Past Colors 作:下書き
「なっ!?」
背後から鉤爪での一刺し。
重症は負うだろうが、致命傷にはならない。
そうあるように狙っているのだから当然だ。
しかし、どうしてここの警備の技量というのは揃いもそろって半端なのだろうか。
この屋敷に入ってから既に4人を始末している。もちろん、援軍を呼ばれないように背後からだが、あまりにもあっけなさすぎる…
「さてと…チェックメイトだ」
そう一人呟くと目的の人物がいる扉を開く。
視線を部屋の奥へと向ければ、あまりにも無防備かつだらしない姿で寝ている小太りの人物が一人。
この屋敷の主であるゴーマン・グラニートで間違いない。
しかし、部屋の前に警備がいないとなれば----
キンっと金属と金属がぶつかり合う音。
扉の影に隠れていたやつの振り下ろされた剣と、俺の鉤爪がぶつかり合う音だ。
「へぇ…他のやつとは違ってちょっとはやれるみたいだな」
「賊が、粋がるなよ?」
お互いに飛び退くと一旦距離をとる。
警備する側が奇襲というのもいささかどうかとは思うが、先ほどの一撃はそれなりに修練を収めたものの重さだった。
帝国兵で言えばざっと小部隊の団長クラスといったところだろう。
「ゴーマン様!
賊です!はやくお逃げください!」
「んぁ…うるさいぞ…レグナート」
レグナートと呼ばれた男の必死の呼びかけも、寝ぼけているゴーマンはろくな返事も返さない。
ここまで肥え太っていると危機察知能力まで衰退してしまうのだろうか…
「お勤めご苦労さん。
さてと、俺の目的はあのデブを殺すことだが、言っちゃえばお前ら警備なんてのはどうでもいい。
これから俺がすることを黙って見逃すなら、俺もお前を見逃してやってもいいぜ?」
「笑わせてくれる。
貴様ごとき賊に、この私が遅れを取るとでも?」
右手の鉤爪を相手に向けての挑発にも、レグナートは取り乱すことなく返答してくる。
「じゃぁ、狩らせてもらうとするか」
夜風によりカーテンがふわっと膨らんと同時に相手に接近する。
腰から肩へ掛けての逆袈裟に対して迎え撃つレグナートの剣。
腰を落とし、左手の鉤爪で鳩尾を狙った攻撃も角度を変えた剣に弾かれる。
「さすがは騎士様。
順応力がすごいこと、すごいこと」
「口数の多い賊だ!」
ふんっと鉤爪を受け止めていた剣を払うレグナート。
これが---この時が狙い目だ。
「っ!?」
払われた剣の下を掻い潜り、懐へと潜りんだと同時に喉元へ鉤爪を突きつける。
「勝負あったな」
「ぐっ…」
相手も剣を俺の背中に刺すこともできるだろうが、それよりも数段俺が相手の喉元を刺すほうが早い。
それくらいはわかるようで、相手は不格好な体勢のまま静止している。
「さてと、もう一度聞くが、大人しくしてる気はあるか?」
「私のこたえはかわ-----」
その言葉が終わる前に、レグナートの身体は地に伏した。
単純な足払いだ。喉元に意識が集中していたため、それは苦もなく成功する。
「まっ、こたえなんざわかってたけどな」
「うがぁぁ!?」
そのままの流れでグサリと鉤爪を左ふくらはぎに刺すと、ゆっくりと引き抜く。
これでもうしばらくは歩くどころか、満足に立つことすらできないだろう。
「じゃっ、そこで黙って見てな」
そう一瞥すると一歩ずつ寝ているゴーマンの元へと近づいていく。
寝具から血が流れ落ちる。
目の前の人物は信じられないといった感じで目を見開いて俺を見ていた。
「お……おま…」
「あまり喋ると傷口が広がるぞ?」
ぐしゃり
胸元に刺した鉤爪をより一層深くに刺し込む。
「ぐぁぁぁあぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!」
「やめろ!やめるんだ!
ゴーマン様を殺すつもりか!!」
夜の静寂を崩すゴーマンの叫び声と、レグナートの悲痛の叫び。
雑音以外の何者でもないそれを聞いているだけで気分を害してくる。
「殺す気かだって?
当たり前だろ、殺す気でここに来てんだよ」
寝具から流れ落ちた流血は俺の足元にまで迫っていた。
ここまで出血すればもう助からないだろう。
そう判断し、もう一突きすると断末魔さえあげずにゴーマンは絶命した。
吐き出された血が俺の服を汚す。
不快だ
既に返り血は浴びているが、それとは違うこれがたまらなく不快だった。
その怒りに任せて寝具ごとゴーマンを蹴りとばす。
上下反対となった寝具の下からゴーマンの腕が見えるが、もちろん動かない。
わかっていた死を認識し、一度レグナートの方を振りかえる。
「お前の部下も今なら全員生きてるし、さっさと救護班でも呼ぶんだな」
「--------!」
うめき声のような言葉にならない声で叫ぶレグナート。
一々、その言葉を聞く義理もない俺は2階の窓から、夜の帳おちる帝都に飛び出していった。
貴族中心に作られた帝都、ニブルハイム。
貴族の中にも階級があるが、基本的に貴族およびそれに従事する騎士や召使以外の人間は商人くらいしか存在しない歪な都。
そこで7年前から断続的に起きている事件がある。
いわく、貴族の被害者は全員死んでいるとのこと。
いわく、貴族階級者以外は重症はおえど生き残っているとのこと。
いわく、犯人は闇夜のような黒衣のマントと両手に鉤爪をはめてるとのこと。
そんなこともあって誰が呼び始めたか、彼は貴族殺しの死神と呼ばれ恐怖の対象となっていた。
それはそんな彼の歪な物語。決して、善たりえない彼による彼なりのこたえを見つける物語