「二人とも、起きてください。朝ですよー」
『
明け方から見張りを担当していた俺は、辺りが十分明るくなってから、
シャリス先輩とティルファー先輩を起こす。
昨日残しておいた食事をとり、荷物をまとめてから中心部にある祭壇へと向かって歩き出す。
一晩寝て楽になったとはいえ、身体に疲労が残る今は、
緊急時のために温存しておく必要があるので機竜は使わず徒歩で向かう。
歩き続けて数十分後。
遠目に、円形に並ぶ白い円柱が見えてきた。
「シャリス、祭壇ってアレのこと?」
「ああ、そうだ。なんとか無事に到着出来そうだな」
近づくにつれて、祭壇全体の形状がはっきり見えてくる。
円形の床の周囲に、さっき見えた白い円柱が立ち並び、
中央の台には、不思議な光を帯びた、銀の玉石が載っている。
「………?」
人の気配を感じ、近くの木に視線を向けると、
その後ろから女の子が出てきた。
装衣越しにはっきりとわかる、そこそこ大きく形のいい胸と、
いい感じに細く、とても柔らかそうな身体。
身長は俺よりも少し高いな。
背中まで届く長い茶髪と、明るいブラウンの瞳。
まだ幼さが抜けきっていない感じだが、顔はかなり可愛い。
歳は見た感じ俺と同じぐらいだな。
「キミ、ヨシノ・クラウディウスくんだよね?」
「アンタ、誰? 俺になんの用だ?」
「ワタシはベル。ワケあって、キミを殺すように言われてるの」
「どういうワケか知らんが………そんな簡単に俺を殺せると思うのか?」
「ちょっと苦戦するかも……でもまぁ、いけると思う」
「“ちょっと”か………。えらい自信だな」
「うん、まあね」
「やれるもんなら、やってみなよ」
そう言って俺は素早く
神装機竜《
そして、目の前の少女も俺とほぼ同時に機竜を召喚していた。
彼女が纏うのは、炎のような朱い装甲で覆われた、飛翔型の神装機竜。
その手には、不思議な模様が入った黒い曲刀が握られている。
「ヨシノ君!」
「二人は先に祭壇へ行っててください」
「狙われてるのはシノっちなんだよ?!」
「だからですよ。彼女の目的は俺一人だけです。引きつけとくんで作戦を優先してください」
「………わかった。だが無茶はするな」
「わかりました」
シャリス先輩とティルファー先輩が祭壇へ向かうのを見送ってから、正面に向き直る。
「お待たせ」
「ううん。でも、良かったの? 三対一ならもう少し勝ち目があったでしょうに」
「ベルって言ったっけ。さっきのアンタの言葉、結構ムカついたんだよね。だから──」
「だから、一対一でワタシを倒したい? ふふっ、面白いねキミ。それじゃあ、行くよ!」
二つの神装機竜が同時に飛び上がり、空中で大刀と曲刀がぶつかり合う。
続けて《
今度は距離を取ってキャノンを構えるが、
向こうは既に
迫る大量の光弾を《叢雲》でそらし、キャノンによる
「《八塩折》第二形態:
地上に降り、緋色の大砲になった《八塩折》で炎弾を発射する。
「───!?」
驚いたことに、ベルは俺が撃った炎弾を、
さっき俺がやったのと同じようにキャノンで相殺して、こちらに迫ってきた。
至近距離でもう一発炎弾を撃つが、やはり同じように防がれた。
曲刀が振り下ろされる。
だが俺は炎弾を発射した反動で動けない───
「───ッ!?」
と見せかけて『
そこへ、20%まで溜めた《八塩折》のエネルギーを一気に放つ。
(チャージ Level 20──ショット!)
「きゃっ」
光線状の炎が相手のキャノンを破壊し、機竜が吹っ飛んだ。
舞い上がる土煙の中からベルの機竜がゆっくりと飛んでくる。
「いたたた。なかなかやるねぇ。えっと……こう?」
機竜が急加速して──
「───ッ!!」
キンッ!!
と激しい金属音が響く。
今のは、神速制御!?
とっさに俺も神速制御で防いだが、危なかった。
いや、それよりもさっきの発言……もしかして──
「い、今の……初めてやったの?」
「え? うん、キミがやったのを見よう見まねで」
マジかよ……。
神速制御を見よう見まねで使うとか、ありえんだろ……。
俺でもルクスさんに教わってから、まともに使えるようになるまで2ヶ月ちょいかかったんだぞ。
たぶんさっきの滅撃も見てやったんだろう。
この戦い、ヘタに技を見せると盗られるぞ。
見せるなら、一撃で倒さないと……。
「今、“一撃で倒さないと”……って考えたでしょ?」
何でわかるんだよ。
………いや、彼女と戦えば必然的にそういう思考になるか。
「残念だけど、ワタシの神装機竜《ナルドブレア》はそう簡単には倒せないよ」
いや、今苦戦してんのは機竜の特性じゃなくてお前自身なんだが……。
「《
ベルが呟いた瞬間、朱かった《ナルドブレア》の装甲が黒く染まる。
あれがあの機竜の神装か?
