私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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生徒会と風紀委員会

 

翌朝。「第一高校前」という便利な駅に到着した。その名の通り、駅前の一本道を歩けば私達の通う学校に到着する駅で、ほとんどの一高生がここを利用している。

私は二人のお兄様の他に、美月、エリカ、西城くんといった、E組のメンバーと一緒に登校していた。

 

「……ってことは、スケット部の噂はほとんど本当なんすか?」

 

西城くんが尋ねると、冬也お兄様は頷きながらホワイトボードに文字を書き始める。

 

『まぁ、多分ね。絶対いくつか盛られてるけどね』

 

「でも、スゲェっすね。完璧超人じゃないですか」

 

『そんな事ないよ』

 

……まともだ。ホワイトボードで会話してるところ以外は普通に良い先輩をしている。いや、まぁ別に元々、悪い人でもないんだけど……。

改札から出て、高校に向かって歩き出し始める。ホワイトボードが引っかかって改札から出れなくなってる冬也お兄様を無視して、高校に向かっていると、後ろから「達也くーん」と声が聞こえた。

 

「……達也さん。会長さんとお知り合いだったんですか?」

 

「一昨日の入学式の日が初対面……の、はず」

 

美月の疑問に達也お兄様も一緒になって首をかしげる。

 

「そうは見えねぇけどなぁ」

 

「わざわざ走ってくるくらいだもんね」

 

西城くん、エリカと呟いた。確かに、私にも知り合ったばかりの態度には見えない。

 

「……深雪を勧誘にきてるんじゃないか?」

 

「……お兄様の名前を呼んでいらっしゃいますけど」

 

……今、明らかに誤魔化そうとしてたわね。人が誤魔化そうとするときは、何か隠し事があるときだって、冬也お兄様は仰っていたわ。あとで問い詰める必要があるわね。

 

「達也くん、オハヨ〜。深雪さんもおはようございます」

 

「会長、おはようございます」

 

「とーやくんは一緒じゃないの?」

 

「冬也兄様なら、あそこで……おっと、やっと改札から出て来たみたいですね」

 

達也お兄様の視線の先には、冬也お兄様がホワイトボードを抱えて小走りでこっちに来ているのが見える。

 

『ななちゃん、おはようございます』

 

「とーやくん、オハヨー」

 

『ななちゃん⁉︎』

 

私だけでなく、お兄様を含めたその場にいた全員が声を荒げた。上級生、それも生徒会長になんて口の聞き方をするのかしら!

 

「いいのよ。それより、深雪さんと少しお話ししたいこともあるし……ご一緒しても構わないかしら?」

 

「はい、それは構いませんが……」

 

「あっ、別に内緒話するわけじゃないから。それとも、また後にしましょうか?」

 

そう言って七草先輩は一歩離れたところで固まっている三人の方を見た。

私は会長に声を掛けた。

 

「お話というのは?」

 

「ちょっと生徒会のことです。一度、ゆっくりご説明したいと思って。お昼はどうするご予定かしら?」

 

「食堂でいただくことになると思います」

 

「達也くんと一緒に?」

 

「いえ、兄とはクラスも違いますし……」

 

昨日のことを思い出しながら、私は若干俯きながら呟いた。会長も昨日のことを思い出したのか、何度も頷いた。

 

「変なことを気にする生徒が多いですものね」

 

美月がウンウンと頷いていた。昨日の一件を結構引きずっているようだ。

 

「じゃあ、生徒会室でお昼をご一緒しない?ランチボックスでよければ、自配機があるし」

 

「……生徒会室にダイニングサーバーが置かれているのですか?」

 

「入ってもらう前からこういうことはあまり言いたくないんだけど、遅くまで仕事をすることもありますので。教室に自配機があるのは生徒会とスケット部室だけですよ」

 

冬也お兄様……。

 

「生徒会室なら、達也くんが一緒でも問題ありませんし」

 

「……問題ならあるでしょう。副会長と揉め事なんてゴメンですよ、俺は」

 

お兄様が言っているのは、おそらく入学式の事だろう。私が冬也お兄様の話をしながら達也お兄様と合流した時に、去り際のあの男子生徒の視線は、どうやら本当に達也お兄様に向けられたもののようだ。

 

「副会長……?ああ、はんぞーくんのこと。なら気にしなくても大丈夫。いつもお昼は部室だから」

 

「……そうですか。分かりました。深雪と冬也兄様とお邪魔させていただきます」

 

「あら、とーやくんは来ないと思うわよ?」

 

「………へ?」

 

「いつも部室でお昼食べてるみたいだから。お昼も部活してるのよね?」

 

『ええ』

 

意外と働き者なのね冬也お兄様……。

 

 

私とお兄様は生徒会室に到着した。招かれたのは、一応私なので、私がインターホンを押した。「どうぞ」と声が聞こえたので、私とお兄様は生徒会室に入った。

 

「いらっしゃい。遠慮しないで入って」

 

