デスケープ   作:ダルノム

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0003話:代表者NO.048の世界

「皆さーン? ナゼ、怯えているのデスカー? これはタダのゲェェェム、なのデスヨォー☆」

 

「──ただのゲームだと?」

 

 しまった……嘘だろ。思ったことを何でもすぐ反射的に声に出してしまう、俺の悪い癖がこんなときに……くそっ、なんで治らないんだよコレ。心療内科の先生に言われた通り、できるだけ心の中で言葉をつくりあげて、それを心の中で垂れ流すようにしてたら自然と症状は収まるようになってくるんじゃなかったのかよ。もう通院して2年は経つんだぞ。いい加減消えてくれよ、この病気。なんの為にわざわざ病院まで通っていると思っているんだ。なんの為にわざわざ心の声をこんなに気持ち悪いくらい脳内で垂れ流していると思っているんだ。こういう大事なときに症状が出ないようにするためだろうが……。

 

 ……あぁ最悪だ。なにやってんだよ俺のバカ。さようなら。

 

「おヤァ? アナタは……ヘェ、そうですカ。どうやったのかは知りませんケド、これはオモシロい逸材ですネェェ」

 

 俺の口に溜まっていた生唾が、これでもかと喉の奥へと流れるように飲み込まれていく。頭は冴えていても身体はこれでもかとガチガチに緊張している。おそらく──確定された”死”という未来文字による恐怖心がより一層と俺の身体を刺激しているのだろう。

 

「そうですヨォ? これはタダのゲームデス……。「前にデスが付くネェェェ!!」」

 

 声のトーンが、機械音のような音声が一気に高く上がった。明らかに俺に向けて、俺を威圧するための声だ。その声を聞いた瞬間、全身から凄まじい鳥肌がビクッと立つような感覚に襲われるほどの。

 

 本能が警告してる……やはり……数秒先オレは……。

 

「アラアラ、よくみるト……仕方ないデスネェェ。どうやラ、そのキオクもない()()もいるようなのデ。アラタめテ、ご説明しましょうカ」

 

 も、戻った……声のトーンが戻った。お、俺の杞憂だったのか。話に割り込んだから、さっきの人たちみたいに俺も殺されるのかと思っていたが……た、助かったようだ。

 

「いいですカァ? 一回しか言いませんからネェ? よォォク、その耳の穴をかっぽじってワタシの言葉を聞いてクダさいヨォー」

 

 夢じゃないんだよな……これ。

 

「アァーーーアァーーー。コホン……イマァァァからァァァ! アナタ達にハァァァ! デェェェスゲェェェ……ムをしてもらいマァァァァァァス!!」

 

 これでもかと大きな声で機械音が叫ぶ。まるで、これから楽しい事が始まるかのような盛り上げ声で。

 

 おっさんの言う通り、本当にこれからデスゲームが始まるようだ……ははっ。現実逃避していたのは、どうやら俺だったらしい。

 

 デスゲーム……直接手を下す殺し合い系だろうか。それとも直接手は下さず、先に進むための限られた椅子を取れなかった者がどんどん脱落していく、生き残った者が間接的に人を殺していく方のデスゲームだろうか。はたまた、誰一人欠けることなくみんなでクリアできるような軽いデスゲームだろうか。最後のだったらいいんだが……んなわけないか。デスゲーム物でそんなの見たことも聞いたこともないし……それに、あんな映像や殺害をみせられちゃぁ……な。

 

 そうだな……。

 覚悟を決めるか……()()覚悟を。

 

 わけのわからない状況だしな……もう、なんかどうでもよくなってきた。

 

「いいデスカァァァ!? ココにイィィィ! アナタたち100の民が呼ばれたのワァァァ! アナタたちノォォォ……それぞれノォォォ……ッセカイを救う為ナノデェェェース!!」

 

 は……?

 世界を……救う為?

