ラプンツェル   作:朱緒

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第十七話☆数式と数字

 ブラックホーーーール! ブラックホォォォル! ブラックゥゥゥホール!

 ブラックホール如きで、なんでそんなテンション高いのかって? でかいんだよ、このブラックホール。帝国最大、おそらく同盟にもこんな大きなブラックホールはない☆現時点において人類が見ることのできる最大級のブラックホールなのだよ!

 

「これが主さまと坊ちゃまが計測なさった、シュヴァルツェス ロッホですか」

「当人たち曰く”危うく死にかけた”ところらしいな。あの二人が一緒で死にかけるというのは、眉唾であろうがな」

 

 シュヴァルツェス ロッホってブラックホールのことな! なんか慣れないんだが、みんなシュヴァルツェス ロッホって言ってるから、ちゃんとそう喋ってるよ。

 

「公妃殿の曾祖母殿のお名前を冠していらっしゃるとか」

 

 わたしを伴うという貧乏くじを引かされた疾風ウォルフ ―― イゼルローン攻略がミッターマイヤーでフェザーン侵攻がロイエンタールだったら、ユリアン誘拐計画はオーディンを出る段階で頓挫したであろう。

 あいつの艦隊に同乗は無理ですな☆きっと嫌がるだろう。いやラインハルトが乗せろと命じれば乗せるであろうが、出来るだけロイエンタールとラインハルトの仲に亀裂入れたくないので。その点ミッターマイヤーは安心である☆出撃回数も多いし☆

 そんな宇宙を駆け回っていることに定評のあるミッターマイヤーですら、これほどの大きさのブラックホールを見たのは初めてだとか。まあ、軍は安定した航路を通って出兵するのが常識で、安定した航路というのはブラックホールを避けた所に作られているから、当然そうなるよな。

 ブラックホールを見つけることにかけては、我が一族は他者の追随を許さない……いや、誰も追ってこないけど。危険大好き☆だからなあ。危険のほうが逃げていきそうだが。

 ……で、ミッターマイヤーが言う通り、この帝国最大級のブラックホールの名前は曾祖母の名である。

 もともとここにあるのは分かっていたのだが、わざわざ観測しにやってきた馬鹿は我が一族だけ。家族旅行で来たらしいのだが ―― 貧乏なくせにどうやって、航路もないような所にやってきたのかって? 軍にね「環境調査に向かうから、戦艦貸せ」と交渉したとのこと。交渉術には定評のある曾祖父、食糧など全部帝国軍持ちで、戦艦を借りることに成功☆

 この経緯で調査したので、当然航路や環境は軍に提出しなくてはならない。

 代金代わりに資料を軍に提出したところ、ブラックホールの命名権を貰ったのだそうだ。おいおい、戦艦の使用料だけで相殺なんじゃないの? ブラックホールの命名権とか、ぼったくりが過ぎませんかね? とか思ったが、ミュッケンベルガーの大伯父ケルトリングと知り合いだったので全部上手くいったらしい。

 かなり成長してから祖父に聞いたのだが「親父さまは亡き軍務尚書(ケルトリング)については、脅すに事欠かないネタを持っていたからな。それこそ童貞喪失した日時まで正確に抑えていた。もっともそんなネタがなくても、ケルトリングは用立てたであろう。親父さまの申し出を断ると、オトフリート五世(オルフ)の不興を買う。なによりケルトリングは親父さまに心酔していたからな」……あれ(曾祖父)に心酔ってのが全く理解できないが、なんで曾祖父はケルトリングのそんなこと(大人の階段登った)知ってるの? いやいや、追求しちゃあいけないな。世の中知らないほうが良いことってあるよね☆ついでに言うと「ケルトリングのところのヘルマンとカールか? 知っているが、ウィル(グレッグ父)のほうが出来が良かった。居ても居なくても変わらん存在だったが」 ―― 死体に鞭打ちまくりな祖父である。アッシュビーの立つ瀬すらなくなるわ。