正面、奥の机から声が掛けられた。随分と楽しそうな笑みで七草先輩が手招きしている。

中には、生徒会役員が二人に昨日の風紀委員長さんがいる。

 

「どうぞ掛けて。お話は、お食事をしながらにしましょう」

 

七草先輩に言われて、私と達也お兄様は椅子に腰を掛けた。

 

「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

書記の中条あずさ先輩が自配機の前に立った。お兄様が精進を選んだので、私も同じものを頼み、中条先輩が機械を操作する。あとは待つだけだ。

 

「入学式で紹介しましたけど、念の為、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の市原鈴音、通称リンちゃん」

 

「私のことをそう呼ぶのは会長と冬也くんだけです」

 

冬也お兄様……。

 

「その隣は知っていますね?風紀委員長の渡辺摩利。通称マリリン」

 

「そう呼ぶのは冬也だけだがな」

 

冬也お兄様…………。

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

「会長……お願いですから下級生の前で『あーちゃん』はやめて下さい。私にも立場というものがあるんです」

 

「ちなみにとーやくんもあーちゃんって呼んでるよ」

 

冬也お兄様………………。

 

「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」

 

「私は違うがな」

 

「そうね。摩利は別だけど。ちなみにとーやくんは、はんぞーくんを『ふくべ』って呼んでます」

 

冬也お兄様……………………。というかなんで冬也お兄様の呼び方を一々、紹介するんだろう。

 

「あっ、準備できたようです」

 

ダイニングサーバーのパネルが開き、無個性ながら正確に盛り付けられた料理がトレーに乗って出てきた。こんな便利なものを冬也お兄様は独り占めにしていたのか……。

出てきたトレーは合計五つ。一つ足りない……思わず、私の頭の中にはこの人達も達也お兄様を差別するのか、と思ったのだけれど、渡辺先輩が鞄から弁当箱を取り出したのを見て、少しホッとした。

 

「そのお弁当は、渡辺先輩がご自分でお作りになられたのですか?」

 

「そうだ。……意外か?」

 

「いえ、少しも」

 

「……そうか。冬也の奴には去年『オッさんのスク水姿くらい似合いません』と言われた、というか書かれた?んだ」

 

「………申し訳ありません。うちの兄が」

 

「いや何、アレからだよ。私が奴を気に入ったのはな。アレだけ気を使わずに物をハッキリ言える奴はそういない。……少しは気を使え、ってのもあるがな」

 

……やっぱり申し訳ない。というか、オッさんのスク水は少し言い過ぎではないだろうか。

 

「そろそろ本題に入りましょうか」

 

七草先輩が少し唐突に語り出した。

 

「当校は生徒の自治を重視しており、生徒会は学内で大きな権限を与えられています。これは当校だけでなく、公立高校では一般的な傾向です。当校の生徒会は伝統的に、生徒会長に権限が集められています。大統領型、一極集中型と言ってもいいかもしれません。生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長が選任します。解任も生徒会長の一存に委ねられています。各委員会の委員長も一部を除いて会長に任免権があります」

 

「私が務める風紀委員長はその例外の一つだ。生徒会、部活連、教職員会の三者が三名ずつ選任する風紀委員の互選で選ばれる」

 

「という訳で、摩利はある意味私と同格の権限を持っているんですね。さて、この仕組み上、生徒会長には任期が定められていますが、他の役員には任期の定めがありません。生徒会長の任期は十月一日から翌年九月三十日まで。その期間中、生徒会長は役員を自由に任命できます」

 

……そろそろ話が見えてきた。

 

「これは毎年の恒例なのですが、新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になってもらっています。趣旨としては後継者育成ですね。そうして役員になった一年生が全員生徒会長に選ばれる、というわけではありませんが、ここ五年間はこのパターンが続いています」

 

「……でも、冬也お兄様は……?」

 

「とーやくんは、去年新入生総代を辞退したのよ」

 

えっ、どういうこと?聞いてないんだけれど……。

 

「声を発したくないとか言って……」

 

め、名誉あることをそんな下らない理由(おそらくキャラ付け)で辞退するなんて……!

 

「それでも主席なんだから私はあの子にお願いしたんだけど……何故か断られちゃって、それどころかむしろ変な部活の申請までされるし……」

 

あ、会長も変な部活だとは思ってたのね。

 

「でも、結果的には正解だったのよねぇ。色んな部活や委員会、事務員から引っ張りだこだから」

 

「事務員も⁉︎」

 

「まぁ、そんな話はともかく……」

 

気を取り直すように、コホンと咳払いして七草先輩は真面目な表情で聞いてきた。

 

「深雪さん、私はあなたが生徒会に入って下さることを希望します」

 

やっぱり、私がさっきなんとなく察した通りの事を言ってきた。

 

「引き受けていただけますか?」

 

勿論、去年冬也お兄様のした通り、断るという手もある。まぁ、私は別に断る理由もないし、むしろ少しやってみたい気もしている。けど、その前に確認を取っておきたいところがあった。

 

「会長は、兄の入試の成績をご存知ですか?」

 

「っ?」

 

