フェアリーゴスペル   作:ありばば*

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Chapter1: 7/20

 

 

 

俺、もとい緑川 紘基は中学2年生だ。いわゆる厨二とかいう時期だ。例に漏れず友人たちは妄想力豊かな年頃ゆえの中二病全開で、通学路を歩く俺の前の奴らなんかは、往来の場にも関わらず、やれ降臨せよッ!とか、俺の封印されし右手が疼くッ!とか、我こそがこの世に混沌を齎すべく参上した漆黒の堕天使なるぞ!だとか、好き勝手言いまくっている。近所迷惑だ。

何故かというと、東京のような大都会とは違い、東北の、県庁所在地でもない街の朝なんてものは、通勤ラッシュと比べると遥かに喧騒という喧騒がない。つまり静かだ。

つまり、声は響きやすいというわけで。

案の定、校門の前で一年中どっしりと構えているTHE朝の挨拶軍団というべき先生の集団に注意を食らってしまった。ザマミロ。

 

そんないつもの光景を眺めつつ昇降口で靴を履き替える。

すると、とても見知った顔ぶれがそこにいた。地味にコミュ症の気がある俺は、話しかけようか数秒ためらった後、気づいてもらうという、なんとも情けない行為を選択した。

 

 

「ん、おっす紘基」

 

「あぁ、おはよ、ジョルノ」

 

 

昇降口で出会ったのは、南條 陸という男子生徒だ。家が医者だとかで、小さい頃からの英才教育か、お世辞ではなく、かなり頭がいい。本人に勉強してるの?と聞いたら、するもんなのか?と即答されたあたり、かなりの天才という奴なのだろう。そんな奴を、南條のジョウを無理矢理もじって、俺含めて中のいい奴らはジョルノと呼んでいる。そしてイケメン。滅べ。

挨拶もそこそこにして、2人で3階にある2年の教室へと向かう。

階段の脇に張り巡らされた文化祭の広告や、無駄に頑張る図書委員会の本のレビューをスルーし、体育会系の部活がトレーニングに使いそうな階段を登り、教室前へ来ると、また一段と騒がしく感じる。

朝は苦手だ。

そして俺は寝起きが悪い方だ。

今も若干の微睡みで低血圧だ。

 

端的に言うと、今の俺は無性にイライラしていた。

 

それは自分と同じような性質のジョルノも例外ではないようで。

ふと見ると額にうっすらと青筋がたっているのに気づいた。

そしてそれは限界へと達した。

 

 

「喧しいッ!朝っぱらからうるせェンだよクソどもォ!!」

 

 

鶴の一声だろうか。バァ〜ーz__ンと凄まじいSEが付きそうな勢いで南條が怒鳴る。すると、先ほどの喧騒が嘘のように静まり返る。しかし、ここまでいつもの光景になりつつある。現に、クラスの連中は割と小声で、先ほどまで話していた話題を話し始める。

静かに勉強していた奴は、やっと静かになったと言わんばかりにリラックスして、勉学に励んでいる。

後ろの僅かなスペースでプロレスごっこをしていたであろうクラスメイトもといバカどもは廊下でのびのびと始める。

そして、キャー南條君カッコイーみたいなことを言うクソビッtゲフンゲフン。女生徒が黄色い声をあげる。

……滅べ、ちくせう。

 

 

さっきの一声で気が晴れたのか、ジョルノはさっさと自席へと座る。俺もそそくさとその後ろの席へと座る。

そんなとき、俺たちに近づいてくるやつがいた。こいつもまた親友だ。名前を矢口雅史。家がペットショップと、トリマーというペットショップのスタッフのような人材の育成をするスクールの二つを経営している。そして異常な程に動物に懐かれる傾向がある。しかし、料理スキルが大量殺戮兵器と俗称されるほどに壊滅的。

 

 

「おっすおっす。元気なさそうにしてんなぁ、おい。いや、いつも通りか」

 

「何だ?何か不都合でもあんのかよ、ないだろ。俺が朝弱いの知ってんだろ?」

 

「ってかその前にマサ、昨日3時まで生放送しててその元気はおかしい」

 