 話を元に戻すが曾祖父と祖父は、曾祖母の誕生日プレゼントとして、ブラックホールに曾祖母の名をつけた。祖父と曾祖父の証言だが、曾祖母はとても喜んでいたそうだ。そりゃまあ曾祖父の妻と祖父の母親が務まった曾祖母だ、ブラックホール命名で喜べるおおらかな人だったろうよ。

 帝国で曾祖母ほど大きいものを貰った人はいないだろう。そうだね、大きいことは良いことだね、身長に関しては限度というものがあるが☆

 

 完全にミッターマイヤーよりデカくなりました、わたし。170台で身長止まるかなあ……。182cmまでなら許す………………。

 

 それにしてもデカいわー曾祖母ブラックホール。重力の関係(シュワルツシルト半径的なヤツ)で、艦隊はある程度離れて航行しているのだが、ブラックホールが大きくて星々が一切見えない。モニターが辺りを映し出しているが、まさに漆黒の闇に包まれている状態で、すでに旗艦ベイオウルフの乗組員三名ほどが発狂しちゃったとか☆

 夜の海より遙かに怖ろしいからなあ、この闇は。だから普段は、ここ使わないんだけどね。早くワープしろよ? いや、重力の関係でここをもう少し抜けてからじゃないとワープが安定しないんだよ。ブラックホールの重力、舐めちゃいけない☆

 

「坊ちゃまと主さまは、もっと近くまで行かれたのですな」

「常人は近づけぬ距離……なのであろう? 司令官閣下」

 

 うちの下男と元皇女は、ここに曾祖父と祖父が居たというだけで、闇の恐ろしさなんて微塵も感じていないようだ。むしろどの辺りに二人がいたのだろうか? と、目をこらしてブラックホールを見つめている、黒しかないのだが。

 

「そうですな。研究の為とはいえ、あの距離まで近づかれたとは。小官のような小心者は、とても近づけません」

 

 いやいや、あんた小心者じゃねーし。この艦隊の指揮官なんだから、小官でもねーし。なにより、計器類がブラックホールの重力と質量と素粒子で吹っ飛ぶほど近づくとか、馬鹿の所行だから☆小心者関係ない。

 なにしてたのかって? 曾祖父がはしゃいで、今艦隊が取っている距離の三分の二ほど近づいたところ、計器類がぱーん☆ぼんっ☆ぱきーん☆幸い動力はやられていなかったので、急いで重力から逃れたのだが、計器類が失われたので宇宙を漂うことに。

 そして曾祖父が祖父に言ったそうな「さあ、息子よ。脱出ゲームの始まりだ」…………超リアル脱出ゲームどころの話じゃねえ! マジ死ぬわ! ガチで死ねるわ! 【死】しかねえよ! なにがゲームだよ! 曾祖父だけ死ね! そうは言っても皆さんご存じの通り、曾祖父は元気に曾孫を見るまで生きているわけですよ。曾孫ってわたしなんですけどね。

 なにより曾祖父がここで死んでたら、下男は我が家にこないし、うるりっひちゃん生還ルートが危う……まあ☆いい☆

 絶望しかない超絶リアル脱出ゲームだったが、泣いたり叫いたりするような性格ではない祖父は、自分でワープに必要な二十種類の軸を三日で弾きだしたそうな ―― 手動計算三日で正解出すとか、自分の祖父ながら天才が過ぎると思うのです☆

 ぎりぎり見える星と星の距離から現在地を割り出して……以下文字で説明が面倒なのでカットするが、がつがつ数式に当てはめていったそうな。

 

「電子機器が壊れているということは、全ての計算を自らなさって? 測定まで? それはもう、我々には理解不能な次元のお話ですな。卿ら技術将校ならばできるか?」

 

 ミッターマイヤーがどん引きしてる☆総参謀長の顔がひくついてるし、技術将校は無理ですって首振ってる。ですよねー。それが普通の反応ですよね☆

 

「公妃殿もお出来になるのですか。さすがですな」

 

 計算は出来るように教えられたからできるよ。似たようなこと曾祖父にされたからな☆まあわたしは、五歳以下だったので計算機は使うことはできたが、航路を外れた宇宙空間で宇宙船の計器類ぽーん☆は、心臓に悪い。寿命が縮むとはあのことだね。