予想外だったのか、お兄様が私の方を見たが、構わなかった。

 

「ええ、知っていますよ。すごいですよねぇ……去年のとーやくんの点数でも私は自信を無くしたのに、それをさらに上回って来るなんて……」

 

「成績優秀者、有能な人材を生徒会に迎え入れるのなら、私よりも兄の方が相応しいと思います」

 

「おいっ、み……」

 

「デスクワークならば、実技の成績は関係ないと思います。むしろ、知識や判断力の方が重要なはずです。ですから、兄も一緒というわけには参りませんか?」

 

「残念ながら、それできません」

 

しかし、私の願いは市原先輩によって打ち砕かれた。

 

「生徒会の役員は第一科の生徒から選ばれます。これは不文律ではなく規則です」

 

淡々と、どちらかといえば申し訳なさそうに市原先輩はそう告げた。

 

「……申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差出口、お許し下さい」

 

私は素直に頭を下げた。おそらく、市原先輩も現在のブルーム・ウィードと差別している体制にネガティヴな考え方を持っているんだろう。

 

「ええと、それでは深雪さんには書記として、今期の生徒会に加わっていただくということでよろしいですね?」

 

「はい。精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いします」

 

七草先輩の確認に、私は再び頭を下げる。これからは生徒会。お兄様(達)は一緒ではないけれど、頑張りましょう。

 

「具体的な仕事内容はあーちゃんかとーやくんに聞いて下さいね」

 

「ですから会長……あーちゃんはやめてくださいと……」

 

「というか、何故兄が?」

 

「結構、手伝ってもらってるんです。あーちゃんよりも優秀よ」

 

「うう……自信をなくしちゃいます……」

 

泣きそうな顔で俯く中条先輩。ああ……なんとなく同情してしまう……。大丈夫ですよ、私は「あーちゃん先輩」なんて呼びませんから。

心の中で慰めていると、さっきから黙っていた渡辺先輩が口を開いた。

 

「……昼休みが終わるまでもう少しあるな。ちょっといいか。風紀委員会の生徒会選任枠のうち、前年度卒業生の一枠がまだ埋まっていない」

 

「それは今、人選中だと言ってるじゃない」

 

七草先輩が言うが、渡辺先輩はあまり気にせずに続けた。

 

「第一科の縛りがあるのは生徒会の会長、副会長、書記、会計だよな?」

 

「そうね」

 

「つまり、風紀委員会の生徒会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にはならないわけだ」

 

「摩利、貴女……」

 

そこから先は全員理解できた。ようは、渡辺先輩は風紀委員にお兄様を入れようとしてるのだ。

 

「いやぁ、冬也の奴に間に合わなかった時のために頼みに行ったら、達也くんを紹介されてな」

 

ナァーーーイス‼︎冬也お兄様ッ‼︎私は心の中で全力のガッツポーズと冬也お兄様への称賛を贈る。

 

「ナイスよ!」

 

七草先輩も同じことを考えていたのか、同じことを言った。

 

「そうよ、風紀委員なら問題ないじゃない。摩利、生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します」

 

「ちょっと待ってください!俺の意思はどうなるんですか?大体、風紀委員が何をする委員なのかも説明を受けていませんよ」

 

そう言った直後、達也お兄様の携帯が震えた。直後、苦々しい顔をするお兄様。そして、辺りを見回し始める。

 

「どうかなさいましたか?お兄様」

 

聞くと、お兄様は携帯の画面を机の中央に置いた。

 

『風紀委員は校則違反者を取り締まる組織。風紀、といっても服装違反とか遅刻とかは自治委員会がやる。

風紀委員の仕事は魔法使用者に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した争乱行為の取り締まりになる。

風紀委員長は、違反者に対する罰則の決定をして、生徒側の代表として生徒会長と共に懲罰委員会に出席し意見を述べる。まぁぶっちゃければ、警察と検察。兼ねた組織だな。

頑張ってねー。 親愛なるお兄様より』

 

このタイミング……何処かから見てたんじゃないでしょうねあの人……。

 

「……渡辺先輩。この説明は正しいのですか?」

 

「ああ。そうだな」

 

「では、この説明によると風紀委員は喧嘩が起こったら、それを力ずくで止めなければならない、ということですね?」

 

「まあ、そうだな。魔法が使われていなくても、それは我々の任務だ」

 

「あのですね!俺は、実技の成績が悪かったから二科生なんですが!」

 

とうとう大声を出してしまう達也お兄様。

ど、どうしよう……普段の私なら魔法を使ってでもお兄様への失礼は止めるところなのだけど、今の私には止められない……。風紀委員としてのお兄様を見てみたい……。

 

「構わん」

 

達也お兄様に言われても、シレッとした様子で渡辺先輩は答えた。

 

「何がですっ?」

 

「力比べなら、私がいる……っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に続きを話したいんだが、構わないか?」

 

「……わかりました」

 

時間になったのなら仕方ない。ああ、どうなんだろう……喜んでしまっていいのかなぁ……。

 

 

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