装甲の色以外に変わったところは見られないが……。
神装能力がどんなものかはわからんが、厄介なことをされる前に叩いておこう。
「《八塩折》第五形態:
空中の《ナルドブレア》に向かって飛翔し、
曲刀を持っていない左側から《叢雲》で斬りかかる。
だが、
「………?」
彼女は何故か身動きせず、攻撃をかわそうとも防ごうともしない。
《叢雲》の刃が、《ナルドブレア》の黒い装甲を斬り裂く──
ガンッ!!
「えっ!?」
ことはなく、鈍い音と共に弾かれた。
《ナルドブレア》の神装は装甲の硬化か……!
隙をついて、右手の曲刀が鋭く振り下ろされる。
(《八塩折》第六形態:
左腕の籠手で曲刀の側面を叩き、軌道を逸らしてかわす。
曲刀に《オロチ》の左足をかけ、曲刀を戻そうとする力を利用して、跳び上がる。
更に、右足で《ナルドブレア》の肩を踏み、もう一段跳び上がる。
そして、
「《
空中で《オロチ》の神装を発動し、《叢雲》を上に投げ、
踏み台にしたことでバランスを崩した《ナルドブレア》に両手を向ける。
籠手に変形した《八塩折》第六形態は振動を操る。
手で触れた固体を振動で破壊したり、
空気を振動させて音を出し、ソナーのように使うこともできる。
そして、神装《災》を使った場合、《八塩折》の能力は格段に上昇する。
両手の周りの空気を振動させて爆音を発生させ、それを手を向けた方向へ放つ。
ゴォォオオオオォンッ!
地面を揺らす程の爆音と衝撃波が《ナルドブレア》を襲い、機竜が吹っ飛んで地面に激突する。
落ちてきた《叢雲》をキャッチしてから神装を解除して、
《八塩折》を翼に変形し、飛んで落下地点に降りる。
「いやぁ、スゴかったね……。まさか神装があんなにすぐ破られるとは思わなかったよ」
土煙の中に機竜が立ち上がる姿が見えた。
装甲の色は元の朱に戻っている。
「いいね。想定以上だよ、キミ。全力で戦っても大丈夫そうだね」
コイツまだ全力出してなかったのかよ……。
冗談キツいぜ。
「オーケー。俺も久しぶりに、全力出したくなってきた」
「ふふっ、そうこなくちゃ」
そう言った途端、ベルの表情が真剣なものに変わる。
「───ッ」
ものすごいプレッシャーだな。
ちょっとでも気を抜いたら一瞬で押し潰されそうだ。
「行くよ! 《陰りの黒鎧》!」
言うと同時に神装を使って飛びかかってきた。
曲刀を《叢雲》で受けながら《八塩折》を翼から大砲に変化させ、更に神装を発動する。
ベルは警戒したのか、それとも本能的にマズいと感じたのかサッと飛び退く。
《叢雲》の形状が変化し、刃が消えて柄だけの状態となった。
そして、ベルが飛び退きざまに投擲してきたダガーを抵抗無く斬り裂いた。
「──!!」
ベルが熱で赤くなってるダガーの切断面を見て驚く。
「退いたのは正解だったな。この刃はあらゆる物を灼き斬るんだ。たぶん、そのやたら硬い装甲も簡単に斬れるぞ」
話しながら《ナルドブレア》に斬り込む。
ベルはそれをかわして、下段から斬り上げた。
機竜の上体を反らしてかわすが、曲刀の切っ先が《オロチ》の左腕を掠めた。
だが同時に俺が放った一撃が、《ナルドブレア》の左腕の装甲を小さく抉る。
お互い何度も鋭い一撃を打ち込み、それをギリギリかわし、
それぞれの機竜の装甲に少しずつ小さな傷が増えていく。
「ふふふっ……ヨシノくん、最高だね。キミは」
こんな状況で笑ってやがる。
このクレイジーさんめ。
武装の性質上、なんとかギリギリこちらが押しているが、
《オロチ》の神装《災》の制限時間は一分、残り時間は───十秒。
曲刀の一撃を、焔刃を小さく爆発させてその推進力を利用してかわし、
そのまま後ろに回り込む。
「くっ……!」
小さく呻き声をあげるベルに向かって鋭く《叢雲》を斬り上げる。
だが飛翔してかわされた。
「チャージ Level 70──ショット!」
「《
俺とベルがほぼ同時に叫ぶ。
両手で《叢雲》の柄を離さないようしっかり握って刃の先を《ナルドブレア》に向ける。
向こうでは光の粒子が集まり《ナルドブレア》左腕と一体化した巨大な砲身が出現した。
《叢雲》の焔刃が消えて、攻撃の合間に少しずつ溜めていたエネルギーが、
極太の柱のような炎となって柄の先から放出される。
あまりの威力にこっちがぶっ飛びそうになるが、
《オロチ》の脚や背面、肩から勢いよく炎を噴射してそれを抑える。
左腕の砲口から巨大な火球が射出され、緋い激光とすれ違うようにこちらにとんでくる。
だが、今の《叢雲》はあらゆる物を斬り裂くことができる。
炎だって例外ではない。
溜めたエネルギーを放出し、再び焔の刀身が出現した《叢雲》を握りなおし、
間合いに入った火球を焔刃で切り裂く。
「───!!」
その寸前で、《叢雲》が元の刀に戻った。
ここで時間切れかよ──!?