 必死に計算して回答持っていったら、曾祖父が計器類を直してて……もうね! いや、褒められたからいいんだけどさ。

 祖父の時は直せたけど直さなかったらしいよ。わたしの時は何故直したのか? わたし、曾孫だから。あの時点で当主は祖父だし、両親は孫夫妻。曾祖父にはなんの権限もないといいますか、中二病(父親)姫騎士(母親)の許可を貰うために、計器類直すのが条件だったんだって。……なぜ行かせたのですかな、母さん。父さんは……父さん、曾祖父のこと大好きで、この地獄の直行便としか表現のしようがないゲームが大好きだったから☆話にならんわ、あの中二病。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「御前さま、思索を妨害してしまい申し訳ございません」

 

 どうした下男? 本を読んでるわたしに声をかけてくるなんて、余程のことだろう。

 

「覇王より、通信が」

 

 ラインハルトからのメッセージが届いたようだ。

 ラインハルトはわりとマメで、頻繁にメッセージを送ってくれる ―― 本国との定期更新に混ぜて私信を。いいのかな? ミッターマイヤーに聞いたら「問題などございません。よろしければ、毎回の通信の際に直接会話なさって下さい」とね……ありがたく辞退させてもらったよ。みんな故郷に残してきた家族や彼女と、毎日話したいだろうし、愛妻家なミッターマイヤーだってそんなことしてないんだからさ。文字だけメッセージでも充分。

 それにしても契約妻にすら、こんなにも心を砕いてくれるなんて、本当に優しい男だなあラインハルト。宇宙の未来は明るい☆もうじき訪れるわたしの平民ライフも前途洋々だ。

 

「本日は画像付きにございます」

 

 なんの画像だろう。もしかしてまたオーベルシュタインが元皇女の飼い犬(レオンベルガー)の画像撮影して、送ってくれたのかな。御免な犬。本当はお前も連れてきたかったんだが、さすがに中佐(わたし)従卒(元皇女)の飼い犬(ただし、皇族の血を引く者以外は飼えない)を同乗させるわけにはいかなくて。でもオーベルシュタインの家は居心地いいだろ。落ち着いたら呼び寄せるから、それまで待ってくれ……って、うわ☆新皇帝が可憐で困る。そしてわたしも困る。

 

 

 

 アベルとラインハルトがベッドで一緒に寝転んでいる姿の自撮り☆

 

 

 

 これラインハルトが男だって知らなかったら「お前には勿体ない美女じゃないか☆どこで出会ったんだよ! 一回会わせろ! なにより大事にしろよ、アベル」って祝福メッセージ送るところなんだが、アベルに腕枕されている金髪の美形さんは、女性と言われても美形ですねと言い切れますが、その人は正真正銘男です。清らかな関係ですが、わたしラインハルトの裸体は見たことあるので。

 

「素直なお方ですな」

「この少年を思わせる素直さが、若き獅子の魅力なのですな、公爵殿」

 

 素直? 素直だと言うのか? お前たち。 アベルに腕枕させることが素直? お、違う画像だ。目を細めて画面からすぐ逃れられるよう体勢を整えてから見るとするか。

 こっちはケスラーに腕枕されているラインハルトだ。困惑気味にして少々照れているようなケスラーの表情は小鳩感が……ああ、これが曾祖父が言った小鳩感な。なるほどな。

 

若の義弟(ファーレンハイト)は不敵な笑みを浮かべておったが、小鳩は可愛らしいものだなあ」

 

 あー元皇女、知らんからそう見えるんだろうが……アベルのあの笑いはあれでも照れてるんだぜ☆笑うと不敵になるあたりは、父さん(中二病)に似てるな。全く血はつながっていませんがね。

 ロイエンタールなんかもそういう意味では父さん(中二病)に似てるような。でも笑うと不敵になるヤツなんて……話を戻してケスラーだが、主君を腕枕して照れてどうするケスラー。……思い出した☆たしかに素直ですな、ラインハルトは。そしてこの状況を作ったのは、間違いなくわ・た・し・だ☆

