お遊び小話のほうは、本気でお遊び。IFのIFを重ねてIFった感じで。やってはいけないことを、ことごとくやってる感に充ち満ちています
やっちまったー! やっちまえー!
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重ねてお知らせいたしますが、好き勝手しでかしてます
アンケートなどを求めたりもしやがりますが
お遊び小話「皇妃さまのお仕事・嫁ぎ先を捜します」
即位したラインハルトと結婚した。
いや今までもたしかに結婚してたけれど、今度は死が二人を分かつまで的な本当の結婚に。
わたしが皇妃とか笑うに笑えない冗談のような世界がここに誕生した。
ヒルダ何処行ったー。
今更言っても仕方が無いのだが。
それでまあ、フェザーンに遷都し柊館を仮皇宮として過ごしている。
ラインハルトの病気の芽は早急に潰したので、もう大丈夫。
今日はわたしは特に用事はないので、本を読み終えよう。
……おや? 寝室に読みかけの本を置いてきたので、取りに向かったところ、ベッドが微かに膨らんでいる。
本当に微かで……なんだ?
えっと……テロ的ななにか? んーでも、爆弾には見えないなあ。
よく見ると微かに上下している。呼吸的なヤツに見て取れる。
となると喉元を「シャー!」と狙ってくる何かが潜んでいる系か。
人を呼ぼうかなあ。でもあの大きさなら勝てるだろ。
とりあえず結婚指輪を外して常備しているメリケンサックを装着し、シーツを勢いよくめくったところ ――
女性が寝ていた。多分女性。まあ女性だろう。女性なのは一目で分かるのだが……これはなんなんだろう? 分類は美少女……いやその枠に収まらないよな。
順当に考えて、ラインハルトの寵姫として、誰かがどこかから連れてきたと考えるべきなんだろうが……誰が連れてきたにしても、一体どこから連れてきたんだ?
あ……この女性、左手の薬指に結婚指輪が。それなのに寵姫?
献上品なんだろうが……当人が納得していなかったら、ラインハルトが烈火の如く怒るだろう。
とりあえず大問題なので、女性を起こして聞話を聞いてみよう。でも言葉通じるかなあ? これほどの美少女が帝国内にいたら、噂になると思うんだけど。
「…………あ、あの、貴方様は?」
目覚めた女性はわたしの顔を見て驚いたが、話し掛けると普通に答えてきた。
帝国語通じて良かった。
まずはわたしが名乗ると、女性はおずおずと名を言ってくれた。
すげー良い名前。
どこをとってもこっぱずかしいわたしとは違って、本当に落ち着いてるのだが……姓が妙なんだ。
いやこの姓知ってるけれど、あの……。
女性に聞いたら、夫の姓なんだそうだが。そいつ、死んでるし、こんな美少女を妻にしていると聞いたことない。
それにしても美少女…………凄い綺麗な声してるわー。鈴を転がすような声って、こういう声なんだね。むしろ天使の歌声?
「済みません。いまは帝国歴何年ですか?」
震えても天使の声は天使の声だ。
いまは新帝国歴一年、旧帝国歴でいうと四九○年だよと教えたところ、美少女が息をのんだ。
どうしたのか聞いたら、自分はついさっきまで、帝国歴四八六年のクロプシュトック事件の現場にいた筈だと言うのだ。
えっと四年くらい意識不明の状態だった……ようには見えないよなあ。
ん?
あれ、この美少女今へんなこと言ったな。
「はい。クロプシュトック侯が起こした爆破事件の現場に」
それ以降の記憶はないんだよね。
ということは……おかしくないか? 現場にいてそのまま意識不明になったのなら、クロプシュトックが引き起こした事件だとは分からないよね。
でもこの美少女は知っている。
そして……夫に関して聞いてみた。
わたしが知るその名前の人物は、超エリートクズなんだが、美少女が言うそいつは、ただの超エリートだった。
クロプシュトック事件を知っている。四年間の空白……よし、掛けてみよう。
現在は新帝国歴一年だけど、皇帝が誰か知っているかと聞いたら、美少女は驚いた表情を浮かべてたが答えてくれたよ。
「ラインハルト・フォン・ローエングラムですか?」
ご名答!
