地球以外にも人の住んでいる世界がここにいる人の数だけあって、そしてみんなはそれら別々の世界から、こんな真っ白な場所にやってきた……とでも言いたいのか?
なんの冗談だ?
頭の悪い俺でも、流石にそれは嘘だろうということは容易にわかる。
「んなまさか……」
信じられるわけがない。メガネをかけているような人間が
日本語……?
……そういえばッ!?
あ、あんたら日本語話してんじゃん!?
スピーク・イン・ジャパニーズじゃねぇか!?
な、なんで気づかなかったんだ。
そうだ……今までの会話、全て日本語だったじゃないか。おっさんの言葉も美人さんの言葉も……このメガネの言葉も全て。
衝撃的な事が多すぎて、すっかりこの事実を忘れていた。ははっ、なぜ今まで気づかなかったのだろうか……笑えるな。
そうさ、エルフもドワーフもきっと勘違いだ。俺たちはみんな、日本語を話せる同じ世界の人間に決まってる。だって、俺たちは日本語でずっと話していたのだから。
だよな?
そうだよな?
な? な?
「ははっ……」
おもわず、笑い声がこぼれ落ちてしまった。なんだか少しだけ心が晴れやかになった気がする。彼もおっさんも何か勘違いしているんだ。多分デスゲームなんて起こらない。彼らはこの有り得ないようなリアルを目の当たりにして、自分の都合のいいように解釈して現実逃避しているだけなんだ。きっとそうだ。あぁ、そうに決まってる。
「僕もさっきまでは信じていなかったよ。ここにいる人たちは、実は僕と同じ世界の人たちなのではないだろうかと思ってた。本当は同じ世界から同じようにこの場所に連れられてきた人たちなんじゃないだろうかとね。けど、違った……ちょっとみてて」
そう言って、彼は彼自身の人さし指をもう片方の手で握る……なにをする気なんだ。
「せぇぇのッ!」
瞬間。
ボキリという小さな音が、この白い空間全体に響き渡った。
「──なっ!?」
い、勢いよく折っただとぉ!?
「エルフさん、お願いできますか」
まるで何事もなかったかのような顔で、超絶美人さんの方へとメガネは近づいていく。
「ぇ……ぇ、えぇ」
じ、自分の指を折りやがった……しかも表情一つ変えずに。なんだよコイツ、やばすぎだろ。
「──聡明なる
俺の視線の先にいる、エルフと呼ばれたあの超絶美人さん。彼女がそう言いながら、両手を膨らみのある胸の前に合わせ。そして、彼女は目を瞑りながら……。
「ラァイェァァァ~」
何語かもわからない言葉で急に唄を歌い始めた。
知らない言語で何を言っているのかさえ全くわからない。けれど、そのゆったりとした音色はとても心地のいいもので、透き通った綺麗な声が俺の全身や心を優しく癒すように撫でてくる。
急展開な出来事を忘れ、呆けたような顔でその唄をきいていると……やがて、俺の目の前に信じられない変化が訪れてきた。
「嘘だろ……」
突然、彼女の体が……薄白く光り始めたのだ。いや、体じゃない……彼女の体の周りを白く輝く
「僕の手をよくみててね」
美人さんの真横で立ち止まっているメガネ男が、そう言いながら彼女の体にその折れた指を近づける。すると、変な方向に曲がっていた人さし指に光が集まり、グギギっとまるで自分の意思を持つように、元の方向へと動き始めた。
「す、すげぇ……」
わずか5秒。ぐにゃんと曲がっていたはずのその指は、すっかり元へと戻っている。
「もういいよ、エルフさん。ありがとう」
メガネのその言葉に答えるように、彼女を包む光がフワンッと消えて収まった。
指をポキポキと鳴らしながら、彼が言葉を続ける。
「僕の世界にも魔法はある。正確には魔法というよりも超能力だけれどね」
ちょ、超能力……。
「けれど、僕の世界のアニメや漫画・映画に出てくるような火を出したり水を出したり、人の傷を治すような理解の範疇を越えた魔法なんて、僕の世界には全く存在していないんだ。僕が何を言いたいのかわかるかい?」
こ、こんなことって……。
「う~ん。例えが少々強引すぎたかな? 君の世界にアニメや漫画・映画といったものが存在していなかったら、僕が何を言っているのかわからないよね。ごめんごめん」
「お……俺の世界にも……魔法なんて存在してない。それに……超能力だって多分」
嘘だろ……嘘だよな……信じられねぇよ……こんなこと。
「
いつのまにか泣き止んでいたらしい、小柄なおじさんが鼻水を啜りながら会話に入ってきた。その口調は、最初に会話したときのような落ち着いた渋い声に戻っている。表情もすっかり切り替わり、弱々しい表情から元のしぶい表情へと戻っていた。
「他の人に訊いても色々な答えが帰ってきたよ。本当に様々な答えがね」
「で……でもだからって、全員が違う世界からこんなわけのわからない場所に来ただなんて」
「世界名を訊いたんだ。住んでいた世界の名を」
「そ、そんな……」
「こやつの言っていることは本当だぁ。
俺が不安になっていなかった恐らくの理由。その一つに周りの人々が同じ世界の人間だと思っていたことがあったからなんだと思う。いや、まだ違うと決まったわけじゃない。
「それなら、なんで俺たちは日本語を」「ヒゃああああああああああああああああああああああああああああア!」
俺の言葉を遮るように、どこからかバカでかい不気味な叫び声が聞こえてきた。ビクッと体の底から寒気のような震えが勢いよく沸き起こってくるような、そんな気味の悪い声が。
なんだ、今の機械音のような甲高い声は……
「ワタシの言葉をキけええええええええええエエエエエエエェ!」
機械音声のような声が真っ白な空間全体に、響くように聞こえてくる。やっぱり上の方からだ。でも、何も見えない。白い上空には何一つ異物などみえない。
音の詳細な出所はどこだ?
