最弱無敗の弟子   作:雨夜狐

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EpisodeⅢ‐2 王都への帰還Ⅱ

 

「どうぞ」

 

「お、おじゃましまーす」

 

少し緊張しながらベルの家に入る。

他に人の気配は……なさそうだ。

部屋にあるのは、ベッド、テーブル、箪笥、本棚といった家具のみ。

なんか、思ってたより割とサッパリしてるな。

女子だからもっとこう……可愛い何かがおいてあったり、

綺麗な何かが飾ってあったりするかと思ってたわ。

いやまあ、コレは俺の勝手な想像であって、その“何か”についてはまったくわからんのだが。

部屋の中をいろいろ見回していると、ベルがティーポットとカップを載せたトレイを持って来た。

 

「あっ、あんまりいろいろ見ないでね? 恥ずかしいから」

 

じゃあなんで部屋に入れたんだよ。

 

「いやー、ヨシノくんがいきなり「お話しようぜ?」なんてキメ顔でナンパしてくるからビックリしたよ」

 

「お前こそ「じゃあ、ウチ来る?」って何だよ。いろんな意味でもうちょっと警戒心持とうよ。あとキメ顔は余計だ」

 

それにナンパじゃねーし。

 

「で、あんなとこで何してたんだよ?」

 

「えっと、夕食の買い出しに行くところだったんだけど、近道しようとしたらあの人たちがいて……」

 

「……あんな奴ら、お前ならなんてことないんじゃないの?」

 

「いやぁ、素手じゃちょっと……機攻殻剣(ソード・デバイス)があれば良かったんだけど、機竜の修理中で今は手元にないし」

 

ベルはそう言いながら、誰かさんのせいで──と言いたそうな目で俺を見る。

待って、俺が悪いの?

 

「不用心なヤツだな。身を守るものがないならあんなとこ通るなよ」

 

「……もしかしてワタシのこと心配してくれてる?」

 

「はぁ? なんでそうなる」

 

「だって、敵であるはずのワタシを助けてくれたし。今もお説教みたいなことしてるし。普通しないよ?」

 

「そう言われてもなぁ。お前が敵だからって、その……酷い目にあっていい理由にはならないだろ」

 

「そういうもんなのかな? まあその、助けてくれてありがと」

 

「別に──っていうか、お前こそなんで『箱庭(ガーデン)』で俺を殺さなかったんだよ? いやまあ、俺にとってはいいことなんだけどさ」

 

「んー……なんて言うか、気に入ったんだよね。キミのこと」

 

「……?」

 

「あそこで殺しちゃうには勿体無いと言うか、お互いに力をつけてまた戦いたいなって思って」

 

「うわぁ……全然嬉しくない」

 

この前も思ったけどコイツ、戦闘狂気質なんだよなぁ。

強い相手と戦いたいとか、戦っている相手が強いと燃えてくるとかいうタイプ。

厄介なヤツに気に入られちゃったぜ。

 

「ところで、この前は一人だったけどお前には仲間がいるんだろ? 今度はそいつらと何かするつもりなのか?」

 

「いや、言うわけないでしょ。ていうか知らないし」

 

「は? 知らない?」

 

「うん。近いうちに何かするみたいだけどワタシは当分神装機竜が使えないから次の作戦には参加しないし、何も知らされてないの」

 

「…………」

 

作戦内容を悟られないように嘘をついてる可能性もあるけど、

嘘をつくヤツには見えないんだよなぁ。

でもベルのこと、よく知ってるわけじゃないし、う~ん……。

 

「ま、いいや」

 

考えてもわからんし。

 

「さて、俺はそろそろ帰るわ」

 

「ワタシを捕らえないの?」

 

「まぁ、今回お前は被害者だったしな。特別に見逃してやるよ」

 

ラルグリス家の精神矯正法から助けてくれたのもあるし。

 

「今回だけだからな。次戦うときはちゃんと決着つけるぞ」

 

「だね。この間は中途半端な結果になっちゃったし。次は負けないよ」

 

「俺の台詞だっての。そんじゃ、またな」

 

そう言ってベルの家をあとにした。

 

 

 

   †

 

 

 

六竜鱗(シックススケイル)の宿舎に戻り夕食、入浴を済ませて談話室で過ごしていると、

 

「ねぇヨシノ、久しぶりに耳掻きしてあげようか?」

 

ソファの俺のすぐ隣に座ってきたエレンがそう提案してきた。

ついさっき風呂から上がったばかりのようで、肌に触れていないのにまだほんのり身体があったかいのがわかる。

 

「ん、最近やってなかったし、お願いしようかな」

 

「じゃあ、はいどうぞ」

 

エレンは自分の太ももをぽんぽんっと叩く。

 

「失礼します」

 

俺はソファの上で横になり、頭をエレンの太ももに乗せる。

太ももの柔らかい感触が気持ちいい。

 

「それじゃあ、始めるわよ」

「───っ!!」

 

エレンの囁く声が聞こえるのと同時に左の耳に耳掻き棒が挿入された瞬間、全身がゾワッとなった。

久しぶりだなー、この感覚。

耳掻きの腕でエレンに並ぶ人は新王国に一人、いるかいないかぐらいだろうな。

いや、実際に調べたわけじゃな──

 

「んぅっ!!」

 

耳の中をねっとりと攻められる快感に頭の中がまっ白になる。

ヘンな声出ちゃった。

何、コレ……?

