最弱無敗の弟子   作:雨夜狐

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EpisodeⅡ‐8 第六遺跡 ─箱庭─ Ⅱ

 

立ち上がった大熊をゆうに越す巨躯と、赤茶色の皮膚、そして巨大な漆黒の翼。

短剣ほどの牙を覗かせ、凶悪に歪める、異形の悪魔。

毒霧のような紫の吐息を漏らし、血走った眼球を時折剥いて、舌なめずりをしている。

 

現れた幻神獣(アビス)はゆっくりと、俺たち騎士団(シヴァレス)のいるほうへ距離を詰めてくる。

 

「あれって、確か──」

 

「ディアボロス……か!」

 

リーシャ様が眉をひそめて叫ぶ。

 

ディアボロスは、ガーゴイルと同じ飛行型だが、それより数段危険な中型の幻神獣だ。

めったに出現しない種類で、俺も一度だけしか戦闘経験がない。

メンバーのほとんどが見るのは初めてだろう。

 

俺は纏っていた《ドレイク》を解除し、《八岐大蛇(ヤマタノオロチ)》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜く。

 

「──ギエェァアァアアエイアァァッ!」

 

絶叫のような唸り声を上げ、幻神獣は双眸を光らせる。

団員のほとんどが反射的に身を竦めたとき、ディアボロスは空を蹴った。

 

「シャァアアッ!」

 

大気が弾けるような突風を起こし、爆発的な速度でノクトに飛びかかる。

 

「──ッ!! ノクト!」

 

ノクトを助けようととび出すが、召喚した《オロチ》との接続で少し出遅れた………!

騎士団のメンバーたちも反応するが、追いつけない。

ノクトに向かって、鋭く豪腕が振り下ろされた。

 

 

───キンッ!

高い金属音が響く。

ブレードを盾にして、ディアボロスとノクトの間に、ルクスさんが立ち塞がっていた。

 

「ルクス……さん!?」

 

「いいから──逃げて!」

 

ルクスさんの邪魔になることを悟ったノクトは慌てて飛び退く。

先ほどの一撃を受け止めて、ルクスさんのブレードにはヒビが入っていた。

その状態から、ディアボロスは剛力で押し潰そうとしている。

ブレードのヒビが亀裂と化す。

 

「……チャージ Level 20──ショット!」

 

ルクスさんが既に動いていたことに気がついていた俺は、

緋色の巨大な大砲に変化した《オロチ》の特殊武装《八塩折(やしおり)》を構え、

幻神獣へ向けて、溜めたエネルギーを放つ。

《八塩折》の砲口から(あか)い、光線のような灼熱の炎を射出する。

それを察知したディアボロスが、もう片方の腕で、

ルクスさんの《ワイバーン》を殴り、その反動で後方に跳ね、回避する。

同時に、ノクトを助けるために接近していたシャリス先輩の背後に回り込んだ。

 

「何ッ……!?」

 

シャリス先輩が振り向きながらブレードで斬りつける──が、ディアボロスに右手でつかみ止められてしまった。

 

「く──!?」

 

武装をつかまれ、シャリス先輩の判断が鈍った。

その隙をついて突き出された悪魔の左腕が、パキンッと、凍結した。

 

《ファフニール》の《凍息投射(フリージング・カノン)》による凍結に戸惑った隙に、シャリス先輩はつかまれた剣を捨て、幻神獣の間合いから脱する。

同時にディアボロスも距離を取り、睨み合う。

 

 

「──さて、そろそろオレの出番かな」

 

バルゼリッドが俺たちよりやや後方で、《ワイアーム》の接続を解除し、新たな機竜を召喚する。

あれが神装機竜《アジ・ダハーカ》か……。

 

「ふ、はははははッ!」

 

バルゼリッドの哄笑が響き、両肩に連結されていたキャノンが動く。

二つの砲口が紫の光を帯び、火を噴いた。

ディアボロス目掛けて二筋の閃光が襲いかかる──が、ディアボロスは紙一重で回避した。

 

「どうだ、没落王子。このオレと勝負をしてみないか? あの幻神獣を、どちらが先に倒せるのか──。お前がもし、オレより先に倒すことができたら、その時点でお前たちの勝利にし、決闘の約束を取り下げよう」

 

「戯れ言はよせ。バルゼリッド」

 

リーシャ様が険相を見せて割り込んだ。

 

「これはお遊びの狩りじゃない! これ以上余計な真似をする気なら、わたしがお前をぶちのめすぞ」

 

バルゼリッドはリーシャ様の言葉を軽く流し、続ける。

 

「自信がないのか? ルクス・アーカディアよ」

 

「いい加減に、ふざけた真似はやめてもらえるかしら?」

 

