「それでは、校内選抜戦Aグループ二番ペア対、Bグループ一番ペアの模擬戦を開始する。互いに抜剣し、
審判を務めるライグリィ教官の声で、四人は一斉に
まずはサニアが《ワイバーン》を召喚・装着する。
「荒事は得意ではないのだけど、今日だけは本気で行かせてもらうわ」
サニアの宣戦布告に、観客席が微かにどよめいた。
対するリーシャ様とクルル先輩は機攻殻剣を同時に掲げ、
「──目覚めろ、開闢の祖。一個にて軍を為す神々の王竜よ。《ティアマト》!」
「──転生せよ。財貨に囚われし災いの巨竜。遍く欲望の対価となれ、《ファフニール》!」
神装機竜二機の迫力に会場は大きくどよめき、三年生の女生徒は不安がっている。
だが、セリスさんは動揺した様子もなく、
「降臨せよ。為政者の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え、《リンドヴルム》」
セリスさんの背後から、黄金に輝く大翼の巨竜が現れた。
「
セリスさんの身体を瞬時に覆った装甲は、光輪のような両翼をその背に備え、天使の如き神々しさを備えていた。
その右手には、特大の
「二人とも、よく見ておいてください。学園最強と呼ばれる彼女の《リンドヴルム》と、その戦術を──」
「Yes.『
さっき合流したアイリとノクトが緊張を帯びた声で、そう呟く。
「
ライグリィ教官の合図と同時に、四機の機竜が一斉に飛び上がる。
作戦は事前に決めていたらしく、お互い迷いなく動き出していた。
リーシャ様が機攻殻剣を振るうと、《ティアマト》の特殊武装、《
──が、《リンドヴルム》に着弾する直前で、その動きが変化し、急上昇した。
その先にあるのは、サニアの《ワイバーン》。
それに気付いたサニアは、障壁の出力を上げてブレードを構えた。
(──いや、これは……!)
俺が二人の意図に気付いたその瞬間、青白い閃光が、一直線に大気を貫く。
《ファフニール》の特殊武装、《
その弾丸は、着弾した部位を凍結させる能力を持つ。
かわす間もなくセリスさんの眼前で冷気が弾けた。
四つの《空挺要塞》でセリスさんの視界が隠れた瞬間を狙った、高速精密射撃。
──だが、
「あなたたちの判断は、なかなか見事です」
「ッ……!?」
超然としたセリスさんの声が、氷の向こうから聞こえてきた。
凍結していたのは、セリスさんの持つブレードのみ。
手持ちの武装をひとつ犠牲にし、盾にする。
俺は一時間前、二年生の教室で、《ファフニール》の神装・精密射撃は無効化・防御できると言ったが、俺が考えていたのと全く同じ方法で防御された。
「ちっ……!」
リーシャ様は再び機攻殻剣を振るい、陽動に使った《空挺要塞》で追撃をかけるが、《リンドヴルム》の大槍で全て弾かれ、制御を失い落下した。
「強くなりましたね。十分、勝ちの目はありますよ」
穏やかな、しかし静かな威圧感を交えた声で、セリスさんが告げる。
「相手が私でなければ、ですが」
直後、《リンドヴルム》が爆発的な速度で滑翔し、《ティアマト》を纏ったリーシャ様の眼前へ瞬時に接近すると、槍を握った右手の半身ごと突き放つ一撃を繰り出した。
バシィイイッ……!
その瞬間、雷鳴が轟き、槍の穂先から雷が放たれる。
「う、ああ……!?」
障壁と装甲の上から穂先と電撃を受け、リーシャ様は後方へ弾かれた。
クルル先輩がセリスさんを狙って《凍息投射》を構えるが、サニアの持つ
「では、肩慣らしは終わりとしましょう。いいですね? 二人とも」
セリスさんの恫喝のような笑みと共に、《リンドヴルム》が光を帯びた。
†
「あれは──!」
《ティアマト》に起こった異変に、ルクスさんが声を上げたとき、すかさずその隣のアイリが頷いた。
「ええ、あの特大の槍は、《リンドヴルム》の特殊武装です。雷と星を正体とする竜の牙──、《
文官として、学園で様々な情報を記録しているアイリは、そう丁寧に解説する。
「Yes. ですが、それだけではありません。電撃を穂先から放ち、中距離攻撃も可能です」
それを受けても、機能低下するんだろ?
