もっと、もっと速く走れ俺。このままじゃ……このままじゃコイツに捕まって殺される。
「逃げんじゃねえええ!」
晴れ渡る大空の下。暖かい夕焼けに照らされた、この広大な黄金色の草原を俺はこれでもかと全力で駆け抜けていた。今まで生きてきた中で一番と言っても過言ではないほどに。俺は死ぬ気でがむしゃらに走りながら、右手に大鎌という名の凶器を持つ大男から逃げ続けていた。
「待てやぁ!!」
ドスのきいた奴の低い声が、すぐ真後ろからこれでもかと俺の耳をしつこく刺激してくる。俺を追いかけてきているこの半裸で全身毛むくじゃらの大男クソ野郎は、とてもひどく興奮しているようで、顔は真っ赤っかになっており、両目はこれでもかと充血していた。
そんな男が、俺をいつまでもロックオンしながら、右手に持つ大鎌をこれでもかと勢いよく俺の背中めがけてブンブン振り回してくる。はっきり言ってキチガイだ。イカレテやがる。俺が何したってんだよ。
そもそも、なんで俺がハメられなきゃならないんだ。何一つ悪いことなんてしてないのに。あんなに優しくて親切だった酒場のおっちゃんがなぜ俺に嘘を……くそっ。もっと他人の言葉を警戒しておくべきだった。バカだ俺は。
いや、まさかこれもデスゲームとやらと関係しているんじゃないのか。もしそうなら、やっぱり現地人と呼ばれている奴等全員、死神のグルなんじゃ……。
「おらおらおらおらあぁァァァ!」
「ぐぁっ!?」
奴の手に持つ大鎌が、俺の背中をシュッと掠めた。
あ、あぶねえ。あと数cm先に当たっていたら、俺の肉体が切り裂かれて鮮血を撒き散らしていたかもしれなかった。幸い、肉体にまでは届かずに背中の部分の服が破れただけだ。よ、よかった。
って、冗談じゃない!
こんなところで死んでたまるか!
「なッ、なんで見ず知らずの人間にそんなことができるんだ! あんたには人の心もないのかよッ!」
後ろを振り向きもせずに突っ走りながら、俺は後方にいる奴に向かって掠れた声で叫んだ。黒いゴリラのような全身毛むくじゃらの大男に向かって。
「オレは人じゃねえ! みてわかんねえのか!
奴の言葉が先ほどよりも強くなる。まるで、憎しみや恨みの詰まったような声音だ。
「くっ」
リズムを刻むように素早く吐き続けていた息が乱れ始めてきた。おまけに足までつりそうになってきた。これはいよいよヤバイかもしれない。今の今まで無酸素運動と言ってもいいくらいに、全力で走っていたんだ。そりゃあ、そうもなるか。
「待てやあぁぁ!」
あぁくそっ、胸がズキズキと苦しくなってきた。手や足も痺れ始めてきたし、おまけに熱く重たい石のようにもなってきた。
なんでだよ。どうして俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ。俺はただの平凡な人間で、犯罪の一つも犯したことのない野郎なのに……こんな理不尽があっていいのかよ。
「オレに殺されろぉぉぉぁぁぁ差別主義者ぁぁぁっ!!」
足に乳酸がどんどんと溜まってきているのが容易にわかる。このままだと、追い付かれて奴に殺されるのも時間の問題だな……。
「……っちくしょぅッ」
どうしてだ。おかしいだろこんなの。俺がなにしたってんだよ……くそがっ。
ー ー ー ー ー ー
──時は遡り、おおよそ
──そこから、このお話の冒険譚は始まりま~す!
──どう? これ以上は教育上よろしくないので、映像はお見せすることができないけれど、なんとなく物騒で血生臭いお話だってことはわかったでしょ?
──けど、私は真実を伝えるために、今日ここにいるたくさんの子供たちに向けてありのままのことを話すからね。
──世界を。宇宙を。そして私たちを、私たちの未来を救った、一人の人間。
──みなも知っているであろう英雄……そう、先程映像に出ていた男「テンジョウイン・カケル」のことを!