ドドオオオォォォン!
お互いの砲撃がほぼ同時に相手に直撃する。
爆音と炎に包まれた直後、後ろに勢いよくぶっ飛ばされた。
「うぅ……」
いってぇ……。
火球が当たる直前で障壁を最大出力で展開したおかげで、俺自身は無事だが、障壁は破られた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ベルが息を切らしながら、こちらへ飛翔して、
膝をついている《オロチ》の前にゆっくりと降り立った。
神装で黒かった装甲はところどころ朱くなっているが、
まだ戦えそうな感じだな。
俺と同じように障壁を展開したのに加え、
《ナルドブレア》の神装《陰りの黒鎧》による装甲強化のおかげで、
《オロチ》よりもダメージが少なくすんだようだ。
対して俺は体力の限界。
《オロチ》より後ろにとばされた二つの特殊武装を取りに行く余裕もない。
あと三回ほど激しく動けば機竜の接続が強制的に解除されるだろう。
それを証明するように《オロチ》がガタガタと震えだした。
機竜が暴走する前兆だ。
そして──こんな絶望的状況で、見えたぞ。
状況を覆す一手が。
「暴走か……。楽しかったのに、残念だなぁ」
こっちは全然楽しくないっての。
「それじゃあ、サヨナラ」
曲刀が鋭く振り下ろされる。
俺はそれを“しっかりと”見て──
(『神速制御』──『
神速制御で左腕を動かし、左手だけで白刃取りのように曲刀を掴む。
掴むだけだ。勢いは殺さず受け取る。
機竜の左手で受け取った力を腕──背面、そして俺の身体から右腿──機竜の右脚へと最短距離で伝達し、蹴りを放つ。
《オロチ》の右脚が、《ナルドブレア》の曲刀を握る両手を掠め──両肘から先が吹っ飛んだ。
「───!?、!?」
ベルは………あの様子だと何が起きたのか理解できてないみたいだな。
『廻撃』と名付けたこの技は、俺の家に伝わる奥義のひとつ、
相手の攻撃を受け、威力は殺さず自分の身体を伝達させ、
相手に返すカウンター技『
それを、機竜で行う。
この前見たフィルフィ先輩の格闘術を参考に、
ウチに伝わるいくつかの技を機竜でも使えるようにアレンジしたのだ。
しかし、廻撃を含めたそれらの技は、つい最近思いついて練習し始めたばかり。
機体で力を伝達させるコツを掴みきれていないこともあり、威力を100%伝達しきれず、
40%程は分散してしまう現状未完成の技。
その上、ただの蹴りではまともなダメージは与えられない。
そこで暴走した機竜のエネルギーを完璧に制御し、超威力の一撃を放つ奥義、
強制超過で《ナルドブレア》の腕を蹴飛ばしたのだ。
そして、三つの奥義を連発したことで、僅かに残っていた体力が完全に底をつき、《オロチ》が強制解除された。
もう、限界だ。
立つことができず、視界がゆっくり傾いていく……。
柔らかい何かに全身が包まれる感覚を最後に、俺の意識は途絶えた。
[今回登場した神装機竜について]
覚醒炎翼竜 ナルドブレアです。
ゼルダの伝説 トワイライトプリンセスに登場するボスですね。
神装、特殊武装の名前は私が勝手につけました。
神装《陰りの黒鎧》、読み方はダークシェイド
能力は装甲が硬くなる。
トワプリのナルドブレアは、鎧を纏って登場し、ボス戦の途中で剥がれ落ちて本来の姿になるのですが、
「逆に鎧を纏えばいいんじゃね?」
という発想で神装にしました。
特殊武装
《陰りの曲刀》:トワプリに登場する
ゼルダ無双ではザントの武器として登場しました。
作中では曲刀に分類されているのでそう表現しましたが、正直曲がってない気が………。
《炎竜咆》:読み方はヴァルブラスト。この話では火球攻撃しかしませんでしたが、火炎放射もできます。
トワプリや無双での、火炎、ブレス攻撃をイメージした武装です。
主人公機である《八岐大蛇》の紹介を先にしようかな~とも考えたんですけど、
《八塩折》の能力がまだ全部登場していないので、それはまた今度ということで。
それから、二章のタイトルを
「咎人の依頼」から「超硬の炎翼竜」に変更しました。
タイトルが思いつかなくて、暫定的に「咎人の依頼」としたんですが、
アイリあんまり出てこないし、たいした依頼してないし……。