最弱無敗の弟子   作:雨夜狐

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EpisodeⅡ‐6 出撃前夜

 

サラサラ……と、前髪が揺れる感触がする。

ちょっと気持ちいいな。

 

感触を楽しんでいると、再び前髪が揺れた。

誰かが俺の髪を撫でてるようだ。

 

「ん……」

 

瞼を開くと、黒い髪とこちらを見つめる緑の瞳が目に入る。

俺の前髪を撫でていたのはノクトらしい。

 

「やっと起きましたか。もうお昼ですよ、ヨシノさん」

 

顔を上げ、声をしたほうを向くとアイリが立っていた。

時間が経つにつれ、意識が覚醒していく。

 

 

………思いだした。

昨日の門限遅刻の罰で、いつもより早く起きて掃除をしたのはいいが、

二限目終了直後の休憩時間で眠気の限界がきて、次の授業が始まるまで少し仮眠しようとしたんだった。

 

仮眠のつもりが、ガッツリ眠ってしまったらしい。

 

「Yes. 昼食にしましょう」

 

「ん…………うん」

 

(…………!!)

席から立ち上がり、食堂に向かおうとしたところである異変に気付く。

 

「ヨシノ? どうかしましたか?」

 

俺の様子に気付いたノクトが声をかけてきた。

 

「腕、痺れた。痛い」

 

 

   †

 

 

「ヨシノ、どうぞ」

 

俺の右側に座るノクトが、フォークに刺したハンバーグの欠片をこちらにさしだしてくる。

 

「ん、ああ………」

 

ノクトのほうに顔を向け、ハンバーグを食べる。

 

「ヨシノさん。はい、あーん」

 

今度は俺の左側に座るアイリが、スプーンにすくったスープをさしだしてきた。

 

「あ、あーん」

 

反対のアイリのほうに顔を向け、スープを飲む。

 

さっきからこのやりとりを、左右交互に何度も繰り返している。

両腕を枕にして眠ってしまったせいで両腕が痺れた俺に、二人が料理を食べさせてくれている………らしいが、

腕の痺れは俺たちが食堂についた頃にはもうとれていた。

そのことを二人に言ったのだが、スルーされた。

しかも食べないと無言のプレッシャーかけてくるし。

なんなんだよ。

 

というか、いろいろ恥ずかしいんだが。

二人に食べさせられていることとか、

俺たちを見る周りの視線とか、

すぐ近くに座る二人の身体のやわらかい感触とか……。

もう勘弁してください。

 

「美少女二人に挟まれて、随分と楽しそうじゃないか、ヨシノ君」

 

そう言いながら俺の正面にシャリス先輩が座る。

シャリス先輩はオムライスか。

 

「からかわないでくださいよ。シャリス先輩」

 

恥ずかしくて楽しむ余裕なんかないです。

 

「半分は真面目に言ったのだが……まあいい。それで、期間の半分ほど経過したが、依頼のほうはうまくいってるかい?」

 

半分はからかってんじゃん。

 

「俺はそこそこうまくやってるつもりですけど……お嬢様の評価はどうでしょう?」

 

「悪くないですよ。まぁ、滅茶苦茶なお願いはしていないので当然といえば当然ですが。そのところ、ヨシノさんには感謝してほしいですね」

 

確かにこれまでの依頼は、とても簡単なものばかりだった。

これが他の女子だったら滅茶苦茶な依頼をされてたかもしれない。

 

「まぁ、そうだな。ありがと」

 

「いえ……どういたしまして」

 

「そういえばアイリ、あのことを言っておかなくていいのですか?」

 

「そうでした。ヨシノさん、今夜、工房(アトリエ)に行ってもよろしいですか?」

 

急にアイリが小さな声で尋ねてきた。

 

「たぶん大丈夫だけど………ああ、“アレ”か。結果でたんだ?」

 

俺も同じように声を落としてしゃべる。

 

「はい、調整と兄さんへの説明があるので」

 

