金無し門閥貴族当主、十三歳女 ―― 下手に血筋と家柄が良いのが災いして、四十以上年上の人間と言っていいのか疑わしい、見た目妖怪、中身は手の付けようのない屑に狙われている。
頼れる身内はなく……だから、訳の分からん輩が「婿に」と名乗りを上げているわけだ。このような場合、金で解決……だが、金は血縁以上に存在せず!
なんだか無駄に立派な邸と血筋だけが残された、十三歳のわたしにできることなど……ある!
わたしはこの世界が銀河英雄伝説の世界だと知っている!
そう、転生者!
なんで転生しただとか、神様に云々なんてなかった!
気付いたら”こう”だ! 前世の名前すら覚えていない! 覚えているのは銀河英雄伝説についてと ―― あと幾ばくか。
だから、この状況を打破する方法を知っている。この世界の覇者であるラインハルト・フォン・ローエングラム、今はまだラインハルト・フォン・ミューゼルだろうが、とにかくラインハルトに自分を売り込む!
どんな才能があるかって? わたしにラインハルトを納得させるような才能なんて、ある訳ないでしょ!
あるのは若さだけ!
でもこの若さが役立つ!
この時期ラインハルトとキルヒアイスが下宿している所へ急いで向かい……ラインハルトの嫁になりました。
祝! ヒヒじじいとの結婚回避! 祝! 破産も回避!
うん、わりとあっさり結婚できたよ。
ほら、ラインハルトって権力や財力で若い娘を買うような男、大嫌いじゃない。それが原動力になって、最後には宇宙征服しちゃうんだから、どのくらい嫌いなのか、賢明な読者ならお察し。そしてわたしも賢明な読者だったので、お察ししたさ!
ラインハルトは門閥貴族は嫌いだけど、わたしみたいに身寄りのない子供には弱かった。見た目だけで、中身はこどもじゃないけれど、とにかく人は見た目が九割! 少女が悲愴な面持ちで(鏡見て練習してきた)「五十八歳の門閥貴族の放蕩五男坊に……」と言ったら結婚してくれたよ。
ちなみに五十八歳の五男坊は本当にあった縁談の一つ。
その年まで実家で飼育していたのなら、最後まで檻に入れて飼育しておいてよ! 名門の跡取りに出来るかも! なんて欲出さないでよ。愛玩動物は死ぬまでちゃんとお世話してあげないと駄目だよ! 室内飼いだったら、おうちから出しちゃ駄目だよ!
最初はラインハルト、保護は考えてもいいが結婚は……と及び腰だったんだけど、相手の写真と経歴を見せたら表情が変わった。
ナイス、屑ども!
そこで結婚は契約で……と。いやわたしもね、結婚したいわけじゃないんだ。
部下になりたかったんだが、彼の部下になる才能なんざあ皆無。だから最終手段を使ったのさ!
普通、契約結婚は両者にメリットがあるものの ―― ラインハルトに、これと言ったメリットはない。それなのに引き受けてくれるとは、いい人だ。宇宙をその手に掴む男は違う。キルヒアイスも自分のことを色々と言っているけれど、根はお人好しだし ―― ラインハルトの親友やれてる時点で、お人好し以外のなにもんでもねえ!
婚姻期間はラインハルトが権力を握るまで。
皇帝に即位する前でも、権力を握ったら即座に、はい☆さようなら! なる契約のもとでの偽装結婚というやつ。
リップシュタット戦役が終わったころには、これら愛玩動物とその飼い主共は消え去っていること間違いなし。
わたしの人生のために、塵屑掃除お願いします☆
ちなみにラインハルトはわたしの五歳年上で十八歳。
もう准将ですよ、准将。どんな出世速度ですか! 記憶あるなら驚かないだろう? と突っ込まれそうですけれど、実際この目で見ると凄いんだって。
だって十八歳ですよ、十八歳。
さすが二十三歳で銀河皇帝になる人は違うわー。頑張ってください、ラインハルト。
わたしは覇道には、なんの協力もできませんがね!
