『始まり』   作:アイリスさん

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3話。駆逐艦漣の受難は続きます。


その3 資質

 

 

(これからどうしよう‥‥‥)

 

勢いで家を出て妖精さん探しの旅に出た、迄は良かった。だが、レンはまだ15歳だ。しかも、無職の宿無しである。非常に困った。暫くは預金を切り崩せば生活できるかも知れないが、そんな事長くは続けられない。やはり、何処か働く場所を探す必要がある。それと、拠点となる宿も。

 

連装砲は剥き出しで持ち歩く訳には行かない。少し大きめのバックに詰めて、キャリーバックに固定して持ち歩いている。何気に大荷物だ。

 

(この近くに妖精さんが居ればいいんだけどな‥‥‥)

 

連れている妖精さんは、バックの中で睡眠中。流石に疲れていたようだ。レンもかなり歩いたし、そろそろ何処かで休憩もしたい。

 

(休みたい‥‥‥お風呂入りたい)

 

宛もなく、というのはやはりきつい。目的地さえハッキリしていれば、電車なり海上を走るなりして一直線に進むのだが‥‥‥。

 

「ふぎゃ」

 

普段なら絶対に躓かないような道路の段差に右足を引っ掛け、レンは盛大に前にコケた。両掌を突いたお陰で地面に顔面を直撃、という事態は免れたが、右膝を擦りむいた。小学生の時以来だ。

 

「ううっ‥‥‥痛い‥‥‥」

 

近くにあったベンチに座り、怪我を左手で擦る。「はぁ」と溜め息をついて、バックから絆創膏を取り出して貼った。

 

(‥‥‥ん?)

 

座ってこの辺りを見回したお陰で、近くに銭湯があることに気が付いた。膝は擦りむいてはいるが、血は殆んど出ていないし、大した傷ではない。(怪我してるけど入っても大丈夫かな?)などと考えながら、吸い込まれるように銭湯の方へと歩く。

 

それなりに立派な門。暖簾を潜ると、番台を挟んで左が男湯右が女湯、二手に別れる構造になっていた。昔ながらの銭湯だ。

 

「いらっしゃいま‥‥‥珍しいですね」

 

番台に居たのはよく居るようなお年寄りではなく、恐らくレンと同じくらいの少女だった。肩くらいの長さの黒髪で、後ろを縛っている、純粋そうな娘。

この辺りではレンのような歳の子が一人で利用するのが珍しいらしい。

 

「あ、えっと‥‥‥膝擦りむいてるんですけど、大丈夫ですか?」

 

番台の少女は頷いて「大丈夫ですよ」と答えてくれた。レンの持つキャリーバックに視線を向け「旅行ですか?」と訊ねてきた。

 

「そんな感じです」

 

お金を払い、中へと入る。本当に昔ながらの銭湯だが、ロッカーにはちゃんと鍵も掛かるようだ。

妖精さんはまだ眠ったまま。起こすのも悪いと思い、そのままにしてバックごとロッカーに入れ、服を脱ぎ、身体を洗い、風呂へ。

 

「はー‥‥‥生き返る‥‥‥」

 

そんな年寄り染みた事を洩らし、のんびりと湯に浸かる。何故だか分からないが、もの凄く疲れが取れる気がする。

 

(なんだっけ‥‥‥プラシーボ効果だっけ?ま、いっか)

 

時間が早いからか、それとも田舎だからなのかは分からないが、今はレンの他には誰もいない。セオリー通り富士山の描いてある壁際に頭を持たれ掛け、両手足を投げ出す。

 

(そう言えば膝、染みないなぁ‥‥‥あれっ?)

 

傷が全く染みない違和感に気付いて、右足を挙げてみた。有った筈の怪我が、綺麗に消えていた。

 

(もしかして、これも駆逐艦漣の力かな?)

 

少しの傷なら直ぐに回復出来るのだろうか?だとしたら、軍艦の魂の力はチートもいいところだ。まるで、本当のヒーローになった気分だ。

 

お風呂を堪能し、バスタオルを身体に巻いてあがってみると、番台の少女が牛乳瓶を二本持って待っていた。笑顔で「どうぞ」とその一本を手渡してくれた。レンも笑顔を返し、それを右手で受け取った。

 

「ありがとう。えっと‥‥‥私、レンっていいます。番台さん、名前は?」

 

「ユキだよ。レンちゃんはこれから何処に行く予定なの?」

 

ユキと名乗った番台の少女。レンは駆逐艦漣の事は隠し、適当に『自分探しの旅』だと答えておいた。純粋に「凄い!格好いい!」とキラキラして尊敬の目差しを向けてきたユキに嘘をついた後ろめたさを覚えながら、他愛もない話をした。ユキの両親もまた、あの海の怪物に殺された事や、今のこの銭湯を経営している祖父母と生活している事。レンと同じくらいの歳なのに祖父母の面倒を見る為に学校には通っていない事など。

 

 

 

「レンちゃん、また来てね!」

 

「うん、また来るから!」

 

手を振って見送ってくれたユキと別れ、レンは歩き出した。気のせいではなく、身体が軽い。先程のお湯に疲労回復の効能でもあったのだろう。

 

1㎞程海岸沿いを歩いていると、海の方から警報が聞こえた。沖の方、巡視船があの鯨のような怪物に襲われている。銭湯を出て直ぐに起きていた妖精さんもバックから顔を覗かせ海を見ている。

 

「妖精さん!」

 