 

そうなのだ。

俺とジョルノの口調が汚いのは平常運転だが、機嫌が悪いのは、単に寝不足だからだ。原因というのは、某笑顔動画のサービスの一つ、簡易生放送である。俺たちは主に四人で活動していて、だいたいはゲーム実況や料理、科学、作ってみたなどに手を伸ばしている。生放送を見てくれる一般ピーポーは比較的少ないが、不特定多数のあらゆる人種から意見を貰える機会というのは素晴らしいと思っている。

そんなこんなで四人で生放送を深夜の3時までぶっ続けでやっていたため、次の日に見事に痛い目を見た。

 

一体どこでフラグを建てたというのか。

 

 

あ、そうそう。四人で、ということだが、紹介してない人物がいたな。多分、遅刻ギリギリに登校してくるだろう。良くも悪くも定刻ジャストに行動するからな。あいつは。

 

そうこうしているうちに、遅刻ギリギリの定刻となる。

その瞬間ドアが勢い良くガラ音を立てて開かれ、少年が顔を覗かせる。

 

 

「ちわーす、三河屋でーす」

 

小ネタを挟みながら。

 

 

 

「ええい五月蠅い、早く入りなさい!」

 

 

少年と一緒にうちの担任である村上歩美という初老の女教師がそいつを叱責する。

 

それを見たクラスが何人かが爆笑し、様々な様相を見せる。

 

かくいう俺もその一人だ。

 

そう、そいつが最後の一人。

無口な印象であまり目立たないが、時折つぶやくネタが秀逸でクラスの影の人気者となっている小林 涼太だ。飄々とした奴でもあり、俺たち四人の中では特にネタに飢えている節がある。また彼の家は割と何でも揃っている電気屋で、幼い頃から機械が好きだという。コンピューターの扱いにかけては学校で右に出るものは居ないだろう。きっと。そして過度の甘党。ちなみに好物は、桃味のネクターに、人工甘味料(砂糖の600倍の甘さ)を飽和するまで溶かしたものという、どう考えても糖尿病不可避な逝品である。

 

 

「涼太、おはよ」

 

「おはっす、三人とも」

 

「うどん食べたい」

 

「何を言ってるんだ貴様は」

 

流れるように会話が進む(?)。進むったら進む。ご了承下さい。

 

ちなみに南條、小林、矢口も中二病患者だ。マサなんかは風が泣いているんだとか普通に叫び出すし。

 

 

 

 

☆☆☆

 

だがそれがいい。

 

自分もどこか可笑しいのは気づいているが、発狂するのが楽しい。

そう思っている。

 

だがそれでいい。

 

只今の時刻、8:16。

まだまだ平和な日常を謳歌している。

もう1年もすれば入試だろうに。

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

明日で一学期の終業式だというのに、今日は普通に授業が行われている。短縮日程ではあるが、それも「一応」というレベルだった。

只今の時刻は13:00。 もうすぐで5時間目が始まる。この時間は2時間連続での家庭科だ。しかも今日に限って調理実習だという。何たる陰謀だろうか。テスト明けで気が抜けてる中で実習をやるということは、普段は見えずらい「差」というものが歴然としてくる。全て教師はこれを計算して……。やっぱないか。

 

何だかんだで自分も中二病なのだった。

 

 

閑話休題。

間も無く授業開始のチャイムが鳴る。

家庭科担当でありうちの担任が入場してくる。

 

暑いのに何故こんなことせにゃならんのだ。

 

 

……そうか妖怪の(ry

 

 

疲れてるんだろう、最近暑いしな。

 

無駄にいい視力を生かしてちらっと悪友三人の方を見る。(俺らは出席番号という名のラスボスに囚われてしまったため、散り散りの席に座ることを余儀無くされている)すると、全員もれなく死角でコソコソしているのが見えた。矢口はラノベを読んでいるし、南條は何やら難解な問題集を解いている。真面目か。小林に至っては縫いぐるみの中に何やら電子機器を挿入している。ロボットでも作るのだろうか。つーか手芸じゃなくて調理実習だっつの。

 