「私が権力を握った暁には、あなたの思い人と添い遂げられるよう協力する」
ありがとう、ラインハルト。
でもそれ、口から出任せだから!
なんの話かって?
ラインハルトに契約結婚を申し込んだ際に、好きな人はいないのか? 聞かれたんですよ。好きな人がいるのなら、その相手と結婚するといい。財産や身の安全は確保してやるとね。
ここで「実はラインハルトさまのことが、好きなんです」と言うのは状況的におかしい ―― わたし、ラインハルトと直接会ったのは、今回が初めて。いままで掠ったこともない。
歴史を知っているのなら、もっとアグレッシブに行けと言われそうだが、接点がないんだから仕方ない。
ここで会ったことあるんですよ……と嘘をつくのは、かえって危険。キルヒアイスはラインハルトのスケジュールを全て抑えているのだから、調査して一度もかすってないのがバレたらもう終わり。
なので嘘をつかず……ではなく、先のことを考えて、好きな人などいないのだが、実は好きな人はいるのですけれど、相手が平民なのでと嘘をついた。
なんの為の嘘かって?
それは「拍子」とか「弾み」とか「魔が差して」てセックスしたりしないための嘘だよ! セックスそのものは良いよ。お世話になってるから、いつでも来やがれ! クレバーに抱かれてやるよ! ……だけど、ラインハルトって一回でもやると「結婚」になるから困る。
セックスは淫蕩でもなんでもないから。
間違ってすることも、多々あるから! と言っても通じないだろう。なので牽制ですよ。ラインハルトの性格からすると、好きな相手いると手は出さないだろう。
ラインハルトの奥さまは聡明でなくてはいけません。あと美貌も絶対に必要だよね!
わたしの容姿?
………………はんっ!
権力のある門閥貴族だったら、その質問をした時点で処刑してるわ!
ああ? そこまでの容姿なら間違って手出しされることを心配しなくてもいいのでは? …………まあな! そこら辺は、全然心配してないよ! だーかーら、弾みを警戒しているだけだっての!
とにかくラインハルトはキルヒアイスとお仕事へ。
わたしはというと、クーリヒ、フーバー両未亡人と仲良く過ごしてますよ。
両未亡人が孫娘が出来たみたいと、可愛がってくれるの。
わたしも両未亡人と過ごすのが楽しくて、楽しくて。
契約が終了したら、ここで下宿生活を送ろうと画策中ですとも。
仕事はラインハルトの伝を使って、ミッターマイヤーの実家のメイドになろうと考えてます。下宿のお手伝いもする所存。
完璧な人生設計だと、自画自賛してしまうわ。
さ☆て!
そんな人生設計をしているわたしだが、一つしなくてはならないことがある。
【二百万人】ヴェスターラントの核攻撃【死亡回避】
わたしがこの攻撃を回避する目的は、百パーセント利己的なもの。
この攻撃が実行されて、二百万人の民間人が核の熱に焼かれて非業の死を遂げるわけですが ―― ラインハルトは恨みを買うわけですよ。
それは当然だし、ラインハルトもそのくらいは覚悟しているでしょうが、わたしはそんな覚悟はしていない。
だが身内を見殺しにされた人が、ラインハルトの身内を狙うのは当然のこと。それに関してはわたしも、同意するし、恨むなとも復讐するなとも言わないよ。
だって法の裁きとか、専制君主の前には無力だし、バーラト自治区の皆さんにだってどうすることもできないだろう ―― あいつらは、あいつらの小さな軍事民主主義さえ守られていればいいだけであって、その他のことには無関心だからな! 一応仲間のはずのロムスキー医師の死体を放置して帰って来るくらいに、ガチ軍閥身内以外には興味ないからな!
で、ラインハルトが狙えないとなれば……わたしは元身内なので、狙われてしまう可能性が。契約してただけだからと叫ぼうが、核で家族を焼かれた人がにとっちゃあ関係ない。
それを回避するために! 核攻撃は絶対に阻止!
