アイリと出掛ける約束をした次の日の放課後。
「ではヨシノさん、一度部屋に戻って各自準備してから……そうですね、十五分後に校門前で待ち合わせましょうか」
「うん、わかった」
俺の返事を聞いてから、アイリは教室を出て行く。
「なるほど、アイリが昨日の夜から落ち着かない様子でしたが、ヨシノとデートでしたか。それはそれは楽しそうですね」
前の席に座るノクトからそう呟く声が聞こえた。
全然楽しそうって声じゃないんだけど。
「い、いや、デートじゃないよ? アイリの買い物についていくだけだから」
「…………」
そんな冷たい眼で睨まないでよ。
「まぁ、端から見たら完全にデートだよな」
「Yes. 完全にデートです」
やっぱそうだよな。
っていうかノクト、視線だけじゃなくて声音までだんだん冷たくなってるよ。
俺を冷凍保存するつもりなのかしら。
「あー、じゃあ、依頼書の期限が終わってからになるけど、行かないか? その……もしよかったら、だけど」
ダメだ、めっちゃぐだぐだになった。
「………?」
「だから、その、デート……誘ってるんだけど」
思い切って誘ってみたけど、めっちゃ緊張した。
ガッチガチな俺に対してノクトは、少し驚いたような表情をしてから少し微笑み、
「Yes.」
と答えた。
かわいいなちくしょう。
†
自室で準備を済ませて校門前に行くと、
ルクスさんがいた。
「ルクスさんも出掛けるんですか?」
「うん、クルルシファーさんと……デ、デートなんだ」
「そうですか、仲が良いいんですね」
「ま、まあ。ヨシノもどこかへ出掛けるの?」
「はい、俺はアイ───」
“アイリとデートです”と言いかけたところで止めた。
“妹さんとデートします”なんてそのお兄さんに向かってサラッと言えねえよ。
「あい……?」
ルクスさんが困惑した様子で俺の顔見る。
「いや、えっと、あのですね……」
「ヨシノさんはこれから私とデートするんです」
ちょうど今来たらしいアイリが、俺の腕に自分の腕を絡ませながら俺の代わりに答えた。
というか、言いにくいことをサラッと言ったな。
そしてナチュラルに腕を絡めるな。
ちょっとドキッとしただろ。
「そうなんだ、アイリをよろしくね。ヨシノ」
「あ、はい」
「兄さん! 子供扱いしないでください!」
顔を真っ赤にしたアイリが、ルクスさんに向かって叫ぶ。
「まったく兄さんは……もういいです。ヨシノさん、もう行きましょう」
「ん、わかった」
「気をつけてね。二人共」
ルクスさんに見送られて出発する。
「それで、どこ行くの?」
「まずは書店に行きます。それからはいろいろ見て回りましょうか」
「ん、了解」
†
二十分程歩いて、アイリの目的である書店についた。
歩きながら聞いたが、小説の新刊を買いに来たらしい。
「では、支払いを済ませてくるので、少し待っててくださいね」
「あいよ」
店の外に出て少しの間待っていると、アイリが店から出てきた。
「それでは行きましょうか。ヨシノさんも何か見たいものがあれば言ってくださいね」
「ああ」
と返事しつつ、少し離れたところにある、雑貨屋の看板から若干はみ出てる
“青”、“茶”、“黒”の三色を視界の端に確認する。
校門を出てすぐに、つけられていることには気付いていた。
尾行が完全に素人だし。けど……どうしよっかな、あれ。
………まぁいいや、何かされたわけでもないし、とりあえず放置で。
それから一時間程、洋服や靴なんかを見て回り、日が沈み始めた頃。
二人(と三人)並んで、学園へと続く道を歩く。
すると、
ドォン!!
「────!?」
今の音は……機竜の戦闘か? 場所はそれ程遠くないな。
「ちょっと様子見てくる」
「えっ、ヨシノさん!?」
「多分機竜の戦闘音だ。反乱軍かもだし、無視は出来ないから。アイリは後ろの三人と一緒に先帰ってて」
「え……?」
少し後ろの建物に指先を向けて三人の居場所を教える。
いつバレたのかわからないという表情の三人が、
建物の陰から出てくるのを確認した俺は、
「じゃ、行ってくるわ」
そう言ってアイリと別れ、走り出す。
†
戦闘音を頼りに進むと少し広い路地にでた。
ドゴォッ!
