最弱無敗の弟子   作:雨夜狐

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EpisodeⅡ‐7 第六遺跡 ─箱庭─ Ⅰ

 

翌日の朝

ルクスさんと騎士団(シヴァレス)のメンバーは、任務のため演習場の控え室に集まっていた。

目標は、遺跡【ルイン】周辺を徘徊する大型幻神獣(アビス)、ゴーレムの討伐と、

第六遺跡・『箱庭(ガーデン)』の内部調査。

 

今日出撃するメンバーは、授業が免除され、明日の夕刻前にはクロスフィードに帰還する予定だ。

出撃するメンバーは、十五名ほど。

ゴーレムを倒した後、余力のある精鋭数名が、遺跡へ入る手筈になっている。

──いや、なっていた。

 

「では、本日の作戦決行の、変更点についていくつかあげる」

 

ライグリィ教官が苦い顔を見せて言う。

何か面倒なことが起きたらしい。

 

「まず──今回の作戦に、本人の強い希望により、クルルシファーも特別に参加してもらうことになった。特別扱いせず、同じメンバーとして任務に挑んでくれ」

 

「え……?」

「どうして、クルルシファーさんが──?」

 

と、騎士団のメンバーたちから、驚きの声が漏れる。

正直俺も驚いた。

ユミル教国の命令で、危険な任務には関わらないと言ってたはずなのに……。

 

「よろしく。みんな」

 

クルル先輩も、サラッと挨拶済ませちゃうし。

 

「そしてこの方は──」

 

「ああ、紹介はオレ自らしよう。教官殿の手を煩わせることもあるまい」

 

うわ、出た。

 

「オレの名はバルゼリッド・クロイツァー。ベルヘイク地方の領主補佐を務めている。二年前に、機竜使い(ドラグナイト)の士官学校を首席で卒業した身だ。この度の幻神獣討伐及び遺跡調査の任に関し、手助けになればと思い、協力を申し出た」

 

ざわり、と控え室の中に、動揺が走る。

領地を治める立場の貴族──それも元軍属が、騎士団の任務にいきなり参加するなど、どう考えても普通じゃない。

 

「教官。これは一体、どういうことだ?」

 

その場の全員の声を代弁するように、リーシャ様が進み出る。

 

「部外者の人間がこの重大な作戦に参加するなど、納得がいかない。言い分はそんなところかね? 王女殿下」

 

「むう……」

 

見透かしたように語るバルゼリッドに、リーシャ様が眉をひそめる。

 

「何、任務内容に口を出すつもりも、邪魔をするつもりもない。純粋な手助けのつもりだよ。むしろ喜ぶべきことではないかね? 王都のトーナメントで前年三位の座を勝ち取ったこのオレが、か弱い少女たちの盾役を買って出ているのだから──」

 

(関係ない人間の盾になるようなヤツじゃないだろ。お前)

紳士を気取ったように話してるが、俺たちを見下してるのが態度から伝わってくるし。

 

「それは余計なお世話というものだバルゼリッド卿。連携の訓練を共にしていないものが作戦に加われば、我々の行動も阻害される。第一、貴公のような『大貴族』に怪我でも負わせてしまったら、学園側も責任を取りかねるというものだ」

 

「心配には及ばぬよ、リーズシャルテ姫。つい先ほど学園長室に立ち寄り、誓約書を書いてきたところだ。このオレに何かあっても、そなたたちに責任が及ぶことはない」

 

「なるほど、事情はわかりました。ですが、何故そこまで──?」

 

ふいに、シャリス先輩が尋ねる。

 

「理由ならあるさ。我が未来の妻となるべき少女がそこにいるのでね。危険な任務で万一のことがあっては──というわけだ」

 

それを聞いたメンバーたちに、小さな波紋が広がっていく。

 

「…………」

 

視線を向けられたクルル先輩は、関心のない様子でそっぽを向いていた。

 

「──では、バルゼリッド卿には今回、幻神獣討伐の援護のみをしていただく。調査に彼が関わることはない。一同、いいな」

 

ライグリィ教官がそう告げると、それ以上の反論は出なかった。

 

作戦会議が終わり、装衣に着替えて演習場にでる。

 

