達が余り発達していない。テレビもラジオも無い。精々が『ギルド』が世界各地に支部を置いて、それらの部署と連絡を取り合って、高名な冒険者やオラリオの出来事を配信するぐらいだろう。にも関わらず、この世界自体の広さは正確なところは測ってみないとも定かではないが、恐らくは地球と同じぐらいには広いとアイオロスは感じている。
それを考えると、その中からたった十二人の人間を探すなど極めて困難だ。
普通は不可能と言って良い……無論、アイオロスは仲間達の生存を疑ってはいない。
そこは聖闘士最高峰の力を持つ十二人だ。その生命力は侮れない。常識や物理の法則から『片足』どころか『全身余すところなく』逸脱している黄金聖闘士ならば、例えダンジョンの中に転移していたとしても、必ずや生き残っているだろう。
そうアイオロスは考えていた。そして、彼は知らないが、事実として『シュラ』『シャカ』そして『シャカの感知した者』も含めた三人は、逞しく生き残っている。
「ボクは解らないけど、その小宇宙とか言うのを辿って見つけることは出来ないのかい?」
「……これは推測なのですが……
小宇宙を辿る――確かに有効な手ではあるのだろう。
しかし――それも、相手が小宇宙を燃やしていると言う前提があって初めて感知することが可能なのだ。
小宇宙を燃やさなければ、以下に黄金聖闘士とは言え、それは人間にすぎない……誰も居ない空間で探せと言うのならばともかく、これほどまでに生命に溢れた世界で燃やしていない個人の小宇宙を特定するなど不可能である。
「なんで力を隠してるんだい? 仲間と合流したいなら、そりゃ都合が悪くないかい?」
「それは、この状況が不可解だから――ですよ」
「不可解?」
「ええ、私達
「――!? そ、それは……死ぬ前にこっちに来たってことは……」
「いえ……少なくとも、私は自分自身の死を確かに認識しました……あの場で確かに私は死んだ筈なのです――」
そう、アイオロスは確かにあの瞬間――自らの死を確信した。ましてや彼は、既に『アイオロス』になる前に一度死んでいるのだ。
彼にとって、死は一度経験した物だ。その感覚を間違える筈はない……
「一度死んだはずの者が生きている……それも、自分達が生きていた世界とは全く違う世界で――ヘスティア様は、もし己がその様な状況に置かれた場合はどうしますか?」
「え……えと、それは~」
アイオロスの質問に、ヘスティアは答えに詰まる……質問が唐突であるということもあるだろうが、そもそも『神』であるヘスティアには『死』という概念がない。
仮に彼女からしたら『下界』であるこの世界で致命傷を負っても、本来いるべき場所である『天界』へと送還されるだけである。
そして、神は天界では
彼女は死を知らない……アイオロス達が生きていた世界に置いては、以下に神とは言えども、人間や他の生き物と同じように『殺せば死ぬ存在』であったが、この世界に存在する神は『死なない』――そもそも、死という概念が無いからだ。
それ故に神々は、自身に比べたら、どうしようもないほどに劣った存在にすぎない下界の者達に愛を向ける――何故なら、神は不老不死であり、完璧だから。
完璧であるということは、それは既に存在として完結しているということ。
完全ということは、逆にいうならば『それ以上が無い』という、ある種絶望的な解答に行き着くから……
自らが、これ以上無いくらいに『完璧』で、『完全』で、『完成』し、『完結』している神々は当然ながら『不変』だ――だからこそ、それがどれだけ小さかろうとも、変わり続ける『可能性を持った不完全な存在』に引かれるのかもしれない……
「そう――まず最初に考えるでしょう……自分の身に何が起きたのかを――そして、歴戦の勇者である彼等は――」
「――傍観に徹する…だろう?」
教会の地下室で話し込んでいた彼等の耳にするりと入り込む美声……
「――アフロディーテ君?」
「失礼します。ヘスティア様」
