暗殺教室Another〜大海の様な暗殺者〜 作:コユキ@0324
なるべく1日1回更新を心がけているんですが…。難しいものです。
何かが、飛んだ気がした。
「……!!あッつ!!」
それは、たこ焼きでした。
なんだよ…すげぇ焦っちゃったじゃねぇかよ…。たこ焼きかよ…。ビビらせんなよあのタコ助……。
「その顔色では朝食を食べていないでしょう。マッハでたこ焼きを作りました。これを食べれば健康優良児に近づけますね」
「………!」
「先生はね、カルマ君。手入れをするのです。錆びて鈍った暗殺者の刃を」
だから、と殺せんせーは続ける。
「今日1日本気で殺しに来るがいい。そのたびに先生は君を手入れする」
目を光らせた殺せんせーがそう言う。
そりゃそーだよな。考えてみれば、殺せんせーが生徒を殺すわけねぇよな…。
殺せんせーを初めてここまで追い詰めたカルマを見て、俺は焦っていたのかもしれない。
「………!!」
ニヤリ、とカルマが笑った気がした。
その笑みは、宣戦布告の合図だろうか。
「放課後までに、君の心と身体をピカピカに磨いてあげよう」
こうして、問題児対先生の、殺し合いのバトルが幕を開けた。
◆ ◇ ◆ ◇
1時間目・数学。
「どうしてもこの数字が余ってしまう!そんな割り切れないお悩みをもつあなた!!」
殺せんせーが授業をしている。ものすごくわかりやすい授業を。
「でも大丈夫。ピッタリの方法を用意しました!黒板に書くので皆も一緒に解いてみましょう!」
「…………」
シュッ。と、カルマが銃を取り出す。殺る気だ。
しかし……。
「……となります。ああ、カルマ君。銃を抜いてから撃つまでが遅すぎますよ」
殺せんせーには、しっかりバレてたらしい。見事に触手で、手首ごと掴まれていた。
「ヒマだったのでネイルアートを入れときました」
めっちゃ上手いネイルアート付きで。
………いや、手入れだって言ったけどさぁ…。それはなんか違う気がする…。
ほら、カルマも困惑してるし。どうしたものか、これ。みたいな。
4時間目・技術家庭科。
「不破さんの班はできましたか?」
「……うーん。どうだろ。なんか味がトゲトゲしてるんだよね」
そう、殺せんせーに教えを受けているのは、出席番号21番不破優月だ。
「どれどれ」
殺せんせーが、味見をする。と、そこへ。
「へぇ、じゃあ作り直したら?」
カルマ襲来。
「1回捨ててさ!」
スープの入った鍋をひっくり返し、その衝撃とともに、殺せんせーにナイフを振るう。
しかし。
「エプロンを忘れていますよ。カルマ君。あっスープならご心配なく。全部空中でスポイトで吸っておきました」
カルマはナイフを当てるどころか、花柄のフリッフリなエプロンに着替えさせられていた。スポイトで吸ったという嫌味も添えられて。
「ついでに砂糖も加えてね」
「あ!!マイルドになってる!」
余裕の表情で、カルマのイタズラをものともしない殺せんせーだった。
5時間目・国語。
この時間は、島木健作の『赤蛙』を音読する時間だった。
ちょうどいい。俺は、殺せんせーの声をBGMにしながら、物思いにふけた。
………無理だ。
あのタコ助は、結構弱点が多い。
ちょいちょいドジ踏むし、慌てた時は反応速度も人並みに落ちる。それこそ、俺が反応できるくらいには。
…けど、いくらカルマが不意打ちに長けていたとしても…。
「ーーー私がそんな事を考えている間にもーーー」
スッ。
殺せんせーが後ろを向いた瞬間。音も立てずに袖口からナイフを取り出したカルマ。だが。
ピタッ。
「ーーー赤蛙はまた失敗して戻ってきた。私はそろそろ退屈し始めていた。私は道路からいくつかの石を拾ってきてーーー」
カルマの額に触手を置き、それだけで動きを封じ込める。
そして、それだけじゃ飽き足らず、カルマの髪の毛を真ん中わけにセットする。
……無理だろ。
ガチで警戒してるアイツの前では…、この暗殺を無理ゲーだ。
◆ ◇ ◆ ◇