他の理由として、キルヒアイスを生き残らせるために、仲違いしないようにするのが目的。
一緒に暮らしてたら、情もわくというものですよ! 二人ともいつも宇宙に行ってて、そんなに一緒に暮らしているって感じじゃないけれど、いい人だからさ。
知っている以上、回避したいじゃないですか! いや、するんですよ!
なんかキルヒアイスが生きていたら、ヒルダが出てこなさそうだけど、見ず知らずのヒルダよりも、顔見知りのキルヒアイスのほう助けたくなるのが人情ってモンよ!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
わたしは今、重機免許取得講習会に参加中。
特別な才能はないけれど、特殊技能はやる気と金さえあれば、いくらでも身につけられる。以前のわたしは参加費用が払えず悔しい思いをしていたが、ラインハルトと結婚したことで金の融通がきくので、取れるうちに取りまくる! 試験料は無駄にはしない ―― 当然合格するよね!
重機の免許を取ったわたしは、ラインハルトから重機を借りて、実家の庭の畑を潰すことに。
門閥貴族の邸に菜園? と言われそうだが、金がなかったから、庭を菜園と養鶏場にして食いつないでたのさ!
……で、この邸、ラインハルトが「将来の元帥府に」と買ってくれたので ―― ウチ、ラインハルトの元帥府になるくらいでかかったんだな。
通りで管理するの大変だったわけだ。
もっとも邸は百分の一程度しか使ってなかったけど。わたしの主な居住空間は庭だったけど。
当然内装工事が入るわけだが、その際にラインハルトに菜園を潰してもいいかと打診され ―― どう考えても、元帥府の庭を軍鶏が跋扈してたら大問題だろうし、農作業されても困るだろう。いくらでも潰してくれよ。もう、買ったあんたのモンだぜ、ラインハルト。
それで菜園を潰すのだが、せっかくなら、自分の手で……と、軍から重機を無償で借りて ―― 将校特権万歳! 寵姫の弟万歳! わたしも軍人になろうかなあ。下っ端工兵くらいなら、なれそうなんだけどなあ(応募要項と必須免許の欄を眺める)
そうだ従卒になれば……
ああ、それはともかく、重機で庭潰すぜ!
いままでありがとう! 君たちのおかげで生きることができたよ! ありがとう! ありがとう!
家庭菜園と養鶏場(軍鶏含む)の他に、もう一つわたしが生きるために尽力してくれた存在 ―― 我が家でただ一人の使用人である下男。
この下男、私の曾祖父が余所の貴族の邸で、母子共々虐げられているのを見て腹が立った……のもあるが、虐めているのが相手が良いとこのボンボンだったので(おめーも、良いところのボンボンだろ曾祖父)嫌がらせしようと、盗んで持ち帰ったという曰く付きの奴隷である。
うん、盗品なんだ。正真正銘の盗品奴隷なんだ。損害賠償求められるタイプの奴隷。バレなかったから良いけど。
この当時はもあまり裕福ではなかったが、奴隷二人くらいは養えたらしい。
だからといって、持ち帰ってくるな。大体お前、借金しにいったんだろう? もちろん、借金などせずに帰ったとのこと ―― いいけどさ。
こんな曾祖父のど阿呆な行為にも関わらず、連れて来られた奴隷母子は、それはそれは曾祖父に感謝し、誠心誠意仕えてくれて ―― 下男はこうして最後まで残ってくれた。
いや、途中でさ、あまりにも現金収入がなくて、下男が「御前さま! わたしを売って、現金を手にいれ年金支給日まで凌いでくださいまし」とか言ったこともあったが……お前はもう売れるような年じゃないから。お前みたいな干涸らびたジジイなんざ、誰も買わんっての。
お前を売るくらいなら、公爵家伝来の家宝でも売るわ、そっちのほうが余程金になるわ!
家宝売ってないのって? そりゃあ売ってないよ。
わたし以外の公爵家の皆さんは、公爵家のよりどころとして。わたしは、体裁を繕うために。
なんの体裁かって?