『はい、助けに行きましょう!』

 

靴の艤装を付けて、連装砲をバックから取り出す。キャリーバックは見つからないように岩影に隠して、砂浜へと降りる。

 

「今助けに行くからね!」

 

レンは意識を集中。身体に燃料を巡らせ、両足で地面を蹴って、勢いよく海面に着地。出来る限りの力で水面を蹴り、沖へと走る。

 

巡視船も発砲したりと抵抗はしていた。しかしそれが怪物に効く筈もない。怪物は口を開けて巡視船に砲を向けた。万事休す、というタイミングで、その怪物に横から砲撃が飛んできた。当たりはしなかったものの、怪物が向きを変えて砲撃のあった方向‥‥‥レンの方へと向かってくる。

 

『絶対に避けてください!』

 

「うん!」

 

よくよく観察してみると、怪物の砲撃直前、口の中の砲身が光るようだ。相手の怪物が一体だけならば、光った瞬間に全力で今居る場所から回避すればそうそうは当たらない筈だ。

 

全身を投げ出すように横に飛んで、怪物の砲撃を回避。次の砲撃までの間に、此方も砲撃。まだ馴れないのでそうそうは当たらないものの、6回目で怪物にヒット。煙をあげて動きの極端に遅くなった怪物に、レンが落ち着いて連装砲を向ける。

 

「ていっ!」

 

2発とも怪物を捉え、爆発が起こる。だいぶ戦闘にも慣れてきた。一対一ならば、そうそう負ける気はしない。

 

「よしっ!」とその場でガッツポーズ。笑顔を見せて巡視船の砲に手を振っていたレン。その巡視船から再び警報が鳴るのを、首を傾げて眺める。

 

「また警報?手を振ったから答えてくれたのかな?」

 

『レンさん、後ろです!』

 

妖精さんの声で振り向くも一歩遅かった。怪物はもう一体居た。その口内の砲が放たれ、レンの左手を掠めた。と言っても直撃ではなかったというだけ。肘が折れ、二の腕辺りが血まみれ。かなりのダメージもらってしまっていた。

 

「痛い‥‥‥痛いよ‥‥‥妖精さん‥‥‥」

 

痛みに耐えられず、涙を流しその場に座り込んでしまったレン。『レンさん。落ち着いて!砲を構えて下さい!』と必死に叫ぶ妖精さん。

 

再び怪物が口を開けた。次を被弾すれば後は無い。完全に固まってしまったレンは死を覚悟したが、怪物が突然向きを変えた。巡視船が発砲してくれていたのだ。

怪物が砲を巡視船に向ける。今しかない。レンは12.7㎝連装砲を膝と右手で固定し、座ったまま怪物に向けた。放った弾は2発とも命中。怪物は爆発。

怪物が撃った弾が船首に当たり大きく傾いているが、巡視船はなんとかまだ無事。代わりにレンは怪物に近すぎて、爆風で浜の方へと大きく吹き飛ばされた。

 

『レンさん、確りしてください、レンさん!』

 

幸い、波に押されるように浜へと打ち上げられたレン。連装砲や靴の艤装は無事だが、左腕の怪我は不味い。

 

「血‥‥‥止まら‥‥‥ない‥‥‥」

 

痛みで泣きながら、左腕を押さえる。治るような気配はない。先程膝を擦りむいた時は簡単に傷が消えたのに。

 

「さっきは‥‥‥擦りむいた‥‥‥膝は‥‥‥治った‥‥‥のに‥‥‥」

 

妖精さんがハッとした。レンの言葉が確かなら、レンが知らないうちに修復材、もしくはその成分をもつ何かを使った事になる。この町か、それともレンの持ち物かは分からないが、何処かにそれが有る筈なのだ。

 

妖精さんは慌ててレンの持ち物を漁った。該当するような物はない。

レンに聞こうにも、初めて味わったであろう強烈な痛みに既に気を失っている。

 

『‥‥‥‥‥‥さっきの銭湯!』

 

妖精さんは走った。一刻の猶予も無いかも知れない。なんとか銭湯に辿り着き、中へ。湯槽に張られているお湯に手を入れると、強く頷く。このお湯には確かに、駆逐艦漣を修復させる成分が多量に含まれている。

 

『やっぱりこれだ!このお湯をどうにかしてレンさん‥‥‥に‥‥‥?』

 

振り向いた妖精さんの瞳に映ったのは、さっきの番台の少女、ユキの姿。それも、その視線は真っ直ぐに妖精を向いている。

 

「えっと‥‥‥小人さん、なのかな?」

 

やはり。このユキという少女には、妖精さんが見えている。時間が無い。妖精さんはユキに飛び乗り、その髪を引っ張り必死に訴えた。

 

『お願いです!レンさんを、レンさんを助けて下さい!』

 

******

 

その頃。茨城某所。携帯電話を片手に、もう片手に写真を数枚持って興奮気味に話しているのは、足木記者。

 

「やりましたよ、編集長。スクープ、大スクープですよ!救世主ですよ!」

 

足木の持つ写真に収められていたのは、かなり遠目ではあるがレンが怪物を撃沈している所を連続で捉えた写真。先日の漁船の漁師が撮ったものだ。

 

「この写真はそっちに送っておきます。私はこれからこの少女を追います!もっと凄い現場を抑えてみせますから!」

 




ユキちゃんが初登場。まあ、言わずとも誰かはお分かりいただけるかと。
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