一通り、全てのプログラムが終わり、
長々と続いた式に保護者及び新入生達は疲れの色を顔に浮かべていた。
「……では、これにて第47回私立桜音並五希学園、入学式をおわらせて頂きたいと思います。保護者の皆様並び委員会の皆様、本日はお忙しい中本校にご足労をおかけし大変申し訳ございませんでした。度重ねお手数おかけしますが、これより新入生は退場します。その際には、盛大な拍手で見送ってください。なお新入生等諸君達はこの後、教員の案内に従い各クラスへと向かってください」
左端の一番前に居た式場進行人がそう言った瞬間、後ろの扉がぎーと音をたてて開かれた。
「では、新入生起立!」
掛け声と共にいっせいに新入生は立ち上がり、前から順に等間隔にやたら広く空けられた体育館の真ん中に開かれた通路を歩いていく。
うるさいくらい鳴り響く拍手の音は、随分長い間続く。
そして、最後尾の生徒が出ると素早く扉は閉ざされた 。
─────
扉から出た僕たちは本校舎に戻り、
1階にある踊り場に新入生320名が集められ
教員達は全員が揃ったことを確認すると、いっせいにクラス分けを始めた。
踊り場の奥。
最前列には教員が横一列に並んでおり、一人一人の間を十分に空けてある。
「では今から呼ばれる人は私の前へ並んでください!では、一番赤上良太」
初めに言葉を発したのは一番端の男性教員だった。
多分、右端と言うことは1組なのか、
呼ばれる生徒を目で追い、僕はそう思う。
「そう言えばこの学校8組もあるんだったけ……笥原と一緒のクラスになる確率が低くなってしまうな」
「そうだね、僕も雅樹と一緒のクラスになりたいけど、さすがに8組まであったら二人が一緒になる確率がね……」
「っお、今さっきの『二人が一緒になる確率がね……』って言葉だけを聞くとなんか俺らが付き合っているようにも聞こえるな!!」
ニヤリと雅樹は笑う
「や、やめろよ!!どうしてそう言うことになるんだよ!」
あたふたと首を横に振り、手も同様横に振りなが反論するが
そんな僕の反応を見てより一層、雅樹はニヤリと笑顔をこぼした。
「それじゃ、こちらの方も名前を言っていくので自分の名前が呼ばれたなら私の前へ並んでください」
左端に居た女性教員はそう言いうと
右端の教員と同様、次々に生徒の名前を呼び上げていく。
左端と言うことは最後のクラス、8組と言うことになる。
「四番、飯田 雅樹」
「はい!!」
さすが、名前の最初の文字が『い』だけに呼ばれるのが早い。
「早速呼ばれたな」
「あぁ、早速呼ばれたな。お前もあの教員によばれろよ」
すると雅樹は拳をつくり、僕の方へ向け
「無茶を言うなよ」
と、僕も拳をつくりコツっと互いの拳をぶつけた。
すたすたと雅樹は列に並び、次の教員の言葉を待つ。
「五番、佳那汰 凪」
「は~い!!」
場違いなぐらいに気の抜けた明るい声、長く伸ばされた返事が高らかに僕の背後から上がった。
ドクンと僕の心臓の鼓動が波打つ。
恐る恐る振り返てみると、佳那汰さんは真っ直ぐ僕の方へと近づいて来ているこを視認した。
「………っ!!」
何か話しかけられるのかと身構えていたけれど、佳那汰さんは僕の真横を通り過ぎて行っただけで、何も言葉を交わさないまま列の方へと行ってしまった。
それもそうだよな。僕も彼女も互いを知らないんだから話しかけるなんてそうない。
ただの自意識過剰なだけか……。
住む世界が違うと言うのか、二人は決して交わることはない存在 。
学力の面でも、容姿にしても敵わない……
でも、さっき佳那汰さんが僕のとなりを横切る瞬間、少しばかりか笑みを浮かべていたような気が………。
同期相手に緊張していたのか、筋肉はゆるみ、脱力感に似た感覚に陥りしばらくの間その場から動くことができなくなっていた。
一方、佳那汰さんと言うとそのまま雅樹の方へと向かいそこから少しばかりか何かを話しその後へと並んでいった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「どう言うことか説明してもらうぞ」
「もぉ、やだなー♪そんな怖い顔しないでよ。元から怖い顔がよりいっそうと怖くなってるよぉ?」
ニコニコしながら佳那汰さんはそう言うと雅樹は浅く吐息を吐いた。
「で、どう?驚いた?驚いたでしょ?ねぇ、驚いたでしょ?」
「あのなぁ……ほんと、お前はバカなのか頭がいいのかが今だにわからん……」
「いいじゃん♪自分の進路は自分で決めるものでしょ?で、その進む道をここの高校にしただけの話しだよ♪決して閃きと気まぐれで選んだじゃないんだからね!」
