面を上げよ   作:いつかこう

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アインズ様のお話です。
やっぱあの立場はキツいよなと妄想してみました。

※一気に載せるのにはちょっと長めで読むのに疲れそうだけど
きりの良い所で切ると前編がちょっと短めだし…
という事で、前後編に分けて一度に投稿します。

よろしければお読み頂けたなら幸いです。

※7/30 読みやすいように文章を整理しました。内容は同じです


告白

 

「あ、あ、アインズ様……アルベド、君命に従い御身の下に参りました。」

 

「うむ……良く来てくれたな、アルベド。すまないな、ナザリックの運営を任せきりで疲れているだろうに。」

 

「何を仰られますか! アインズ様のご用命とあればこのアルベド、24時間365日、いついかなる時でも御身の下に馳せ参じます! ええ! それはもうすぐに! 何をおいても! いえ、願わくば、一分一秒足りともアインズ様の下を離れていたくは無いのです! 」

 

「お、おう……うむ ゴホン その忠義……嬉しく思う。」

 

「プラス、愛です!」

 

「…………。」

 

「愛です!」

 

「…………。」

 

「未来永劫不朽不滅、絶対無敵、この世で最高最大、比肩するもの無き私の愛です!」

 

「…………はい。」

 

 アルベドはいつにもまして甘ったるい口調で、目はトロンと潤み、頬は赤く染まり、唇は妖しく艶めく。腰の翼が心情を隠そうともせずパタパタと激しくはためき、太ももをモジモジと擦れ合わせる。全身から甘ったるく刺激的なフェロモンが、これでもかと発散されている。

 

 そのサキュバスの魅力を存分に開放した様は、もし鈴木悟のままの精神だったなら一秒と持たずに蕩け、瞬く間に籠絡された事だろう。

 

『ああ…… ああ! とうとう…… とうとうこの日が……!』

 

 そうアルベドが思い発情したのも、無理からぬ事だった。

 

 アインズが……愛しの君が、自分をベッドルームに……ではないが、自室に誘ったのだ。しかも、絶対に他の階層守護者達に知られぬよう密かに来いと厳命され、護衛の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)も下がらせ厳重に鍵を掛け、完全に二人きりで。

 

「さてアルベド……。」

「はい! 準備はすべて整っております!」

「……アルベド、なぜ私が余人を交えず…護衛まで下げさせたか分かるか?」

「二人の愛の姿を誰にも見せないためです! 秘・め・ご・と・♪ だからです!」

「違う。私はそういうつもりでお前を呼んだのではない。」

「ふえぇ!?」

 

即答され、アルベドの興奮が僅かに抑制される。気を取り直し、もう、アインズ様ったらお照れになって……っとにじり寄ろうとするが、愛しの御方はビシっと片手を上げて制する。

 

「……予め言っておく。もしあの時のように無理やりそういう行為に及んだら…アルベド、今度は謹慎3日では済まんぞ?」

「そ、そんなあ……!」

「誓え……いや誓ってくれ、アルベド。決してそのような事はせぬと。私は出来れば『命令』はしたくないのだ。だが誓わないのなら、私の話は無しだ。このまま帰ってもらう。そして二度とこのような密会の場を持つ事はない。」

「……!! ……は、はい……。……誓い……ます。 クスン…… 」

 

 あれほどパタパタ羽ばたいていた腰の翼がシュンと大人しくなり、だらりと垂れ下がる。そのあまりにガッカリとした姿にアインズも少し罪悪感を持ち、口調が優しげになる。

 

「……まあそう落胆するな。誤解させた事は済まなかった。だがこれから話す事は…むしろそういった行為より重要だ。話せるのはお前だけなのだ。だからこそこの場を設けたのだ。」

「わたくし……だけ?」

「そうだ。 ……いや、正確にはお前に話したその結果いかんによっては他の守護者達にも話すことになるだろうが…… って、聞いてる?」

「わ、わ、わたくしだけ……わたくしだけ……アインズ様がわたくしだけに…。わたしだけが特別わたしだけが特別わたしだけが…と・く・べ・つ♪ うふ、うふふふふふふふふふふふふふふ うふふふふふふふふふ…。」