「別にいいけど説明だけなら俺かリーシャ様だけでもできるぞ?」

 

「No. アイリはルクスさんに構ってほしいのだと思います。部屋でもずっと寂しそうでしたから」

 

「ちょっ、ノクト!? 変なこと言わないでください!」

 

「なるほど。確かにここ最近クルル先輩とずっと一緒だったもんな、ルクスさん」

 

「ヨシノさんものらないでください!」

 

 

   †

 

 

二十時、ノクト、アイリと一緒に工房に向かう。

二人とも今さっき入浴を済ませたところのようだ。

ほんのりいい匂いがして、ちょっとドキドキする。

工房につくとリーシャ様は既に作業を始めていた。

 

「こんにちは。リーシャ様」

 

「よっ、ヨシノ。妹たちも一緒なのか」

 

「はい、《バハムート》の出力解析結果が出ましたので」

 

アイリが作業台に解析結果が書かれた紙を広げる。

 

「よし、じゃあこっちを優先してパパッと調整するか」

 

「わかりました」

 

それから二時間ほどかけて、解析結果を見ながら《バハムート》の細かい調整を行った。

 

 

調整が終わり少し休憩していると、ルクスさんがやってきた。

 

「おお、やっと来てくれたな!待っていたぞ、ルクス」

 

リーシャ様、急にテンション上がったな。

………わかりやすい。

 

「えっと、それで、今日のお仕事は──」

 

「ま、まあ……、仕事の話はひとまずおいといて、楽にしろ。今、お茶を淹れてくるから──」

 

「あ、それなら僕がやりますよ」

 

「No. 結構です。それは年下の私がやりますので」

 

「兄さんは、そこに座っていてくださいね」

 

「あれ……? 二人ともどうしてここに──?」

 

「ちょっと、機竜に関する用事がありまして、せっかくですから同席を──お邪魔でしたか? 兄さん」

 

しばらくすると、カップに入った紅茶が運ばれ、アイリとノクトも作業台の前に座る。

そして、解析結果が書かれた紙を広げた。

 

「これは──」

 

「はい。《バハムート》の出力解析結果です。前回の戦闘を、ノクトの《ドレイク》で、観測させていただきましたので」

 

「…………」

 

ルクスさんはその紙に、ゆっくりと目を通す。

 

「それを見ながら、わたしたちが細かい出力の調整を《バハムート》にしておいた」

 

「無駄に使われていそうな出力をできる限りカットしたから、前よりだいぶ──楽に戦えると思いますよ」

 

「ありがとうございます。リーシャ様、ヨシノ」

 

「私とノクトもお手伝いしていますからね。兄さん」

 

「あ、二人とも、ありがとう」

 

「Yes. 恐縮です」

 

「ちなみに、長時間戦って欲しいというわけではありませんからね? くれぐれも無茶はしないでください。それは──わかりますよね」

 

「あ、うん。わかってるよ」

 

ルクスさんの微笑に、アイリも笑顔を返す。

 

「というわけで、ノクト、ヨシノさん。兄さんは信用できないので、あなたたちだけが頼りです」

 

「Yes. 了解しました。アイリ」

「ん、わかった」

 

俺とノクトが、同時に返す。

 

「ちょっとちょっと!? どういうこと? 僕を信用してないの!?」

 

「当たり前でしょう。いっつも私の諫言を無視して、勝手に突っ走ってしまうくせに」

 

「…………」

 

ルクスさんが耳が痛いって感じの顔してる。

実際、アイリの言う通りだし何も言い返せないんだろうな。

 

「まあ、明日の『幻神獣(アビス)討伐』と『遺跡(ルイン)調査』では、さすがに《バハムート》の出番はないと思うがな」

 

以前学園長に聞かされた、騎士団(シヴァレス)による遺跡の調査。

明日がその日なのだ。

目標は、遺跡の周囲に出現した大型幻神獣、ゴーレムの討伐。

及び、第六遺跡・『箱庭(ガーデン)』の調査となっている。

ちなみに今回の部隊長もリーシャ様がやるらしい。

 