ふふふ、記憶が四年分ないのにも関わらず、ラインハルトが皇帝になることを知っている。となると☆
頭が変だと思われてもいい。
聞いてみるのさ。さあ美少女よ、答えてくれ! 十八年目にして、この符丁に答えてくれる人に巡り会えるとは!
「…………もしかして、よしき……ですか?」
そうだよ! この世界で「たなか」と言ったら「よしき」だよ! わたしも転生者だよ! 安心してくれ、美少女! 悪いようにはしないから!
その後も「始と言ったら東海青竜王」とか「アルスラーンと言ったら解放王」とか「ナルサスといったらへぼ画家」など様々な符丁が合致し、転生者であることを互いに確信、読者と再会したことを喜んだ。
で、美少女ことジークリンデ・ツィタ・フェオドラ・フォン・フレーゲルちゃんから話を聞いたところ ―― ジークリンデちゃんはラインハルトと同い年だから二十三歳なんだけど、当人は夫のフレーゲル男爵とクロプシュトック侯の爆破事件に巻き込まれたところで記憶が途切れているので十九歳ということに。
本来ならわたしの五歳年上だが、現状では実質一歳年上という状態だね☆
なんだよその状態とか言われそうだが、いいんだよ☆
夫のフレーゲル男爵は良い夫だったそうな。
これほどの美少女嫁に貰ったら、そりゃ人間性も変わるだろう。
「違う転生者がいる世界に来てしまったのですね」
さくっとこの世界のフレーゲル男爵のことを調べたが、嫁はいなかった。それどころか名前すら違った。ジークリンデちゃんの夫フレーゲル男爵はレオンハルト。この世界のフレーゲル男爵は全く違う。ブラウンシュヴァイク公爵家の一員ってところは同じ。
適当な考えだが、もともと異質な転生者なので、事故に巻き込まれて、別の平行世界に飛ばされてしまったのだろう。
ちなみに最初から同じところに転生しなかった理由は簡単。
ジークリンデちゃんが転生前にいた世界と、わたしが転生前にいた世界は別物。そう前世の時点でわたしとジークリンデちゃんは、交わることのない平行世界の住人だった訳☆なんというSF! だがここはSFな世界なので、受け入れざるを得ない☆というか受け入れる☆
「あなたの親戚?」
ジークリンデちゃんを帰す方法は分からない……わけでもない。爆破事故に巻き込まれて飛ばされたのだから、同じようにしたら戻れる可能性はあるが、危険な目に遭わせるのは気が引けるし、例え危険な目に遭わせ「とばした」としても、もとの世界に戻れる確証はないので、この世界で生きてもらうことにした。
ジークリンデちゃんは「よろしいのですか?」と ―― これほどの美少女に潤んだ瞳で言われたら断れるヤツいないわーとか思ったんだが、
「俺の寵姫にするために、無理矢理連れてこられただと! …………事情は分かった。だが髪長姫よ。俺はあなたに誠実でありたい。だから寵姫など勧めないでくれ。あなたに寵姫を勧められるのが一番堪える。そこの美姫、ジークリンデといったな。迷惑をかけた。身の安全は保証するから安心するがいい」
ラインハルトは蹴った。
いやね、これほどの美少女だと、夫がいないとおかしいことになるのは確実。なので、手っ取り早く、ラインハルトの側室にーと、可哀想な身の上を作成して、保護してくれませんか? と頼んだのだが、一蹴されてしまった。
……まさか失敗するとは思わなかった。
いや、ラインハルトが愛人とか持たない誠実な男であることは知っていたが、これほどの美少女を袖にするなんて思わなかった。いや、思う筈ないだろ! シーツめくった時、女神か天使か美の化身かと ―― わたしには人間だなんて思えなかったほど美しかったし、今でも人間なんですか? って疑ってるくらい綺麗だ。そんな女性を側室にするのを断るとは☆
ちなみにジークリンデちゃんは、わたしの曾祖父の隠し子ってことにした☆曾孫と娘がほぼ同い年状態だが、あの曾祖父なら納得させられることだろう。
そして勝手に隠し子が誕生した曾祖父だが、笑って許してくれるはずだ。つか、別に許される必要もねえ!