「各自、装甲機竜(ドラグライド)を纏え。出撃だ!」

 

リーシャ様が指揮を執り、作戦が開始された。

 

 

   †

 

 

出発してから十数分後。

城塞都市から二十kl(キル)ほど離れた荒野の地面から生えている、巨大な白亜の立方体。

新王国領の遺跡のひとつ──『箱庭』に、メンバー全員がたどり着いた。

 

『目標が確認できたぞ。皆、戦闘態勢に入れ!』

 

竜声を介して、リーシャ様が警戒を促す。

四角い壁で六面を囲まれたその内部には、森や湖、洞窟などが存在し、まるでひとつの小世界を内包した造りになっているらしい。

 

こんなに間近で遺跡を見るのは初めてなので、いろいろ観察していると、

『箱庭』の陰から巨大な塊が姿を見せる。

 

『おい。みんな気をつけろ! 前方に幻神獣を確認した!』

 

直後、リーシャ様が全体に警戒を促す。

俺たちの目に映ったのは、半身を岩の鱗に覆われた、金属の巨兵。

通称、ゴーレム。

歩みは鈍重、攻撃は単調だが、硬質の金属でできた堅牢な身体と、

その質量から繰り出される一撃は防御不可能かつ、致命傷を免れない。

幻神獣にしては活発な類ではなく、近づかなければ、襲われる危険も少ないが、

出現したものを、いつまでも放置はできない。

 

ゴーレムとの距離は、目測で約五百ml(メル)

普通の遠距離射撃では、まるで歯が立たない。

作戦では、機動性のある《ワイバーン》で攪乱し、

地上から《ワイアーム》たちの最大充填した機竜息砲(キャノン)で、

胸部の核が露出するまで削り続ける──

はずだったが──。

 

「陽動と攻撃は私に任せてもらえるかしら? その方が早いわ」

 

クルル先輩が突然、そんなことを言いだした。

 

「ちょ、ちょっと待て! ひとりでやるつもりか!?」

 

リーシャ様が慌てて止めようとするが、

 

「私の《ファフニール》なら可能よ。問題がなければ、行かせてもらうわ」

 

先輩はまるで動じない。

 

「じゃあ──行動を開始するわ」

 

直後、その場にいた全員を一瞬で置き去りにし、《ファフニール》が加速する。

《ファフニール》は高速で飛翔し、瞬時にゴーレムの眼前へと肉薄した。

オォオオ……。

ゴーレムが頭部から異音を発し、豪腕を唸らせる。

分厚い岩石のような拳を引き、弧を描く一撃を繰り出した。

《ファフニール》の背後から拳が迫る。

 

「危ない!」

 

メンバーの女生徒が叫んだ──が、

拳が命中するその瞬間、《ファフニール》は背後を見ることなく回避した。

 

今のは攻撃を察知してとっさに動いたって感じじゃない……動きに無駄がなさすぎる。

 

ライフルを構えて光弾を放ち、ゴーレムの脇に数発が命中した。

ゴーレムはもう一方の腕で攻撃を仕掛けるが、クルル先輩は動かない。

 

「クルルシファーさん! 避けて!」

 

ルクスさんが声をあげるが、先輩は微動だにしない。

《ファフニール》へゴーレムの拳が迫る。

──が、当たる直前でぴたりと止まった。

 

その隙をついて、再びライフルのトリガーを引いた。

だが、攻撃を命中させても、ゴーレムはびくともしない。

 

「僕も行きます! やっぱりライフルだけじゃ倒せない。協力しないと──」

 

ルクスさんが援護をしようとすると、竜声を介してクルル先輩の声が聞こえてくる。

 

『その必要はないわ。もうすぐ倒せそうだから』

 

その言葉をきいて、俺は瞬時にその意味を理解する。

ゴーレムの両脇、肘、手首の関節部分が凍結し、動きを封じられている。

 

「あれが《ファフニール》の特殊武装──《凍息投射(フリージング・カノン)》だ。基本は高性能ライフルと同じだが、あの武装は射撃箇所を凍結させる。防御すればその部位ごと凍らされる厄介な代物だ。あいつと模擬戦をする場合は、攻撃は避けるしかないんだ」

 

リーシャ様は避けるしかないとは言っていたが、クルル先輩の精密射撃から逃れるのはかなり難しそうだ。

ほぼ不可能といってもいいだろう。

 

「ちなみに、《ファフニール》の神装は、《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》という、未来予知の能力らしい」

 

なるほど……

その神装をつかって、さっきから敵の動きをかわしつつ、

一方的に攻めれたのか。

 

先輩は最後に胸部を凍らせると、ゴーレムは暴れ出すが、自重と膂力のせいで、関節が崩壊してきている。

 

グォ……ァアアアアアッ!