 前回、ラインハルトからのメッセージに「髪長姫の腕枕が恋しい」なる一文があったのだ。そんなにラインハルトは腕枕が気に入ったのか☆ということで「誰かに代わりに腕枕してもらったらどうでしょう? 例えば幕僚とか。もしも幕僚に腕枕させたら、画像送ってくださいな」と軽ーく軽ーく、それこそ覚えていないくらい軽い気持ちで返信してた。100%冗談のつもりでメッセージ送ったのに……まさか実践してくれるとは。帝国の法律に抵触ぎりぎりで攻めてくるのがラインハルト。

 オーベルシュタインにまで腕枕させて撮影するとか、命知らずっぷりが、うちの父さんと互角張ってますぞ☆

 ちなみに添えられていた一文ですが ――

 

『やはり、あなたの腕でなくては駄目だ』

 

 そりゃありがたいと言いますか、なんと言いますか。若干の女性成分的なもんでしょうねえ。アベルに小鳩(ケスラー)にオーベルシュタインとか、野郎成分しかありませんからね。それ以外があったら色々困るが。

 女性的な成分が必要なら、なんでヒルダを勧めなかったのかって? だってラインハルト「髪長姫の腕枕が恋しい」って送ってきたんだ。わたしの腕ですよ、わたしの腕。なかなか良い筋肉がついているわたしの二の腕が恋しいと言っている男に、お姫さま(ヒルダ)の細腕勧めるなんて、失礼極まりないでしょう。だからわたしに近そうな幕僚連中を勧めたのさ。冗談でね。

 

 そろそろお役御免の時期が近づいておりますが、最後まで手を抜かず仮初めの妻としての役割を果たすべく、二の腕を鍛えておくとしますかな☆

 

 明日はフェザーンに上陸だ!

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 フェザーン占領終わりました…………これから統治に入ります。

 

 ユリアン捕まえるの失敗しました☆失敗っていうかね、ユリアン、フェザーンに赴任してなかった。もっと言うとねユリアン、初陣で撃沈してましたー。嘘だろ、あのチート坊やが戦死とか! 信じられないけど、信じるしかないのが辛い。大事な人質……。

 戦死は確実なのかって? それは確実じゃないかな。同盟の高等弁務官事務所の人事記録にあったから。

 わたしはユリアンを捕まえようと、離陸後すぐにバイクに跨がって街中を疾走(550km/h)そのまま事務所に突入。ヘンスロー弁務官の胸に552km/hでバイクごと飛び込み、真っ二つ+ミンチにするという、悪魔の所行をしでかしてしまった(治療するつもりはない)わたし(弁務官はもちろん死んじゃった)その代わりといってはなんですが、事務所の書類は全部手に入れました☆

 その書類によると、ユリアンをヤンに対する牽制、そして人質として移動させるつもりだったが、死んじゃったので別の人を移動させようとしていたらしい。でもヤンって家族運がなくて身内がいないから(わたしに言われたくはないだろうが)人選が難航していたようで☆そんな感じでもたついていたら、フェザーンが占領され、ヘンスローは帰国叶わず異郷の地お亡くなりに……殺したのはわたしですが。仕方ないよ、敵国の人だもん。もちろん恨みはなかったが、心も痛まない。もたもたしていたヘンスローが悪いんだ!

 ヘンスローをバイク死させたことに関して、お咎めはありませんでしたが、ミッターマイヤーにそれはそれは叱られました。

 

「ご両親の敵討ちをなさりたかったお気持ち、このミッターマイヤーも尊重いたしますが、公妃殿は尊貴の身。自重なさることを……」

 

 そして、お叱りが続いております☆ご免なさい☆本当に御免。わたし、ラインハルトの正式な妻ではないので、そんなに心配しなくてもいいんだぜ☆尊貴なご身分とか言われるが、ゴールデンバウムが崩壊したらなんの価値もない身分だしさ☆

 でもまあ、今のところは妻だから、実直なミッターマイヤーのことだ、心配するんだろう。ラインハルトからも言いつかったようだし……あなたも本当にいい人だ、ミッターマイヤー。ラインハルトの寿命延ばしておいたからしばらく軍人続けられると思う。でも人的資源も枯渇気味なので、もしかしたら国務尚書になってしまうかもしれないが、そうなったら頑張れ☆遠い空の下から思い出した時に応援したいと考えてます。思い出すのは年に一度あれば良い方だろうけど。