とにかく、曾祖父おさかんだな! で適当に誤魔化す。
大丈夫なのかって? 多分大丈夫。ジークリンデちゃんの血筋聞いたら、オトフリート四世のところで繋がってるから、祖父や父さんより曾祖父のほうが近いからさ。
そしてジークリンデちゃん、辺境でひっそりと、曾祖父が付けた世話役の男と暮らし、そのままそいつ ―― 勝手にレオンハルトと命名 ―― 結婚して幸せに過ごしていたのだが、そいつが死んでしまい、頼る相手がいなくなったところで人さらいにあい、フェザーンにつれてこられたところで、人さらいの一人が逃がしてくれたというシナリオ。
「だがあなたの言うことは、もっともだ」
ラインハルトが「もっともだ」と言っているのは、再婚について。
これほどの美少女を独り身にしておいたら、大変なことになるのは火を見るより明らか。かといって市井の権力もなにもない男と娶せたところで、幸せになれないのは確実。ここは権力者の庇護下におくのが最良なので ―― ラインハルトの寵姫にしようと思ったんだけど、それは頓挫した。
となると、続くのはラインハルトの幕僚の皆さん☆
「ファーレンハイトは夫の部下で、私にもよくしてくれました」
幕僚の中に知り合いはいると聞いたところ、アベルが部下だったと……話を聞くとウチのアベルと全く違うわー。ごめんね、ここにいるのがファーレンハイトじゃなくて、「ぁべゆゅぅ」で本当に御免。ジークリンデちゃんが語るファーレンハイトさん見てみたいわー。ここにいるのは、
あとはシューマッハとシュトライトにフェルナーと、前線指揮官じゃないタイプたちが部下だったそうだ。そりゃそうだな。
ラインハルトとは知り合いだったそう。ちなみにラインハルトの美貌は、あちらの世界でも全く違いはないそうだ。
さて、こういうのはさっさと決めないと面倒なので、早々に幕僚の皆さんを呼び出し「大叔母です☆」と紹介し、
「こういうことはしたくはないのだが、見て分かるとおり、独り身にしておくわけにはいかないので、卿らの誰かに娶ってもらう。我こそはと思う者は名乗り出てくれ」
ラインハルトが婿を募ったのだが……誰も手を上げなかった。
嘘だろ! これほどの美少女、欲しくないの? それとも幕僚って全員処女厨なの? うわー引くわー☆処女厨こじらせ三十代とか、どん引きだわー。お前ら童貞じゃないくせして。清らかな身じゃないくせして、女性にはそれを求めるの。最☆悪。
「そうか……だが、どうしたものか」
ラインハルト、押しが弱すぎですよ!
もうね、ここはわたしが!
まずはジークリンデちゃんを隣の部屋で休ませて、全員から事情聴取。
なにが嫌なのか? 正直に答えてもらおうじゃないですか☆ちなみに
まずはエルネスト!
お前芸術品好きだろ。ジークリンデちゃんって、どう見ても芸術品だろ! なんで立候補しなかったんだよ!
「あれほど美しいお方ですと、小官は妻として見ることはできません。芸術の女神として崇めるだけで許していただけるのであれば、是非とも拝領いたしたい」
ああ、お前はそういうヤツだったよ、エルネスト。
多分ジークリンデちゃんも、芸術品扱いに慣れているだろうけど、二度も独りぼっちで放り出されたんだからそういう扱いじゃなくてな。
次は、フリッツのじ……じゃなくてフリッツ・ヨーゼフ、お前だ!
「小官のようながさつで乱暴な男では、あのような繊細なお方は壊してしまいます。…………嫌ではありません。ただ触れるのが恐いだけで」
あ、うん、まあ、嫌ではないんだな。嫌ではない。ならいい。
フリッツ・ヨーゼフの大雑把なところが吉と出るか凶と出るか、ある種の賭けだよなあ。悪い人じゃないのは、ジークリンデちゃんも知るところだが……。
次は看護師萌えかもしんないコルネリアス、お前だ!
「ビッテンフェルト提督と同じく、とてもではありませんが、恐くて触れられません。もちろん、お美しさには心を持っていかれましたが、とてもとても」
絶世の美女って凄いもんだなー。歴戦の勇者が尻込みしまくり……そっち方面の勇者じゃないのか。でもコルネリアス、義弟が確りしているから、結構狙い目なんだよな☆
では次は最年少のナイトハルト!