「ついでに、現状途中まで描かれた、『箱庭』の地図も用意しましたから、今晩中に覚えておいてくださいね」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

俺もあとで見せてもらおう。

 

「よし、この話は終わったな。というわけで、妹たちは帰ったらどうだ? わたしはルクスと個人的に、もう少し話があるんでな」

 

「話、ですか?」

 

「あ、ああ……それはだな」

 

と、リーシャ様が話を切り出そうとしたとき、

コンコン。

軽いノックの音が聞こえてきた。

 

「こんばんはーっす!」

 

ドアを開けて入ってきたのは、ティルファー先輩たった。

 

「みんな何やってるの? 面白そうだから私も混ぜてよー」

 

「何をしに来たのですか? ティルファー」

 

ノクトが、呆れたように尋ねる。

 

「えっとね、ルクっちに伝言なんだよ。レリィ学園長から、今夜は後五分くらいしたら、お風呂はいれそうだってさ」

 

「あ。そうなんだ」

 

女子寮での入浴は、基本的に俺たち男子は禁止されているのだが、週に一回ほどの割合で、それが可能なタイミングがある。

女生徒たちの入浴が済み、他の使用者がいなくなった場合は、寮長などの管理者から声がかかり、入ることが許されるのだ。

 

普段はお湯で濡らしたタオルで身体を拭くか、

余程汗や汚れが気になるときは、学園の近くにある銭湯に行ったりしてる。

門限に間に合うように帰らないといけないから、あまりゆっくり入れないけどな。

時間を気にぜず、ゆっくり入浴できるのはこの学園では貴重な機会なのだ。

 

「それじゃ、僕は行ってきても──」

 

「むう……、仕方ないな。この話は、また今度しよう」

 

「ありがとうございます。それじゃヨシノ、行こうか」

 

「いや、俺はもう少し作業してから行くんで、ルクスさんは先に入っててください」

 

「そっか、わかった」

 

 

   †

 

 

工房での作業が終わり、一度部屋に戻って着替えを取りにいってから、大浴場へ向かう。

ルクスさんがやったのだろう、『清掃中』のプレートがかかっている脱衣所の扉を開け、中に入って服を脱ぐ。

そして、大浴場の扉を開けると───

 

 

 

「───え?」

 

湯船につかってるルクスさんとフィルフィ先輩がいた。

浴場なんで当たり前だが、ふたりとも裸で。

 

「ヨ、ヨシノ! これは違うんだ!」

 

「ご、ごゆっくりどうぞ」

 

慌てて大浴場の扉を閉める。

そして、工房に来たティルファー先輩が言っていたことを思い出した。

先輩は確か「ルクっちに伝言」と言っていた。俺は含まれていない。

そして、先輩に伝言を頼んだのは学園長だ。

 

「なるほど、そういうことか……」

 

つまり、これは学園長がルクスさんとフィルフィ先輩をくっつけるために仕組んだ罠だったのだ。

俺も、おそらくルクスさんも、お風呂という言葉で、男子である俺たちをひっくるめて考えてしまっていた。

 

「はぁ、今日は諦めるか」

 

次の休みに銭湯に行こう。

 

それから三十分ほどして、

ルクスさんが俺の部屋に来てさっきの説明をし始めたが、

のぼせたのかルクスさんは少しふらふらしてたので、

俺の部屋のベッドで横になるよう指示して、その後水を飲ませた。

 

なんで俺が面倒見なきゃならんのだ。

 




予定、というか理想ではGW中にはこの話を書き終えて投稿するつもりだったんですが、
ちょっとバタバタしてて、なかなか書く時間がとれなくてめっちゃ遅くなってしまいました。


今回のタイトル、いいのがおもいつかなかった。
内容が全然「出撃前夜」っぽくない。
時系列的に間違ってはいないんだけど。

ざっくりまとめると、
『飯食って、機竜調整して、風呂はいれなかった』
だからなぁ……。
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