暗殺教室Another〜大海の様な暗殺者〜 作:コユキ@0324
『なら、別に怪しいことはなにもしてないのね?』
「当たり前だろう。お兄ちゃんにそんな度胸あると思うか」
『ごめん。全くないと思う。』
「そこで否定されるのもなんか悲しいな…」
『まぁ、危ないことしてないならよかった!重國さんもずっと心配してたんだからね?たまには帰ってきてよ?』
「ん?あぁ…こっちでの用事が一段落ついたら1回そっちに向かうよ」
『うん!てか、お兄ちゃんなんか声変わった?少し高めになってる様な気が…』
「悪い!そろそろ寝ないと明日起きれないから、もう切るな!おやすみ!!」
『あっ!お兄ちゃ……』
ブツッ!ツーツーツー…。
寺坂達悪ガキ三人組が問題を起こしてから数日後。俺は、妹に無事の知らせと共に、電話をかけていた。
それにしても…。やっぱ少し声も変わってるのか。当たり前か。なんせ若返ってるんだもんな…。
てか、電話越しに声変わったのが分かるとか、あいつ俺のこと好きすぎるだろう。お兄ちゃん冥利に尽きるな。
なんて、馬鹿なことを考えていると、ブーブーと携帯が鳴り、メッセージが送られてきた。渚からだ。
『夜遅くにごめんね。明日、杉野が野球の練習も兼ねて殺せんせーを殺すのに挑戦したいっていうんだ。暇だったらミナトも付き合ってくれないかな?』
そのメッセージに『おけ』とだけ返し、俺は携帯を閉じる。
それにしても…。
中学生が、あたかも当然のように『殺す』だとか『暗殺』だとか言うのはいかがなものだろうか。
いや、中学生の思春期真っ只中だったら、友人に向かって『死ね』とか『殺す』とかは言うだろう。それは、実際そんな気はサラサラなく、ただの暴言として使っているに過ぎない。
しかし、この場合は少し意味合いが違ってくる。
俺達3年E組は、本当に担任を殺そうとしている。
まぁその担任が、マッハ20の超生物で、到底殺すのは不可能だと心のどこかで思っているからだろうが。
でも、なぁ…。まぁ、そこを否定したらこの教室の意味はなくなってくるのだから、難しいところだが。
『暗殺』と聞くと、小さい頃の思い出が蘇る。
とても嫌な記憶。無情で、残酷で、この上なく被虐な、過去の記憶。
俺はそれを忘れられない。忘れたいとも思わない。
ただ、思い出すのは中々にツラい。あの時俺に力があれば、あんなことは起きなかっただろうと、今でも後悔しているのだから。
思い出してしまった嫌な記憶を封じ込むように、俺は布団を被り、意識を手放した。
◆ ◇ ◆ ◇
「毎朝HR前は校舎裏でのくつろぎがあいつの日課。お前の情報通りだ。サンキュー渚!」
「うん。頑張ってね杉野」
「おう!百億円は俺のものだ!」
杉野が、投球フォームを構え、対先生用BB弾を埋め込んだボールを投げる。
てか、どっかで杉野の投げ方見たことあんだよなぁ。誰だっけか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。問題は…。
殺せんせーは、既に俺達の後ろに回り込み、挨拶をしている。
「おはようございます。渚君。杉野君。水湊君。さ、あいさつは大きな声で!」
「………おはようございます。殺せんせー」
「おはよう。タコ助」
「コラ!タコ助じゃありません。殺せんせー、ですよ。水湊君」
この『殺せんせー』という名前。命名者は茅野らしいのだが、何故だかこのタコ助は気に入っているらしく、あれ以来皆に殺せんせーと呼ぶように、と強要しているのだ。
