『海に行かない?』
発端は雫のそんな一言だった。
「海って、海水浴?」
『うん』
雫、ほのか、私でテレビ電話中だった。
『あっ、もしかして?』
『うん、そう』
「もしかして……って、なに?」
カァーンカァーンカァーン!
『えっと、小笠原にね、雫のお家の別荘があるのよ』
「えっ?雫のお家って、プライベートビーチを持っているの?」
『うん……』
カァーンカァーンカァーン!
『父さんが、「お友達をご招待しなさい」って。どうやら深雪と達也さんと冬也さんに会いたいみたい』
『今年はおじさまがご一緒なんだ……』
『安心して。顔をみせるのは最初だけ』
カァーンカァーンカァーン!
『深雪、これ何の音?』
「バ……冬也お兄様が温泉を作ってる音よ」
『温泉……?』
「それより、私は構わないけど、何時にするの?」
『決めてない。達也さんの都合のいい時で、って思ってる』
「じゃあ、お兄様の都合を伺って来るわね」
*
そんなわけで、海当日。他にエリカ、美月、吉田くん、西城くんも連れて、合計9人。
「わぁ……素敵なクルーザーねぇ」
エリカが白い船体を見上げる。
「エリカのお家でもクルーザーくらい持ってない?」
「船は持ってるけど、あれはクルーザーとは言えないよねぇ……てか言いたくない」
「……もしかして、訓練のため?」
「そうよ」
「徹底してるのね……」
思わず呆れ顔で呟いてしまった。
*
私と達也お兄様が北山潮さんに挨拶したあと、出発。途中、嵐に会うこともなくプライベートビーチのある島に到着した。冬也お兄様が「何か起こらないと面白くない」とかなんとかで竜巻を起こそうとしていたが、なんとか止めた。
そのお兄様は、吉田くんと西城くんを連れて潜水をしている。生の魚を見に行った。
「ねぇ、深雪」
「? どうしたの?ほのか」
「冬也さんは?」
「あそこで沈んでるわよ」
「沈……⁉︎」
「や、今のは比喩表現で……」
思ったより深刻な顔をされてしまい、慌てて弁解しようとしたけど遅かった、ほのかは海に突撃した。
「深雪、ほのかは泳げないよ」
「ええっ⁉︎」
雫の爆弾発言で、私も慌てて海へ突入。しようとした時、海が持ち上がった。直径10メートルくらいの水の球が持ち上げられ、中に吉田くんと西城くんとほのかがいる。
「へ?」
冬也お兄様が海面から顔を出して、超能力を使ってる人みたいに両手を開いて動かしていた。
まさか……あれ、冬也お兄様が……?
「と、冬也お兄様!」
声を掛けた直後、冬也お兄様の前に水の文字が浮かぶ。
『話しかけるな、集中力途切れる』
いやそんな魔法使えてる時点で割と余裕あるのでは?と、思ったが割と本気で大変そうだ。
「あーもう無理」
冬也お兄様は一気に脱力した。直後、水球は海の中にリバース。
「ッハァー!最高だぜ」
「冬也さん、もっかい!もっかい!」
西城くんと吉田くんが子供みたいにはしゃぐ中、冬也お兄様は黙って潜った。何をしてるのかと思い、私も潜って海中の様子を見ると、ほのかの腕を掴んで背中に乗せて上がってきた。
『おーい、無事か光井さん』
文字通り水性ペンでそう言うと、ほのかはゆっくりと目を開いた。
「んっ……んんっ⁉︎」
冬也お兄様におんぶされてる現状に気付き、顔を真っ赤にするほのか。可愛い。
「とっとととと冬也しゃん⁉︎」
『人の名前を北斗神拳みたいに呼ぶな』
「なっ、なんっ……なんでっ……⁉︎」
『いや、沈んでたから』
「沈ん……?はっ、そうですよ!何てことするんですか!」
『いや、幹比古とレオがどうしてもって言うから』
「危ないですよ!」
『でも楽しかったでしょ?』
「ま、まぁ、スリルはありましたけど……」
なんか、仲良くなってる……。別に私は達也お兄様一筋(もちろん兄妹的な意味で)だから良いんだけど……気に入らない。
『もっかいやるか』
「へっ?」
「おーい!冬也さん、あたし達も混ぜて!」
エリカやら雫やら美月やらが集まって来た。直後、マジで?みたいな顔をする冬也お兄様。
そっか、人数が多いとその分負担が掛かるんだ。
「冬也お兄様、私もお願いします」
『深雪、テメェ……』
で、二回目。今度は一回り大きな直径12メートルほどの水球を作って、私達ごと持ち上げた。
………確かに楽しいわねこれ。水の中なのに浮いてるって感覚が中々。なんていうか、冬也お兄様の無駄な技術でも役に立つことがあるのね。ほんのり感動してると突然視界がブレた。ドッボォォオンッと水の中から水の中に落ちた。あ、この感覚も中々新鮮で楽しいかもしれない。
「ぷはっ」
海面から私は顔を出す。続いて雫、エリカ、西城くん、吉田くん、美月と顔を出す。
………一人足りない。だが、心配いらなかった。冬也お兄様がすぐにほのかを海面に上げる。
「ちょっ、待って!お願いですから!」
様子がおかしい。ヤケにほのかは抵抗している。不審に思った私は、潜って海中を見ると、ほのかの上半身のビキニが無かった。
「ッッ⁉︎」
私は慌てて冬也お兄様にやめさせようとした。ほのかの裸が周りに晒されるのももちろんだが、何より冬也お兄様の手はほのかの胸に当たりそうな位置だ。
「冬也お兄様!ストッ……!」
『誰かほのかちゃんのEカップくらいのビキニ知らない?』
「」
その場にいた女性陣は言葉を失い、吉田くんと西城くんはおデコに手を当てて顔を背けた。
直後、みるみる顔を真っ赤にしていったほのかは、手を開いて大きく振りかぶった。
「もうっ!本当に死ねッ‼︎」
パァンッと拳銃より心地よい軽快な音が、小笠原の海に響いた。