戻ってきたクルル先輩が真剣な声で割り込んだ。

 

「つれない態度だな、我が未来の妻よ。だが、それでこそ、従えがいのあるというものだ」

 

バルゼリッドはそう言いながら、《アジ・ダハーカ》の腕を《ファフニール》の肩にそっと置く。

先輩は静かにそれを振り払うと、深呼吸をひとつして、

 

「あなたより先に私が敵を始末するわ。それなら、問題はないでしょう?」

 

涼しげな表情で言い切った。

 

「クルルシファー! 無茶はするな! 一度退いて態勢を立て直す!」

 

「平気よ。今度こそ──仕留めるわ」

 

クルル先輩は、ディアボロスに向かって飛翔した。

接近すると同時に、《凍息投射》を構えて幻神獣を狙う。

──だが、

 

「……先輩!?」

 

様子がおかしい。

交戦の瞬間、急に《ファフニール》の動きが止まった。

先輩の動揺した様子から、予想外のことが起きていることがわかる。

更に、ライフルの銃口がディアボロスの動きを追いかけるように動いている。

神装の未来予知を使えば、追いかける必要なんてないはずだ。

……神装が使えないのか……?

 

ディアボロスはこの隙を見逃さず、《ファフニール》に向けて炎を噴き出した。

 

「────」

 

反射的に撃った《凍息投射》の冷気を打ち消し、灼熱の炎がクルル先輩に迫る。

 

「危ないッ!」

 

とっさにルクスさんが先輩を突き飛ばす。

なんとか炎に巻き込まれずにすんだルクスさんを、ディアボロスが追撃しようと迫る。

ディアボロスの拳が、《ワイバーン》に直撃する

──その直前で、《八塩折》を翼に変形し、さらに神装《(ディザスター)》を使った俺の《オロチ》が、

最高速で飛んでディアボロスの前に割り込み、通常武装のブレードで、拳を受ける。

さらにもう一発、幻神獣の蹴りを受ける。

 

「ぐ……!」

 

一発一発が凄まじく重い。

なんとか受け切れたが、たった二回の攻撃でブレードがヒビだらけになったぞ。

なんちゅうパワーだ。

 

別のブレードに持ち替えて、もう一度ディアボロスに向かって飛翔する。

神装により、飛行速度が大幅に上昇したため、すぐに追いついた。

敵の攻撃をかわしつつ、こちらはブレードや、

神装で翼状の刃に変化したもうひとつの特殊武装《叢雲(ムラクモ)》で何度も攻撃を仕掛ける。

………だが、

 

「──ッ!」

 

うまくかわされ、大きなダメージをあたえられず、神装の制限時間、一分が経過して元の翼と大刀に戻る。

あと五分経つまで、翼に変形した《八塩折》での神装は使えない。

 

俺が幻神獣から離れた直後、騎士団のメンバーがディアボロスに集中砲火を浴びせるが、

滑らかな飛行動作で全てかわされた。

 

「──やれやれ、やはりオレの助けが必要じゃないか」

 

地上にいたバルゼリッドの《アジ・ダハーカ》から、砲撃が放たれる。

ディアボロスは巨体に見合わない機動力でかわす──が、

 

「グアアァッ!?」

 

その胸に一本のハルバードが、突き立っていた。

 

「………え?」

 

その場の全員が呆気に取られる。

《アジ・ダハーカ》がハルバードを投擲するのは見えていた。

だが、幻神獣がいたのは空中で、周りに障害物などない。

かわす予測はできても、かわす方向まで予測できないはず。

《ファフニール》なら、神装《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》を使って予測できるが、

バルゼリッドはどうやって……?

 

「この勝負──オレの勝ちだな? 没落王子よ」

 

バルゼリッドは、ルクスさんとクルル先輩を見て満足そうに微笑んだ。

 

「クハハハハッ! やはりこのオレにかなう者などいなかったな、ルクス・アーカディア」

 

バルゼリッドが耳障りな哄笑を響かせる。

 

「まだ気を抜くなッ!」

 

リーシャ様の声が聞こえてくる。

致命傷を負って、悶絶してたディアボロスの胸が、いきなり倍以上に膨らんだ。

 

『全員、障壁を最大出力だ!』

 

再び竜声を介してリーシャ様の声が聞こえた。

そして、幻神獣の身体に亀裂が入り、光を帯びた。

幻神獣の中には、自爆を行う個体が数種確認されている。

ディアボロスもそのひとつらしい。

以前戦ったときは、確か……跡形もなく消し飛ばしたんだった。

自爆する可能性を予測してなかった。

 

リーシャ様の指示通り、全員が防御の態勢をとった。

いや、ルクスさんの隣で、クルル先輩の《ファフニール》がガタガタと震えだした。

特殊武装の《竜鱗装盾(オート・シェルド)》が機体の周囲から落下していく。

これは……使い手の消耗による、制御の混乱──暴走だ。

 

「クルルシファーさんッ!?」

 

ルクスさんが叫んだ直後、幻神獣の身体が閃光と共に爆発した。

爆風と衝撃で、息ができない。

内臓が押し潰されるような感覚の中、背後の遺跡(ルイン)に異変が起きた。

ヴゥゥゥン!