まぁ確かに名前が無いというのも不便だし、名前があるのなら名前で呼ぼうとも思うが…。
『殺せんせー』というのはいかがなものだろうか。ついでに烏間さんにも強要したところ、即拒否された。そりゃそうだ。いい歳した大人が『殺せんせー』とか呼びたくない。てか、俺もあまり呼びたくない。
未だに「えっ?ええ??」と、驚きをあらわにしている杉野を見て、殺せんせーは解説を始めた。
「先生の弱点・対先生用BB弾をボールに埋め込むとは良いアイディアです。これなら、エアガンと違い発砲音もない。」
ですが、と殺せんせーは続ける。
「先生にボールが届くまで暇だったし、直に触ると先生の細胞が崩れてしまうので…」
「ちょっと用具室までグローブ取りに行ってきました」
そう言って見せびらかしていたのは、用具室から取り出してきたグローブに、対先生用BB弾を埋め込んだボールを入れた触手の姿だった。
てか、その触手でグローブ入んのかよ…。なんでもアリかその触手。
「殺せるといいですねぇ。卒業までに。さ、HRの時間ですよ」
「はい…」
そう言って教室に入っていく。相変わらず腹立つ顔してんなあいつ…。
「まっ、そんな落ち込むなって。今まで誰も成功してねぇんだ。今の俺達で殺せる様だったら、とっくにアイツは死んでるさ」
杉野にとりあえずのフォローをしておく。こんな気配りができる男がモテるんだよな。いやでも待て。今ここには男しかいねぇ…。
「おう…サンキュな。俺、先クラス行ってるわ…」
とぼとぼ、と歩いていく杉野の後ろ姿は、なんだか哀愁がただよっていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうだ。奴を殺す糸口はつかめそうか?」
「無理ですよ烏間さん。速すぎるってあいつ…」
烏間先生の質問に対し、磯貝が答える。
「今日の放課後の予定知ってる?ニューヨークでスポーツ観戦だぜ?マッハ20で飛んでく奴なんて殺せねっスよ」
そう言うのは、出席番号23番、三村航輝だ。
各々が、殺せんせーに対しての愚痴をつぶやく。実際そうだろう。普通の、しかも中学生が、あんな化物を殺せるわけがない。しかし、それは烏間さんも理解しているようで…。
「その通り。どんな軍隊にも不可能だ。だが、君たちだけはチャンスがある」
何故か、と烏間さんは続ける。
「やつは君たちの教師だけは欠かさないのだ。」
そういえばそうだ。少なくとも、俺が転校してきてからあのタコ助が学校を休む姿は、見たことがない。
「放っておけば来年3月。奴は必ず地球を爆発させる。削り取られたあの月を見ればわかる通り…、その時人類は1人たりとも助からない」
だから、と烏間さんは冷や汗を垂らしながら言う。
「奴は生かしておくには危険すぎる!この教室が奴を殺せる、唯一の場所なのだ!!」
落ちこぼれクラスの彼等に与えられたのは、地球を救う
けど、未だにわからない。なんでアイツが地球を爆破させようとしているのか。どうしてこのクラスに、担任としてやってきたのか。というか。
中学生に世界の命運託すとか…。荷が重すぎるだろ…。
◆ ◇ ◆ ◇
「部活禁止なんだ。この隔離校舎のE組じゃ」
その日の放課後、杉野のキャッチボールに付き合わされた俺は、杉野からそんなことを言われた。
渚?なんか用事あるとかでこなかったわ。ホントなめてるなあの男の娘は!