そりゃあ、同盟に亡命しないための体裁ですよ。わたしの性格と行動力があれば同盟に亡命も可能。事実祖父さんは、下男を連れて亡命したほうがお前の為になるだろう、なによりお前の性格に合っているだろうとか言ってきたが ―― 残念ながらわたしは同盟が滅びることを知っている。滅びることが分かっている国家に亡命するってどんなマゾ。
故に同盟に亡命しない理由として、貴族の矜持をそれとなーく誇示して、うまくやり過ごしてきたのさ。
百歩譲って同盟に亡命して外貨を稼いで送るのもアリだったんだろうが、単独亡命は駄目だと。下男は連れていけ……言われたんだが、祖父さん、下男がいなけりゃまともな生活送れん状態。祖父さんだけ残して亡命するほど、わたしも鬼畜じゃない……わけでもなく、誰が泥船に乗るかと。だから、わたしはマゾじゃないんだ。
そんな我が家にとって重要な下男だが、こんな貧乏公爵家じゃなくて、元の公爵家で奴隷やってたほうがマシだったんじゃないかなあと思ったよ、あっちは裕福だからな……大脱税で。
下男が元いた公爵家ってのは、あのカストロプ公爵家。
うん……分かってる分かってる。我が家のほうがラングの頭髪分くらいマシだってのは。
ちなみにカストロプ公爵家と我が家は、何となくながら縁戚。その関係で御屋敷にお邪魔できたらしい。要するにマリーンドルフ伯爵家とも縁戚。
じゃあ、マリーンドルフ伯爵家に援助を求めろよ? それは考えたよ、実行に移したよ……でも、伯爵に会えなくて話にならなかった。
政争を嫌う門閥貴族は、ほとんど領地にいて、滅多にオーディンに出てこない。
わたしはと言えば、貴族の領地?? そいつは都市伝説だろ? 政争? なにそれ? 状態の門閥貴族。
オーディンにマリードルフ伯の邸もあるが、貧乏貴族がのこのこ出向いて会えるわけもなし ―― 取り次いでもらえなかったんだよ!
でも良いんだ。取り次いでもらえたとして、援助してもらえたとも限らないしさ。色々いっても、あの人たちも門閥貴族だからね。
ちなみに下男が言ってる「御前さま」ってのはわたしのことだ。
とにもかくにも、最後まで仕えてくれた下男に、ラインハルトに邸を売却した金の半額を渡し、奴隷の身分から解放して、平民の地位を与え暇を出した。下男の忠義に報いることができて、ほっとしたね。
死ぬまで生きていくには、充分な金額。それと終の棲家 ―― ラインハルトの官舎なんだけどね。下男を軍属にしラインハルト付きの従卒として、官舎に住まわせるという形を取ったのだ。仕えるべき男は下宿にいるので、家は好きなように使ってよく、仕事もないので……呆けるかなーと思ったが、たまに様子を見に行くとすげー元気。
一応さ料理を作って持って行ったりもするんだけど、その倍以上の料理とか菓子とか持たされて帰るはめになる。
一緒に住めばいいじゃない? そういう選択肢も確かにあるけれど、そうなるとあの下男、死ぬまでわたしの世話だけしそうだから。残りの人生は、楽をして過ごして欲しいなということで解放し、わたしから遠ざけたのさ。
え? 下男って結構な年じゃないの? 軍は定年なんじゃないの? 採用年齢をとうに越しているのでは?
それを聞くのかね。この特権社会で。
ほら八十ちかくまで軍に居座るであろうエーレンベルクとか、杖ついたアレなグリンメルスハウゼンが軍に在籍していることからも分かるとおり、門閥貴族ならわりと好き勝手出来るのさ。なにより、ただの従卒だからね。これが佐官とかなら、叩かれただろうけれど。
ああ、そうそう下男。エーレンベルクを見て「あの若造が元帥とは、帝国軍の凋落も甚だしい」とか言うな。たしかにお前の年からしたら若造だが、あいつ軍の重鎮で最高齢なんだから。うん、だからエーレンベルクのこと「青洟垂らしてた餓鬼が」とか言うな。想像つかんわ!