という不思議な音と共に、遺跡全体が光りだした。

直後、身体全体が光に包まれ、そして───

 

 

 

   †

 

 

 

「……っち! シノっち!」

 

「ん……。んん……?」

 

身体を揺すられ、独特なあだ名で俺を呼ぶ声に目を覚ますと、

ティルファー先輩とシャリス先輩の顔が見えた。

 

「ヨシノ君、大丈夫か?」

 

シャリス先輩に言われて自分の身体を確認するが、怪我とかはなさそうだ。

とりあえず全身痛くてバッキバキだが、これは幻神獣の爆発の衝撃と、

機竜の操作による疲労のせいだろう。

ディアボロスとの戦闘で、結構無茶な飛び方したし。

 

「はい。怪我はありません。大丈夫です」

 

そう答えながら起き上がって辺りを見回す。

所々に生えている木と、空……いや、天井?からの柔らかな光。

なんというか、森の中……みたいな感じだな。

 

「ここは、もしかして──」

 

「ああ、第六遺跡『箱庭(ガーデン)』の中だよ」

 

「遺跡が光ったときに、一緒に引き込まれちゃったみたいだね。なんでそうなったのかはサッパリわかんないけど」

 

なるほど、本来の作戦とは違い、メンバーはバラバラになってしまったが、

『箱庭』内部への侵入は成功したのか。

 

「さて、手順通りならこの後は、中心地の祭壇を目指して行動。その後、祭壇の中で最大二時間調査を行い、終了後は内壁の門が開閉するときを待ち、外へでた後、学園に帰還──だったな」

 

シャリス先輩が作戦内容を声に出して確認する。

『箱庭』の出入り口の門は、各壁際にあり、一定時間の経過で門が開閉し、同時に外側のものは引き込まれ、内側のものは排出されるそうだ。

 

「じゃあ、もうじき暗くなりそうですし、今晩はここで野営して、中心の祭壇へは明日になってから向かいましょう」

 

この『箱庭』はどういうわけか、外の時間と連動して内部の明るさが変化するらしい。

 

「そうだね。では各自野営の準備に取りかかろう。ヨシノ君は薪の調達を頼む。私とティルファーは飲み水を確保してくる。では、一時解散といこうか」

 

シャリス先輩の指示で解散し、各自薪と飲み水を集め、たき火をおこし、

調査用の道具などが入った鞄から、非常食に持ってきていた干し肉とパンを取り出し、簡単に夕食を済ませた。

 

「さて、そろそろ見張りを決めて順番に眠るとしようか」

 

「はい。ですがその前に辺りの様子を調べますね」

 

そういって《ドレイク》を纏い、周囲に幻神獣などの生体反応がないかレーダーを使って調べる。

 

「………特に異常はないですね」

 

「そっか、ありがとね。シノっち。それじゃあ見張りの順番どうする?」

 

「俺が最初に見張りやるんで、お二人は寝ててください」

 

機竜の接続を解除しつつ、俺が言うと、

 

「いや、君が先に寝るべきだ。幻神獣との戦闘で一番体力が消耗しているのは君だ。今も辛いんだろう? 無理はするな」

 

即反対された。

見栄張って隠してたけど、気付いてたのか。

 

「…………わかりました。でもよくわかりましたね? 一応隠してたつもりだったんですけど」

 

「それはほら、オンナの勘ってやつ?」

 

「オンナの勘だな」

 

オンナの勘すげぇ。

けど怖ぇ。ヘタに隠し事できん。

 

「じゃあ、最初の見張りは私がやるね」

 

「ああ、頼んだよ。ティルファー」

 

「任せて。じゃあ二人とも、おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

そう言って俺とシャリス先輩は簡易テントの中で横になる。

 

「言い忘れていたが、ヨシノ君」

 

「はい?」

 

「私を襲うのは構わないが、作戦に支障がでないように頼むよ?」

 

「襲いませんから!」

 

構わないの!?

ってか、そんな体力残ってねぇよ。

いや、残ってても襲わないけど。

 

「そ、そこまで否定されると、女としてはちょっとショックなんだが………」

 

……めんどくせぇ。

 




遺跡調査なげぇ。
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