「なんでだよ?」
「成績悪くてE組に落ちたんだから、とにかく勉強に集中しろってさ」
「それはまた、ずいぶんな差別だなぁ…」
「でも、もういいんだ。」
「というと?」
「朝見たろ?遅いんだよ。俺の球。」
そんなことないと思うけどな。とは今は口に出さない。俺は、杉野の次の言葉を待った。
「遅いから、バカスカ打たれて、レギュラー降ろされて、それから勉強にもやる気無くして、今じゃエンドのE組さ」
なるほど。つまり、杉野は挫折したのだ。レギュラーを降ろされ、嫌になって、なんにもやる気が出ず、気がつけば最下層。
そりゃやる気もなくすだろう。なんせ、やる気も含めて、全てなくしたのだから。
「トモヒトは、それでいいのか?今からでも遅くないだろ。頑張って、ここ抜け出して、もう一度野球部に入れよ」
「今からなんて、無理だよ。それに、どうせまた入り直したとしても、レギュラーにはなれない。だって、
「…………………」
俺は、今朝やった杉野のフォームを真似てみる。そして、そのままボールを投げる。
ひょろろろろ〜。その球は、杉野のミットに収まることなく、一歩手前でバウンドした。
「はーーーー。よくこんな投げにくいフォームで投げれるなぁ。俺無理だわ」
「ははっ、てかミナトは球技全般苦手らしいからな。仕方ないさ。それは、有田投手のフォームなんだ」
「有田投手?有田っていうと、あのメジャーにいった?」
「そう!俺、小さい頃からのファンでさぁ、ずっとあの人のように投げたいって思って、練習してたんだ」
「ふーーーーん」
その人のように投げたい。というのは、野球をやってる者からしたら、当たり前の発想だろう。しかし。
「なんか、トモヒトの身体つきからすると、このフォームはあんまあってなさそうにみえるけどな。なんか、肩幅?とかそこらへん全然違うだろ」
「んーーーそうなのかな?まぁでも結局それは、俺には野球の才能もないってことだよな…。今が辞めどきなのかなぁ」
「いや、そうとは言ってないだろ。ただ、人には誰しも投げやすいフォームとかあるって俺の友達が言ってたぞ?得意、不得意ってやつだな。トモヒトは、有田投手の投げ方は、不得意なんじゃないか?」
「でも、ずっと練習してきたんだぜ?もう、これ以外の投げ方なんてかんがえられないって」
「物事を少し離れてみてみろよ。お前にとって野球は、有田投手が全てじゃないだろう?もしかしたら、全く違う投げ方にしたら、めっちゃ速くなるかもしれないじゃん?」
まぁ、野球あんま詳しくないんだけどな、と付け加えておく。
そして、杉野が何かを言おうとしたその時。
キーンコーンカーンコーン。下校時刻になりました。生徒のみなさんは、すみやかに下校の準備をしてください。
「…………今日の練習はここまでだな。今日はサンキュな!」
「ん。まぁ暇だしな。んじゃ、そろそろ帰りますか」
「おう!」
まぁ、ここから先は、あのタコのしごとだろう。
俺は、校舎裏から隠れて見てるタコ助の方を一瞥し、杉野と共に校舎に入っていった。
「ヌルフフフ………中々鋭いですねぇ。では、生徒の為に人肌脱ぎましょうか」
◆ ◇ ◆ ◇
「はぁ…」
「磨いておきましたよ。杉野君」
「………殺せんせー。何食ってんの?」
「昨日ハワイで買ってきたヤシの実です。食べますか?」
「飲むだろフツー…」
翌日の放課後、渚の課題を手伝っていた(手伝ってもらいました…はい)俺達が見たのは、杉野と殺せんせーが2人で話している姿。
課題提出も兼ねて、俺達は近寄ってみることにした。
「殺せんせーと杉野、何話してんだろ。まさか、昨日の暗殺を根に持ってからんでたり…」
「心配性だなぁナギサは。それはないだろ。そしたら今頃俺達全員、からまれまくってるよ」
と、軽口を叩きながら校庭に出ると……。
そこには、身体を触手にぐにょんぐにょんに絡まれている、杉野の姿があった!!
