ポツリ、 ポツリと僕の額や腕から血が地面へと流れ落ちる──
それが自分の血なのか、誰かの血なのか……今はもうわからない。
場所は第二校舎の3階、右側の渡り廊下の奥。
今何がおき、何が始まったのかいまだに理解ができないこの状況…。
いや、理解ならできている。
ただ今の状況から、 現実から、 未だに目を反らしている自分がそこにいた。
僕の足元には、 同じクラスメートで学校の風紀委員を務めている……否、 壊れてしまったこの状況で「務めている」と言う単語よりも「務めていた」 と言った方が適切かもしれない。
その風紀委員だった男子生徒は大量の血を流し死んでいる。
殺されたんだ ……。
僕の目の前で僕をかばうために、 風紀委員としての責務を真っ当するかのように……学校の風紀、 秩序を守るために。
彼は、 最後の最後までこの事態を受けいれることなく殺ろされ、今の状況をうみだした。
死体からはみるみる赤黒い血 が辺りに広がっていき、
その生徒の 頭蓋は酷く陥没していて今や、顔だけじゃ誰が誰なのかも判別ができなくなっている。
「お、お前が悪いんだ…て、手紙を…手紙
を渡さないからだ!!」
息を荒くし放たれた言葉
目の前に立っていたのは、またもや僕と同じクラスメートの男子生徒、 藤山 尚彦(とうやま なおひこ)だった。
僕が知る限りのその藤山と言う男子生徒の印象は至って真面目で勤勉で、 おとなしげな生徒だった。
だったはずなのに、 今僕の目の前に立っているその生徒はそんなイメージを一瞬として打ち壊すようにたった今、 人を殺した。
この、《デスゲーム》と言う馬鹿げたゲームの開始を宣告されてからたった20分足らずの間で…… 人殺しへと変貌した。
現実を受けとめることができず、 思考や人格と言うものが全てが壊れてしまった人の末路なのかもしれない。
やがて、 目の前にいる男子生徒は血走った目で僕を睨みつけると、 至るところが凹んでいる金属バットをちらつかせながらこちらに近ずいてきた。
「こいつ狂ってやがる!!笥原(すばる)はやく逃げるぞ!!」
危険を感じた僕の後ろにいた雅樹(まさき)は体左半分を後退させ叫んだ。
しかし、それは無理だ。
僕の体は恐怖に支配され、 その場から動けなくなっているからだ。
「す、笥原くん早く!!」
雅樹の隣にいた凪(なぎさ)は雅樹の言葉に続くように叫ぶ。
「………っ!」
「手紙を…手紙をよこせえぇぇぇっ!! !!」
発狂とともに彼はバットを大きく降りかぶった瞬間、 僕は強く瞼を閉じそして、『死』を悟った。
──────
僕が通う高校は
生徒数、総合960人。 一クラス40人で構成され、8クラスまであり
「日本一を誇る敷地面積を持つ高校」
として名を馳せている高校である。
校舎は本校舎と旧校舎を合わせ、 占めて五校舎もあり、 その内、 第一校舎は一年から三年までの生徒が主に勉強を行う場、 つまり本校舎にあたる場となっている。
本校舎の造りは、一階から順に一年、 二年、 そして最上階、三階は三年生と割りふられており、
僕は一年八組だから一階の一番端っこに位置するクラスに在席しているということになる。
対して第二、 三校舎は、化学や生物、家庭科の実習といったことを行うための校舎であり、 残り第二校舎は、部室棟と言われるいくつもの部室が列なる校舎である。
細かく言うなら第四校舎は、 軽音部、 茶道部、 漫画研究会、 と言った文化系の部活専用の部室棟であり
一方、 第五校舎は陸上部、 野球部、サッカーと言った運動部専用の部室棟と割り振られている。
そして気になる 我が校が誇る敷地の大きさは、 ちょうど東京ドーム二個半ぐらいほどの大きさ程の敷地があり、
本校舎の離れには室内プールや体育館、室内運動部専用体育館といった充実した建物がある。
それら全部は、渡り廊下で本校舎とつながっており、わざわざ 外に出て、体育館まで移動しなくてもいいつくりとなっている。
そんな、 立派な建築物があると言うのにまだ敷地は有り余るほどにあると言うのが
それが僕達が通う、桜ノ宮学園(さくのみやがくえん)である。
※※※※
時は逆戻り4月14日。
日射しがやや暑く感じられ風がまだひんやりと頬を撫でる季節、春。
つまり、 僕がこの学園に入学して初登校日。
話はそこから始まる。
あくまでプロローグであり、悲惨なあの事件が起きる2ヶ月前の話しだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
僕は、今始まろうとしているこの新しい学校生活に気持ちを馳せていた。
と言うのも中学時代、 3年間いい思いでと思える程の思い出なんかなかったからだ。
正確に言うなら中学時代の思い出なんて、辛い記憶しかない。
忘却のできない程に脳裏にこびりつくあの地獄の日々に『いい思いで』なんてできるわけがない……。
