『始まり』   作:アイリスさん

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before storyです。
漣好きなんですよ、いいじゃないですか。

そんな訳で、短編ですが最後までお付き合い頂ければ。


その1 始まり

 

 

某日、ヒトヨンマルマル。小笠原諸島沖。

一隻のボートが浮いていた。その周りには、何故か駆逐艦が数隻。まるで、ボートを隠すかのように展開している。

 

『聞こえるか』

 

その駆逐艦団の旗艦と思われる一隻から、ボートへの無線。『予定通り実験を開始しろ』との指示で、男に連れられて一人の女性がボートの甲板へと上がってきた。

 

「プール上では成功している。問題は無かろう」

 

男性のその言葉に「はい」と答えた、長い髪をツインテールで結わえた女性。瞳を閉じて、意を決して海へと飛び込む。

 

驚いた事に、女性は水には沈んでいない。泳いでいるとか、では無しに。女性は‥‥‥両足で、海面に立っていた。

 

「成功です、中将」

 

男は無線で旗艦の海軍中将へと通信。『よし。此れで大元帥に良い報告が出来る。我が国の海軍は大きく変わるぞ』と満足そうに頷いている。

 

大本営による狂気の実験。人間に戦艦大和の魂を融合させ、兵器とする実験。これが成功すれば、単独作戦行動が可能な、小回りが効き戦艦に匹敵する戦力を持つ高速海上歩兵が運用出来る。戦艦大和のように大型化する必要も無ければ、収納にも困らない。また、兵器自体が人間の為、隠密作戦にも使える。そんな、一騎当千の力を持った戦力を実現させる実験の一歩目が、今当に踏み出されようとしていたのだ。

だが。思惑通りにはいかなかった。これ迄散々失敗してきた大本営。これが実に20回目の歩行実験。それも、海上での実験に辿り着いたのは初めてだ。

 

結論を言えば、今回も失敗に終わった。拒絶反応だろうか。女性は突如胸と頭を押さえて苦しみだし、そのまま水底へと沈んでいってしまったのだ。アテが外れ、その場の一同は落胆し本土へと引き返していく。‥‥‥‥‥‥女性の命など、彼らにはその程度の物だった。

 

 

 

そして、それは‥‥‥人類にとって悪夢の始まりとなった。

 

 

 

************

 

3月22日。とある湊町の、とある家。漁師の男の葬儀が行われていた。喪主は、その一人娘。母親は既に他界し、祖父も祖母もいない。学校のセーラー服を着ている少女はまだ15歳。本当なら来月から高校へと通える予定だったが、唯一の肉親である父を亡くし、呆然として途方に暮れていた。

 

近所の人達や父親の漁師仲間は優しい声を掛けてはくれる。だが、今はこの湊町は厳しい状況だった。近海にも化け物が現れて船を沈め始めていた。事の始まりは半年前。オーストラリアの客船が沈められ、その生き残りの男性が偶然カメラに収めた写真が明らかとなり、それが今まで人類が見たことのない異形によるものと分かったのだ。鯨、或いは鮫のような姿をし、まるで軍艦のように口から砲撃してくる異形。更には、それを統率している真っ白な髪に真っ白な肌の女性らしき何か。その女性も、両腕に異形の砲を持ち、客船を砲撃一発で真っ二つにした。

 

当然討伐に乗り出したオーストラリア海軍だったが、翌日には消息不明となる。事態を重く見たオーストラリア政府は、国連軍に訴えた。

当然ながら、連合軍が投入された。それが、五ヶ月前の事。

結果は‥‥‥壊滅。人類の兵器は、異形には全く通用しなかったのだ。それを期に、異形は海を侵食し始めた。この五ヶ月で、海域の半分は危険地帯となったか。それでもまだ近海は船でも運航できてはいた。しかし、それももう危険なのかも知れない。人類の情報網や交通網は、分断されつつあった。

 

娘を養う為に近海だが漁に出た父親。遺体は、無い。目撃者の証言では、乗っていた船ごと吹き飛ばされたらしい。対面すら叶わない。

 

「レンちゃん」

 

近所のおばさんに肩を叩かれ、少女は顔をあげた。肩程の長さで、ツインテールで結わえられたピンク色の髪が微かに揺れる。

 

「‥‥‥おばちゃん」

 

レンと呼ばれた少女は、すがり付き泣き出した。やっと今置かれている現実を認識したらしい。

 

「おばちゃん‥‥‥おばちゃん‥‥‥私‥‥‥」

 

「今は泣きな。辛い時は、泣いていいんだよ」

 

******

 

その日の夜。他に誰もいなくなった家で、レンは荷物を整理していた。今住んでいる此処は借家で、5月以降は契約が切れる。一人でも住めるアパートを探し、同時に仕事も見付けなければならない。

 

(どうして‥‥‥どうして父さんが‥‥‥)

 

早起きし、弁当を作って、笑顔で見送った父親の背中。

思い出すと、涙が止まらない。

 

(これから‥‥‥どうなっちゃうんだろう‥‥‥)

 

海を支配し始めた怪物達。このペースで行けば、人類は近いうちに海を失う。世界は分断され、近隣の国へすら行く事が叶わなくなるのかも知れない。

 

(でも、今は‥‥‥)

 

兎に角、明日からは仕事を探さなくては。まだ中学を卒業したばかりの自分にも出来るような、何かを。

 

(アルバイトくらいしておけば良かったな‥‥‥‥‥‥)

 

そんな事を考えていたレンが、あるものを見付けた。いや、ものという訳ではない。小人‥‥‥なのか?

