私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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追憶編はほんの少しだけシリアスがあるかもです。というか、どちらかといえば深雪と達也メインになると思うので、少しのシリアス不可避。
まぁ基本は頭の悪いゆるゆるギャグなんですけどね。


絡まれた

 

 

兄とふたりきりにされてしまった。気まずい……。いや、兄妹なんだから気まずいと思う理由なんてない。でも、気まずい。

 

「ふぅ〜、お待たセーニョリータ」

 

冬也お兄様が用を足して戻って来た。だが、その途中、ガッと大人の方とぶつかった。軍服を着た男だ。

 

「あ、すんません」

 

バカにしてるにも程がある謝罪と共に冬也お兄様はこちらへ来る。

 

「おい待てクソガキ」

 

当然絡んで来た。けど、あの男は今、自分からぶつかりに行ったようにも見えた。

 

「ぶつかっといて礼もなしか」

 

「え?いや礼言ったじゃないですか」

 

「あんなバカにしたようなわびの仕方があるか!」

 

「うーん……じゃあこれは?」

 

そう言うと、冬也お兄様はキッと大男を睨んだ。

 

「俺は、ラウ・ル・クルーゼだ!」

 

「…………」

 

ぽかんとした表情になる大男。当然、私もだ。声、口調、トーンが似てたというのもあるが、この人は何を言ってるのかが分からなかった。

 

「テメッ、なめてんのか?ああ?」

 

「何だよ、何が不満なんだよ。『アムロ、行きまーす』のがいいのか?」

 

「謝れって言ってんだよ‼︎いい加減にしろよクソガキが‼︎」

 

「ごめりんこ」

 

「ああ、ダメだ。お前もう殴る」

 

何をしてるの!一概に向こうだけが悪いとは言えないんだから、謝ってよお兄様!

心の中でそう叫ぶが、冬也お兄様に聞こえるはずもない。

 

「そもそもテメェら恥ずかしくねーのかよ。お前ら軍人は中学生に喧嘩売るためにいつも訓練してんのか?」

 

お兄様ああああああ‼︎

 

「テメッ、今なんつったコラ」

 

「なめてんのか?」

 

「さっきからなめてるだのなんだの同じ言葉しか使えない。語彙力がない。ガキに正論を言われてすぐにキレる。沸点が低い。こんな軍人しかいないなら、世も末だな」

 

「おい。いい加減にしとけよ」

 

「だからそういう高圧的な言葉しか使えねーのかって言ってんだよ。理解力も皆無ですかコノヤロー」

 

相手を挑発しながら、冬也お兄様は私の隣の兄をチラチラと見ていた。まさか、助けを求めてる……?

私は心底呆れ、ため息をついた。情けない……煽っておいて人任せとは……。

 

「帰りましょう」

 

すると私の兄は、私の手を引いて別荘に戻ろうとした。

 

「へっ?ちょっ……!」

 

「冬也様からの御命令です」

 

違う、違うわよ!あれは助けを求めてるの!で、でも、この兄だってあの人に勝てるとは思えないし……!ああもう!どうすればいいのよ!

冬也お兄様は魔法の扱いが下手だし、多分魔法を使ってもあの人達には勝てない。

 

「ま、待って!」

 

私は兄に引き摺られながらも、大男に声を掛けていた。ジロリと私を睨めつける男。冬也お兄様はおデコに手を当てた。

私は心底ビビりながらも男に声を掛けた。

 

「そ、その人に手を出さないで!」

 

勇気を振り絞り、言わなければならない事を言った。すると、男が私の方に歩いて来た。

だ、ダメだ……殴られる……。私が覚悟を決めつつも体をカタカタと震わせていると、もう一人の兄が私の前に立ち塞がった。

 

「おいおい。ガキに用はないぜ?」

 

「…………」

 

「はっ、ビビって声も出ねえのか?」

 

「わびを求めるつもりはないから来た道を引き返せ。それがお互いの為だ」

 

「………なんだと?」

 

「聞こえていたはずだが?」

 

冬也お兄様に煽られ、相当頭に来ていたのだろう。男は兄に拳を振るった。

私は反射的に目を閉じた。文字通り子供と大人、それも中学生と軍人、喧嘩にもならない。

パシッという音のあと、おそるおそる目を開くと、兄が男の拳を片手で受け止めていた。それを見て、男はニヤリと微笑んだ。

 

「面白い……単なる悪ふざけのつもりだったんだが……」

 

そう大男は言うと、腕を引いて左右の拳を胸の前に構えた。

 

「いいのか?ここから先は、洒落じゃ済まないぞ」

 

「ガキにしちゃ、随分と気合の入ったセリフを吐くもんだ、な!」

 

そう言って、男は兄に殴り掛かった。兄も応戦しようとほんの少し動いた。

その直後、私も感じた程の寒気がその場の空気を支配した。何事かと思ったが、その中心にいるのが誰なのか一発で分かった。

男の後ろの冬也お兄様だ。普段の優しくてバカな冬也お兄様からは考えられないくらいの冷気を感じた。

 

「なんっ……⁉︎」

 

口を開きかけた大男を冬也お兄様が睨むと、それだけでそこから先の言葉は出なくなった。

が、すぐにその冷気は消えた。冬也お兄様が深呼吸したからだ。

 

「………っふぅ、俺も沸点低いな」

 

そう呟くと、冬也お兄様は懐から一万円札を出した。そして、大男に渡した。

 

「これをあげるから許してくれませんか?」

 

言いながら、男の胸ポケットにお札をたたんでしまった。

 

「いや、すまん……」

 

さっきまでの態度とは大きく変わって、大男は立ち上がると、去って行った。

さっきの寒気は何?魔法?まさか、私より魔法がダメで勉強と運動と器用さ以外に取り柄のない冬也お兄様に、CADもなしにそんな事、出来るわけない。

とりあえず、冬也お兄様を怒らせてはいけない、そう決めると、ザザッと誰かが私達の前に立ち塞がった。

 

「深雪さん。何かあったんですかっ?」

 

只事ではないような顔をした桜井さんだったが、私の姿を見るなり、ホッとした様子になった。てっきりさっきの大男の仲間が出て来たと思ったので、私もホッとしてしまった。

 

「ちょっと……、男の人に絡まれてしまって」

 

「まあ……!それで、その男は?」

 

「それが………」

 

私は冬也お兄様をチラッと見た。何と説明すればいいのか分からない。

 

「と、冬也お兄様がお金で解決しました?」

 

「お金でっ?」

 

「はい」

 

「深雪、人聞きの悪いことを言うな」

 

冬也お兄様はそう言って私の横に来る。

 

「本当の事じゃないですか」

 

「違うな。あれは金じゃない」

 

またまたこの人は、またわけのわからないことを言うのかしら、と思ってたら、冬也お兄様は懐からさっき渡していたお札にそっくりの紙幣を取り出した。

 

「偽札だ」

 

そう言った通り、そのお札には福沢諭吉の格好をした冬也お兄様が写っていた。

詐欺だ!と言いかけたが、そもそも向こうから仕掛けてきた喧嘩なので、詐欺ではない。何よりこちらは向こうから何かを得たわけでもない。

少し感心したように冬也お兄様を見てると、桜井さんが冬也お兄様に怪しげな視線を向けているのに気付いた。

 

 

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