──このお話はすごく壮大で長いからね。君たち、覚悟しておいてよ?
──うん、よしっ、じゃあ話す!
──これは、とっても危険で、とっても歪んでいた異世界「ラーシュバルツ」を舞台に。
──1人の青年が歩み続けた、英雄譚である。
──えっ? もちろん彼だけについてのお話じゃないよ~、主役は彼だけどね。
──その隣にはたくさんの同じ命運を背負った、「代表者」と呼ばれるお仲間たちがいてさ~チラッチラッ。
──うん、その通り! もちろん私もそこに含まれるのである! 私が生まれたこの世界、「エーリス惑星」の代表者としてね!
──うん……それも正解。100名もいた代表者のほとんどは、たしかにあの理不尽なデスゲーム「デスケープ」により死んじゃった。けど、だからこそ、この話は風化させちゃダメなんだ。
──こらそこ、雑魚だから死んだんだとか言わないの。彼らのおかげで今の私たちの世界は滅びずに済んだんだよ。私と彼だけじゃ絶対に生き残れなかったし、デスゲームを攻略することだってできなかった。手を差しのべてくれた優しい者たちやデスゲームの謎を解き明かそうと危険を省みずに突き進んでいった聡明な者たちがいたからこそ、私や君たち、そしてこの世界のみんなは今こうして生きていられるの。
──だから、そんな悲しいことはもう言わないでね。デスゲームに選ばれた代表者たちや異世界の原住民たちが一緒懸命協力して頑張ってくれたおかげで、あの腐りきったデスゲームにとどめを刺せたんだから。そう、強く穢れた闇に終止符を打てたのだから。
──だからね。これから話す内容は、必死に生きようと逃げ続けた私たち、「代表者」の英雄譚のお話でもあるの。
──え? 自分を英雄呼ばわりして恥ずかしくないかって?
──いいのいいの! だってそれはもう、本当にすごかったんだから私! こうみえても、たくさん活躍して貢献していたんだからね! ものすごーく頼られていたんだから、えっへん!
──それに、今こんなに平和な時を自分の世界で過ごせているのが信じられないくらい、本当に本当に大変だったんだから!
──命を懸けた、とっても歪なデスゲームと共に、私たちの物語はこれでもかと波瀾万丈に動き続けたのよ!
──ううん……デスゲームは終わりを告げたけど、私の物語は今も続いているか。こうして、未来の世代へと言葉として受け継がれながら、私の選んだ人生と共に。
──ふふっ……アイツはバカで、アホで、ドジで、マヌケで、いつも眠たそうな目をしてて、顔や表情が常に死んでて、だらしない顔してて、力も体力もなくて、呆れるくらい弱くて、頭もこれでもかと悪くて、ほんとにひどくて、いろんな意味でかっこ悪くて。それに……自分勝手だったから、英雄として扱われてるだなんて、微塵も思ってないだろうけどね。
──え? もしかして彼のことが嫌いなのかって?
──うーん、嫌いというか価値観が違いすぎてたから最初の頃はあんまりよく思ってなかったかも、あっちが私に対してね。アイツ、どんな困難な状況に陥っても諦めなくてさ。決して誰かを見捨てたりすることもなくて。人の命をすごく重く考えていて。そのくせ自己犠牲ばっかしてさ。それに、どうしようもないくらいメンタルが儚くモロくて……けど、それがすごく優しくみえて。とってもかっこよくみえた部分もあって……アハハッ、ごめんごめん。ちょっと話がずれちゃったね。え? 実は彼のことが好きだったんでしょって?
──まっさか~。ありえないありえない。話戻すね?
──そんな私と彼と、そして他の代表者たち全員とが初めて顔を合わせた日はね……うん。そう。
──記憶を一部なくしていた
──そう、ホワイチェルと呼ばれるところだった。
──これは彼が、いや彼らが、いい意味でも悪い意味でも純粋だった頃の私……☆×?□◆△に、大切な感情をくれたお話。
──☆×?□◆△が理不尽なデスゲームを生き延びた、真実の1000日間の英雄譚だ。