ヘスティアとアイオロスが、地下室の入り口を見ると超越した美を持つ麗人――アフロディーテが階段を下りてきていた。
彼は、数日前にヘスティア・ファミリアに転がり込んできたアイオロスと同郷の人間であり、同じく『
「アフロディーテ……お前、例の花屋に行くんじゃないのか?」
「生憎と、あそこは今日は休みでね……せっかくなので、この教会の周りをガーデニングしていたら、興味深い話が聞こえてきたので、敬愛すべき女神との会話に興じようとそれを中断して来た次第だ……」
存外に、何処から聞いていたと問うアイオロスに、目線で最初からだと答えるアフロディーテ。
そして、その言葉に『まさか、
「ええ……不可解な状況に陥った黄金聖闘士は、考え――ある結論に至ります」
「これは『何者』かの『計略』である……と」
アイオロスの言葉を、アフロディーテが引き継ぐ……それは、彼等の見解が一致している事を示していた――
「死んだ人間が生き返る……言葉にしてみれば何とも荒唐無稽な話ですが……我々は、それが決して不可能なことではない事を知っています」
「ああ――もちろん『人間』には不可能だが…」
「君達の世界の『神』なら出来るんだね?」
二人の説明に、以前に『ある神』についてアイオロスから聞いたことのあるヘスティアは、アイオロス達の世界の神の出鱈目な力を思い出した……死者の魂に干渉して生き返えさせるなど、この世界の神には不可能なことをやらかした『非常識な存在』の話を――
「――冥王ハーデス…だっけ? その神が関わってるのかい?」
「いえ――ハーデスの『
「冥王から与えられた仮初めの肉体には、冥界の鉱石で創られた鎧――『
「……問題無かったな――ところで、アフロディーテ……冥闘士として蘇ったか、そうでないかなど、感覚で解るものなのか?」
「ん? ああ、そうか…… 君は確か『最期まで死んでいなかったか』……なら解らないか……冥王の力によって
アフロディーテの質問に、どこか歯切れの悪い反応を返すアイオロスに、少し疑問に思うも、特に気にすることなく質問に答えるアフロディーテ。
因みにアイオロスは、試すのを忘れていて、生き返ってから未だに
「まぁ、死者だから当たり前と言えば当たり前かもしれんが……我が肉体からあのような『小宇宙』が発せられるのは堪えられなかったな――蘇ったその瞬間に、自害しようか迷ったほどだぞ」
「そうか? サガ達はそんなに違っていたように見えんかったが……」
「他人が感じ取れるような、
そう言って、表情を嫌悪に染めるアフロディーテの様子を見て、アイオロスは意外そうに目を丸くする……彼がこれほどの嫌悪感を表面に出すことは珍しいことだからだ。
(と言うか、君達……当たり前のように生き返えるだの、なんだの言ってるけど……もしかして、向こうでも死んだり生き返ったしてたのかい?)
ヘスティアは、目の前で常軌を疑う発言を繰り返す、異世界の勇者達を眺めながら、遠い目をしながら、半ば理解を諦めた――
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ヘスティア・ファミリアのホームにおいて、女神と二人の黄金聖闘士が、話し合っていた同時刻――
「一度死んだ我等が、この世界で甦る――これには、間違いなく我々の世界の『神』が関わっておるでしょうな……」
「なるほどねぇ……だから、如何に君といえども慎重に成らざるを得ないという事かい?」
ヘルメス・ファミリアの
「ええ、まぁそうですのう……神を相手にすると想定するなら、どれだけ慎重に行動しようと、慎重過ぎるということは無いですからの」
最古の聖闘士が語るその言葉には、とてつもない重みがあるように、すぐ横で話を聞いているヘルメスは感じた。
「そして、
「オラリオに入る前に感じたという『小宇宙』の事かい?」
その言葉で童虎が思い出すのは、オラリオに入る前に感じた射手座の黄金聖闘士の小宇宙だった。
「無論、アイオロスの事ですからな……ただの考え無しというのは有り得んでしょうが……」