 ミッターマイヤーにがっつり注意され、最後に「小官のような者の意見を最後まで聞いて下さったこと、感謝いたします」などと、感謝され終わった。

 そのまま軍用車両倉庫に行ったら、バイクの掃除が終わってた☆人をひくといろんなもの(脂や肉や血)が細部に詰まったりするから、分解して掃除しなくちゃならない。他人に任せるわけにはいかないよねー、精神攻撃になっちゃうよねーと思っていたら、下男と元皇女が良い笑顔で迎えてくれた。

 

「御前さま、整備終わりました」

「兄弟と楽しく整備させてもらった。楽しかったので、また機会を与えてはいただけないかな? 公爵殿」

 

 ……お前たち、わたしのこと甘やかし過ぎだぞ。

 整備終わったか。では街中をパトロールしようかな☆被害者は少ない方がよい! 傷つく人ないないほうがいいのだよ! そのためにも、帝国軍憲兵部督戦隊長官、いざ参る!

 

 

 ミッターマイヤーの部下四人衆に止められたよ☆

 

 

 その後も治安維持の問題とかなんだとかで、外出禁止にされてしまった。待ってくれ、ミッターマイヤー。わたしは兵士の監視のためにやってきたのだよ。それも本来なら絶対になりたくなかった憲兵部に属して! 憲兵になりたくなかった理由? あ゛ーそれはね゛ー……変な所に濁点が就くくらいに、奇妙な声が漏れる程に、憲兵のことをよく知っているからさ☆憲兵の申し子みたいな呼び名があった人の孫ですからな☆そいつが「これは憲兵向きだ」と言ったくらい……嫌なんじゃあーーーー! だが、使命感に燃えてだな! あ? お前の使命感ってユリアン誘拐だろ? そうだけど、そうだけど死者、それも宇宙で蒸発しちゃった若人は、わたしでも誘拐できないので、表向きの任務を果たしたいのですよ。

 はい? ラインハルトが許可を出さなかったと? そう言えば許可貰ってなかったわ☆許可下さいって言ったけど、返事なかったわー☆そうだね、ラインハルトが駄目と言ったら駄目だね。

 結局、フェザーンの民間人女性云々は発生してしまいました。わたしがバイクで徘徊していたとしても、防げたかどうかは不明ですがな☆

 検査はさせてもらったよ。完璧に奴らを死刑台に送るための検査をね。

 処刑にも立ち会いましたとも☆処刑は憲兵が担当しますし、これでも役職付きの憲兵ですし、なによりこいつらを死刑台に送った調査書を作ったのわたしですから、最後までしっかりと見届けを。

 本当はこの手で息の根止めてやろうと「撃ちたいです☆」と立候補したのだが、ミッターマイヤーに「駄目です」と ―― いやあ、押したんですよ。撃ちたい撃ち殺したい、門閥貴族たるわたしには、その権利があるはず☆腕前は親衛隊長(将来)のお墨付きですよと。でもさ「小官も撃ちたいのを我慢するので、公妃殿にも我慢していただきたい」と言われたら……ねえ。

 

 ちなみに死体は三日ほど野ざらしだそうです☆でも石とかゴミとかぶつけたら捕まるから駄目だよ☆見るだけです。あ、カラスが突っつくのはOK。いやー人間、こんな最後は迎えたくないものだね。まあ彼らはこんな最後になることを知っていて、暴行事件を起こしたわけですが。変わった最後を迎えたい嗜好の持ち主だったんだろうな。ちょっとわたしには理解できない嗜好ですわー。ちなみに警備は彼らが属していた隊が受け持ちです☆その彼らを監視するのが憲兵。その憲兵たちを監視するのがわ・た・し……なのだが、これまたミッターマイヤーのところの四人衆に止められたよ。

 

 分かりました、分かりました、大人しくします☆お菓子でも作ってラインハルト待ってます。そうだ、ラインハルトがフェザーンに来たところで、兵士たちが「ジークカイザー・ラインハルト」と叫び出すから……ここでお別れですな☆紆余曲折色々とあり………………別に何もなかった! 波瀾万丈とかそういうこと微塵もなかった! 良い貴族人生であった!