超厄介だな。
「電撃を帯びた彼女の攻撃は、『雷閃』と呼ばれています。あれを使用されると、いくら兄さんといえども、防ぎ続けるのは不可能です。機竜の動き自体が、封じられてしまいますから」
雷閃を受けるのは危険。
となれば、かわすしかないが、あの洗練された一撃を、全く受けずにかわし続けるのはかなりキツいな。
さっきのセリスさんみたいに、武装を使い捨ての盾にする方法もあるが、あの電撃の効果範囲がわからん。
ヘタすりゃ、武装を握る腕ごと機能低下するかも。
試合を見ながら対策を考えていると、ふいにセリスさんの視線がルクスさんと──続いて俺の方へ動いた。
「──来ますよ、兄さん、ヨシノさん。あれが、彼女の本気です」
ヴン!
直後、中空に佇む《リンドヴルム》が激しく輝き、巨大な球状の光が広がった。
セリスさんを中心に、空中を含む演習場全体を光の領域が満たす。
それを見たリーシャ様が機攻殻剣を掲げた直後、《ティアマト》の右腕と右肩に巨大な砲身──《
更に追加転送された十六機の《空挺要塞》全てが、セリスさん目掛けて、一斉に襲いかかる。
だが次の瞬間、七色の光輪に包まれ、セリスさんの姿が消えた。
そして、一瞬でリーシャ様の真横に出現し、ランスの一撃が、《ティアマト》の横腹目掛けて繰り出される。
不可避のタイミングに、リーシャ様は身体を硬直させ──
パシィッ!
ライフルの銃声が聞こえ、閃光が空を走った。
リーシャ様への一撃を防ぐと同時に、セリスさんの隙を狙った狙撃。
(だが、かわされる……!)
俺の予想通り、セリスさんは槍を止め、《ファフニール》に向かってターン、そして加速。
クルル先輩が身構えたときには、刺突の動作を終えていた。
発動した《
セリスさんが繰り出した突きはブラフ。
彼女が狙っていたのは、クルル先輩だ。
《リンドヴルム》が姿を消す直前、一瞬だがセリスさんがクルル先輩の位置を確認したのを俺は見た。
「あれが、《リンドヴルム》の神装──《
《リンドヴルム》が展開した光は、目測で半径約五百
その広範囲を自在に瞬間移動できるということは、相手との間合いを自在に支配できるということ。
あの神装は、離れていても一瞬で距離を詰められ、接近して追い詰めても瞬時に背後を奪われる。
しかもクルル先輩の攻撃と神装を警戒して、間にリーシャ様を挟むような位置取りをしている。
あれじゃ《
ここから戦局を挽回するのは、不可能だろう。
それでも諦めずに、リーシャ様は《空挺要塞》全弾を使って追い詰めにかかる。
セリスさんは神装を使って回避するかと思いきや、槍を振るって、あらゆる方向から襲いかかる《空挺要塞》を次々と弾き、やがてその全てが地面に落下した。
クルル先輩も隙を窺っていたが、サニアがぴったりと張り付いているせいで、思うように動けていない。
「なら、こいつで──……ッ!?」
リーシャ様が《七つの竜頭》を構えた瞬間、セリスさんが最小の動作で
それとほぼ同時に《リンドヴルム》が《ティアマト》の背後に瞬間移動した。
「あれは……!」
俺はセリスさんが何をするのか、瞬時に理解する。
「そうです。あの技はセリス先輩ひとりによる
アイリの解説を聞いている間に、《ティアマト》の推進装置が雷閃により砕かれた。
推進装置が破壊されれば、飛翔型の機竜は落下するしかない。
そう考えたであろうセリスさんがクルル先輩へ意識を向けた瞬間、《ティアマト》が《リンドヴルム》に背後から組み付き、拘束する。
そして、
「神の名の下にひれ伏せ、《
──ドォン!