「……あー、ゴホン! アルベド、そろそろ良いか?」

「うふふ……。 ……! はっ! は? はいっ! 失礼いたしましたアインズ様! どうかそのお心のうち、ぜひこのアルベド【だけ】にお聞かせください!」

「……うむ。」

 

 アルベドの歓喜に満ちたねっとりと異様な笑みに少し引き気味になるも、しかしそれも予想通りだったため、アインズは抑制効果に頼らず素早く精神を落ち着かせ…

そしてしばらくためらったのち、静かに、慎重に語りだした。

 

 ……初めアルベドは、至高の御方であり、そして最愛の男でもあるアインズが何を話しているのか、全く理解出来なかった。きょとんとした顔で、頭の中で必死にその内容を整理しようとするが、思考が追いつかない。

 

「あ、アインズ様? そ、その……冗談……ご冗談ですわよね? あ、ああ~…… そ、そうですか、わ、分かりましたわ! 守護者達に聞かせるジョークの練習でいらっしゃいますのね。そのような事ならさずとも、ご冗談とあらかじめ前置きしてくださればアインズ様の優れた話術に腹を抱えて笑わない守護者など……。」

 

「……それ逆に拷問だぞ、アルベド。そうではない。そうでは……無いのだ。」

 

「し、しかしそんな……まさか……。そんな事が……。あ、ありえ……」

 

「……頼む、アルベド。最後まで……聞いてくれ。」

 

 アインズは辛抱強く、身振り手振りを交え、噛み砕いて説明していく。ためらいつつも、重大な秘密を打ち明ける強い覚悟がにじみ出ている。初めは努めて冷静に振舞っていたが、次第次第に感情が込められ、熱を帯び、激しくなり、最後には悲痛な心の叫びになっていた。

 

 何度も何度も、強制的な精神抑制を表す緑の光がアインズを包む。〈星に願いを〉でシャルティアの洗脳を解けなかった時の激怒の様と同じような姿が、その言が冗談でも偽りでも無い事を如実に表していた。

 

『あ、アインズ……様……。』

 

 次第に……次第に、アルベドは理解し始めた。そしてその理解は、驚愕とおののき、ためらい、拒絶、憐憫、哀しみ、保護欲……様々な感情を引き起こす。

 

 そしてアインズが長い長い話を終え、変わらないはずの髑髏の面に確かに安堵や後悔、恐れなどの入り混じった複雑な感情を見せた後、途中から目を閉じてじっと聞き入っていたアルベドは、ゆっくりと目を開けた。

 

 そして、その比類なき美貌に浮かんだ表情は……

 

 限りなく強い、愛と決意だった。

 

 

◇◆◇

 

 

 ──その夜、緊急招集がかけられ、ガルガンチュアとヴィクティムを除いた全階層守護者、そしてセバスとパンドラズ・アクターが玉座の間に集った。

 

 皆が平伏し玉座に座るアインズに深い敬意を示す中、守護者統括としての威厳を込めアルベドが高らかに宣言する。

 

「これよりアインズ様が、大変に重大な事を発表なされます。皆、心して拝聴しなさい。」

 

 守護者達の間に緊張が走る。

 至高の御方の言葉が重要で無かった事など無く、また聞き流すような無礼な真似をする者もいるはずがない。にも関わらずそう念を押されるということがどれほどの意味を持つか、それを理解出来ない者も、当然いない。

 

 いよいよ世界征服が本格的に開始されるのか?

 アインズ様と同格のプレイヤーが攻めてくるのか?