 

「アナタたちハァ! ジブンの住むセカイの代表者なのデース! 選ばれし者たちなのデース! 誇らしいデスヨネッ? さぁヨロコんでくだサイッ! さぁさぁ一緒にワラいましょウゥゥゥー! アハハハハハハッ! アハハハハハハッ!」

 

 奇妙な笑い声が空間一帯に響く。が、その声に誰一人続いて笑ってはいない。地上にいる俺たちの周りには、相変わらず重く冷たい無音(くうき)がただただ流れているだけだった。

 

「アレレェェ? ダーレも笑いませんネェ?」

 

 代表者。

 それって……つまり俺は地球の代表者とでも言いたいのか。なんだよそれ。俺には優れた能力なんて、体力測定の立ち幅跳びくらいしかないような、そんな平凡な人間だぞ。こんな意味不明な出来事に選ばれるような特異な人間じゃない。なんで俺なんだよ。そもそも世界を救う為ってどういうことだよ。意味わからねぇよ。

 

「ウレしくないのデスカァ? セカイの代表者なのデスヨォ? セカイジュウの者たちのイノチが、アナタ1人にカカっているのデスヨォォ? とっても誇らしク、ヨロコばしいことだとオモいますけどネェ」

 

 ……なんだよそれ。どういう意味だよ。俺以外にも地球の奴等の命もかかってんのか?

 

「まぁ、いいでしょウ。ハナシを戻しますネ。アナタたちハ、それぞれのセカイの命運をセオっていル、いわばユウシャ? のようなモノなのデスョ」

 

 ふざけんなよ。こんな理不尽な目に合う勇者なんて、アニメや漫画・小説・ゲームにもそうそういねーだろうが。(※たくさんいます)

 

「デスかラァ! ユウシャのアナタたちハァー! なんとしても生き延びてクダさいネェー! ユウシャなのデスかラァァ!  繰り返しまスガ、アナタたちは()()()なのデスかラァァァ!!」

 

 英雄側……?

 

「英雄側?」

 

 俺の心の声と全く同じ言葉が、どこからか聞こえてきた。誰かが、この機械音に疑問を投げかけたようだ。俺もそこが引っ掛かった。英雄側とはどういう意味だ?

 

「アッ……。トウゼンッ! ユウシャが死んでしまえバァ、そのユウシャの住む世界はゲェェム・オォォバァァーーー。デェェェエスッ!」

 

 俺たちの疑問の声をまるでなかったかのようにスルーしやがった。どういうつもりだよ。っつうか、「アッ」って言ってたよなコイツ。後ろに「ヤベ言っちゃった」って言葉が追随されてきそうなトーンで言ってたよな。英雄側ってどういう意味だよマジで、おいこら。

 

「当たり前デスよネェ? ユウシャという存在がナニかをクリアせずに途中で死ねバ、セカイが救われないのは常なのデスかラ。創作物だってBADEND(悲惨な結末)はダイタイそうでしょウ?」

 

 ここが創作物だったらホントよかったのにな……。

 

「なのデッ! アナタが死ねバ、アナタの住むセカイのヒトたちをすぐにでも殺しにイきマァァァス! サキホドの映像やここで起きたデキゴトのように、イッシュンで「ボカンッ!」しにイきマァァァス! お掃除しマァァァスゥゥゥゥゥゥ!」

 

「はっ!?」

 

 死ぬって……も、もし俺が死んだら罰として地球の皆も道連れに殺すってことかよ。嘘だろ……ち、地球の奴らはこのこと知ってんのか。いいのかよ俺で、俺が代表者で。やべえだろ。わけわかんねぇって。やべえ、やべえってマジで。責任重大じゃねぇーかよ。何がなんなのかさっぱり頭の中で整理できてねーぞこれ。

 

「あぁ、そうでしタ。いくら映像をミせたところで、未だに「これは夢だ!」とオモい込んで現実逃避しているヒトもいるでしょうカラ、シゲキを与える為にもイってみましょうカ? サキホド、ここでワタシに殺されたヒトのセカイにデモォー!」

 

 さきほど殺された人の世界って……ま、まさか。

 

「ちょうどよかったデスヨー。実は最初カラ、この為に一人か二人殺すつもりデシタからネー。さぁーテ。3人のウチのどれにしようカナー。うーン……これにしようカナット! えイッ!」」

 

 こいつ……。

 

「サァー! 匂いをよくカンじて下さいネェー!」

 

 その言葉をいい放った瞬間。

 目の前の景色が一気に変わった。白い空間が一瞬で……俺の瞼が瞬きするよりも速く、視界から消えた。上空にあったはずの巨大スクリーンまでもが。

 

 そして……その代わりに別の景色が、俺の周りに突如現れていた。いや、景色が現れたんじゃない。多分、俺たちがアイツの力かなんかによって瞬間移動でもさせられて……ここに現れたんだ。アイツの言う、3人のうちの誰かの世界に。