 

突然ゴーレムが咆哮を上げた。

同時に巨大な頭部がぱっくりと開き、そこにあったクリスタルのような部分から、

《ファフニール》に向かって光線が飛び、爆発が起きた。

 

離れていた俺たちのところにまで、爆風と衝撃が及ぶ。

ルクスさんが救出に向かうが、爆発による白煙の中から光弾が飛び、ゴーレムの凍った胸部を撃ち抜いた。

白煙が晴れて、《ファフニール》の姿が見えてくる。

よく見ると、《ファフニール》の前面に青白く光る八角形の盾が七つ、展開されていた。

 

「あれは《ファフニール》のもうひとつの特殊武装、《竜鱗装盾(オート・シェルド)》だ。敵の攻撃に反応して、自動で本体を守る、防御型武装。通常の障壁よりも何倍もの頑強さを持っているそうだ」

 

この前の反乱軍との戦闘のときはちゃんと見ていなかったが、

クルル先輩もなかなかの実力者のようだ。

単騎で幻神獣を圧倒している。

 

「しかし、あれほど神装と特殊武装を使いこなせるのは、クルルシファーの適性値が関係しているんだろうな?」

 

「適性値、ですか?」

 

「ああ。アイツの機竜適性値は、この学園の女生徒の中でもズバ抜けてたかいんだよ。普通なら、ありえないほどの数値なんだ。そういう意味じゃ、お前もかなり不自然なんだけどな」

 

そう言って、リーシャ様はルクスさんに視線を向ける。

そういえばルクスさんの適性値は並の女性よりも遥かに高いってアイリが言ってたな。

 

因みに、俺の適性値は男の中では割と高く、女性の平均適性値より少し低い程度だそうだ。

世界的に見ても珍しいそうだが、全くいないわけではないらしい。

 

リーシャ様の話を聞きながら、戦闘の様子を見ていたが、

ついにゴーレムの胸部を《ファフニール》の連射で破り、核を撃ち抜いたらしい。

ゴーレムが崩れ落ちる。

凍結していた部位が砕け散り、土埃が高く舞い上がる。

 

それを見て騎士団の女生徒たちが歓声を上げる。

だが、クルル先輩は、どこか思い詰めた様子で『箱庭』の外壁を見つめていた。

 

「じゃあ──このまま、遺跡に降りるわね」

 

先輩がさらりと、そう言った。

 

「ま、待てクルルシファー!? 探索するのは、三和音(トライアド)とわたし、ヨシノ、ルクスだけの予定だったはずだ!」

 

遺跡調査には、新たな幻神獣の出現という危険も伴う。

故に、少数精鋭で遺跡に侵入し、外部にも実力者を残し、緊急時に備える。というのが、本来の作戦だ。

なので調査には、まだ戦っていない余力を残しているメンバーが、参加するべきだが──。

 

「私はまだ余裕があるわ。なら、構わないでしょう?」

 

ゴーレムが出現したときもそうだったが、先輩はどこか焦っているように見える。

何故だ?

 

『みんなっ! 気をつけて──何か来る!』

 

《ワイアーム》を纏ったティルファー先輩が警戒の声を上げる。

 

『レーダーによる敵影を確認。新手の幻神獣です』

 

《ドレイク》のノクトが続けた瞬間、それが見えた。

 

「あれって、確か──」

 

「ディアボロス……か!」

 

空に、異形の悪魔が浮いていた。

 




なんか最近、私のスマホで「今さっき」と入力すると、
予測変換で「今殺気」って出るんですよね。

私のスマホはいつから漫画の登場人物になったのでしょうか?
それとも、私には見えない何かを察知しているのでしょうか?

とりあえず怖い(どうでもいい)。
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