五十里先輩達と見張りを代わり、私は達也お兄様と控え室を出た。そのままの足で、客席へ向かった。
一高の出番は午後からなので、達也お兄様の出番はまだまだだ。
………ちょっとトイレ行きたいかも。私は席を立ってトイレに向かった。
廊下に出て、ロビーの前を通ると、冬也お兄様が誰かと話してるのが見えた。
「あ、冬也お兄様。こんな所でどうしたんですか?」
『あ、ディープスノウこと俺のベリーキュートなマイシスター深雪くんじゃないか』
「そのキャラ腹立ちますね。それより、何してるんですか?」
『ああ、ちょっとこいつと会ってさ』
冬也お兄様の黒板に書かれた矢印の方向には、一条さんがいた。
「! し、司波さんっ!」
「一条さん」
「お久しぶりです、司波さん。後夜祭のダンスパーティ以来ですね」
「………ええ、こちらこそご無沙汰しております」
「あっ、いえ、こちらこそ」
『おい、十条。テンパりすぎててキメェ』
「い、一条です!」
冬也お兄様の台詞に口を挟む一条さん。なんか、不思議な組み合わせね。
「どうしてお二人が?どういう組み合わせですか?」
『いやー、百条がいきなりお話ししたいとか言い出してさ。なんでも、スケット部に憧れてるとかなんとか。ほんとファン多くて参っちゃうわ』
「一条です!」
「一条さん、悪い事言いませんからこの人と仲良くなるのはやめておいたほうがいいですよ?バカになりますよ?」
そう、私はすでに5人の被害者を知っている。いや、5人どころではなかった気もする。
「へ?何故ですか?」
「私の兄のバカは感染症で尚且つ、不治の病です」
『おい、言い過ぎだろ深雪。千条も困ってんぞ』
「お兄様?いい加減にしてくれます?段々桁増えてますよ?次はマン……」
言いかけて私の顔は赤く染まった。一条さんもだ。私と一条さんの反応を見て、冬也お兄様はニヤリと笑った。
『うわあ、このムッツリどもが』
「「ち、違います!」」
『しかも息ぴったり。お前ら意外とお似合いなんじゃねぇの?』
「んなっ……⁉︎」
一条さんの顔がみるみると赤くなっていった。
『一条直也、お前なんだっけ……謎のプリンス?』
「い、一条将輝でクリムゾンプリンスです!」
「冬也お兄様、柔道一直線はさすがに通用しませんよ?」
『お前なら深雪を任せられる。よろしく頼む』
「なっ……⁉︎」
『なんなら、この後に深雪とデートすれば?横浜デート、ん?』
「……………!」
口をパクパクさせる一条さん。そして、とうとう、
「うわあああああああ‼︎」
悲鳴を上げて逃げてしまった。
「………冬也お兄様」
『ん?』
「思春期の男の子を虐めないで下さい」
『てへぺろ☆』
この人は……。………さて、はやくトイレ行かないと。
*
その頃、スケット部の桐原、幹比古、壬生はほのかとお話ししていた。
「つまり、俺たちですら冬也のことはよう分からんという事だ。だから、あいつがどんなのが好きだとかはよく分からない」
「なるほど……」
「だけど、確実に一つ、言える事があるんだよ」
幹比古はそう言うと、深刻そうに言った。
「………冬也さんは、アニメが好きだ」
「アニメ?」
「あとはアメコミかな。とにかく、そういうのが大好きなんだよ」
ふむふむ、と相槌をしながらほのかはメモをした。
「だから、冬也くんとデートしたいなら……そうね。ディズニーよりユニバの方がいいわよ」
「ちなみに、3人はどんなアシストを受けたんですか?」
ほのかの質問に、最初に口を開いたのは桐原だ。
「あー……俺は縁日に壬生と行ったんだが……玉が花火になるピンボール、精霊掬い、金魚救い………ロクなサポート受けてねぇな」
「確か僕の時は……コーヒーカップが吹っ飛んでハルクに追いかけられて……うん、僕もまともな思い出ない」
二人の思い出に、ほのかは頭の上に「?」を浮かべるばかりだった。
*
