その後も基地の見学は続いた。冬也お兄様は真田中尉と何処かに行ってしまい、私は兄さ……兄と風間大尉さんと、組手訓練を見ていた。
けれど、私はあまり格闘技に興味はない。すぐに退屈してしまった。せめて、知ってる人の組手が見れればいいのだけれど……例えば、冬也お兄様とか隣の兄とか?
そんな事を思っていると、風間大尉が兄に声をかけた。
「司波くん、見ているだけではつまらないだろう?組手に参加してみないか?」
誘われた兄はチラリと私を見た。
「そうですね、せっかくですからお願いします」
今の……もしかして、退屈してたのを、完全に見透かされてた?
直後、カーッと頭に血がのぼる。この人は!意地悪、意地悪、意地悪っ!なんで気付かなくてもいいところも気付くのよ!
が、心の中で悪口を言っても、相手に聞こえるはずがない。兄さんは、軍曹さんの前に立った。
「司波くん、遠慮はいらないぞ。渡久地軍曹は学生時代、ボクシングで国体に出た実力者だ」
魔法抜きでも全国レベルの実力者、というとかしら?素人の私にはよく分からないけど、とにかくすごい人なんだろう。
が、試合はあっさりと終わってしまった。一瞬で兄さんは渡久地軍曹の懐に飛び込んで、右手を鳩尾に突き刺した。
「渡久地!」
見物していた軍人さんが慌てて駆け寄って、応急処置のようなものを始めた。
兄さんは最初の位置に下がって、軽く一礼する。
「これはこれは……」
風間大尉が私の隣で感心したように呟いた。
「南風原伍長!」
「ハッ!」
また別の軍人さんが威勢良く出てきた。さっきの人よりは痩せているものの、ひ弱な印象はなく、まるでシャープな刃物のようなイメージがある人だ。
「手加減など考えるな。全力で行け!」
「ハッ!」
答えると同時に、南風原伍長が兄に襲い掛かる。だが、兄は余裕を持って南風原伍長の攻撃を回避し、落ち着いて反撃して倒してしまった。
その後も、この前襲い掛かってきた桧垣ジョセフ上等兵と戦い、魔法を使われたにも関わらず、あっさりと勝ってしまった。
桧垣上等兵と握手をし、完全に仲直り(?)をして、二人は改めて自己紹介した。
ちょうどそのタイミングで、真田中尉と冬也お兄様が帰ってきた。
「いやあ、大尉。すごいですよ、彼の技術は」
「どうかしたのか?」
「見てくださいよこれ」
真田中尉は小さなカプセルを取り出した。それをポイッと投げると、ボウン!と煙が出て来る。そして、煙の中から出て来たのはバイクだった。
って、これポイポイカプセル⁉︎マジかあの人!
「これは……」
「すごいのはバイクもなんですよ!」
「ホントだ……!これサイクロン号だ!」
サイクロン号⁉︎仮面ライダーの⁉︎600馬力の⁉︎
「懐かしいなオイ!テンション上がるわ!」
「それな!ッベー!マジヤッベー!」
………なんだろう。冬也お兄様って関わった人を全員バカにする能力を持ってるのかしら。
「ちなみに性能も同じですよ」
「マジでか!………いや待て。君、中学二年生だろう。なんでバイク作ってんの?」
「……………」
「……………」
あーあ、私シーラネ。
*
バカンスはついに5日目となった。私は気が付けば、兄さんの部屋の前に来ていた。
私は自分で何がしたいのか分からなかった。苦手意識を持っているはずが、ついついここに来てしまった。
私の右手がノックをしようとするかと思えば、そのままノックをせずに元の位置に戻る。
………無理だわ。私は諦めて引き返そうとした。その直後、扉が開いた。
「何かご用ですか?」
兄が扉を開けたのだった。
「あっ、あの、えっと……」
「はい」
ど、どうしよう……。冬也お兄様にも一緒に来て貰えば良かった……!
兄は私のことをポーカーフェースで見てるだけだし……。あー、うー。
「中に入れてくれってよ」
後ろから声がした。冬也お兄様が私の後ろに立っていた。あまりのタイミングの良さに、見張られていたのではないかと思ったが、助かったので良しとしよう。
「畏まりました」
私は兄に部屋の中へ通された。
あれ、冬也お兄様は来てくれないの?私はそう思ったが、冬也お兄様は「うんこが出たい」とか頭悪そうなことを言ってトイレに行ってしまった。
今、部屋の中には私とガーディアンの兄だけ。
「それで、どのようなご用でしょうか?」
兄の問いかけに、私は答えることができなかった。
と、いうより私の意識は別のところに行っていた。部屋の中はまるでCADの開発ラボのようだった。
思わずボーッと部屋の中を見回してると、再び兄に声をかけられた。
「お嬢様?」
「お嬢様なんて呼ばないでくださいっ!」
怒鳴りつけた私に、兄はびっくりして固まった。私もだ。あ、ヤバい。この後どうしよう。やべっ、ホント泣きそっ。何か言い訳を探さなければ……。
「あ………」
「…………」
「あの、えっと……そうです!普段から慣れておかないと、思わぬところでボロを出してしまわないとも限らないでしょう?」
兄の表情が「驚愕」から「不審」に変わった。それでも私は気力を振り絞って言い訳を押し通した。
「だから私のことは、み、深雪と呼んでください!」
言い切った。でも、それが限界だった。目をぎゅっと閉じたまま、俯いてしまう。
「……わかったよ、深雪。これで良い?」
兄の答えは、優しかった。いつもの堅苦しさはなく、友達同士のような言葉遣い。
「……それで結構です」
それだけ言うと、私は部屋を出た。兄の部屋のドアを閉めると、目の前には冬也お兄様が立っていた。
『だから私のことは、み、深雪と呼んでください!』←録音機
私の顔が真っ赤になるのが、自分でも分かった。
「録ったんですか⁉︎」
「可愛いよ深雪」
「んもー!消してください〜!」
「あっふぁっふぁっふぁっ!」