カリカリカリカリ。
放課後の崖っぷち。俺が落ちたところ。
そこには、カルマの爪を噛む音が鳴り響いていた。
俺は、渚と2人でその姿を眺めていた。
「わかったろ?カルマ。焦んないで、皆と一緒に殺っていこーぜ」
「そうだよ。殺せんせーに個人マークされちゃったら…どんな手を使っても1人じゃ殺せない。普通の先生とは違うんだから」
「………先生、ねぇ」
「ん?」
「……やだね。俺が殺りたいんだ。変なトコで死なれんのが1番ムカつく」
「………それは、昨日言ってた『死んだ先生』ってのに、関係あんのか?」
「………少し、昔話をしよっか。」
そうしてカルマは語り始めた。自分がE組に落ちた理由を。
◆ ◇ ◆ ◇
〜以下、カルマの回想〜
『赤羽!お前が正しい!』
そんなふうなことを、言っていた気がする。
『ケンカっ早いおまえは問題行動も多いがな、お前が正しい限り、先生はいつでもお前の味方だ!!』
認めてくれた。そんな気がした。
嬉しかった。自分の『正義』を、認められた気がして。分かってくれた気がして。
だから俺は、自分の『正義』を信じ続けられたんだ。
問題は、この後起こった。
きっかけは、いじめられてたE組の先輩を助けた時だった。
卑劣な奴らだったよ。立場を利用して、散々なことをやっていた。E組の先輩も困ってた。
イジメは許せなかったんだ。え?カルマ君だって、よくみんなをいじめてるじゃないかって?違うよ。程度が違う。
俺は、からかってるだけ。アイツらは、陰湿だった。
E組の先輩を、E組ってだけで因縁つけて、集団でボコボコにしてたんだ。そんなの、放っておけるわけないじゃん?だから俺は、自分の『正義』の為に、拳を振るったんだ。
翌日、職員室に呼び出された。
いくら集団でリンチしていたとはいえ、同じ学校の生徒を傷つけたんだ。なにかしらお咎めは来るだろうな、とは思ってた。けど、あの『先生』は。あの先生なら、俺の事を理解してくれる。あっちが悪いって証明してくれる。そう思ってたんだ。
『うん?俺が正しいよ?いじめられてた先輩助けて何が悪いの?』
俺の発言に、先生は言った。
『いいや赤羽。
え。
『頭おかしいのかおまえ!3年トップの優等生に重傷を負わすとは!』
えっ待ってよ。先生。
『E組なんぞの肩を持って未来ある者を傷つけた。彼の受験に影響が出たら俺の責任になるんだぞ』
味方とか言っといて……そんな事言っちゃうんだ。
なんだか、先生の顔の皮が、剥がれ落ちていくような気がした。
やばい。死ぬ。
『お前は成績だけは優秀かった。だからいつも庇ってやったが、俺の評価に傷がつくなら話は別だ』
あぁ。
『俺の方からお前の転級を申し出たよ。おめでとう赤羽くん。君も3年からE組行きだ』
生きていても、人は死ぬってその時知った。
そいつの全てに絶望したら…俺にとってそいつは死んだと同じだ。
俺は、先生の部屋で1通り暴れてから、停学になった。
◆ ◇ ◆ ◇
「はいっ、俺の過去話しゅーりょー!こうして俺は、E組に落とされましたとさ」
「「…………」」
なるほどな…。コイツが先生を異常なまでに嫌うのは、裏切られた過去があるから。
カルマは無作為に暴力を振るってたわけじゃない。自分の中の譲れないもの。誇り、とても言うんだろうか。それを護るために戦っていたのだ。
なら、俺は。
「お前が先生をとてつもなく嫌う理由はわかった。けど、全員が全員、そんなヤツだとは限らないだろ?少なくとも、あのタコは違うと思うぜ?」
「それくらいはわかってるよ。全部の教師が、あんなクソッたれなわけじゃない。けど、あの時、確かに俺の中で『先生』は死んだんだ。なら、もう終わりでしょ。俺の中では、すべての『先生』が、死んだんだ」
「違うね。お前は、認めたくないだけだ。過去に裏切られたから。『先生』に絶望したから。そりゃそーだよな。信じてた存在に裏切られたら、何も信じられなくなるよな」