どうなってんだよ。
「ヨぅシ! ミンナ、上をミテいますネェ! でハァ、ハジめマァァァス! こちらをおおおオォォ、ご覧クダさアアアァァァァァァイ!」
突如、半透明の巨大なフルスクリーンのようなものがブオンと上空に現れた。そして、それがどんどん大きく広がるように何十メートルと真っ白な空を覆っていく。すげえ……どうなってんだよこれ。
巨大スクリーンをよくみると、どうやら数十の画面がテレビゲームの対戦時みたいに分かれて何かを映し出しているようだ……あれは街か?
それぞれの映像に、異なった街や村らしき風景と空を仰ぎ見ているたくさんの人々がいるのが確認できる。
「目を逸らさずニィィ、よーくご覧クダさいネェェェ! でハァァァァァァ、サイセェェェェェェィィィ!」
その機械音の言葉を合図に、目をよく凝らそうとした刹那。
「なっ……」
俺の脳内には「後悔」という二文字が浮かび上がってきていた。みなければよかった、と。そう思えるほどの
「……うぐっ」
吐き出しそうになる胃液を必死に抑え、俺は画面から目を背ける。
「な、なんだよあれ……」
誰に問うでもなく、俺はそう言葉を漏らした。
巨大なスクリーンには、おぞましい映像の数々が……どれも数百人規模の人が死ぬ瞬間が映し出されていた。それも、どいつもこいつも……人々の肉体が大きく風船のように膨らみ、そして破裂するかのように肉片が飛び散っているシーンを。何十にも分割された
「本物なのか……」
まさか、俺の世界の出来事……なのか。
「本物だよ。あれは、恐らく敗北者たちの世界だろうね」
俺のすぐ
「は……」
──敗北者ってなんだよ。
そう言おうとしたのに、この緊迫した雰囲気に呑まれて思うように言葉が出なかった。どうやら身体は正直なようだ。全身から震えにも似た揺れが起きている。怖いんだ、きっと。俺の
そもそもだ……どうやって、人の身体が破裂したんだ。いきなり身体が膨らんで破裂してたぞ。意味わからねぇよ、本物なのかあれ。ありえるのかよ、何百人もの人が一瞬であんな風に……うぅぇっ。
「もうとめてええええええ!」
「いやああああああ!」
「きゃあああ!」
映像を観ていた女の人たちから、悲鳴にも似た声が飛び始めてきた。そりゃあそうだ……こんなのみせられてしまったら、普通の反応はそれだ。
「ウルしえええエェェェェェ! ダマれえええエェェェェェ!」
瞬間。
<パァン! パァン! パァン!>、という甲高い破裂音が耳に響いた。さきほど悲鳴を上げていた人たちの方からだ。
まさか……。
「きゃあ!?」
「なっ!?」
「ひぇっ!?」
「うっ……」
「イ、イヤッ……」
いたるところから怯えたような、恐怖にも似たような声が続出する。中には体勢を崩して、倒れる者も。
ぅ……嘘だろ。
先程いた「叫んでいた女性たち」の姿は消え、代わりに多量の血の池が3つほど現れていた。それは、白い床に赤いシミを付けるようにじわじわと広がり、真っ赤な水溜まりを大きくしている。原型すら留めていないほどにめちゃくちゃで、あちこちに臓物のようなものを散らしながら……。
「ワタシはとてもデリケートなのデス。いいですカ? もし次、ウルサいヒトがいたラ……全員イマのように肉体をバクハツさせますからネッ☆」
いったい、なにが……なにがどうなってんだよ。
「アナタ達の代わりハァァァ! イクらでもイるのデスカラァァァァァァ!」
わけわかんねえよ……。
「ウふフッ! ウふフフフッ! ウふフフフフフフフフフッ☆」
わけわかんねえんだよちくしょう……。