そんなことを考えているうちに、教師の話は終わっていた。皆が各自行動を始めると同時に、俺もその動きに習う。ちなみに話は全くもって聞いていなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「ねぇ最上さん、本当にカステラ作るの?」

 

「そうだけど?」

 

 

同じ班についたこのクラスで比較的まともなクラスメイトである最上 雪菜に声を掛ける。ちなみに調理実習の内容は当然ながらあからじめ決める必要があるが、基本的に何でもありだった。

 

 

「今更だけど時間足りるの?俺作ったことなんて無いんだけどさ」

 

「あー、その点は心配要らないわ。どこぞの誰と違ってやらかす訳じゃないだろうしね」

 

「当たり前だ」

 

 

そこまで絶望的に下手じゃねーよ。てか矢口がボロクソに言われてて内心に草原が広がる。

 

 

「そ。じゃあとっとと男子は肉体労働!生地早く作ってよね!」

 

「あいあいさー」

 

 

さて、サボろうとしても女子怖いしとっとと作業しますか。

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「あとは焼けたら完成か」

 

 

ふと、辺りを見回す。

奴らの事だ、きっと面白いことをしでかしたに違いない。そう思ってのことだ。

しかし、小林は普通にケーキ作ってたし、南條はこれまた普通にプリン作ってた。予想を大きく下回る結果だった。少し残念である。

しかし、学校の授業でハプニングを求めることが間違いなのかもしれんがな。

 

だが!そんなものはつまらない!

あえて言おう、私はハプニングが大好きだ。思わぬところで生まれる、タイミングを弁えない型破りなハプニングが大好きだ!

引かれると嫌なので内心だけで高笑いをかます。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『だから、こんなことになったのだろうな』

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

*3024.56975→→3024.56107*

 

 

おおおおおおおお!謎の頭痛がぁああああああああ!!!痛えええええええ!!!!死ぬうううううう!!!!

 

 

「……っはぁはぁ」

 

 

なんだろう。感じたことのない痛みだ。さらに痛みの中に圧迫感とか脳をミキサーにかけて元通りに整形したような違和感も含まれてたきがする。何言ってるかわからねぇと思うが、俺自身よく分からねぇんだ。

 

…あれ?今は治まってるのか?

 

 

ちなみに俺は(ちょっと脂汗が見えなくもないが)調理台に両手をつけて、側から見れば黄昏てるようにしか見えない姿勢をキープしている。

 

 

変な持病をこれ(中二病)以上増やしたくなかったんだがなー。

 

 

「まぁどうにかな「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」…ん?」

 

 

 

な、なんだぁ?

悲鳴の方を向くと、そう、期待の狂人と謳われた(※違います)、あの伝説の(※違います)、漆黒の堕天使(※本人談)矢口雅史じゃないか!!

 

仄かに抱いた期待を見事に裏切ることなくやってくれた。

 

これが俺の求めてたものだ。

あ、女子の悲鳴は俺の中で完全にオプション的存在として認知されている。

 

 

『おいおい、今度はどうした?』

『またかよ』

『なんだ、いつものことか』

『またおまえか』

『安定の矢口』

『やったね!生放送のネタが増えるよ!』

『『『『『おいやめろ』』』』』

 

 

「おい矢口、今度は一体何が起きたんだ?(キラキラ)」

 

「お、おう。あ!ありのまま起こったことだけを説明するぜ!チーズケーキを焼いたと思ったらオーブンから出てきたのはダークマターだった。な、なにを言ってるかわからねぇと思うが、俺自身なにが起こったのかわからねぇ。超スピードだとか催眠術だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ」

 

「ポルナレフ状態乙」

 

「いやマジでこんな感じ」

 

「そうか、どれどれ」

 

 

手を伸ばす。

矢口やその班員が引いている最中で俺は、何のためならいもなくその暗黒物質に触れる……

 

 

………ことができなかった。

 

 

掴めはする。しかし、暗黒オーラとでも形容するのだろうか。何か不定形の、視覚しにくい何かが暗黒物質に粘着していて、肝心のチーズケーキ(仮)に触れない。どういうことだ。

 

しかし、その後力を増して掴むと容易にチーズケーキだったものにたどり着くことができた。触った感じは普通にチーズケーキしてる。かな?

