次の話が終わったら、原作沿いに戻ります。
夏祭りの日。駅前で桐原はヤケに落ち着かない表情で貧乏ゆすりをしていた。
「うーわ……」
「あいつガッチガチだよ。初めてエロ本読んだ小学生の股間並にガッチガチだよ」
「これ壬生先輩来たら白いの出るんじゃないんですか?」
「おい、壬生が来たぞ」
十文字の言う通り、壬生が浴衣を着て小走りで桐原のもとに来た。
「ごめんなさい! 待った?」
「いや、今生まれたところだ」
((((何言ってんのあいつ))))
全員で呆れる中、壬生はあははっと笑った。
「何それ〜。ほら、早く行こ?」
「お、おう」
二人は出発した。
*
桐原は壬生と二人で出店が並ぶ通りを歩いていた。
「ね、桐原くん。何食べよっか」
「え、えっと……壬生の好きなものでいいぞ。奢るよ」
「本当? やったね。じゃああれ食べたい!」
壬生の指差す先にはりんご飴の屋台がある。
「オーケー。確か、ピンボールで当たりに入れれば二つだったよな」
「うん。頑張ってね」
てなわけで、桐原は金を出した。
「おっちゃん、二回」
「誰がおっちゃんだクソガキテメェこの野郎」
服部がホワイトボードを持って立っていた。直後、殴り飛ばした。
「どうしたの?桐原くん」
「何でもない。店変えようぜ。りんご飴ならなんでもいいんだろ?」
「ええ……?」
「おいおい待てよ。ここのりんご飴屋はただのりんご飴じゃないぜ?カップル専用イベントってことで、彼氏にスペシャルメニューがあるんだ」
言いながら服部はホワイトボードを出した。
『カップルメニュー 一回500円
・当たりに入れればりんご飴が5個の上、料金を丸々キャッシュバック』
「おいおい、マジかよ!? そんなんやっていいの!?」
「当たり前だろ。そもそも誰のために協力してやってると思ってんだ」
「服部……」
感動して涙を流しそうになる桐原。
「やるか?」
「あ、ああ。やらせてもらうぜ」
冬也に500円渡すと、桐原はポキポキと鳴らす。
「よっしゃ、見てろよ壬生。5個手に入れてやるからな」
「うん」
「じゃ、これカップル専用のピンボール」
服部に出されたピンボールのボードは、いかにもオーソドックスな、右端からスーパーボールくらいの球を打って一番上まで飛ばした後、途中にある杭に打たれながら、下の十ヶ所の穴の中から、当たりと書かれた穴に入れる感じだ。ただし、当たりの穴は一つ。
「いや確率ゲー過ぎるだろ!! 500円払わせといて10分の1!?」
「それを乗り越えるからこそ、愛があるんだろうが」
「愛は運で決まっちゃうのかよ!!」
「でももう金払っちゃったから。頑張れよ」
心底イラつきながら、桐原はスーパーボールを受け取って、セット。
「桐原くん、頑張って!」
壬生に応援され、仕方なさそうに玉をセットした。
「行けッ!!」
桐原がボールを射出。直後、ボールはピンボールの壁を突き抜け、思いっきり屋台も突き抜けて空へ舞い上がり、パァンッと花火になった。
「た〜まや〜」
「いやどんな仕掛け!? ふざけんな! 500円返せ!」
「落ち着けよ。今のは当たりだ。セカンドステージへ以降する」
「セカンドステージ?」
言われて冬也が出したのは、高さ20メートルにも及ぶ巨大なピンボールだった。
「いや難易度上がり過ぎだろ‼︎」
「まぁまずはボールを20メートルまで上げることだな」
「出来るわけねぇだろ‼︎」
「安心しろ、これで当たりに入れたらあんず飴10個の上、250円キャッシュバックだ」
「あんず飴10個もいらねーしキャッシュバック減ってんじゃねぇか!!」
「桐原くん頑張って!」
「頑張るの!? これでも頑張らなきゃいけないの!?」
だが、頑張れと言われた以上はやらなきゃならない。桐原は自分の全身全霊の力を振り絞って玉を打った。突き抜けて花火が出た。
「サードステェェェジッ!!」
「もういいわ!」
*
結局、外したものの、オマケでりんご飴を二つもらった。