青洟垂らしてる貴族の子弟とか、馬鹿そのものじゃないか!
さてラインハルトと契約結婚したわけだが、門閥貴族の愛玩動物と言う名の肥えに肥えまくった物体たちの中には、わたしのことをまだ諦めていない奴らがちらほら。
拉致監禁強姦種付妊娠出産で権利を奪おう! とエライ短絡的に考えてくれる人たちがいる。
ふふふ! だが対処したから、もうわたしをどうしようとも、権利が貴様らに移動することはないのだがな! 馬鹿め! ふははははは!
寵姫の弟の妻特権をフルに使い、アンネローゼ経由で皇帝にわたしが死んでも、姻族には門地が渡らないようにしてもらったのさ。これ、別におかしいことじゃない。
なにせわたしの姻族はラインハルトでありアンネローゼ。
この取り決めをしておかないと、もしもわたしが死んだらアンネローゼに迷惑をかけてしまう……ってか、建国以来の名門が転がり込む ―― それは避けたいわけですよ、国務尚書としては。なにせフリードリヒ四世は、歴史ある貴族の爵位を蔑ろにすることにかけては、実績がありますし。
ならばわたしからの申し出は渡りに船。
とにもかくにも、やつらには権利が渡らないことは確定しているが、もちろん公表はしていない。
権利が渡らないことを公表しないと身を守れないのではと言われたが、ぎりぎりまで公表しない方向で調整してもらった。
理由? そりゃあ苛つく門閥貴族どもを、粛清をしたいからですよ。
今までは権力がないので殺せなかったが、バックに権力者がついたのだから殺し放題! 襲ってくる輩を、ネイルガンで撃ち殺す!
わたし、ネイルガンの扱いには自信あるんだ。
ほら、あれだけ大きな邸でありながら、召使いがいないことが知られているから、変なのが住み着こうとする事案がよくあって。その際に、ネイルガンで脅す……ま、他人の家に勝手に入り込むような輩なので、痛い目を、それも復讐など考えないほど徹底的に痛めるけるのが最良。躾というやつだ。
不法侵入者にまずは土と砂と小石を混ぜた水をいきなりかける。
目が見えなくなった彼らは移動できず、その間に殴って殴って蹴って殴ってを繰り返し抵抗する力を奪い、柱に括り付ける。
顔の泥を拭ってやってから、奴らの目の前で指先に釘を打ち付ける。爪の間と爪の上からの、どちらもやるよ☆
ちなみにこの時は小さな釘。
指二十本に釘を四十本から五十本ほど打ち込んだあと抜くよ!
最初に打ち込んだ釘は、肉がぎゅっと絡みつき中々抜けないんだ。抜くと痛いらしいが、知ったこっちゃない。
こうして全部の釘を抜いたら解放してやる。
釘は我が家の困窮状態から推察できるだろうが再利用が基本。変な病気とか持ってたら大変だね。そうじゃなくても、雑菌が入り込んで…………人間って、眼球にネイルガンで釘を打ち込んでも即死しないんだ。ちっ!
今度は耳穴に五寸釘打ち込んで串刺しにしてやる、覚えておけ!
それにしても人間とは、なんと動きがとろいことか……いや、わたしも人間だけどね。たまに軍鶏の頭をネイルガンで射て、木に縫い付け絞め殺していたわたしとしては、とろすぎる! そして温すぎる!
そんなアグレッシブで資格取得の日々を過ごしていたら、下男が「あの若造は昔から浅慮だった」と言っていたクロプシュトック侯ウィルヘルムが馬鹿しでかしました。
あのクロプシュトック侯の乱ですよ。
待っていましたとも!
え? 歴史を知っているのだから、危険回避しないのかって?