 

「くっ……」

 

 上空からの太陽光やアスファルトの地面が、俺の冷めた身体に熱を与えてくる。俺の五感をこれでもかと刺激してくる。額から汗が吹き出してきそうなほどの暑さが……俺の全身を襲ってくる。

 

「ご覧クダさぁーィ! ここは<NO.048>のセカイデース! サキホド、ワタシに殺されたヒトのセカイデェース!」

 

 目の前に広がるのは、大都会の一角を想像させてくるような近未来な風景だった。

 

 一本の大きな国道のような車道を挟んだところに、どこまでも蒼い大空へと伸びている色彩豊かなビルの数々があり。そしてそれらの手前にある歩道には、青と緑の混ざった不思議な街路樹が遥か遠くの先まで綺麗に配列され、その木々の間にはガラスに包まれた様々な電光掲示板のような物が立ち並んで、歩道と車道とを分け隔てている。

 

 これだけをみれば、色鮮やかで綺麗な近未来風景にみえるだろうが……歩道には血の海、そして車道にはタイヤのない近未来な車がいたるところに汚く止まっており、その惨状たるや凄惨なものだった。

 

 ここから見える範囲の車が一台の例外もなく、歩道に突っ込まずに車道で全て死んでいるのは……もしかしたら、車道と歩道とを見分けるようなそういうプログラムが車に組み込まれた高度なシステム形態を成しているからなのかもしれない。

 

 こんなにも発達した文明が一瞬で……この化け物機械音の奴のせいで滅んだっていうのかよ。

 

「うぐっ……」

 

 歩道にある赤い血の海の数々は言うまでもなく、車の中を覗くとどこも赤いそれが内窓にこびりついていて中が確認できずにいた。

 

 あぁくそっ……鉄臭いにおいが至るところから俺の鼻を刺激してくる。光景も相まって吐きそうだ。いったい、この人たちはいつ殺されたんだ。さっきまでこの世界の代表者は生きていたはずだし、それにこの機械音はずっと俺たちに話しかけていたはずなのに。もしかして、ここに俺たちが現れるまでに、いくつかのタイムラグでも生じていたのか?

 

 そのときに、こいつがここの世界の人たちを殺していたとしたら辻褄も合うけど……ははっ、ありえそうだな。もう物理法則からなにまでめちゃくちゃだもんな。頭で理解できる事象を遥かに凌駕してやがる。つーか何者なんだよコイツはマジで。神様レベルだろ……ま、まさか本物じゃないだろうな。

 

「どうですカーァ? すごく臭いでしょウ? アナタ達のニクタイは紛れもないホンモノなのデスヨォ? ちゃんと理解しましたネー、アカネちゃ~ン?」

 

「なッ!? ななな、なんでアタシに振るのよ!」

 

 少し離れたところで一人ポツンと佇んでいる赤髪の少女から、慌てたような声が聞こえてきた。

 

 珍しい髪色の少女だ。外国人でも、染めないとまず見ないような強い赤色をしている。アニメのような濃い赤髪といったら、しっくりくるかもしれない。

 

 にもかからず、顔含めてすごく自然で三次元として全然違和感の起きていない見た目をしている。こういう二次元キャラが持つような強い髪色だと普通は三次元の顔とは合わず、髪か顔が浮いて奇抜な見た目になるのが当たり前だと思っていたのだが。まさか、こんなにも地毛だと思わせてくるほどに違和感のとっぱらった姿をしている者がいるとは……すげぇ。二次元のキャラがそのまま三次元に来たんじゃないかと俺の目を錯覚させてくるほどだ。

 

 西洋風で、美人ではなく可愛らしいタイプの方の顔立ちをしており、しかも日本語を話しているからそう思うのだろうか。どうみても深夜アニメにいるような赤髪キャラにしかみえない。それもツンデレ属性の付いたやつ。目が大きくつり目、いや猫目だから余計にそう思えてしまうのだろうか。現実の人間では二次元のような顔は表現不可能だと思っていたのに……ぱねぇな。

 

 あれも異世界人なのだろうか……いや、十中八九そうなんだろうな。この機械音とメガネやおっさんの話が本当であるのなら。

 

「なんとナァーク、呼んでみただけデスヨォー。さテ、でハァ戻りましょうカァ!」

 

 その言葉を合図に、また景色が大きく変化した。

 

 

 ──さっきいた白い空間だ。

 

 

 どうやら戻ってきたらしい。ほんと、どうなってんだよ。俺たちは本当に現実でワープでもしているのか。やはりこれは神の力なのか。そういえば……死神がどうとか言ってたな。もしかして、この声の奴が死神?