 

「海藻ですか?」

 

 フェザーンの海に天草が生息しているのを発見。これを捕らえて乾燥させて糸寒天を作り、最終的に琥珀糖を精製する予定です。

 

「ベルンシュタインツッカー? そのような菓子があるのですか」

 

 いや、ねえよミッターマイヤー。ベルンシュタインツッカーなんて菓子はねえよ。琥珀糖を無理矢理、帝国語に落としただけだ(ベルンシュタイン=琥珀、ツッカー=砂糖)

 でも寒天のことは知っていたので、天草が生息している海域を接収してくれた ―― わたしのお遊びのためだけに接収したわけじゃないですよ。軍事行動といいますか、統治のために海も制圧する必要があるので。港だけでいいじゃない? 聞くなよ。余程外に出したくないみたいだ。

 やっぱりヘンスローやり過ぎたんだろうな☆だが後悔は微塵もない。

 

 さあ、天草がわたしを待っている! いざ!

 

 そしてわたしは片腕に大量の天草を、片腕には一つの変死体を抱きかかえ浜へと戻ったのでした ―― 大パニックになりやがりました☆お前ら軍人なんだから、もう少し落ち着け……とは言わん。

 損傷の激しい遺体をミッターマイヤーに見せて、事情を説明し犯人捜しはわたしが担当することに。

 いやね、ミッターマイヤー以下前線指揮官向きの事件じゃないんだよ、この事件。

 

「連続猟奇殺人犯による犯行だと仰いますか?」

 

 分かる人からすると、これはかなり手慣れているのが一目で分かる。わたしの見立てでは、犯人はもう三十人は殺害しているね。この三十という数が多いか少ないかに関しては何も語らないが(親族に四十億人くらい死刑以外で葬りさったヤツとか、これまた親族に二億~六百万人くらい拷問して殺害してるヤツがいるので、何も言えないのである)世間一般では、間違いなく連続殺人犯である。それも猟奇までプラスされているタイプ。

 

「公爵家の方々が、そのような任を負われていたとは。われわれ平民の生活を影ながら守ってくださっていたこと、この場でお礼申し上げます」

 

 いやいや、感謝しなくていいから。

 なにを感謝されているのかって? 我が家は「シリアルキラーキラー」だったと……読んで字の如し、シリアルキラーを殺害していたのである。

 もちろん逮捕もするけれど、帝国の法律はシリアルキラーには優しくないので、ざっくり殺されて終わり。まあ、逮捕できるけど間違って☆殺害したことも多々あります。法律に則って即日処刑できるのが門閥貴族の強みです☆

 なんでミッターマイヤーが知らないのかって? シリアルキラーとか割と隠匿されるのよ。模倣犯を防ぐためとか、社会を混乱させないようにするためにとか、様々な理由で。

 だが全く知られていないわけではない。

 むしろ帝国国内よりも、フェザーンのほうで知られていたり ―― シリアルキラーネタ好きは結構いる。フェザーンは自治の関係で出版にかんして緩い。曾祖父や祖父や父さんは別に連続殺人犯狩りを隠していたわけでもないので「冷酷なる殺人鬼はいかにして逮捕されたか」みたいなタイトルの本に書かれていたり。

 前回三次元チェスの大会中に、稼業みたいなものだから帝国シリアルキラー本を漁り、立ち読みしたところ、完全に我が家のあいつら(三代)だった。

 もちろん偽名が使われているが、特徴がモロに書かれているので、分かる人が見れば分かる。

 例えば「この捜査官、本名を明かすことはできないのでマックと呼ばせてもらうが……」―― 完全に祖父のことです☆ありがとうございます☆

 マックはマクシミリアンの略称というか愛称である。

 そして祖父はマクシミリアン二世に瓜二つだった……宮殿内車椅子で移動する前から「アウグスト三世」って言われるくらいアレな憲兵なんだが、顔だけは完全にマクシミリアン二世。やってることはアウグスト二世……別にやってないけどな☆何故かアウグストの注射針が似合ってたけどさ。宇宙で二番目くらいに似合ってたと思うよ。一番についてはき・く・な☆