「小官も美しいと思いますが……小官は皇妃さまの母上であらせられる大佐のような、逞しい女性を妻にしたいと! 申し訳ございません!」
ちょっと待て、ナイトハルト。お前がフェザーンで失恋した相手って、動物園の檻の中にいた霊長類なのかな? たしかにそれは連れて帰れないよな……ジークリンデちゃんの婿が決まったら、そこのところ、じっくりと話し合おうな。
では次、アベル!
「
だから曾祖父のことを、メメント・モリというなと。ここまでみんなが拒否していると、最悪おまえに……駄目だ! 駄目だ! こいつの真紅の死神の渾名の由来を考えたら、ジークリンデちゃん、お嫁にさせられない☆ 離れろ! 離れやがれー! この死神アベルー!
次はウルリッヒ!
「あのような穢れないお美しいお方に、小官のような者が触れていいはずがありませぬ」
それは、君の過去のことを含んでいってるのかな? ウルリッヒちゃん。
そういうこと言う子は、曾祖父に嫌われちゃうよ。自分をそんな風に卑下する子は、本当に嫌われちゃうけどいいのかな☆怯えたような表情になっているが、いまは君に付き合っている暇はない。わたしはジークリンデちゃんの嫁ぎ先を決めねばならぬのだ☆
では、次はオスカー!
「俺は美しい妻を信用できない。あれほど美しい女を娶ったら、浮気を疑う日々を送るはめになる!」
ジークリンデちゃんのこと信用しろやオスカー! そして結婚前から
てめえの女性経験の豊富さは飾りか! その顔と体と地位と声は張りぼてなのか! オスカー!
最後にパウル!
「あの人に気持ち悪いと言われたら、小官は折れます」
あうー。見合い三十回全滅したトラウマのせいか。くっ! パウルと見合いして「義眼気持ち悪い」で断った三十人の女とその親族ども、ここに首並べろ! わたしがたたき切ってやる! お前ら義眼だって知って見合いしながら、その仕打ち。てめえらの血は何色だ! わたしが確認してやる! ……でもジークリンデちゃんに、気持ち悪いって言われたくないってことは、嫌いじゃないんだね? むしろ好き? 血色悪い頬に赤味がさしてる! 凄いわージークリンデちゃん、パウルまで一目惚れさせるとは。神も霞む美貌って、ホント凄い☆
あとは死別のザムエルに視線を向けたら、
「息子が犯罪者になりかねませんので、お許しください」
まだ年齢一桁の息子が、継母に恋い焦がれてしまうのでと……。それは仕方ない。
あとは妻帯者だから許してやろう☆
誰にしても良さそう……ナイトハルトだけは、結婚したい相手のビジョンが明確に……たたき壊したほうがいいのでは? と思うのだが、それをするのは後々。いまは、彼の変わった女の趣味に頼って、ジークリンデちゃんの警備を任せるとしよう。
あーもしかして、ナイトハルトの同期のギュンターも……
「小官の理想は、壁を駆け抜ける女性です。あっ! いや、皇妃さまのことではなく……大佐も走っておられました! それは見事なフォームで!」
ギュンター。わたしが壁を走ったのは、爆風に飛ばされて体勢を立て直すためであって、走ろうと思って走ったわけではないし、走ろうと思っても走れないと……思うよ。母さんに関してはノーコメントだけど……なんか、走ってたような気がする。わたしを抱っこした状態で。いや、あれはきっとわたしの記憶違い。そうだと思いたい!
