EpisodeⅡ‐1 白銀の争奪戦
五月になったある日の放課後
俺とノクト、アイリの三人は教室に残って、
今日出された宿題をしている。
別に自室に戻ってからでも良かったのだが、
内容が割と簡単で、量もそれほど多くないので、今の内に済ませてしまおうというノクトの提案により、
三人揃って教室に残っている。
教室には俺たちと同じように宿題をしていたり、友達同士で会話していたりとまだ結構な人数が残っている。
「それにしてもヨシノさん、髪が伸びるのが早いんですね?」
突然アイリがそんなことを言ってくる。
アイリの言うとおり俺は髪が伸びるのが早い。
二週間前はノクトと同じくらいだったが、今はアイリより少し長いくらいだ。
「親父譲りなんだよ。これだけ早いと切りに行くのが面倒でな、お金もかかるし」
「では、今度私が切ってあげましょう」
「じゃ、じゃあお願いしようかな」
「Yes. 任せてください」
“あれ”以来ノクトとは少し微妙な距離感が開いている。
いや、ノクトはいつもどおりなんだが、俺があのときの事を思い出してしまい、恥ずかしくなってうまく話せなくなってしまったのだ。
そしてこの前、そのことに気づいたアイリに追求され、理由を話すと、
「ヨシノさんって、恋愛のことになると奥手というか、ヘタレなんですね」
なんてことを言われた。かなりグサッときたね。
そんなことを思い出してる内に、宿題は終わり、
ガラッと扉を開けて、教官が入ってきた。
(なんだ?)
話だけでも聞こうと上げかけていた腰を再び降ろす。
そして教官は口を開く。
「これより、ルクス アーカディア争奪戦を行います」
争奪戦の内容は、ルクスさんの持っている特別依頼書を制限時間内に奪い取ったら、一週間だけルクスさんに優先して依頼ができる、つまり一週間独占できる、ということらしい。
ルールは
学園の敷地内限定、制限時間は一時間、
という事が教官から説明される。
それと同時に教室の生徒から歓声があがる。
うるせぇわ。
(まーた学園長の悪ふざけか、ルクスさんも大変だな)
「じゃ、俺は工房に行くわ」
そう言って教室をあとにする。
†
「あれ、リーシャ様、争奪戦に参加しないんですか?」
工房につくと、既に作業を初めているリーシャ様がいた。
てっきりルクスさんを追いかけている真っ最中だと思ったんだが……
「そのことで相談なんだが、まともにルクスを追いかけても捕まえられる気がしないんだ。だからヨシノに知恵を貸してもらおうと思ってな」
「えぇ~、嫌ですよ。めんどくさい」
「めんどくさいとは何だ! いいから何か考えろ、私の助手だろ!」
争奪戦と助手関係ないじゃん。
「仕方ないなー、じゃあ成功したらクロスフィードで一番美味い菓子店の菓子詰め合わせを奢ってやるよ。お前甘いモノが好きだっただろ?」
「わかりました! じゃあこういうのはどうでしょう?」
「返事はやっ! まぁいいや、話してみろ」
甘いモノには勝てなかったよ……。
†
争奪戦開始から約四十分後、俺は工房の近くに待機して、ルクスさんが来るのを待っている。
学園の敷地内から出てはいけないというルールがある以上、
敷地内を逃げ回っていれば必ずこの近くも通ると読んだ俺は、
予想通り近くを通りかかったルクスさんを見つけ、
目線で合図を送りながら、工房に入る。
そして俺の合図に気づいたルクスさんも、工房に入ってくる。
「よっ」
リーシャ様が片手を上げて挨拶する。
「えっと……その」
「そう怯えるな。助けて欲しいんだろ? いいぞ。ここで、匿ってやっても」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
ルクスさんがほっと息をつきながら、ソファーに腰かける。
作戦の第一段階は成功だ。
「いやー、ルクスさんも大変っすねー」
「他人事だと思って……」
「他人事ですから。はい、お茶をどうぞ」
「酷いな……。ありがとう」
この工房は所長であるリーシャ様の権限で関係のない生徒は無断で立ち入れない。
つまり、争奪戦が行われてる今、最も安全な場所である。
そして、何かを仕掛ける可能性のある俺達は、普段からルクスさんと付き合いが多い。
ルクスさんは俺達が争奪戦に参加することはないと思うはずだ。
その予想通り、ルクスさんは全身から力を抜いている。
「また何か作っているんですか?」
(よしっ、食いついた!)
ルクスさんが俺達のやっていることに興味を示した。
作戦通りに進んでいる。
「はい、今新しい実験の途中なんですよ」
「……実験?」
「そうだ、ちょっと見せてやろうか?」
「ルクスさん、こっちへどうぞ」
そう言ってルクスさんをある場所へ誘導する。
作戦の第二段階完了だ。
リーシャ様が側にあった機攻殻剣を手に取る。
その瞬間、刀身の表面を走る銀線が、淡い光を帯びる。
「捕獲しろ! 《アームド・ワイアーム》!」
「えっ……?」
ガシィ!
と、作業台の上にあった機竜が巨大な腕の形に変形し、ルクスさんを鷲掴みにした。
「ふっ。かかったな、雑用王子。やっぱりお前は、ちょっと人が好過ぎるぞ?」
「何ですかこれ!? もしかして僕のこと、捕まえるつもりで……!?」
「はい、機竜を装着せずに、ある程度の操作ができる研究中の技術を使わせてもらいました」
「機竜の使用って……、ルールでは禁止なんじゃ?」
「うん。だから装着してないだろ、ほら」
ちょっとセコいかもだが、ルール違反ではない。
「やりましたね、リーシャ様!」
「ああ、ヨシノよくやった!」
作戦成功でテンションの上がった俺とリーシャ様は
ルクスさんの目の前でハイタッチをして喜ぶ。
これで菓子詰め合わせは俺のものだ!
そしてリーシャ様は依頼書を手に入れる為にルクスさんの服に手を突っ込み、弄りはじめる。
「ちょ、ちょっと、やめてくださいってば……!? 依頼書は僕の上着の中にありますから」
「そうか。よし、わかった」
リーシャ様が機攻殻剣を掲げ、思念による精神操作をする。
ルクスさんを掴んでいた機竜の拘束が緩み――
「すみません。リーシャ様――」
ほんのわずかに空いた隙間から、ルクスさんはすり抜け、素早く工房から脱出する。
「ずるいぞルクス! 待てぇえ!」
「おあいこです!」
そんなやりとりが聞こえたあと、リーシャ様がとぼとぼ帰ってきた。
「あの~、リーシャ様? 一応捕まえはしたんですからその、詰め合わせとはいかなくてもちょっとくらいは、ありますよね? 何か報酬が」
「うるさい! 今はそれどころではないわ! くそっ、どうにかしてルクスを捕まえなければ――」
リーシャ様はブツブツ言いながら再び工房を出て行く。
「そんな! 待ってくださいよ、リーシャ様ぁ!」
今回から原作二巻の始まりです。