……しまった。
読んでた小説に集中しすぎた。
昔から、あることに集中しすぎると時間を忘れてしまう事があるんだよな。
気をつけるようにはしていたんだが……
やってしまった。
夕食のことを忘れていた。
集中がきれた瞬間、空腹が襲ってくる。
「もう食堂閉まってるよなぁ……」
仕方ない、こうなったら最終手段だ、
「寝よう」
寝たら空腹もごまかせるだろう
起きたら朝だ、朝食が待ってる
自分にそういいきかせ、寝る準備に入ろうとしたところで
コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
扉を開けると
「ヨシノ、少しよろしいですか?」
ノクトだった。
要件をきこうとしたがノクトからいい匂いがして少しドキッとする。
おそらく香水、これは……ラベンダーの香りだろうか
そういえば何年か前に姉さんが
「香水は女性の体の匂いと混ざっていい匂いになる」
みたいな感じの事を言ってたっけ、正確には覚えてないけど。
(っていうか、何で今そんな事を思い出すんだよ俺!!)
「……ヨシノ?」
「……ッ」
ノクトの声で我にかえる。
ずっと黙っていたのが気になったらしい。
「……ん、何か用?」
「Yes. 三十分後に大広間に来てください」
「……?わかった」
「では失礼します、楽しみにしていてください」
(楽しみ……?何を?)
と考えていると何処かへ行きかけたノクトが振り返って戻って来た。
何だ?
俺のすぐ近くまで来たノクトは顔を少し赤くしながら俺の耳元で、
「ところで、女子の匂いを嗅ぎ続けるのは如何なものかと、次からは少しだけに抑えてください」
と囁いて行ってしまった。
匂いを嗅いでたこと、バレてたのか……
ノクトも恥ずかしかったらしい、気をつけよう。
俺が匂いフェチみたいな誤解されんのも嫌だしな。
………………少しなら良いのか
†
三十分後、身だしなみを整えて大広間へ向かう。
その途中でルクスさんと遭遇した。
ルクスさんも呼ばれたらしい。
二人で目的地へ向かうと、階段を降りた広間に、アイリがいた。
「一応、二人共身だしなみは整えて来たようですね。見直しました」
「僕だってそれくらいはするよ!」
「今までどうみてたんだよ…」
「では、こちらへ」
そう言ってアイリは食堂のある方へ歩き出した。
(無視か、酷いな)
(食堂……? もう閉まってるんじゃ………)
そう思いつつルクスさんと一緒に扉を開けると、
「編入 おめでとう」
少女達の声が一斉に聞こえた。
「うぉっ……!?」
「え……?」
ビックリした~、隣のルクスさんは戸惑っているようだ。
正面の大きなテーブルの上に、たくさんの料理が並んでいた。
「これって、まさか?」
「そう、君達の編入祝いだよ」
俺達の反応を見て、シャリス先輩が微笑んだ。
パーティ会場のようにセッティングされた食堂に、何人もの生徒が集まっていた。
教官らしい人物の姿もある。
「あの、もしかして 僕達のために?」
「……まぁ、私たちが寄り合って企画した、簡易的なものだからね。元王子のルクス君や王族の騎士であるヨシノ君をもてなすには、少し粗末かも知れないが、我慢してくれたまえ」
シャリス先輩がそう言うとそれに続いてティルファー先輩やクルル先輩、フィルフィ先輩(ルクスさんの幼馴染らしい)、クラスメート達が次々に一言ずつ俺達に声をかけていった。
このパーティはルクスさんの
リーシャ様はルクスさんへの回りくどいお礼の言葉をノクトに意訳されていた。
歓迎パーティはとても楽しかったが、楽しい時間は、あっという間に過ぎていくもの。
夜も遅くなり、歓迎パーティは解散となった。
†
数日後
王立士官学園で過ごす初めての休日……
なのだが予定よりも早く目が覚めてしまった。
二度寝しようかとも思ったが、今寝ると予定の時間を寝過ごしてしまうかもしれん。
(仕方ない、起きるか)
洗面所で顔を洗い、黒い髪を後ろでひとつにまとめて括る。
この髪型にすると、何となく気合いが入る……気がする。
(ちょっと早いけど食堂に行こうかな、混んでるのイヤだし)
そう考えて食堂へ向かう。
食堂の扉が近くに見えてきたところで扉が開いて中からアイリが出てきた。
「おはようアイリ、えらく早いな?」
「おはようございます、兄さんに少しお話があったので。ヨシノさんこそ早いですね?」
「偶々目が覚めただけだよ」
「そうですか、では私はこれで」
そう言って俺が来たほうへ歩いていく。
その後、中にいたルクスさんと一緒に朝食を終えて、
ルクスさんは雑用へ、俺は予定があるので一旦部屋に戻って準備する。
壁に立てかけてあった二本の
ひとつは汎用機竜のもの
もうひとつは神装機竜のものだ。所々に青い装飾が施された黒い鞘と柄が特徴的だ。
この二本を持って昨晩教えられた場所、機竜研究開発所・
(扉が少し開いてる……不用心だなぁ)
と思いつつ中に入ると、
作業用のガウンを着たリーシャ様とルクスさんがいた。
(相変わらずあのガウンを着てると子供が遊んでるようにしか見えないな)
そして、リーシャ様の背後には異様な機竜の姿が。
《ワイバーン》と《ワイアーム》が組合わさったような姿をしている。
「昔言ってたやつ、完成してたんですね。リーシャ様?」
「ん?ヨシノ、やっと来たか」
「ヨシノ、これの事知ってるの?」
「昔、話をきいただけですけどね」
「《キメラティック・ワイバーン》。わたしが開発した、世界初、オリジナルの
†
「それで、ヨシノはなんでここに?」
「昨日の夜リーシャ様に「明日私の工房に来い、いいものを見せてやる」ってドヤ顔で言われたんで見に来たんです」
「ドヤ顔は余計だろ!」
約一年半前、まだリーシャ様が城にいた頃、『複合機竜は理論上可能なハズなんだ』と言っていたが、こんな短期間で完成させるとは……まだ幾つか課題があるらしいが、本当に凄いな。
それからリーシャ様が修理したルクスさんの《ワイバーン》の装甲について一悶着あった後
リーシャ様が
「よし、そろそろ移動するぞ」
「どこにですか?」
「演習場だ。お前達二人には
ヨシノの特殊武装に《匂いフェチ》が追加されました。
【書いた後で気づいた事】
ノクトがヨシノに匂いの嗅ぎ過ぎを注意したシーン、書いた時は
『(寮の廊下なので一応)他人に聞こえないよう気を使って耳元で囁いた』だけのつもりだったんですが、
プレビューでよく読んだら『ワザと匂いを嗅がせにいってる』ようにしか見えないですね。
「まぁコレはコレでアリだな!」と思ってそのままにしました。