 それともまさか、至高の四十一人のどなたかが見つか……

 

「……デミウルゴス。」

 

「はっ!!」

 

「あなたは特に、努めて冷静に拝聴するように。」

 

「……! ……は。」

 

 まさか自分が名指しで呼ばれ、そう釘を差されるとは予想外だった。自他ともに認める、守護者達の中で最も理知的で冷静な頭脳の持ち主である悪魔。シャルティアでもアウラでもなく、その自分に『冷静であれ』と。だが同時に、それが事の重大さを指し示している。

 

 アルベドはアインズの事となると時にどうしようもなくダメになるが、それでもその智謀知略は自身に匹敵する守護者統括であり、このような場で無駄にハッタリをかましたり大げさな事は言わない。

 であればこそ、疑問を呈する事もなく短く同意の言葉を発する。

 

 同時に他のNPC達は、頭に浮かんだ幾つかの可能性を否定する。デミウルゴスさえ初耳であり、しかもそのような事を言われるなど、尋常な事態ではない。一同になお一層の緊張が走る。

 

「「「 ……………… 」」」

 

 (あるじ)の言葉を拝聴すべく平伏し身じろぎもせず待ち続ける、このナザリックでも最強クラスのNPC達。

 

 だがアインズは、押し黙ったままだ。湖底のごとく深い沈黙が玉座の間を支配する。

 

 アインズは最初の一言をためらっていた。

 アルベドに打ち明けた時点で、すべてをさらけだす覚悟は持ったつもりだ。それでもこうして皆が集まる中、再びあの告白を繰り返す事に戸惑いがある。

 

「……アインズ様。」

 

 アルベドが声を発した。主人が話す前にそれを促す行為は、大いなる不敬のはずだ。守護者達の間にさざ波のように動揺が走る。

 

「……アインズ様。 わたくしがついております。 何も恐れる事はございません。アインズ様がご懸念なされているような事には決してなりません。 ……さあ。」

 

 守護者達は……デミウルゴスでさえ混乱した。

 恐れる? ……今、守護者統括はそう言ったのか? 至高の41人のまとめ役、ナザリックの絶対の支配者、世に恐怖を撒き散らす死の王に対し、『恐れるな』と……?

 

 ……しかし、誰もそれを咎め立てようとはしなかった。

 

 当然、主の言葉を待つ下僕として無礼であるからだが……それだけでなく、アルベドの口調がまるで聖母のように深い、深い慈愛に満ちており、他のNPC達が知らない事情と、アルベドがすでにそれを受け入れた事を、ハッキリと表していたからだ。

 

 再び短い沈黙が流れ、そしてアインズがようやく口を開く。

 

「……皆よ。」

 

 誰も声を発しない。すでにこれ以上無いほどの敬意をさらに高め、次の言葉を待つ。

 

「私の仲間達が創造した、我が愛すべきシモベ達よ。」

 

 守護者達、そしてセバスの心に喜びの波紋が広がる。いついかなる時でも、至高の御方のその言葉は身に染み渡り陶然とした心持ちにさせてくれる。

 

 だがその次の言葉に、喜びは再び動揺のさざ波にかき消された。

 

「私を許して欲しい。 ……私はお前達を騙していた。」

 

 幾人かの守護者が思わず顔を上げようとし、その不敬をアルベドが咎めようとするのを、アインズが片手を上げ押しとどめる。

 

「……良い、アルベド。……皆、顔を上げてくれ。」

 

 『(おもて)を上げよ』 ではなく、上げてくれという懇願。

 その口調の弱々しさに、普段のアインズに感じる畏怖ではない、別の恐怖に似た感情が守護者達に湧き上がり、先ほど顔を上げようとした守護者……シャルティアやマーレは、今度は顔を上げたくないという思いに囚われる。

 

 だがもちろん至高の御方の言葉に逆らえるはずもなく、恐る恐る……ゆっくりと首を動かしていく。

 

 玉座に座るアインズは、何も変わらないようだった。いつもと同じく威厳に溢れ、忠義を尽くす喜びを与えてくれる姿。先ほどの言葉は気のせいだったのだと思い、ホッと安堵の溜息を漏らしたくなる。

 

 だが……。

 

 そこからアインズが語った内容は、ここに集うNPC全員に強い衝撃を与えるものに他ならなかった。

 

 

至高の四十一人のまとめ役は、自分がただの凡人である事を告白したのだ。

 

 

 

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