「それでは、本日より五日間、校内選抜戦を執り行います」
早朝の教室、HRが始まると同時に担任講師のリヴェリア先生がそう告げた。
「武官志望の生徒たちは、演習場の掲示板を見て自分の
リヴェリア先生が選抜戦での注意事項を説明する。
そして、一瞬俺に視線を向けてから、説明を続ける。
「さて、今回の選抜戦はヨシノ君・ルクス君グループ対セリスティアさんグループ、二つのグループが対戦し、その結果、勝ったグループの要求を呑む、という特殊ルールとなります。更に、模擬戦は一般生徒戦と
学園長が提案したというこの特殊ルール、細かい勝負形式を決めるのにいろいろ苦労したんだとか。
昨日、ルクスさんたちの担任、ライグリィ教官と廊下ですれ違ったときにボソッと呟いてるのが聞こえた。
仕事増やしちゃってスイマセンねぇ。
「そして、ヨシノ君・ルクス君の主張・要望は『本校への在学』と『
それぞれの二つの主張を通したければ、自分を支持する騎士団メンバーと一般生徒の勝利数が、それぞれ相手の支持者の勝利数を上回らなければならない。
騎士団戦と一般生徒戦。
少なくともどちらかで一勝を取らなければ、俺とルクスさんは確実に学園から追放される。
「説明は以上です。では皆さん、大きな怪我のないよう、気をつけてくださいね」
リヴェリア先生が出て行くと、教室に少女たちのざわめきが広がった。
クラスメイトは「頑張ろうね!」とか「負けちゃダメですよ?」とか、いろいろ声をかけてくれて、俺も毎度それに答えていたが、なかなか終わりそうにないので、テキトーに「外の空気を吸ってくる」と言って教室を出る。
なんとなくルクスさんたちの教室に行くと、扉をノックしてシャリス先輩が入って行くのが見えた。
「失礼しまーす」
少し遅れて俺も教室に入ると、
「あー! 裏切り者ー! シャリスってば、なんでルクっちたちの方につかなかったのさ!」
ちょうどティルファー先輩が頬を膨らませてシャリス先輩に食ってかかっているところだった。
ルールでは学年が違っても、志望すれば支持する対象を変えられるが、シャリス先輩はそのままセリスさんの支持者となった。
──というのは既にティルファー先輩とノクトから聞いていた。
「その件についてはもう話しただろう。私も彼らの味方をしたいのはやまやまだが、いろいろと思うところもあるのでな。それにこうして、こちら側の情報を伝えに来ることもできる。まあ、今回に限っては、セリスから言づてを頼まれたのだが──」
シャリス先輩の一言に、クラス一同が息を呑む。
「彼女は初日の今日から、
……この前の、あの人か。
「対戦するかどうかは運次第だが、二人とも一・二年生の騎士団メンバーと、ペアを決めておいた方がいい。まあ、選択肢はそう多くないと思うがね。では」
それだけ言って、シャリス先輩は立ち去る。
サニアは《ワイバーン》を使用するらしいが、セリスさんは神装機竜の使い手だ。
必然的にペアの相手は、限られてくる。
《バハムート》を使えないルクスさんは特に。
「もちろん、わたしをペアとして選んでくれるよな、ルクス?」
リーシャ様が前に進み出て、小柄な身体にしては大きめの胸を張る。
「……それは、あまりお勧めできないわね」
が、すぐにクルル先輩から、反対の声が飛ぶ。
「あなたの《ティアマト》は確かに優れているけど、長時間の使用にはまだ難があったはずよ。体力のあるセリス先輩が相手だと、その弱点を突かれかねないわ」
という冷静な指摘にリーシャ様は
「むう……!」
と眉を上げる。
「お前だって前回の戦闘で破損した《ファフニール》の修復が、まだ完全に終わってないだろ!? あんな状態で、実力が出せるとでも──」
「あの程度の損傷、たいしたことないわ。それに、セリス先輩の攻撃を防ぐには、私の神装がないと──」
「──お二人じゃ、厳しいと思いますよ」
俺の呟きに、二人の間に散っていた火花が俺のほうへ向きを変える。
「ほう……」
「……参考までに訊くけれど、何がいけないのかしら?」
二人とも、ちょっと頭に来たという感じで鋭い視線を向けてくる。
「《ティアマト》の攻撃は確かに強力ですけど、隙が大きくて、そこを突かれたらかなりイタいし……」
「ぐっ……」
「《ファフニール》の神装と精密射撃は、やろうと思えば無効化・防御できる上に、神装機竜に対しては火力が低く決定打に欠けるし……」
「…………」
「どちらもうまくやれば欠点を補うことは可能でしょうけど、相手は学園最強。俺はセリスさんの戦うところを見たことがないので詳しくは知りませんが、話で聞いた限り
「散々言ってくれるわね」
「まったくだ」
クレームは無視して、話を続ける。
「ということで、ルクスさんのパートナーは俺がやりますねー」
「ちょっと待った!」
俺の言葉にリーシャ様が待ったをかけた。
「お前、わたしとクルルシファーにあれこれ言ってくれたが、本当は自分がやりたかっただけだろ!?」