 

 

軽くホラーな現象が現実なことに実感が湧き、今更だが軽い恐怖を覚えた。何がって、動揺のカケラもない俺自身にかな。

 

といっても知的好奇心の前には薄れてしまったが。

 

 

「お、おい、どんな感じだよ紘基」

 

「外はカリカリ中はフワフワ。まるでできたてのチーズケーキみたいだな」

 

「そりゃそうだもんな!チーズケーキ作ってたしな!けど論点そこじゃねぇよ!」

 

「よし、食うか?」

 

「食えねぇだろ!死ぬわ!」

 

「作ったのお前だろ?お残しは許しまへんでェ?」

 

「うっ、まぁ、そうだけどさ」

 

「じゃあ食べようか(ゲスの笑み」

 

「だが断る」

 

「使い方そうじゃねぇw」

 

「……で、何だっけ?そうだ、その暗黒物質だ。どんな感じだった?」

 

「外はカリカリ中はフワフ「無限ループやめい」……はい」

 

「えー、まず自分で確かめた方が早いかと」

 

「それが嫌だから聞いてるんだよ」

 

「おうふ」

 

 

てなわけで、触った感触を臨場感たっぷりに(無駄に)教えてやった。

 

 

「また面白いことやってるじゃねぇかお前等」

 

「お、ジョルノ。ちょうどいいところに。いいもんありますよォ旦那ァ」

 

「キャラ迷走してるぞ」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「一番良いのを頼む」

 

 

そこへ南條が参戦してきた。

南條は、その暗黒物質に興味津々で目を輝かせている。何というか非常に彼らしい。そして俺はふざける。最早テンプレともいえる流れの一つでもある。

キャラが迷走してるんじゃない。迷走させてるんだ。

偉い人も言うだろう、「激流に身を任せどうかするんだ」ってな。

 

 

「またダークマターでも作ったのか?」

 

「あぁ、うん。それもとびきりのやつだけど」

 

「ほほう、ならちょっと見せろ」

 

「そこのオーブンの中だ」

 

 

指を差した先に件のオーブンが。「また変なの作ったな」と溜息混じりの、いかにもめんどくさそうな、また問題起こしやがってと優等生ぶった態度を取る南條だが、その目は対極で爛々と輝いていた。

そして躊躇なく素手で焼けたてチーズケーキ(仮)をつつき、俺と同じような反応をした。

 

 

「外はカリカリ中は「もういいからぁっ!」」

 

「みなさんどうしたんですか?あー!またこんな……うえぇ、何ですかこれ。また矢口君ですね、さては」

 

 

やいのやいのしているうちに先☆生☆降☆臨した件。それと矢口死亡のお知らせ。

 

「もう、片付けておいてくださいね」とそれだけ言うと矢口を連れて家庭科室から退場していった。またあれこれ聞かれるんだろうな。合掌。

 

 

 

ふーむ、先生に片付けておいてと言われたが、変なとばっちりが俺に来たら堪らないのでここは……

 

 

「さて、これはどうしたもんかな。俺はこの班の人じゃないから逃げてもいいかな」

「そうと決まればすぐ実行だ」

 

 

三十六計逃げるに如かずってなぁ!

 

 

「駄目だぜ南條に緑川。お前らはいつも何かしらしでかすからな。掃除は同じ班だから手伝うが、日頃の恨みを込めて手伝ってもらおうか」

 

 

逃げられない!

真正面に立ち『スゴ味』を効かせて仁王立ちする野郎は野球部主将の一条康太って奴だ。

特徴を一言で言えば、運に無振りの不幸少年といったところか。

 

 

「…………誠に遺憾だ」

 

 

逃げられる気がしなかったので渋々その奇妙な物体xを処理した。

どうやったかって?

袋に密封してポイだよ。中学生に電気処理とかその辺持ち出すな。

………一応、できないことはないけどな、多分。

 

冷静に考えれば単にめんどくさいだけだなこれ。

いや、だから押し付けられたんだな。納得。

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