「ほとんとかよそれ……」
佳那汰さんの言葉が信用できないせいなのか、疑いの目を雅樹は佳那汰さんに向けるが
幼馴染みにそのんな目で見られているのに佳那汰さんは相変わらずの満面の笑みで戯けてみせる。
「ところで……なんだけどさ……」
さっきまでの騒がしかった言動は消え
佳奈汰さんはいきなりしおらしくなり
歯切れが悪くなった。
「ん?どうした、モジモジして……トイレに行きたいのか?」
「ち、ちがうからっ!!てか、女の子に向かって何言ってんのよ!」
そう言うと、佳那汰さんは力のないパンチを雅樹の腕にポコポコとくり出してしいく。
その姿はとても可愛らしく、雰囲気がふわふわしていて傍から見れば和む光景でしかなかった。
「じゃ、なんだよ」
くり出すパンチに突っ込みを入れず、話を再開させる雅樹。
「……先生に呼ばれる前、一緒に話していた子って……誰なの?」
「ん?………あぁ、そういやまだお前、顔知らなかったんだっけ?アイツが笥原、羽南ノ笥原だよ」
「ええ!?あの子が笥原くんだったの!?」
僕の名前を聞いたとたん、佳那汰さんは鳩が豆鉄砲をくらったかのように驚いた表情をあらわにした。
「あの子が、中学の頃から私に話していた笥原くんだったなんて……ふ~ん……ふむふむ……なるほど、なるほど……」
「笥原のことはいいんだけど、それよりなんでそんなこといきなり聞いたんだ?」
「え?いや……その……笥原くんって可愛い子……だなって思って」
「笥原が可愛い?え?え、え?」
佳那汰さんの口からでた言葉に雅樹は
動揺するほかにできなかった。
何も分かっていなそうな雅樹に佳那汰さんの眉間に皺を寄せる
「え、可愛いじゃん!!あの小動物みたいな所とか、目元とか!式の時もたまたま目あったんだけど、その時一瞬でビビってきたの!……もしかしてこれって一目惚れかなぁ……」
「いや、知らないし……」
頬を赤らめ、いっそうと体を悶えさせる光景に雅樹は心底呆れているような表情を滲ませる。
ただただ、佳那汰さんに呆れる雅樹。
その一言に続く言葉は出なかった。
「雅樹にはわからないんだよ笥原の魅力がっ!」
「いや、今日笥原のことを知ったお前が何誇ってんだよ……」
「中学の頃から雅樹から笥原くんのことを聞いていたから、よく笥原くんのこと分かるもんね〜ぇ」
ふんす、と鼻をならし、ドヤ顔で雅樹に対抗する……が……
「聞いていて笥原について多少知っていてもそれは、笥原のほんの少ししか分かっていないんだぞ」
と、切り返す雅樹。
「いいか?俺はアイツと3年間いたんだぞ?情報量がちがうんだよ、情報量が。中学の頃話していた内容は笥原の一部始終でしかない。対して、俺はアイツの良いところとか、悪い所とか色々把握してるんだ……この意味わかるよな?」
「そんなこと分かってるわよ!!だから、その差をこの3年間で埋めるんじゃない!確かに雅樹から見たらまだまだ知らないことでいっぱいだけど、他の人と比べれば情報量は持っているじゃない!多少のことは雅樹の話から聞いているからこの3年……否、この1年で雅樹と同じぐらいまで笥原くんを知り尽くすんだから」
キッパリと、人の目も気にしせず言い切った佳那汰さん。
当然ながら周囲に居た人達はいっせいに雅樹と佳奈多汰さんの方に注目が集まるが、それはほんの一瞬のできごとで、すぐに視線は分散した。
「取り敢えず落ち着け!教師に注意されるだろ!」
実際に、前にいる教員がこちらを睨むように見てきている
「どんだけ必死なんだよ……というか知るにしたってまず、知り合う所から始めないとならないだろ」
「うん、もちろんこの入学式終わった後、早速笥原くにアプローチするつもり!」
「やり過ぎるなよ……お前の距離の詰めかたはひくぐらいの勢いだから、あまり笥原に言い寄るのは逆効果になるからな。後、アイツの………『あのこと』について話すのも間違ってもするなよ。どうやら笥原は『あのこと』について気病んでいるようだからそれについて触れないでいて欲しい。俺からお前に話したことも……。
でもまぁ、笥原に友達ができることは俺としても喜ばしいことだからな、それさえ守ってくれさえいてくれれば一応応援しといてやるよ」
雅樹はそう言うと、佳那汰さんは不思議そうな顔を浮かべ、
その表情に雅樹も同じく不思議そうな顔を浮かべた。
そして、佳那汰さんは言った。
「まぁ………それについては分かったけど応援しといてやる?なに人ごとのように言ってんのよ、雅樹も私と一緒に来るのよ?」
「……え?」
「あ、違った……協力しなさい」