 そんな流れでシリアルキラーについては詳しいんだ、わたし。

 ただこのシリアルキラーちょっと……なんていうのかなあ……自己顕示欲というか、こっちに勝負しかけてきているような感じがするんだよ。

 たまに居るんだよね「俺を捕まえてみろ」ってメッセージを送ってくるヤツ。ただのメッセージならいいけど、大体そのメッセージは死体という迷惑極まりないのが基本。

 

「殺人鬼から勝負を挑まれて、初めて一人前だと言っていたなあ」

 

 別に一人前のシリアルキラーキラーになりたくなんてないんですが、元皇女よ。でも、コイツを逮捕しないことには、メッセージ(変死体)が、フェザーンの海に浮いたり路地裏に投げ捨てられたりと、治安を脅かすことこの上ないので、早急に逮捕しなくてはならない……。が、一つ問題が。

 

「御前さまが仰る通り、この犯人はフェザーン人でしょう」

 

 国が違うとシリアルキラーの傾向も違うんだよなあ。やってることは同じなんだけど、習慣が違うから見つけ辛いのさ。まずは未解決事件から関連ありそうな遺体を選び出して……でも情報が圧倒的に足りない。

 自分で聞き込みをするにも……占領軍の憲兵士官に話してくれはしないだろう。うーむ……。

 

「御前さま、それは本国(帝国)でもあまり変わりませんが」

 

 そうだな下男。帝国国内だと、軍役職の他に門閥貴族とかいう、絶対話し掛けないでください的な存在だからな。

 

「数式をお使いになられてはいかがでしょうか?」

 

 数式なあ。その数式動くかね?

 下男が言っている数式とは、各惑星で普通の生活を送っている民間人なのだが、ひとたび指令を送ると情報を集めてくれる。スパイじゃないのか? スパイならそれが金になるが、給与を支払っているわけではない。払うわけないじゃないか、我が家貧乏なんだから。

 彼らはただ単純に我が家に尽くしていいと言ってくれている人たち ―― よく分からないが、曾祖父や祖父や父さんなどに心酔している人らしいよ。まあ曾祖父が一番凄くて、本当かどうか分からないが「四代忠誠を誓っております」みたいな民間人もいるらしい。もちろん会ったこともなければ、わたしは彼らを使ったこともない。

 数式という存在がいること。彼らから送られてくる情報は数であること。彼らに指示を出す時はやはり数であることは知っている ―― 祖父が普通に使っていたところから、頭が良い民間人のみで構成されているに違いない☆あの人、本当に馬鹿嫌いだから。

 フェザーンにも居るらしいとは聞いているが……。まあ、試してみるだけは無料だ……じゃないけど。回線使うから有料だよ、本来ならね。だが軍人の特権で、無料で使うよ☆

 わたしが見つけた今回の犯人の被害者と思しき人たちの生前の画像と、天草と一緒に見つけた遺体についていた歯形を添付して、わたしが勝手に推測した犯人像も数字に落として……あとは、糸寒天でも作りながら待つとするか。

 いやね、被害者はもう少しいそうな気がするんだよ。

 失踪者リストを眺めても、共通点のある被害者が十一人ほどしか見つけられなくて。失踪届が出ていない失踪者の情報とか手に入らないかなあ。

 いや、自分の最初の勘に拘らないよ。被害者は少なければ少ない方が良いけど、十人くらいだとまだ捜査官(わたし)(じゃないけど)に喧嘩売ってくることってないんだよなあ。十五人越えたあたりから、自信をつけるのがこの百年くらいの傾向 ―― ただし帝国では。

 わたしに勝負を挑んでくるあたり、我が家のことは知っていると思われるから……まあいいや、糸寒天、糸寒天。琥珀糖は何色にしようかな。琥珀糖らしく琥珀色もいいが、透明感のある青もいいよなあ。

 

 それで数式(情報)はどうなったか?