「……ええ、まあ」
「あっさり認めたわよ……」
クルル先輩が呆れた視線を向けてくる。
「でも、テキトーに言ってるわけじゃないですよ。実力がほぼ同じということは、俺ひとりで抑えることができるということ。その間にルクスさんがもうひとりを叩けば──」
「二対一でセリス先輩を相手できるということね」
「ええ。それに、シャリス先輩を除く三年生の人たちは、《八岐大蛇》の能力や俺がどんな技を使うのか、ほとんど知らないんですよ。シャリス先輩からある程度聞いて知ることはできますが、シャリス先輩もそれら全てを知っているわけではないですし──」
「逆にわたしたちは知られていて攻略されやすい、というわけか」
「はい。騎士団として約一年、一緒にいたわけですから」
「あ、あの……三人とも、ちょっと落ち着いて──」
俺たち三人の間に、ルクスさんが慌てて入ろうとしたとき、
「だいじょぶ。わたしが出るから」
すっと、間隙を縫うように、小さな声が聞こえた。
「えっ……? って、フィーちゃん!?」
「うん。わたしが、ルーちゃんと一緒に戦うよ」
大人しげな声と顔つきなのに、有無を言わせぬ態度のフィルフィ先輩。
「おい天然娘! 勝手に決めるなよ。ここは、総合的に話し合ってだな──」
「そうね。私たちも、その役を簡単に譲る気はないわ」
「そうだ。いっそルクスさんに決めてもらったらいいんじゃないですか?」
俺の提案に、ルクスさんは困った様子で黙り込む。
「はいはーい! 四人ともちょっと落ち着いてー」
膠着状態になりかけたとき、ティルファー先輩が、四枚の細い紙を握ってやってきた。
「こんな感じで、クジ引きを作ってあげたからさ。四人とも恨みっこナシだよ?」
手際いいなーとか思いつつ、四人同時にクジを引く。
結果は──
「くっ……!?」
「……仕方ないわね」
「あらら」
ハズレ。
当たりのクジを引いたのは、フィルフィ先輩だった。
俺とルクスさんの師弟コンビなら確実に勝てると思ったんだが……ま、しゃーない。
……けど、ペアどうすっかな。
リーシャ様とクルル先輩はもう組んじゃったみたいだし……。
となると演習でよく組んでるノクト……かな。
…………
……
ノクトか……
……
…………
ノクトねぇ……
……
…………
気まずいなぁ……
あれからまともに話せてないし……どうしよ。
「シノっち、ちょっといいかな?」
悩む俺にティルファー先輩が声をかけてきた。
「はい?」
「よかったら私とペア組まない?」
ティルファー先輩と、か……。
まあ、今の状態でノクトと組んでもギクシャクしてうまく連携とれそうにないし、それなら先輩と組んだほうがいいか。
「いいですよ」
「よかったー。もし断られたら脅さなきゃいけなくなってたよ」
……なんか今、物騒な単語が聞こえたんだが。
「あの、脅すって、どういう……?」
俺が訊くと、ティルファー先輩は俺にだけ聞こえるように声量を落として、言った。
「……シノっちこの前──王都から帰ってきたとき、私の胸さわったでしょ?」
「───っ!?」
ビックリして心臓が飛び出そうになる。
気付いてたのか、アレ。
「いやあの、あれはわざとではなくて……ごめんなさい」
「ウソウソ、冗談だよ。怒ってないから」
それならまあ、よかった……かな。
「シノっちも男の子だもんね? ガマンできなくなるのもわからなくはないけど、ほどほどにしときなよ?」
全然よくなかった!
「待って! なんでそんな、知り合いの男の子がひとりで処理しているところを目撃してしまったけど“男の子だから仕方ないわよね”と気をつかって妙に優しく対応するお姉さんみたいなこと言うんですか!?」
「なんで例えがそんなに具体的なの!?」
「……昔、幼馴染に──いや、こんな話は今どうでもいいや。とにかく、ペアの出場申請、しに行きますよ!」
「う、うん……」
†
ペアの出場申請をしてから、約一時間後。
控え室の外に、一日目の対戦相手が張り出された。
セリスさん・サニアペアの相手は、リーシャ様・クルル先輩のペア。
「──ペアになれなかったのは残念だけど、私たちが先でよかったわね」
「ああ、そうだな」
周囲を見回すと、一・二年生たちは緊張しているようだ。
たぶん、今まで味方だった『最強』が敵に回ったからだろう。
セリスさんと対戦する二人は……落ち着いてるな。
「わたしたちが先にセリスを倒せば、それで勝ったも同然だからな。というわけで、安心して戦果を待っていろ。ルクス、ヨシノ」
リーシャ様は得意げに胸を張る。
(あまりそういうコト言わないほうがいいんじゃ……)
フラグって言うんでしょ? そういうの。
詳しくは知らないけど。
「それじゃ、行ってくるわ」
「その、二人とも──気をつけて」
ルクスさんが真剣な顔でそう言うと、クルル先輩はくすりと笑みだけを返して、二人は演習場へ向かっていった。