 

(小人っ!?コロポックルとか!?嘘っ!?)

 

恐る恐る近付いてみる。小人はかなり小さい。リスとかの小動物程度の大きさで、2頭身の愛らしい容姿。ただ、着ている服がどうにも軍服に見える。

 

「あっ、あの、小人さん?」

 

レンの呼び掛けに、小人が振り向いた。かなりビックリしているようだ。

小人を抱き上げてみる。幻覚とかの類いでは無いようで、触っている感触もちゃんとある。

 

『私が見えるんですか?』

 

「話せるの!?」

 

日本語を話してきたのにも驚いた。話を聞いてみると、どうやら小人は妖精と呼ばれる類いの生き物らしい。海上を移動していた所を最近現れた海の異形に襲われて交戦、敗北して今のこの家に辿り着いたらしかった。

 

「え?待って。あの怪物達と戦えるの!?」

 

レンの驚きはそこだった。人類の最新兵器の数々すら全く効かない怪物達と、負けはしたがやりあえるだけの力を、この小さな妖精さんが持っているというのだ。驚かない方がおかしい。

 

妖精さんによれば、妖精はかつての世界大戦での軍艦の乗組員達の想いから生まれた化身らしい。故に、通常は人には見えないそうなのだ。こうしてレンが見えるというのは、奇跡なのだ、と。

 

原因を突き止めようと、妖精さんがウーン、と悩む。少し悩んだ結果、妖精さんはレンの頭の上によじ登ってきた。

 

「え?あの、妖精さん?」

 

妖精さんは瞳を閉じて、なにやらブツブツと口走っている。次の瞬間、驚くべき事にレンの身体がうっすらと光り始めた。

 

「えっ!?えっ!?」

 

今起こっている現象が、全く理解出来ない。そもそも妖精が存在している事すら不思議なのだ。あたふたしていたレンに、妖精さんが語りかけてきた。

 

『やっぱり。探しましたよ、綾波型9番艦駆逐艦 漣』

 

「‥‥‥‥‥‥え?」

 

海軍や軍艦については全く分からない。知識はサッパリだ。そんなレンに、妖精さんは丁寧に説明してくれた。駆逐艦漣の生まれ、嘗ての世界大戦での活躍、その最期の事も。

そして、妖精さん達はそんな軍艦の魂から力を分けてもらう事で、今の数倍の力を発揮出来るらしい。

 

「その駆逐艦漣の魂が、私の中に?」

 

『そうです。その力を解放出来れば、あの怪物達を倒す事も出来ます。お願いします、私の仲間達の為にも、力を貸してください!』

 

レンは悩んだ。同級生の男の子と口喧嘩するだけでも怖いのに、怪物と戦うなんて怖いに決まっている。それに、人類を救う力があったとして、それが自分でなければならない道理がない。妖精さんの話だと、他にも同じような力を持った人間がいる可能性があるらしいのだ。

しかし。

 

「分かった。頑張ってみるよ」

 

レンは頷いた。どうせもう天涯孤独の身だ。他の人達にはきっと家族が居る。もし負けて死ぬような事があったら、その人の家族が悲しむに違いない。ならば、その役目は自分でいい。そう考えた。

 

「でも、明後日からでもいい?」

 

妖精さんの話だと、異形に対抗するには武器が必要。それを作るには散り散りになった妖精さんの仲間達と再会する必要があるらしい。出掛ける必要が有るなら、それには準備が要る。

 

翌々日。レンは肩に妖精さんを乗せ、母親の形見のキャリーバックを引いて歩き始めた。中には衣類、父親と母親の位牌。それと、父親が残してくれた通帳。亡くなった母親が最後に買ってくれた下着も。

 

他の物は前日に全て処分した。どうせ、もう此処には帰ってこないだろう。妖精さん達を見つけ、武器を作って、異形達から海を取り戻す。きっと、何年も掛かるだろう。

 

「じゃあ、出発!」

 

レンの履いている靴は、少し特殊な形をしている。スニーカーの上に何やら船の推進機関のような物が付けられた靴。妖精さん一人だけではこれを作るのが精一杯らしい。此れが、駆逐艦漣と同じだけの推進力を得るための機関だというのだが、俄には信じられない。

妖精さんを探すには、ある程度近くまで近付けば独特のネットワークで分かるそうだ。しかしながらそれは宛もなく探さなくてはならないという意味で、異形と対峙できるようになるまでにはかなり時間が掛かるかも知れない。

 

「ねえ、妖精さん、これ本当に海に浮くの?」

 

『燃料の事もありますが、そういう事なら少し練習しましょうか?』

 

‥‥‥移動には燃料が必要らしい。船だというのだから当然と言えばそうなのだろうが、これは困った。少しなら父親が所有していた漁船にも有るが、船用の燃料を確保しなくては‥‥‥と、ここで父親の予備の船をそのままにしていた事を思い出したが、今はもう仕方ない。

 

「いきなり海は怖いから、川にしよう?」

 

そうして、川で進水する事になる。勿論、レンは水面に浮く。浮く、と言うよりは立つと言った方が正確だ。

 

こうして、レン‥‥‥後に英雄と呼ばれるようになる『駆逐艦漣』は動き始めた。その未来に絶望が待っているとも知らず。

 




レンちゃん改め漣さん。人生ハードモード。苦労が報われるといいですね‥‥‥
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