 

「えーっと、確かヨシノが弱いのは……」

 

「ぇ……!? ちょ「ここ」──んっ……ぅン!!」

 

………………。

ダメだ、気持ち良すぎて身体に力が入らん。

耳掻きってこんなに激しいものだったっけ?

 

「シノさん……大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですよ?」

 

突然声をかけられそちらを見ると、白髪の美少女がソファに座っていた。

 

「フ、フランか。大丈夫……じゃないかも」

 

シャロもいるじゃん、二人ともいつからいたんだよ。

全然気付かなかったわ。

いや、俺に周りを気にする余裕がなかっただけなんだけども。

 

「そ、そんなにスゴいんですか?」

 

「……うん。スゥッ!!──ゴイ……」

 

喋ってる途中でそれやらないでよ。

 

「き、気持ちよさそう……」

 

やってほしそうな顔してるけどやめといたほうがいいぞ、フラン・レイザース。

気持ちいいのは確かだが、人に見られながらだと超恥ずかしいから。

 

「ちょっとやり過ぎたかしら。ごめんなさい、反応が可愛いからつい♪」

 

つい♪ って楽しそうだなオイ。

ていうかあれで“ちょっと”なのか。

まあ、気持ちよかったし、たまにならイイかも。

人に見られないところで、という条件つきで。

 

 

 

……コレちょっとクセになりそう。

 

 

 

少し落ち着いてから、耳掻きを再開する。

今度は普通にやってくれてるな。

気持ちいいけど、ずっとあんなのやられたら身体がもたねぇよ。

 

「そういえばシノさんはこの1ヶ月間、王立士官学園(アカデミー)にいたんですよね?」

 

フランが少し興奮した様子で聞いてくる。

 

「ん? うん、そうだけど」

 

「その……恋人とか、できたりしましたか?」

ガリッ

「イテッ!」

 

「あっ、引っ掻いちゃった。ごめんなさい」

 

「ん、大丈夫」

 

エレンが耳掻きでミスとは……珍しい。

 

「で、どうなんですか?!」

 

めっちゃグイグイ来る。

フランって普段は控えめな子だけど、恋バナとかになるとめっちゃ食いついてくるんだよなぁ。

 

「いや、恋人はいないよ」

 

「恋人は……ってことは好きな子はできたの?」

ガッ

「い゛っ」

 

エレン、今日は調子悪いのか? まあいいや。

っていうか、シャロもノって来やがったぞ。

クソッ、逃げ場がねぇ。

 

「…………い、言いたくない」

 

「なるほど、いるのね」

 

我ながら最悪のごまかし方だな。

ソッコーでバレたぞ。

 

「まあ、その…………ハイ」

 

「わぁ~! それで、どこまで進んでるんですか?」

 

「……この前、デ、デートの約束……した」

 

「へぇ、案外いい感じじゃない。それから?」

 

「えぇ~……もういいだろ?」

 

「えぇ~……もっと聞かせてよ」

「そうですよ。聞きたいです」

 

仲良いなお前ら。

 

「勘弁してくれ、恥ずかしいんだよ……」

 

そういえば、エレンは話に乗ってこないんだな。

いやまあ、ありがたいんだけどさ。

そういえば……。

 

「……………」

 

「……? エレン、どうした?」

 

何故かエレンの手が止まっている。

不思議に思って視線を上に向けると──

 

「……………」

 

なんか、すごい笑顔だな。

明らかに作り笑いというか、目が笑ってないけど。

 

「エレン……?」

 

「……………」

 

なんで……さっきから無言なの?

 

「あの、エレン……さん?」

 

「……………えい」

 

 

 

   †

 

 

 

翌日、六竜鱗のメンバー全員揃って城の廊下を歩く。

先生──ブラド騎士長の重要な話を聞くために会議室に向かっているところだ。

それにしても──

 

「毎度毎度うっとうしいなぁ、コレ」

 

“コレ”とは、衛兵や使用人とすれ違う度に飛んでくる視線の事だ。

城の中を歩くといっつも注目されるんだよなぁ。

 

「俺たちは新王国の中でも最強クラスの機竜使い(ドラグナイト)で結成されたチームだからな。全員揃っていれば当然気にもなるだろう」

 

俺の独り言に答えたのは俺の右側を歩く、

眼鏡を掛けた灰色の髪のぱっと見頭の良さそうな青年、レイン・ガードナーだ。

 

「最強クラスねぇ……」

 

機竜使いとしての実力にはそこそこ自信あるけど、

俺たちより上に先生、隊長、ルクスさん、姉さんがいるから、

自分が最強クラスとか言われても全然しっくりこないんだよなぁ……。

 