ヘルメスは、童虎のその言葉から、アイオロスへの絶大な信頼を感じとった。
「ふむ……君ほどの男がそれほど信頼する者がそんな迂闊なことをする理由か……強いて言うなら、状況を動かすためかな?」
「む? 状況を?」
「ああ」と言ってヘルメスは続ける。
「そのアイオロス君が放った小宇宙とやらは、オラリオの外に居た君にも感じられたんだろう? なら、他の小宇宙を感じ取れる人間も感じたんじゃないかな――敵味方問わずに」
「!? なるほど……あの小宇宙は現在の膠着した状況を動かすために……それにしても何と強引な……随分とらしくない真似を――」
そこまで考えたところで、童虎の脳裏に『そういえばあやつはアイオリアの兄だったな』と納得する。
本人に聞かせたら『オレはあそこまで脳筋じゃないです!』という返答が返ってきそうな結論を頭で纏めると、童虎はゆっくりと立ち上がる。
「おや? どこへ?」
「まぁ、何時までもここで、ただ飯を食らう訳にもいかんでしょう……」
ヘルメスは、その一言で童虎が自分達のもとから出ていくつもりであることを悟った。
「別に、俺としては気にしないんだけどなぁ。家のファミリアの団員達も君から指導を受けて随分腕をあげたしねぇ…」
その言葉は正しく、ここ数日間の間、ヘルメス・ファミリアの面々は団長であるアスフィも含めて、皆童虎から戦いの手解きを受けていた。
元々、団員の半数以上がオラリオで言うところのLv.2以上。皆が皆、素の身体能力だけで言うならば童虎を越えている。ましてや、ファミリアの上位の団員はLv.3の者も少なからず存在している上に団長のアスフィ・アル・アンドロメダに至ってはLv.4なのだ。
そして、童虎は二百数十年の間に多くの聖闘士に教えを授けた教授のスペシャリストだ。その彼から直に指導を受けた団員達は、技術一つにとっても、絹が水を吸うがごとくメキメキ上達していった。
童虎が指導した時間は、団員達にとっては実に充実した時間となった。
最初はホームに部外者を入れることに難色を示していた団員達も、今ではほぼ全員が童虎に尊敬、或いは心酔している。それこそ、ヘルメスよりも――
ヘルメスとしては、複雑な心境である。しかし、これはある意味では自業自得であった。
いつも気分で動いては、自分達に迷惑をかける奔放神と自分達に戦いとはなん足るかを示し、欠点を克服させ、より自分達の実力を引き上げて見せた老師――どちらに信頼が傾くかは言うまでもない。
「はは、確かにヘルメス様の所の若者達は中々に教えがいが在りますがのう……彼等は既に『冒険者』としての『確固たる己』を持っております……である以上、冒険者でもない儂に教えられる事など最早在りませぬよ」
童虎をして、ヘルメス・ファミリアの団員達は鍛えがいのある教え子たちであった。しかし、これ以上冒険者ではなく、武術家であり聖闘士である自分が授けられる事などたかが知れているのだ。
冒険者としての大成を望むのならば、冒険者に師事するか、長い時間をかけて冒険者としての己を積み上げていくべきなのだ。これ以上自分のような違う道を行く人間が教えることなどありはしない――それが童虎の考えであった。
「まぁ、止めはしないし、野暮なことも聞く気は無いよ」
「随分世話になりましたな…この借りは後ほど必ず――」
「止してくれよ! 都市外では、危うく天界に送還されそうだったのを助けて貰ったばかりか、家の団員達の指導までしてもらったからね。礼を言うのは此方の方だ」
童虎が腕を組んで、一礼するとヘルメスは、慌ててそれを止めた。
「それにしても、これだけ世話になっておきながら、これで『はい、さようなら』と言うのは、流石に俺の流儀に反する……そうだ!」
ヘルメスは、さも今思い付いたかのような様子で「ルルネ―!!」とホームの奥に向かって呼び掛けた。
「は~い! なんだよヘルメス様……て、老師も……どうかしたの?」