《ティアマト》ごと《リンドヴルム》が落下した。
(なるほどな……)
《ティアマト》の神装は重力制御。
俺は今まで重力負荷をかけるところしか見たことがなかったが、重力を消して空中に留まることもできるのか。
そして、セリスさんが《支配者の神域》で《天声》の効果範囲から出ないことから、あの神装には転送できる質量か体積に制限があるのだろう。
少なくとも機竜二機分は転送できないようだ。
「クルルシファー! 来い!」
リーシャ様が叫ぶ、その前からクルル先輩は動いていた。
サニアを弾き飛ばし、高速で《リンドヴルム》に迫る。
《ファフニール》の持つブレードの一閃がセリスさんに襲いかかる──
バシィイイッ!
轟音とともに、《ティアマト》と《リンドヴルム》が雷に包まれた。
「うああッ……!?」
「ッ──!?」
リーシャ様は悲鳴を上げ、クルル先輩は凄まじい閃光で、一瞬目が眩んだらしい。
その直後、
「《
リーシャ様の拘束から逃れ、演習場の端まで瞬間移動したセリスさんが、そう呟く。
左肩に連結されていた砲身が起動し、光弾を発射した。
黄色に明滅する光弾の速度は、決して速くない。
だが、演習場の中心へ到達した瞬間、
ドウッ!
光弾が爆発し、演習場の中心から約300mlの空間が、光と爆炎で埋め尽くされた。
しばらくして、衝撃と炎の余波が消え、煙が晴れる。
二人は……見えてきた。
《ファフニール》が《ティアマト》の前に立っていた。
クルル先輩が爆風から庇ったんだろう。
直後、《ファフニール》が、続けて《ティアマト》がシステムダウンし、二人の装甲は解除された。
「戦闘続行不可能と見なし、三年生『セリスティア・サニア』ペアの勝利とする!」
ライグリィ教官が勝敗を告げ、模擬戦終了の鐘が鳴る。
†
「やられてしまいましたね。二人とも……」
つまり、俺たちのグループは一日目にして
そう考えると、ちょいキツいな。
「Yes. ですが、かなり健闘したのではないかと思います。あのセリス先輩を相手に、よくここまで──しかし、最後の攻防は、一体どのようなものだったのでしょうか? クルルシファーさんがセリス先輩に斬りかかった瞬間、辺りが輝いて何も見えなかったのですが……」
「じぶフッ……自分を攻撃したんだろ」
「……だと、思うよ?」
「えっ?」
ふいにこの前のことを思い出してしまい、出だし噛んでしまったが、ノクトの疑問に答える。
フィルフィ先輩も同じ意見らしい。
「──やっぱり、そうか」
真剣な表情のルクスさんも、頷いた。
が、ノクトとアイリは首を傾げる。
「ど、どういうことですか、三人とも? あの瞬間、何が──」
「あの瞬間セリスさんは、《雷光穿槍》で自分を攻撃したんだ。それも、最大に近い高出力の電撃でな。で、リーシャ様にダメージを与えて拘束を振り払い、同時に閃光でクルル先輩の視界を潰して、《ファフニール》の神装を封じたんだよ。《財禍の叡智》は使い手の視覚を通して未来を視るから、視界を封じれば無効化できる」
自分へのダメージを顧みずに自分ごと組み付いた相手を攻撃する。
俺も同じ状況になれば同じようにするかもしれんが、それを迷わずに実行するとは……。
「そういえば……噂で聞いたことがあります。彼女は幼い頃から、剣や
アイリが思い出したように、演習場を見ながら言う。
「あらゆる状況を想定した戦術を覚え、即座に最善の策を実行する──。王都の軍人の間では、『機動定石』と呼ばれるそうですよ」
機動定石ねぇ……言われてみれば、聞いたことがあるような、ないような……。
「ルーちゃん。二人のお見舞い、行ってあげて」
「……あ、うん。そうだね」
「あ、待って、俺も行きます」
俺とルクスさんは立ち上がり、フィルフィ先輩たちと一緒に観客席を後にした。
†
フィルフィ先輩とノクトはすぐ後に個人戦、アイリは仕事があるので別れた。
医務室へ向かうと、その医務室から学園専属の女医が出てきた。
「ひょっとして、さっきの負傷者のお見舞いかしら? 私は少し、別室の様子を見に行こうとしているのだけど」
「あ、はい。そ、その──二人とも、大丈夫ですか?」
少し緊張しながら、ルクスさんは問いかける。
「あなたたち、二人のお友達だったわね。今の姿を見られたら彼女たちも困るから、まだ入らない方がいいわよ?」
困る?