 

 というか死神の使い魔とも誰か言ってたよな。ってことは、こいつは死神の使い魔なのか。それとも死神なのか。いやいや、そんなこと今はどうでもいいだろうが……いや、どうでもよくはねぇよ。けどまぁ、そんなこと気にするよりも前に気にしなきゃいけないことがたくさんあるのは確かだ。

 

「今ここにハァ、合計で97名もの者達がオリマァース。人族の男性が45名、人族の女性が42名、あとは全員その他……かナ?」

 

 97人もいるのか。さっき殺された3人も含めたらこの空間には100人いたってことだよな。キリのいい数字だ。明らかに偶然じゃないんだろう。

 

 その他ってなんだよ……。

 

「いいデスカー? サキホド、ワタシはデスゲームと言いましたガー。アナタ達97名は皆、敵ではなく仲間なのデスヨー。なのデ、ムカツク者がいても絶対に殺さないでクダさいネー」

 

 敵ではない……のか。なら、殺し合わなくてもいいんだよな。よかった。とりあえずひと安心だ。

 

「ついでに言うト。代表者を殺したカタにハァ、「死」というペナルティーが発生しマスのデー。なのデ、意見の食い違い等で殴り合いの喧嘩をしちゃう時ハァ、十分注意してクダさいヨー」

 

 意見の食い違いで殴り合いって……。

 

「ソレニ、ここにいる人たちの肉体強度は様々なのデスからネェー。自分の世界基準で考えちゃダメデスヨォー。できるだけ一緒に仲良くキョウリョクしテ、この楽シイィィ楽シイィィデスゲームから生き延びてクダさいネェー」

 

「あぁん!? 一緒に仲良くだと!? てめぇ俺を騙したのかぁ!?」

 

 重低音のある、低く力強い男の声が耳に流れ込んできた。少し離れたところで一人、胡座をかいて座っている、顔に大きな斜め線の切り傷があるイカついスキンヘッドの男からだ。袖のない白いワンピース姿のため、筋肉まみれのスゲェぶっとい腕が存在感をこれでもかと放っている。あれに殴られたら一発アウトだろうな……。

 

「オヤオヤァ、ガングさン? 担当者から聞いておりませんでしたカァ? これは、チームデスゲームですヨォ?」

 

「他の奴と協力するなんて話、いっさい聞いてねーぞ! ふざけんなッ!!」

 

「でハ、アナタの担当者がセツメイをハブいたのかもしれませんネェー」

 

 担当者……?

 

「冗談じゃねえ! そんな話があるか!」

 

「いやはヤ、担当者はいろいろなカタがおりますからネェ。細部までセツメイするのが面倒くさかった、カタなんでしょうかネェ。まぁ、しょうがないデスヨ。だって、アナタみてるとアツクルしいデスシィー」

 

「んだとおぉ!?」

 

「アナタには期待しているんですヨ……「ここでシにますカァァァ!?」」

 

 ま、また声のトーンが……。

 

「てめ……ちっ。くそっチーム上等じゃねえか! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」

 

「ホホホォ。いいデスネェ。いい心掛けデスネェ。アンシンしましたヨォー。オホホホホッ」

 

 機械音のヤツ。わざと不気味なトーンで脅したな。あんなに筋肉男に煽られても殺さないあたり、おそらく全く殺す気なんてないくせに。あの男には何かしらヤツが期待しているだけのものを持っているのかもな。ヤツにとって、これから始まるデスゲームを楽しませてくれる何かを……多分。って……いかんな、デスゲーム漫画の読みすぎでああいう男臭いキャラを危険と認識して疑心暗鬼になってるぞ俺。否定的に考えるのはやめよう。

 

 それにしても気になる単語がいくつか聞こえてきた。どういう意味なんだ、担当者って。やはり、あの機械音以外にも仲間のような奴が複数いるってことなのか。

 

「さぁテ! でハ、セツメイの続きをサイカイしましょうカー! チームデスゲェームのネェー☆」

 

 チームデスゲーム……。

 

 なんだか……嫌な予感がしてきた。

 

 

 俺の予想が当たらないといいんだが……。

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