いきなり「クロプシュトック侯が陛下暗殺を目論んでいます」なんて申し出たら、こっちのほうが疑われて粛清されるわ。
わたしみたいな人間の意見を、簡単に信じるような奴が、政治の中枢にいるほうが怖いっての。
さあ☆ブラウンシュヴァイク一族による粛清のお時間です。阿鼻叫喚の地獄絵図を作ってください!
わたしが何をしているかというと、天気予報に注意を払っていましたよ。
ほら、嵐の夜にロイエンタールが来るじゃないですか。あのファースト反逆者がコートの襟をおっ立てて、格好良くやってくるらしいので、見ておこうかなって。
で、嵐の夜ですよ! うきうきしまくって、室内をうろうろしていたら、ラインハルトに嵐が怖いのか? 俺がいるから大丈夫だと言われてしまった。それも笑顔で ―― なんだろう、ロイエンタールの枕云々は説得力ないけれど、ラインハルトは説得力あるわ。さすが覇王。
そうこうしていると、来ましたよ、ロイエンタール。
…………………………すげー残念。会う順番間違った。美形という括りなら、ラインハルトの圧勝だ。ロイエンタールも格好は良いが……男の色気とかいうのを加味しても、ラインハルトには及ばない。頭悪い発言かもしれないが、オーラの質が違う。最強覇王になる男と並び立てる奴はいないんだな。
ロイエンタールを見ることができたので ―― 珈琲を運び終え、あとをキルヒアイスに任せ満ち足りた気持ちで眠りについた。
こうしてロイエンタールとミッターマイヤーは無事ラインハルトの部下になった。良かった良かった。極論、ミッターマイヤーさえいれば、天下は取れるし没後の憂いもないからな。
色々とありましたが、ラインハルトは無事に元帥に昇進し、かつての我が家は、立派な元帥府となりました。
ラインハルトは元帥府を見学しに来て良いと言ってくれていたので ―― 庭が立派な貴族庭園になっていて、感動ですよ。きっとラインハルトのことだから、不必要に華美にしてはいないのだろうけれど、軍鶏が歩き回ってないよ! 畝が芝になってるよ! トマトが鈴なりになっていることもないよ! 蜜蜂の巣もないよ! ……あ、でも井戸は残ってる。なんで?
心から感動しラインハルトに挨拶して帰ろうとしたら、来客中だそうで。少々お待ちいただきたいと言われたのだが、挨拶しなければならないという物でもないので、伝えておいてねーと参謀長ことオーベルシュタインに言伝を頼んだものの、勝手に帰すわけにはいかないとか。
仕方なく待つことにしたよ。帰宅を強硬して粛清されでもしたら、たまらんからな!
あんまりにも暇だったので、こちらを見張っているとしか表現のしようのないオーベルシュタインに、来客が誰なのか聞いてみたところ、マリーンドルフ伯爵夫人ヒルデガルドですと ―― オーベルシュタインから答えが返ってくると思わなかったことに驚き、ヒルダが既にマリードルフ伯になっていたことに更に驚いた。
マリーンドルフ伯ってフランツさんじゃなかったん? みたいなことを聞いたら、やはり親戚については気になりますかと ―― いや、親戚だから気になるわけじゃなくて、話の流れが違うから気になるだけだ……とは言えないので、あとは黙って珈琲をすする作業に没頭した。
ラインハルトにヒルダと会ったことを尋ねたら、少し困ったような表情をし、なんか詫びられた。
意味が分からん。
そうこうしているうちに、帝国歴四八八年四月六日になりまして、やってきましたリップシュタット戦役。
押しに押しまくって、この進軍に付き従うことに成功しました!
軍人でもなければ、頭脳も普通なので ―― 髪をばっさりと切り(ラインハルトより短く切った)女物の洋服を全部捨てて男装して、従卒として連れていってくださいと交渉したら許可してくれたよ。
最初は拒否していたけれど、ラインハルトを説得する前にアンネローゼを説得し、後押しを貰ったから。
やっぱりアンネローゼは凄い。まさに絶対君主ラインハルトの絶対君主だよね!