「うぉっ、アブね!」
目の前にドレイクが吹っ飛んできた。
障壁が砕かれたようで、すぐに機竜の接続が解除された。
「あ、シノくんだ。……危ないよ?」
声をかけられて振り返ると、フィルフィ先輩がいた。
巨大な紫の陸戦型機竜を纏っている。あれが先輩の神装機竜か。
確か《テュポーン》って言ってたな。
「あ、はい」
そう言いながら近くにいたルクスさんとクルル先輩のもとへ歩く。
《キメラティック・ワイバーン》を纏ったリーシャ様もいる。
……状況をみてなんとなくわかった。
ルクスさんとクルル先輩のデートをリーシャ様とフィルフィ先輩があとをつけてたんだろう。
「デート中に襲われるなんて、災難っすね」
「ええそうね。おまけにあとをつけられてたみたいだし」
「その二人のおかげで助かったけどね」
喋りながら戦闘の様子を見学する。
俺の出番なさそうだし。
それにしても、戦ってるとこ初めて見たけど、フィルフィ先輩結構すごいな。
フィルフィ先輩は手に武器を持たず、格闘術だけで戦っている。
機竜での格闘術はバランス感覚と操縦技術が要求される。
それに全身を使うので普通に操縦するよりも体力の消耗が激しい。
出来ないことはないが、かなり難しいのだ。
「そういえばアイリはどうしたの?」
「三和音の三人に任せてきました」
「そっか、ならよかった」
兄としては、やっぱり心配らしい。
アイリが聞いたら怒りそうだけどな。
そうこうしてる間に
リーシャ様とフィルフィ先輩によって、数人いた男たちは全員倒された。
「おい、天然娘。油断するな!」
装甲を破壊された
「……あれ?」
周囲を見渡すと、空になったドレイクと、生身で走る男の姿があった。
その先には、細身の女性が立っている。
「動くな! そこの女!」
腰からナイフを抜き、そう叫ぶ。人質にするつもりなんだろう。
男が女性の胸にナイフを突きつけようとしたとき、
「随分と治安が悪いのですね。この国は───」
女性が呟いた直後、
キンッ!
男のナイフが宙を舞う。
「動かないでください。手元が狂いますから」
そう言って、その場で尻餅をついた男に長剣の切っ先を突きつける。
長剣の表面には、無数の銀線が走っている。
「ご無沙汰しております。お嬢様」
「えっ……?」
困惑してるルクスさんの隣でクルル先輩がため息をつく。
「彼女は、エインフォルク家の執事、アルテリーゼ・メイクレアよ」
「場所を変えてもよろしいですか? ここは話をするには不向きです」
遅れてやってきた警備兵に男たちを引き渡し、俺たちは彼女の後に従った。
†
その場から十数分歩いて、学園にやや近い酒場に入り、軽く話をする事になった。
校則では酒場の出入りは非推奨となっているが、アルテリーゼさんが責任を持つとのことだ。
一つのテーブルに、ルクスさん、クルル先輩、アルテリーゼさんが、
すぐ隣のテーブルに、リーシャ様、フィルフィ先輩、俺が座る。
(っていうか、俺たちなりゆきでついてきたゃったけど、本来関係ないよな……)
アルテリーゼさんはユミル教国では
因みに俺の周囲の人間では、姉さんと隊長が特級階層だ。
「まずはそうですね。ご壮健で何よりです、お嬢様。と言いたいところですが───」
アルテリーゼさんはルクスさんや俺たちはチラッと見て、そう切り出してくる。
「級友の前だからといって、余計な気遣いはいらないわ」
「では、率直に。もう少し気をつけてください。あなたの身体は、エインフォルク家のものなのですよ?」
「なら賊に狙われるのも、名家の宿命だから仕方がないわね」
「…………」
不機嫌そうなアルテリーゼさんの言葉に対し、クルル先輩は皮肉を混ぜて返す。
しかしこの二人、仲が悪い……というか、よくも悪くも、互いに遠慮がない感じだな。
「ところで──、その男性お二人はどなたなのですか?」
新王国の男の知り合いがいることが不思議だったのか、そんなことをきいてくる。
「私の後輩と恋人よ。素敵でしょう?」
「……確か
「共学のためのテスト生として少し前に編入してきたのよ。黒髪の彼が新王国の王家に仕える騎士で、今は私の後輩、ヨシノ・クラウディウス。そして銀髪の彼は旧帝国の王子で、今は私の級友で恋人のルクス・アーカディアよ。何か問題あるかしら?」
「問題はあるぞ。ルクスはわたしとこれからいろいろと──むぐっ……!?」
「あ、後で聞きますから、今は静かにしてください」
口を挟むリーシャ様と、それを宥めるルクスさんを、
アルテリーゼさんは疑わしげに眺め、深呼吸をひとつしてから、呟いた。
「そうですか、それは困りましたね。実は──」
「これはこれは──、私も見くびられたものだな?」
「……!?」
突然発せられた男の声に、一同がはっと息を呑む。
金の刺繍が入った、赤い豪華な外套を纏った男が、アルテリーゼさんの背後に立っていた。
長い髪は金色で目鼻は整っていて割と美形だが、威圧的な空気を匂わせている。
自我の鎧を纏った騎士……という感じの男が現れた。
「バルゼリッド卿!? 何故、あなたがここに? 会食の予定は、明日のはずですが──」
「ああ、忘れたわけではないよ。アルテリーゼ殿」
驚くアルテリーゼさんに男は笑みを返す。
「これでもオレは、期日にはうるさい男なのでね。──だがそう、あえて欠点を言うならば、少しばかりせっかちなのだ。オレの未来の妻となる少女を、一足先に見ておきたくてね」
男はクルル先輩の顔から足先まで、舐めるように視線を這わせると、満足そうに頷いた。
「ほお。評判通りの美しさだな。これほどの華は見たことがない。少々肉付きが控えめだが、成長が楽しみだよ」
「お褒めに与り、光栄でございます」
そう返答したのはアルテリーゼさんだ。
「アルテリーゼ。その人は?」
「そうか。どうやらまだ話は通っていなかったようだな。では、名乗らせてもらおう。オレの名はバルゼリッド・クロイツァーという」
アイリとのデートシーン、結構短くなっちゃったな。
次にデートシーン書くときは、もうちょっと頑張ってみます。