「「思ったより絡まれている!?」」
「何してんだよ殺せんせー!生徒に危害を加えないって契約じゃなかったの!?」
「杉野君。昨日見せたクセのある投球フォーム。メジャーに行った有田投手を真似ていますね」
でもね、と殺せんせーは続ける。
「触手は正直です。彼と比べて君は肩の筋肉をの配列が悪い。真似をしても彼のような剛速球は投げれませんねぇ」
「なっ……なんで先生にそんな断言できるんだよっ…」
渚がムッとした顔で、殺せんせーに問い詰める。
「昨日本人に確かめて来ましたから」
「「「確かめたんならしょうがない!!」」」
一歩間違えれば国際問題だぞそれ…。
「そうか…だからアンタは昨日ハワイに行ったのか」
「えぇ、先生ですから」
普通の先生はそんなことしねぇよ…。という言葉は、口に出さなかった。
「一方で、君の肘や手首の柔らかさは君の方が素晴らしい。鍛えれば、彼を大きく上回るでしょう。」
触手をぷるっと一回転させ、殺せんせーは言う。
「いじくり比べた先生の触手に間違いはありません。才能の種類はひとつじゃない。君の才能にあった暗殺を探して下さい」
結局暗殺に繋げるのな…。
「どうして?普通の先生はそこまでしてくれないよ。ましてはこれから地球を消滅させる殺せんせーが…」
おぉ。渚君。俺が思ってたことを全部言ったよ。流石だな、男の娘は。
「……先生はね。ある人との約束を守るために君たちの先生になりました。私は地球を滅ぼしますが、その前に君たちの先生です」
シュババババ!!と、俺と渚の課題を取り、採点をする。
「君たちと真剣に向き合うことは…、地球の終わりよりも重要なのです」
「……殺せんせー」
渚がノートを見ながら、呟く。96点ってすげぇな。渚は、英語が得意なのかもしれない。
「採点スピード誇示するのはわかるけどさ、ノートの裏に変な問題書き足すのやめてくんない?」
「にゅやッ、ボーナス感があって喜ぶかなと…」
「むしろペナルティだよ」
ボーナス問題なんてあったのか、見てみよう。と、ノートを開けると。
28点。
俺は、何も見ないフリをして、ノートを閉じた。
「あぁ、そうそう。水湊君はこれから先生と補習ですよ」
「はぁ!?ちゃんと課題やっただろうが!てか、中学生の問題で補習とか受けたくねぇよ!」
「間違ってるんだから仕方ないでしょう。ほら、行きますよ!」
「いやだぁぁぁぁぁ」
タコ助に、引きずられていく。くそっ、最悪だ…。
「殺せんせー…俺、続けるよ。野球も、暗殺も」
「えぇ、頑張ってください」
このタコ助は、手入れが好きなんだろう。何に対しても。
この先生に手入れされたものは、なんであろうと綺麗になる。杉野も、前を向こうと決心したようだ。
しかし、それは喜ばしくもあり、危うくもある。俺はそんな事を、少しばかり思っていた。
「…………………ヌルフフフ」
◆ ◇ ◇ ◆
「君をここのクラスに入れたのは、やはり成功だったようです」
杉野達と別れた後、殺せんせーと2人で補習をやってると、不意にそんなことを言ってきた。
「なにが成功だっていうんだよ」
「君のおかげで、下を向くことばかりだったクラスが、少しずついい方向に変わっていっている。それは、ひとえに君のおかげです」
「なら、御褒美に殺させてくんない?」
そう言い、エアガンをパンッ!と撃つ。当たり前のように避けられるが。
「ヌルフフフ。それはお断りですねぇ。なんとかして、自力で殺して見せなさい」
「そうかよ……」
「でも、感謝しているのは本当です。渚くんも、杉野君も、君のおかげで一皮向けたような気がします」
「いや、それはアンタのおかげだろ。結構教師向いてんじゃねぇか?殺せんせー?」
「にゅやっ!ついに水湊君も殺せんせーと呼んでくれるように…先生、嬉しいです」
「うるせぇよ…」
「ヌルフフフ。しかし、君は口は悪いですが、中々どうして面倒見はいいようですね」
「別に?まぁ一応年上だからな。子供の面倒を見るのは、年上の義務だろ」
「まぁそういうことにしておきましょう。そしてここの問題、間違えてますよ」
「えっマジかよ!?」
「後は、学力が上がれば完璧なんですがねぇ…」
うるせぇ。ここの問題、明らかに中学レベルじゃねぇだろ。高校でも習わなかったぞこんな問題。
ふと、気になったことがあったので、このタコ助に尋ねてみることにした。
「なぁ。さっき言ってた、ある人との約束ってなんだ?それが、
「…………ヌルフフ。君は勘がいいですねぇ。その質問に対しては、答えはお預けにしておきます。どうしても知りたければ…」
「私は殺してみなさい。ってか?」
ブンッ!!と、どこからともなく取り出したナイフを当てようとする。しかし、ナイフは空を切り、殺せんせーに当たることはなかった。
「その通り!勘がいい生徒は、嫌いじゃないですよ?せいぜい、頑張って下さい」
「………はいよ」
奇妙なやつだ。と、思う。しかし、コイツの生徒に向ける感情は、本物だ。本気で生徒の為になることをしようとし、そのためなら、どんな労力もいとわない。
なら、少しだけ。少しだけ、コイツと学園生活を送るのもいいかな、と思った。