「悪かったな壬生……。いきなり変なとこ連れて来ちまって」
「ううん。りんご飴美味しいし、いいよ」
「そっか、次は何する?」
「うーん……あれ! 金魚すくい!」
壬生の指差す先には金魚の絵の後に「すくい」と書かれた旗が見えた。
「おお、いいぜ」
「やった! 行こう」
二人はその屋台の列へ。
「いらっしゃい」
幹比古がいた。
「今度はお前か……」
「あ、桐原先輩。あと、壬生先輩。いらっしゃい」
「………? 君は?」
「初めまして。吉田幹比古です」
「あ、うん……」
今のやり取り的に、まともだと思った桐原は金を出した。
「ほら、二人分」
また500円玉を差し出した。
「毎度あり。じゃ、これ」
幹比古に渡されたのはお札のようなものだ。
「? 何これ」
「はい、頑張ってください」
さらに不可解なことに、水の中に金魚の姿はない。
「おい、金魚はどこだよ」
「? なんでうちに金魚が?」
「決まってんだろ! 金魚すくいだからだよ!」
「何言ってるんですか。うちは『精霊すくい』ですよ」
固まる桐原と壬生。
「いや、見えるわけねぇだろッ!!」
「え? 見えない? おっかしいなぁ……。でも、そこのお客さんは……」
幹比古の指差す先には美月が高速でお札を動かしていた。
「見えてるみたいですよ?」
「いや知らねぇよ! 付き合ってられるか! 行くぞ壬生!」
「待って、桐原くん。ここ、普通の金魚すくいもやってるみたいよ?」
「え?」
壬生の視線の先には、高速で金魚をすくう冬也の姿があった。
「こっちは一回200円ですよ」
「なんだよ、あるなら先に言えって」
言いながら桐原は二人分の値段を払った。
「壬生、どうせならどっちが沢山掬えるか競争しないか?」
「いいね! 負けないわよー!」
で、二人して金魚を見た。直後、固まった。水の中で渦潮が出来ていた。
「だから難易度高過ぎるだろ!こんなん掬えるか!」
「掬う? 何言ってるんですか? ここは『金魚救い』ですよ?」
「分かりにくいわ‼︎」
「でも出来ないことないでしょう。冬也さんは何匹も救ってますし」
そう言う通り、冬也のお椀は金魚が大漁で溢れていた。
「いやあれ別の意味で死に掛けてるからな⁉︎」
「桐原くん! 頑張って!」
「えっ、壬生? やれって言ってる?」
「頑張って!」
「いや、こんなんあのアホしか出来な」
「頑張って!」
「頑張ります……」
ポイを渡され、仕方なく桐原は金魚を救う。
(めげるな、俺。やる以上は全力を出せ。水の流れを読むんだ。かならず付け入る隙があるはずだ)
必死に水の流れを見た。直後、カッと目を見開く。
「そこだ!」
ポイを入れた。直後、折れた。
「いや水強すぎるだろ! こんなん出来るか!」
折れたポイを叩き付け、桐原は壬生を連れて出て行った。
*
その後も、邪魔してるとしか思えないアシストによって、桐原はツッコミまくりながらも、なんとか壬生と祭りを楽しんだ。
「ちょっと、休憩するか」
「そだね」
二人は祭りから離れて、森の中を進んだ。
「ったく、あいつら……余計なことばっかしやがって……」
「そんな事ないよ。みんなの屋台、楽しかったわよ?」
「気を使わなくてもいいんだぜ、壬生」
「…………」
「それより、花火って何時からだ?」
「あ、えっと……確か9時から、だったかな?」
「あと30分か……今のうちに場所取りするか」
「そうだね」
そんな事を話しながら歩いてると、ザンッと四人が目の前に現れた。
冬也の魔法によって完璧な偽装にも関わらず、何故かバレバレの冬也、服部、十文字、幹比古だ。
「二人とも、随分とアツアツじゃねぇの?」
「俺たち祭りで金使い過ぎちまってよぉ」
「だから金貸してくれや?」
「断りゃしねぇよなブフォッ⁉︎」
最後の台詞の幹比古の顔面に飛び膝蹴りが炸裂。
「テメェらァ! いい加減にしとけよクソッタレがぁっ!!」
と、バトルロワイヤルが始まる。この時、桐原は気付かなかった。壬生がこの時、本当に攫われてしまっていることに。