やがて、小走りに犬人の少女――『ルルネ・ルーイ』が現れ、主神と並ぶ童虎の姿を見て困惑ぎみに訊ねる。
「童虎君。君にルルネを付けよう」
「はぁっ!?」
「……ヘルメス様、流石にそれは――」
「解ってるよ。君が自分達の問題にこの世界の住人を関わらせたくないと思っているのはね。でもね、今からこの世界で『何が起こる』にしても、この世界に住んでいる以上は、僕らも決して無関係ではいられないんだよ……」
ヘルメスの出過ぎた好意に、童虎は断りをいれようとした途端に愉快神は、普段の彼からは中々想像できない真剣な面持ちで、言葉を紡いだ。
「それに……ほら、君ってオラリオに来て日が浅いだろ? どう動くにしても、勝手を知ってる人間は必要になるはずだよ……」
「ヘルメス様……解りました。重ね重ねお世話になります……」
(危ない危ない。このまま出ていかれると、今後は彼に接触するのも苦労するところだ……異界の英雄『聖闘士』に、謎の『神』――こんな、面白そうな火種が近くにあるのに、何もしないなんて、それこそ俺の流儀じゃないしね)
(首輪を付けられたか……まぁ、確かにこの街の事が解る者が居れば助かるのは事実じゃが。だが、食えん神よ――悪意が無いだけマシだがのぅ)
ヘルメスは、童虎の直ぐ側に居れば、確実にこれから起こる異界の英雄『聖闘士』を中心とした騒動を特等席で眺められる事を確信しているが故に、ルルネという『繋がり』を残しておきたかったという事情がある。
それに、童虎には出来るだけ多くの『借り』を貸して置きたかった。義理堅い彼ならば、その恩を無下にはできまいと言う目論みもある。
唯一、気掛かりなのは、戦闘になった場合、底の知れない強さを見せる童虎の闘いに、Lv.3に過ぎないルルネが着いていけるのかというのも、最悪は戦闘の助けにならなくても別に良いとヘルメスは考える。
無論、ヘルメスとてファミリアの団員であるルルネが傷付く事になるのは本意ではないが、オラリオがキナ臭くなっている以上、Lv.3 以上の実力者を余り自分から離すのは避けたい。
それに、童虎ならば、どの様な状況になろうとも、ルルネを見捨てることはするまいとヘルメスは確信している。
一方で、童虎の方もヘルメスの思惑とその根本に在る愉快犯的な思考を九割方読んでいた。
伊達に二百六十年以上もの長い間を生きているわけではない。ヘルメスが以下に一筋縄ではいかない神と言えども、表面的な考えを読み取るなど造作もないことだ。
しかし、童虎は――己の経験と直感を持ってしても、残りの一割が覗けないヘルメスの得体のしれなさに――底の見えない『神』の不気味さに警戒を強めつつも、笑みを浮かべる。
ヘルメスもまた、童虎が己の考えの大半を読んでいることは解っていた。
神と人――奔放神と最古の聖闘士は、ほぼ同時に互いが油断のできない相手であるという結論に至ったのだった。
童虎は、ヘルメスをある程度は信用して良いが、腹の底の見えない故に信用しすぎるべきではないと判断した。
恐らく、ヘルメスは、自分が観劇する舞台が、面白くないと判断したならば、平気で引っ掻き回すぐらいはするだろうと童虎は判断したのだ。
「それでは、自分はそろそろ……」
「ああ、気をつけてくれよ」
「ヘルメス様こそ達者で……少々、この街で物騒な風雲があります故な……」
「おお! それは、怖いな……ここは『老師』の忠告通り、表に出るのはなるべく控えておくとするよ」
言外に、余り首を突っ込むなという忠告を、そ知らぬ顔で受け流すヘルメス――二人は笑っていた。
それは、もう爽やかに――
「「ハッハッハッハ!!」」
「あれ? 私の意思は? あっ、待ってくれよぉ~老師ぃ!!」
結局最後まで、状況の読めなかったルルネは、玄関に向けて足を進める童虎の背中を、慌てて追った。
アイオロスがこのオラリオの街で小宇宙の解放を繰り出して既に数日…敵も味方も、恐らくは動き始めるだろう――
「さて、儂もそろそろ動くかのぅ」
今、最古にして、最高の黄金聖闘士が、動き出した――