ナイトハルトとギュンターの女の趣味を偏らせてしまった原因の娘としては、後々どうにかしなければならないような気もするが、今問題なのは、ジークリンデちゃんのこと。この二人、全力で壁走るような女が好みならば、あの華奢なジークリンデちゃんは好みじゃないだろうから、正しく守ってくれることだろう。
結婚相手はジークリンデちゃんに選んでもらおうかなー。それを告げるために、ジークリンデちゃんがいる部屋にいったら泣いてた。
「レオンハルトにお別れを言いたかった……」
ああそうかー。良い夫だったって言ってたもんね。
そうだねー。ジークリンデちゃんの気持ちを考えたら、結婚までもう少し時間をあける……といかないのが難しいところだ。
わたしが役得でジークリンデちゃんを抱きしめ慰めている間に、ザムエル以外の独身幕僚なら、誰を選んでもよいとラインハルトが話を纏めてくれた。
選ぶには選ぶが、ジークリンデちゃんの気持ちを考えて、最初は親子のように過ごすように☆と告げたら、全員ほっとした表情になりおった。
なんでお前たち、そんなに弱腰なの? え? 先ほどの泣いている姿を見てしまったと。そしてレオンハルト言っているのも聞いてしまって……そうかい。だったら支えてあげるんだよ。もちろんわたしも支えるけど☆でも、わたし支えているつもりで、ぶっ倒すこと多いからなー☆
ジークリンデちゃんに好きなのを選んでいいよーと言ったら、
「皇妃陛下に選んでいただきたいのですが」
この世界の彼らの人となりが分からないので、選んで欲しいと言われた。いや、わたしもそんなに知らないんだけど。でもジークリンデちゃんよりは知ってるか。
「全員自慢の部下なのだが、女性の相手をさせるとなると、誰を選んで良いのか全く分からん……頼んでいいだろうか? 髪長姫」
ラインハルトは知っているけれども選べない。そうだよねー。
仕方ない、わたしが選びましょう☆
では誰にしようかなー。え? ジークリンデちゃん、柊館で働いてくれるの? ほう? 女官長をしていたとな! 女官長キャリア四年って……十九歳で四年ですか? すげー。
「皇妃さまのお仕事・嫁ぎ先を捜します」アンケート
嫁がせたら面白そうな相手を回答欄に記入して送ってください
そうそう、備考欄に「ハッピーエンド」書かないと漏れなく死にます
ちなみにハーメルンの規約上、感想欄で回答をしてはいけません
それではふるってご応募下さい ―― お遊び小話「皇妃さまのお仕事・嫁ぎ先を捜します」(終)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
帝国歴四五八年 ――
オーディンからそれほど離れていない、とある門閥貴族の領地に佇む巨大な
「手はず通りに動け」
「畏まりました主さま」
ごく少数の選ばれた招待客の一人は、その夢を壊しにやってきた。
「息子は用事が出来て、こられなくなった。代わりにわたしがきたのだが、通してくれるかな?」
「もちろんにございます。どうぞ閣下、中へ」
「新無憂宮でも観られない見世物があるそうだな」
「はい。帝都でも観ること、そして体験することはできないと自負しております」
「そうか。この年寄りでも驚くような仕掛けがあると思っていいのだな?」
「坊や、名前は?」
「お客さまのお好きなようにお呼びください」
「そうか。では……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「父上。おじいさまはおみやげを買ってきてくれるでしょうか?」
「親父さまは買ってくるとは言っていない。持ってくるといっただけだ」
「そうでした。ねえ、執事。おじいさまは何を持って帰ってきてくれると思う?」
「分からないよ。おおおじさまは、わたしなんか予想のつかないことばかりなさるから。でもおおおじさまは
「標本なんかはどうだろう?」
「持ち運ぶの大変そうだけど」
「下男が一緒だから大丈夫さ」
「標本だとしたら人間かな? あれ、おじさま、なんか楽しそうですね。ワイン造り、そんなに楽しいですか?」
「楽しくはない。さあ、お前たち、親父さまのアリバイ作りに勤しめ」
「はい」
「畏まりました、幕僚総監閣下」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
帝国歴四七二年 ――
『なぜ君は軍人を志望したのだね?』
受験の面接の際に、試験官に言われたあの言葉。
当たり障りのない回答をしたのだが、その時私にとって最も印象深いあの思い出が蘇った。
炎を背にわたしに向かって敬礼する誰か。
『ん? 俺の名前か? 坊やが自己紹介できるようになったら教えてやるよ』
そう言っていたような。ただわたしが軍人を志望したのは、あの美しい敬礼の印象が ―― この振動はなんだ? 一体どこから? ……橋が!
【次回予告】番外編第八十五話:深淵のテスタメント