だから、中学時代ではつくることのできなかった『思い出』を、今始まろうとしているこの高校生生活でつくるんだって心に決めていた───
「では、新入生代表佳那汰 (かなた)凪(なぎさ)」
僕は校長が放った言葉でっはと意識が
現実へともどる。
「はい!!」
このバカ広い体育館の右端のすみの前列の方で高らかに声が上がり、 一人の女子が立ち上がり周りに座っている新入生の間をすり抜け舞台へと向かう。
女の子は、顔はもちろん、スタイルもモデルなみに引き締まっていて、ブレザーを着ていると言うのにくびれが目に見え程だ。
そして揺れる度、長い髪がきめ細かく揺れ、少し毛先がカールのかかったグレイシュブラウンなその髪は誰もが目を奪われる程のものがあった。
新入生代表と言うことは、入試で一番の成績だったってことになる。
頭脳明晰、容姿端麗、学業優秀…なんて言う高スペックなんだ……
「っげ!!なんでアイツがこの学園に!?」
目を大きく見開き、突然ずるっと鉄パイプ椅子から少しずり落ちる男子が僕の隣にいる。
その男子は背が高く、髪型はただのスポーツ刈りだと言うのにオシャレ感をにおわしている。身なりもきちんとしているので客観的に見てみれば、正装なイケメンスポーツマンな印章が入ってくる。
しかし、目付きが悪いため初見の人からしたら『いかつい』らしい。
僕と違って社交的で頭の回りもいいと言う高スペックを持つ、そいつの名前は 飯田 雅樹(いいだ まさき)だ。
雅樹とは中学1年の時からの付き合いで、色目で見られていた僕に唯一親しくしてくれた唯一の僕の親友である。
僕と雅樹は進学校先を同じ所を選び、無事二人は合格し晴れてまた雅樹と3年間過ごせることになった。
「あの子知ってるの雅樹?」
「っえ?逆に知らないのかよ!?アイツ中学時代では結構名を轟かせていた程の秀才だぞ!? 否、最早鬼才だなあれは…。 ほら、全国学力テストだって3年連続の不動の1位とか、大臣から賞もらったりと……色んな数多くの武勇伝があるの聞いたことないか?」
「へ、へぇ……知らなかった… 」
すごすぎて思わず気の抜けた言葉がこぼれる。
「ちなみにアイツとは小さい頃からの幼馴染みなんだけどよ、まさかアイツもこの学校志望だったとは、知らなかった……」
「幼馴染みなのに知らなかったの?」
「アイツの性格、よく言えば天然、悪く言えば超絶馬鹿だからなぁ、多分驚かせるつもりで来たんじゃないか」
気だるそうに吐く言葉はなぜか重みが感じとれた。
佳那汰さん?から、こう言うことをしょっちゅうされていたからなのか、疲れきった表情を浮かべる雅樹
「でもそんなに頭がいい人なのになんでこの学校に?もっと上の学校とかいっぱいあるのに……。ただ驚かせるためにここにきたの?」
「さぁな、アイツの考えることなんて未だに理解できない方が多いからな……思いつきで直ぐに行動するような奴、要は、考えるより体が先に行動するタイプだ。ま、人のこと言えないけどな」
「なんか凄そうな人だね……」
僕は小さく苦笑いを浮かべ、視線を雅樹から舞台の方へと戻す。
いよいよ答辞が始まる。
佳那汰さんは、マイクを自分が話しやすいように調整し、軽くマイクの先端をポンポンと指で小さく二、三回叩きマイクテストを行う。
そして折り畳まれた答辞の紙を捲(めく)り、浅く息を吸った。
『寒い冬を超え、花は芽吹き、桜は舞う、心が浮き立つこの季節。我々、新入生達は無事、新たな一歩を踏み出すことが出来ました─────── 』
発せられたその美声は、誰もが耳を傾けた。
壁際に居るこの学園の教員達、僕らの後ろに居る保護者達ほぼ
全員が目をつぶり、ただただその声の音を聞き取ろうとする。
「容姿も綺麗だけど、声も綺麗だね!佳那汰さん」
「あぁ、アイツは完璧過ぎるほど完璧だ。勉強もできて、運動もできて、容姿もいい…まるで絵に描いたような奴だよ、むかしっから」
色々話している内に気がつけば
佳那汰さんの答辞がもう読み見終わっていた。
開かれた紙を折り畳み、一歩後ろへ下がり浅く一礼を行う。
そして、甲高い拍手の音と共に舞台からゆっくりと降りていく
その時だった。一瞬、ほんの一瞬だけ
佳那汰さんは真っ直ぐ前を向けていた目がギョロっと動き、僕の方へと目線を向け、 二人の目と目が合う。
「…………っ!!」
佳那汰さんの黒い眼差しは、漆黒よりも深い闇で覆われていて、そこには一点の光さえも感じさせないものだった。そんな眼差しは悪寒を感じさせ、僕の背筋を震わせる。
理由はわからない。
けど、見た目と反してこの子は心に何かとてつもなく冷たいものを宿していると直感的に感じとった。
嫌な汗がにじみでる。
佳那汰さんが元の席にもどると鳴り響いていた拍手の雨は鳴りやみ、式は次へとしんこうを進める
※更新はまばらです。大きく間隔が空く恐れがあります。