ああ、着替え中ね。
装衣から制服に着替えるわけだから、今二人は裸ってことか。
ならもう少ししてから──
「リーシャ様! クルルシファーさん!」
何を思ったのか、ルクスさんは急に走り出し、勢いよく医務室の扉を開けた。
何やってんだアンタ!?
ルクスさんは部屋の中を見て数秒間、たっぷりと間を置いてから、
「ご、ごめんなさいッ!?」
と、告げて勢いよく扉を閉めた。
「着替え中だから、入らない方がいいって言ったのに」
「そこを先に言ってくださいっ!?」
「いや、ちょっと考えたらわかるでしょう」
ちょっと……超羨ましいなー、とか思いつつ、医務室のリーシャ様から声がかかるのをしばらく待った。
†
二人が着替えを終え、医務室に入ってからも、さっきの模擬戦についてどうだったか訊いてきたリーシャ様に、
「リーシャ様の身体、エロかわいくて興奮しました……」
と、
流石にちょっとひいたわ。
「その──、さっきの戦いは済まなかったな」
リーシャ様が項垂れつつ小さな声を出す。
「これでも、必勝のつもりで挑んだんだが……。やっぱり、わたしなんかじゃ──。あ……」
「そんなことないですよ。さっきのリーシャ様、とてもかっこよかったです」
リーシャ様の手を取りながら、ルクスさんはそう声をかける。
「……ほ、本当か?」
「はい。それとクルルシファーさんも、ありがとうございました。いろいろと粘って、セリス先輩の戦い方を見せてくれて」
今度はクルル先輩に、労いの言葉をかける。
「《ファフニール》が本調子ではなかったから、それくらいしかできなかったわ。あなたたちの戦いに繋げるためにも、それくらいわね。でも──本当に、彼女は手強いわ」
「そうだな、まずは勝たないと話にならん。ヨシノ……はこのあと個人戦だったな。ルクス! これからわたしの
「ついに“アレ”を実戦投入するんですか?」
「ああ、わたしの見込みが正しければ、明日から三年生の連中は、確実に目を丸くすることになる! クルルシファー、お前も来い! 実戦での相手役が必要だ」
急に生き生きし始めたリーシャ様は、二人を連れて医務室を出て行った。
†
十二時五十分。
十三時の試合開始に間に合うように、装衣に着替えて演習場・入場ゲート前に行くと、
「あ、シノっち~」
俺に向かって手を振るティルファー先輩と、その後ろにアイリとノクトがいた。
「あの、見送りに来てくれるのはありがたいんですけど、ちょっと恥ずかしいんでやめてもらえます?」
「え~、対戦相手の先輩の特徴、教えてあげようと思って来たんだけど」
「んー……いや、いらないっす。どうせすぐ終わるだろうし」
「随分と自信があるみたいですね。何か策があるんですか?」
「ん? いや……策というか、ちょっとした宣戦布告をな。さっきは見せてもらったから、こんどはこっちが見せる番、みたいな。まあ、見ててよ。──と言っても、ほとんど見えないだろうけど」
「………?」
意味ありげな俺の言葉に三人は同時に首を傾げる。
「……と、時間だ。じゃあ、行ってくる」
そう言って俺は、演習場へ向かって歩き出す。
(さてと、取られた二人分の得点は、取りかえしてやりますか)
この小説では、他の人物に視点が変わらず、主人公であるヨシノの視点のみで書いていますが、
ヨシノが他人の戦闘を観戦しているときの戦闘描写が、ヨシノが戦うときよりも難く感じました。
原作にかなり助けられましたね。
オリジナルで書いたらどうなることやら……。