私、達也お兄様、冬也お兄様はフォア・リーブス・テクノロジー、略称FLTのCAD開発センターにいた。
達也お兄様の作った飛行術式のテストをするためだ。と言っても、私や冬也お兄様がテストして完璧に作動していたので(冬也お兄様の方は完璧を超えていたけど)、ほとんど報告に来たようなものだ。
これによって、お兄様の(というよりトーラス・シルバーの)名は世界的に広まるわ。 そのことが嬉しくて、思わず鼻歌なんて歌いながら歩いてしまった。
「深雪……?」
「はい。何でしょうか、お兄様」
「……いや、すまない。何でもないんだ」
「はい………?」
何でしょう、変なお兄様♪今は上機嫌だからか、ヤケにシャッターを押している冬也お兄様も気にならない。
「達也、撮りたての『上機嫌な深雪』」
「そうですね、一枚300円で買いましょうか」
「空飛ぶ深雪とセットで1300円にしてやる」
「空飛ぶ深雪?」
「これ。ちなみに単品で1200円」
「5セット買いましょう」
「マイドッ」
何やらヒソヒソやってるお二人のお兄様も今は気にならないわ。不思議ね。
観測室に到着した。直後、すぐに声をかけられる。
「あっ、御曹司!」
「お邪魔します。牛山主任はどちらに?」
ああ、達也お兄様に敬意の眼差しが向けられている……。ここの人達だけよ、達也お兄様をそういう目で見て下さるのは。
「お呼びですかい、ミスター」
人の壁をかき分けて姿を見せたのは、灰色の作業服の牛山さんだ。
「すみません、主任。お忙しい中を、お呼びたてして」
「おっと、いけませんな、ミスター。腰が低いのも結構ですが、ここにいるのはアンタの手下だ。手下に謙り過ぎちゃあ、示しがつきません」
「そうだよ達也。お前はここのトップにも等しいんだから自信を持てバーロー」
「あんたは黙ってろイケメンの無駄遣い。いつもいつも下らない魔法考えては持って来やがって。こっちゃ暇じゃねーんだよ」
「へぇ?そういうこと言っていいの?今回の俺の魔法は性転換なんだけど……」
「おーいお前ら!試験場開けろ!」
「待ちなさい」
ちょっとイラッとしたので命令口調になってしまった。達也お兄様の歴史が変わるかもしれないデバイスより、冬也お兄様の下らない魔法を優先するとは……。
「じ、冗談っすよ。さ、御曹司、こちらです」
素直に牛山さんは従ってくれた。
*
実験は当然成功し、達也お兄様と牛山さんは少し改善点についてお話して別れた。
そのまま、研究所を後にしようとした時、バッタリと見たくない顔と顔を合わせてしまった。
「これは冬也様、深雪お嬢様、ご無沙汰いたしております」
「お久しぶりです、青木さん。こちらこそご無沙汰いたしております。ただここにおりますのは、私や冬也お兄様だけではありませんが。お父様もお元気そうですね。先日はお電話をありがとうございました。しかしたまには、実の息子にお声をかけていただいても罰は当たらないと存じますが?」
私はさっそく先制攻撃を叩き込んだ。この老害どもはいつもいつも達也お兄様を無視する。それが私にはどうしても許せない。
「お言葉ですがお嬢様、この青木は四葉家の執事として、四葉家の財産管理の一端を任せられている者にござりますれば、一介のボディガードに礼を示せと仰られましても。家内の秩序というものがございますので」
「私の兄ですよ」
キッパリと言い放った。
「畏れながら、深雪お嬢様は四葉家次期当主の座を皆より望まれているお方。お嬢様の護衛役に過ぎぬ其処の者とは立場が違います」
「えっ?俺は?俺もいるよ?」
冬也お兄様が声を上げた。いや、ぶっちゃけこの人に四葉を任せたら冗談抜きで雷雨が降ればドラゴンが降りてくる世界になる気がするので、皆さんの判断はそういう意味では賢明な気もするが、今はそんな事はどうでもいい。
「おや、青木さん。口を挟んで失礼かとは存じますが、随分穏やかならぬことを仰る」
達也お兄様が口を挟んだ。
「構わんよ。たかがボディガードとはいえ、君が深夜様のご子息であることは間違いない。多少礼儀ということを勘違いしても仕方無かろう」
「深雪が次の四葉家当主になることを、四葉家の使用人全員が望んでいる、と言われたように聞こえましたが、それは他の候補者の皆様に対して、余りにも不穏当ではありませんか?もし叔母がそのような意向を固めたのであれば、深雪にも色々と準備をさせなければなりませんので、良い機会ですから是非教えていただきたいんですが」
「あの、だから俺は?」
「………真夜様はまだ何も仰せになられていない」
「これは驚いた!四葉家内序列四位の執事が、次期当主候補者に、家督相続について自分だけの思い込みに過ぎない憶測を吹き込んだというわけですか?さて、秩序を乱しているのはいったいどなたなのやら」
芝居がかかった達也お兄様を、青木さんは赤い顔で睨みつけた。
「……憶測ではない。同じ家内に仕えていれば、何となく思いは伝わってくるものなのだ。他心通などなくとも、心を同じくする者同士、思いは通じる」
そして、次の一言で私の怒りの灯火にガソリンをぶっ掛けた。
「心を持たぬ似非魔法師ごときには分かりはしないだろうがな」
直後、結露を飛び越し壁に霜が張り付いた。私に「怒りゲージ」などというものが有れば、メーターなどとっくに振り切って、「バルス」などと言わなくてもラピュタをブチ抜いてぶっ壊していることだろう。
だが、その霜が全て綺麗さっぱり消えた。何が起きたのかと思い、辺りを見回すと、冬也お兄様が組んでいた腕の隙間から人差し指を一本立てているのが見えた。
たったそれだけで、私の事象干渉を抑えてしまった。
ボーッと冬也お兄様の方を見ていると、達也お兄様が私の肩を抱き寄せた。
冬也お兄様は青木さんの方へ歩き、耳元で何かを囁いた。
「………今すぐ達也と深雪に土下座しろ」
「ふんっ、何を……」
「じゃないと、あんたの部屋の床下のエロ本500冊とSMクラブ会員カード全部バラすぞ」
「申し訳ございませんでした、達也様、深雪お嬢様」
ええっ⁉︎な、何急に⁉︎何で土下座⁉︎それを見下しながら冬也お兄様はすごく悪い顔で続けた、
「おーおー、流石に言い過ぎたと反省したか?でも、深雪には深い深い心の傷が出来た。ついでにその死神みたいに顔面真っ白なのに汚い顔で俺の心も傷ついた。ってなわけで、とりあえず慰謝料10万」
いつの間に盗ったのか、財布からお金を抜いた。
「んなっ……⁉︎」
「それと、これお小遣い分で20万」
「おい!慰謝料より小遣いのが多いのですか⁉︎」
「あっ、今『おい』って言った。5万」
「いや細かくないですか⁉︎」
「ゴチャゴチャ五月蝿い、5万」
「〜〜〜ッ⁉︎」
「あとこれ、カツアゲ分で30万」
「結局カツアゲなんじゃねーか!」
その他にも「口臭料」だの「体臭料」だの「錦戸亮」だのドンドン金を堂々とスられた挙句、ペラッペラに薄くなった財布だけ返され、ほとんど涙目になってる青木さんだった。