九校戦開幕。1日目はスピード・シューティングとバトル・ボードだ。スピードシューティングは予選から決勝までやって、バトルボードは予選のみ。
「お兄様、会長の試技が始まります」
「第一試合から真打登場か。渡辺先輩は第三レースだったな」
「はい」
私と達也お兄様とほのかと雫は、スピード・シューティングの競技場へ移動した。
雫なんかは、自分も新人戦で同じ競技に出るからか、私達より真剣な表情をしている。
「ヤッホー、達也くん」
そんな私達に気さくな声をかけたのは、エリカだった。他にも、西城くん、美月、吉田くんが並んでいる。
「エリカか。もっと前の方が空いてたんじゃないか?」
「達也くん達の姿が見えたから。それにこの競技は離れた所から見ないと分からないでしょ」
「まあな」
だが、それでも最前列に人がたくさん集まっている。理由はおそらく、七草会長の活躍を見たがる生徒が多いからだろう。
「馬鹿な男どもが多い所為ね」
「青少年だけではないようだがな」
「お姉さま〜って奴?ホント、嘆かわしいったら」
「そう言うな。確かにあれは近くで見る価値があるかもしれん。毎日のように顔を合わせていた俺でも、別人かと思ってしまうくらいだからな」
「うわっ!深雪、どうする?浮気よ、ウワキ」
いやどうすると言われても……。苦笑いを浮かべるしかなかった。
*
会長は無事にというか当たり前にというか、勝ち上がり、次はバトル・ボード。渡辺先輩の出る競技だ。この競技は新人戦でほのかの出る競技でもある。魔法だけでなく身体能力も必要だそうだ。
「ほのか、体調管理は大丈夫?」
「大丈夫よ。冬也さんに付きっ切りで見てもらってたんだから」
九校戦が迫るにつれて、スケット部の部室には人がたくさん集まったようだ。特に一年生は初めて競技に出る人も多くて、色々とコツを聞くのにしょっちゅう出入りしていたらしい。
お陰で冬也お兄様は、家では奇行に走ることなく疲れて寝てることが多かった。
「ねぇ、深雪。冬也さんは?」
「え?さ、さぁ……」
そういえばあの人何処にいるんだろう。探しに行った方が良い気もするが、もうバトル・ボードの競技は始まってしまう。
「もしあれなら、呼び出そうか?」
達也お兄様が携帯を取り出した。だが、ほのかは首を横に振る。
「いえ、もしかしたら忙しいのかもしれませんし、大丈夫です」
「そういえば、冬也センパイは明日試合だったな」
西城くんが会話に参加した。それに目を輝かせながらほのかは過剰に反応する。
「そうなのよ!楽しみだなぁ……冬也さんのカッコいい姿……」
「えっ、お、おう……」
「確か、棒倒しだったわよね。絶対に見なきゃ!」
「ちなみに、冬也お兄様が忙しいなんてことはないわよ。大抵いつでもどこでも暇潰しによく分からないことしてる人だから」
本当にどこで何してるのかしらあの人は。会長の試合も見に来てなかったみたいだし……。まぁいいわ。私があの人のことを考えると、必ず私が疲れるトリックになってるんだから。
すると、バトル・ボードの会場に選手が並んだ。他の選手が膝立ち、または片膝立ちでバランスを取ってる中、渡辺先輩は何故か体育座りしていた。
「……なんだ?」
「どうかしたのかしら……」
「試合前になって緊張で吐きそうになってるんじゃない?」
ザマァーと言いたげなエリカ。私は双眼鏡で渡辺先輩の顔を見ると、真っ赤な顔で唇を高速で動かしていた。
「………愛しのハニーって言われたいやでも私にはシュウがいるししかしあのイケメンとイケメンボイスのキチガイ超人だししかしシュウだって声以外基本完璧超人だしいやでもあれは余りにも別格のいやしかし……」
………なんかブツブツ言ってるわね。呪いの言葉でも羅列してるのかしらってレベル。それとも本当に緊張?
「おい、あれ本当に大丈夫か?」
西城くんが心配そうに声を漏らした時、試合開始のカウントダウンが始まる。
「おいおいおい!このまま始めんのかよ!」
「いいのよあんな女、ほっとけば」
「そうはいかないでしょ。ちょっ、待っ」
だが、ここで騒いでいても意味はない。レース開始の合図が鳴り響いた。
その直後、バビュンッ!と音を立てて渡辺先輩のボードはものすごい速さで動き出した。体育座りのまま。コーナーやら下りやらといったコースを速度を維持したまま、いやむしろ加速してこなしていく。
ぶっちぎりの一位で終わらせてしまった。その様子を見て達也お兄様を含めた私達はポカンと口を開くしかなかった。
*
1日目が終わり、いつもの生徒会メンバー+1は七草会長の部屋に集まっていた。
「会長、おめでとうございます」
スピード・シューティングの女子部門で優勝した七草会長に中条先輩が言った。
「ありがとう。摩利も無事、準決勝進出ね」
「……………」
「摩利?」
「えっ?ああそうだな。やはりドラベースは最高だな」
「いや何の話?」
会長が眉をひそめた。
「どうしたのよ摩利。なんからしくないんじゃない?体育座りで競技に挑むなんて」
「い、いや何でもない。大丈夫だ。次からは胡座で行く」
「本当に大丈夫?」
本当に大丈夫なのかしら。何か顔色もギロロより赤いし……。
「と、とにかく平気だ!そ、それよりまずは予定通りでいいじゃないか」
「そうですね。少しヒヤッとしましたが、三馬鹿二ご……服部くんも勝ち残りましたし」
強引に話題を逸らした渡辺先輩に、市原先輩が同意する。
「CADの調整が合ってなかったみたいです。試合が終わってからずっと、木下先輩と二人で再調整してましたけど」
「まだ終わっていないようですね」
中条先輩の言葉を受けて、市原先輩がスタッフの作業報告を確認した。
「木下くんも決して下手じゃないんだけど」
「残念ながら、名人とも言えないな」
「あの、木下先輩の所為とばかりも言えないと思います。服部くん、なんか冬也くんと桐原くんとつるむようになってからアホが移った気がします」
「そういうのをひっくるめてアジャストするのがエンジニアの腕だ」
バッサリ切り捨てる渡辺先輩。
「それは、そうですけど……」
俯く中条先輩。
『ままま、そう言わんでやって下さいよ。渡辺先輩だって精神的に不安定だったじゃねーですか』
「いや私の場合は冬也の奴の所為で………んっ?」
聞き慣れた、というか見慣れた文字が飛び込んできて、そっちを見ると冬也お兄様が中条先輩を膝の上に乗せて座っていた。
「と、とととと冬也⁉︎」
『おっとっと冬也?何それちょっと気に入った』
突然顔を赤くして、腰を抜かしたように後ろにひっくり返る渡辺先輩。
「にゃ、なんでお前がここにいりゅ!」
『女子会に一回参加してみたかったんでさぁ』
「〜〜〜ッ!あ、あたしちょっと日課のアルゴリズム体操してくる!」
随分と動揺した様子で渡辺先輩は走って部屋を出て行った。今のやり取りを見て、私は何故渡辺先輩の様子がおかしかったのか一発で分かった。
『………? なんだ一体』
「オメーの所為ですよ」
『今お前「オメー」って言った?』
「いいから出て行って下さい。ここ女子部屋です」
私が言うと、冬也お兄様は出て行った。