 

 凄い数の手紙が届きました。アナログもアナログ、新聞や雑誌の切り抜きで暗号を成立させて、どいつもこいつも子供を使って本営に運ばせたり ―― 民間人が恐い☆

 手紙の中には「どうしてわたしが属する数式を使ってくださらないのですか(解読済み)」「その数式より、我が数式のほうが優秀です。なぜならば公爵夫人のお父さまが考え出した数式を拝領しているからです(解読済み)」など文句が書かれているものもちらほら。

 数式は幾つかあって、その数式を暗号解読に使う部隊のみに指令が下されている状態なので、今回わたしが使用した数式ではない数式を与えられている者たちは、情報を知っていても届けられない決まりになっている。

 さて数式たちが届けてくれた情報だが……予想通り、似た特徴を持つ行方不明者が他にもいた。独り身で捜索願が出ていない者や、社会的弱者など ―― これは逮捕して処刑するしかないな☆

 犯人じゃないでしょうか? という男についても ―― 三名ほど。たしかにどれも怪しいわ☆全員逮捕しちゃおうかなー。

 いや待てよ、こいつらの経歴…………。

 

「公爵殿。面会希望者が」

 

 シリアルが来たのかと思ったら、フェザーンの記者だった。フリージャーナリストとかいうヤツ。帝国じゃあまずお目にかからない職種の人だね。いや、帝国でもいる所にはいるよ。強制収容所とかにはね☆

 フリーはフェザーンではそれなりに有名で、何冊か本も出しているらしい。

 それでもって、とあるシリアルキラーを追っていて、寄稿なんかもしているとか。ん? 帝国殺人鬼の系譜って本知らないか? あ、ああ。持ってる持ってる。シンドバッド(3)が「曾祖父さまのことが書かれている本にございます」と無料でくれたやつの一つ。あれな、曾祖父が聖人みたいに書かれてて気持ち悪くって、一回流し読みしただけ。あいつ(曾祖父)、そういうヤツじゃねーから。

 

「これが事務所に届いたのです」

 

 フリーが取り出したのは指でした。調べさせたところ、わたしが天草と一緒に見つけた死体とはまた別の指らしい。行方不明者の者とも違う ―― 被害者がもう一人増えた……かどうかは不明である。切り口に生体反応があったから。猟奇殺人犯って生きたまま切るからねー。指くらいなら死んでない可能性もあるよねー……十中八九死んでるとは思うが生存の可能性がある以上、まだ希望は捨てない☆

 フリーだが、わたしに勝負を挑んでいるシリアルについて情報を提供したいと言ってきたが、わたしはお前のこと必要としてないから。軍隊の情報収集能力を甘く見るなよ☆実際は数式どもだが。それにしても数式は色気のない情報集め方法である。ジ○リの映画の”リーテなんとかアルなんとかなんとか……”みたいな秘密の言葉っぽくできなかったものなのか?

 あ? フリー? なんか調査に協力したいと申し出てきたので、それは受けてやった。お前みたいなのはシリアルの餌に丁度良いと言ったら顔引きつらせてたが。

 護衛が欲しい? そんなもん、自分で雇え。なんで帝国軍が金出してやらなきゃならんのだ。

 その代わり見事生き延びたら、シリアルの尋問中から立ち会わせてやるぜ☆自意識過剰で勝負挑んで来る系は、世界に自分の蛮行(偉業)を知らしめたいと思っているやつだから、取材とか受けたがるからな。フリー、シリアルの伝記でも書いてやれよ。

 100%生け捕りにするから、そこは期待しておけ。

 シリアルが死を選んでも、わたしが許さん☆灯油かぶって焼死狙おうが、ブラスターで頭ぱーん目指そうが、このわたしの前では無力。

 

 尋問の際には、宇宙で一番アウグストの注射針が似合うと新無憂宮で囁かれていたわたしの、本懐を見せてやろうではないか!

 

 え、なんで似合うのかって? 聞・く・な☆黙・れ☆喋・る・な・よ☆……ああ! ファンタスマゴリ(ファーレンハイト)に口止めするの忘れてた!

 

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