俺の誇りのために、カルマを護ろう。
「………知ったふうな口を…!」
「お前が何に絶望した、とかどうでもいいんだよ。そんなんは過去の話だ。今の話じゃねぇ。だから、これだけは覚えとけ。俺は、お前の味方だ。この言葉は、お前を昔裏切ったやつと同じ台詞かもしれない。けど、俺は言うぞ」
一呼吸いれて、俺は言う。
「俺は、俺達は、お前の味方だ」
「………馬鹿なの?その言葉に俺は裏切られたんだよ?同じ言葉言われて信じられると思う?」
「あぁ、信じろ。誓ってやる。俺達は、お前の味方だ。お前が危険な目にあってたら、命にかえてでも守ってやる。お前が道を踏みはずそうになったら、ぶん殴って止めてやる。だってそれが…」
「友達だろ?」
「…………ミナト」
「だから、自分の檻に閉じこもるのはもう止めろ。俺達と一緒に、頑張っていこう」
「………バカはさ、気楽でいいよな」
「あぁ!?テメっ人がせっかくなぁ…!」
「でもバカの一言は、こういう時、力抜かせてくれるね」
「………はっ。余計な言葉が多すぎるんだよお前は」
「あはは……もう一度だけ、信じてみるのもいいかもね」
そうだ。なにもかもひとりで背負い込むなんて、少なくとも中学生には無理だ。
なら、その分みんなに頼ってもいいんじゃないか?頼って、頼られて、そうして信頼ってものは生まれていくんだから。
と、その時。
「さて、カルマ君。今日は沢山先生に手入れをされましたね」
「………殺せんせー」
渚がつぶやく。ようやく出たな本命…。
カルマはどうするんだろうか…。まだ、無謀にひとりで暗殺しようとするのだろうか。
「………確認したいんだけどさ、殺せんせーって先生だよね?」
カルマが尋ねる。
「?はい」
「先生ってさ、命をかけて生徒を守ってくれる人?」
「もちろん。先生ですから」
「そっか。なら良かった」
ガチャリ。とカルマが殺せんせーに銃を向ける。そして。
「なら、助けてよ。自分の命をかけて」
そのまま、崖下へと飛び降りた。
「「…………!?!?」」
カルマのヤツ!何してんだ!
あの高さから落ちたら、よほど運が良くない限り死ぬぞ!?落ちた俺が言うんだから、本当だ!
しかもあいつは、銃を構えていた。あれは、殺る気だ。
どうする!?ゆっくりカルマの事を気遣いながら助けたら、タコは死ぬ。けど、見殺しにすれば、それこそ『先生』としての、アイツは死ぬ。
自らを使った見事なまでの暗殺。しかし、これはカルマは絶対に、助からない。
でも、アイツ…。飛び降りる前、少し笑っていなかったか?って、そんな事を考えている暇じゃない!
俺と渚は、カルマの無事を確認すべく、崖下を覗いた。
するとそこには…。
まるでクモの巣に引っかかったように、触手にネバつかれているカルマの姿があった。
んだよ……。焦らせやがって…。てか、なんでもありかよその触手。
下で、カルマと殺せんせーが何かを話している。しかし、会話がうまく聞こえない。
仕方ないので、少し下に下がってみると、こんな声が聞こえた。
「ちなみに、見捨てるという選択肢は先生にはない。いつでも信じて飛び降りてください」
………はっ。やっぱり、アイツも俺達と同じじゃねぇか。
自分の生徒を信じる。簡単な様で、実はとても難しい。
けど、そんな事をあのタコは、簡単にやってのける。カルマもそんなふうに思ったようだ。
崖下から登ってきたカルマは、開口一番こう言った。
「………ダメだこりゃ。殺せねぇや。少なくとも、『先生』としては」
「おやぁ、もうネタ切れですか?キミも案外ちょろいですねぇ」
カルマがイラッとした顔をする。けど、さっきまでとなんか違う。
「殺すよ。明日にでも」
どうやら標的を暗殺に行った殺し屋は、暗殺対象に、ピカピカに手入れされたようだった。
殺せんせーが作る暗殺教室。メンバーが新たに一人増えて、さらに騒がしくなりそうだった。
「………サンキュ、ミナト」
カルマの言葉は、風の音にかき消された。