昼食が終わり、一高の発表時間。私は黙って市原先輩の発表を見ていた。隣にはほのか、雫と並んでいる。
「ねっ、深雪」
ほのかが私の袖を引っ張った。
「ん?何?」
「冬也さんの好きなアニメって何?」
「…………何?急に」
「実は、さっき吉田くんと桐原先輩と壬生先輩に話を聞いたんだけど……」
………ああ、ほのかは冬也お兄様への告白のサポートをスケット部にお願いしてたわね。
私もそれを阻止するために依頼したら、十文字先輩と服部先輩という豪華すぎる面子に相手してもらう事になったな。スケット部も随分と増えたもんだ。
……ってことは、ここでほのかに冬也お兄様の好きなアニメを教えたら、私はほのかの恋愛の手助けをしてしまう事になるわね。
「嫌、教えない」
「えっ⁉︎な、なんでっ⁉︎」
「なんでもよ」
できるわけないじゃない。ガンダムが一番好きなのは私と冬也お兄様だけの共通趣味……じゃなくて、こっちに不利益になる事を教えてどうするのよ。
「それより、市原先輩の発表を見ましょう」
私がそう言ったところで、ちょうど終わった。
「………………」
「………………」
まぁいいわよ。達也お兄様に聞けばいいし。次はラストの三高の発表、あのカーディナル・ジョージの発表という事で、私は少し楽しみだった。
だが、その発表は行われなかった。轟音と振動が、会場を揺るがしたからだ。
「深雪!」
ステージ袖から達也お兄様が降りてきた。
「お兄様、これは一体」
「正面出口付近でグレネードが爆発したのだろう」
直後、複数の銃声が聞こえた。会場に対魔法師用のハイパワーライフルを構えた男達が入って来た。
「大人しくしろっ」
そう叫ぶのはテロリストだ。すべての出入り口を封鎖した男達は、生徒達に銃を向ける。
「デバイスを外して床に置け」
言われるがまま、生徒達はデバイスを床に置く。すると、別の出入り口のテロリストが、何かを見つけたようにある一点に詰め寄った。
「おい、お前もだ」
冬也お兄様がいた。って、冬也お兄様⁉︎なんであんな……ていうか従ってよ!頼むから変に目立つ真似は……、
『え?俺?』
「なんで黒板?って、そんな事いいからデバイスを捨てろってんだ」
『捨てればいいの?』
「書くのはえーな。いいから早くしろ」
すると、冬也お兄様はうおりゃあ!とでも言わんばかりにデバイスを目の前の男に叩きつけるように投げ捨てた。
「ゴブッ⁉︎」
投げられたデバイスは、テロリストの頭に減り込むと、跳ね返って別のテロリストに飛んだ。そいつの頭にもメコッと減り込み、また跳ね返って別のテロリストに飛び、ピタゴラスイッチのように全員を怯ませた。
その隙に、テロリストの近くにいた生徒達が敵を取り押さえた。
『いやあ、すごい偶然だ』
そんな偶然があってたまりますか!
と、いうツッコミを思い付いたのだが、それより先に冬也お兄様は自分の元に戻ってきたデバイスを手にして、左手を上に挙げた。
………何をする気?そう思った直後、冬也お兄様の指がパチンッと鳴り響き、会場を光が包み込んだ。
光が会場を包んだのはほんの一瞬だ。いつの間にか、何事もなかったように元に戻っていた。
だが、おかしい。ザッと見回すだけでも、冬也お兄様と達也お兄様の姿がない。
「………! まさか!」
私は慌てて出口に向かった。
「⁉︎ 深雪⁉︎」
隣にいたほのかと雫が私の後を付いてくる。
そして、会場の外に出ると、目の前には第一高校の校舎があった。
「っ⁉︎あ、あれ⁉︎これって……!」
ほのかが驚いたような声を上げた。雫も普段の無表情とは考えられないくらい動揺した表情を浮かべている。
ああ、やられた……。フラッシュムーブ。冬也お兄様は、私達を論文コンペ会場ごと移動させたのだ。
「………また、やられた」
ため息しか出なかった。
次、ようやく冬也お兄様が戦います。今にして思えば、この人ロクな戦闘シーンなかったなぁ。