「何の話?」

 

「──っ!!」

 

俺の呟きを聞いていたらしいシャロが突然左耳元で囁いてきた。

反射的に左耳を庇うように手で押さえ、大きく身を引く。

 

「まだ治ってなかったの? ソレ」

 

「………うん」

 

昨日の俺に対する質問責めの直後、

エレンに左耳のウィークポイントを十分間攻められ続け、その結果左耳の感覚が異常に敏感になり、

耳元で囁かれたりしただけで身体が反応するようになってしまったのだ。

 

「ふふっ、昨日のヨシノの喘ぐ姿、なかなか面白かったわよ」

 

「喘ぐとか言うな。気持ち悪い」

 

「そう? 結構可愛い声してたわよ?」

 

「やめてくれ……っとついたな」

 

先頭の隊長から順に会議室の中に入ると既に先生がいて、何かの書類に目を通していた。

 

「ん? あぁ、来たか。全員いるな? それじゃあ始めよう」

 

先生は全員いるのを確認しながら手に持っていた書類をわきに寄せる。

 

「さて、今回お前さんたちにする話はいくつかあるんだが、まず最初に石化が解けかけている終焉神獣(ラグナレク)についてだ」

 

終焉神獣とは世界に七つある遺跡(ルイン)にそれぞれ一匹ずつ存在するという、

超常の力を持った七匹の幻神獣(アビス)のことだ。

 

そのうちの一匹が旧帝国時代に解き放たれ、帝国や他国の領地で大暴れしたそうだ。

各国と協力してなんとか石化・休眠させたらしいが、数ヶ月前からその石化が解けかけているらしい。

 

「その討伐任務の部隊長をクロイツァー家の長男、バルゼリッド・クロイツァーが引き受けるはずだったんだが……なんかいろいろやらかしたらしくて投獄されちまってなぁ」

 

(なんかいろいろやらかしたって、雑すぎやしませんか、先生……)

だが、だいたいどういうことかわかった。

つまり──

 

「その任務を俺たちが引き受ける、ということですね?」

 

「ああ、その通りだ。だが任務に参加するのはお前さんたちだけじゃなくてなぁ」

 

珍しいな、他の機竜使いと合同任務なんて。

まぁ、いくつもの街や村を滅ぼしたっていう敵だからな、

確実に倒せる戦力をぶつけるってことか。

 

「王立士官学園の騎士団(シヴァレス)──その団長と協力して終焉神獣を討伐してもらう事になった。と言ってもまだ候補にあがってるだけで、決定したわけじゃないけどな」

 

まさかここで騎士団の名前を聞くとは思わなかった。

団長って、セリスさんのことだよな。

候補とはいえ、流石学園最強といったところか。

 

「だがなぁ……」

 

「……?」

 

「その団長さん、任務は受けてくれるみたいなんだが、自分一人だけでしとめるって言っててな……無茶だって言ったんだが、聞いてくれなくてよ。とりあえず団長さんにはもう少し考えといてくれって言っといたが、あの感じじゃ答えは変わらんだろうなぁ……」

 

「では、どうなさるんですか?」

 

フランが訊くと、

 

「ああ、実は少し考えたんだが……」

 

意味ありげな笑みを浮かべた先生は言葉の途中で俺の方へ顔を向けた。

(あ、なんかヤな予感……)

 

「ヨシノ。団長さんを説得してくれ」

 

やっぱり、そんなことだろーと思ったよ……。

 

「……一応訊きますけど、なんで俺なんですか?」

 

「お前さん、今は王立士官学園の生徒なんだろ?」

 

「まあ、そうですけど……俺、説得とか交渉とか、そういうの苦手ですよ?」

 

「それは……まああれだ、頑張れ!」

 

超テキトーじゃん!

もしかして、ホントに少しだけしか考えてないんじゃ……。

 

 

それから一時間程して、先生の話は終わり、俺たちは談話室へ戻る。

俺は結局、セリスさんの説得を引き受けることになってしまった。

 

(思ったより早く学園に戻れるのはいいんだけど、大変そうだなぁ……)

 

 

 

   †

 

 

 

翌日、城の敷地内にある六竜鱗専用の機竜整備場で、

整備班に預けてたあるモノを受け取ってから城の敷地を出る。

 

「思ったより遅くなっちゃったな……」

 

この1ヶ月でたまりまくっていた俺の仕事を片付けているうちに、辺りは結構暗くなっていた。

だが、時刻的にはまだ夕方だ。

機竜で行けば日付が変わる前には学園に到着するだろう。

 

「さて、帰りますか」 

 




投稿ペースがだんだん遅くなっていってる気がする……。

き、きっとオリジナルエピソードでちょっと手間取っただけですよ。
そう、次の話はもっと早く投稿できるはずですよ(自縛)

EpisodeⅢ‐1・2は原作二・三巻の間のオリジナルエピソードでした。
次回からは原作三巻の話に入ります。


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