ラプンツェル   作:朱緒

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軍広報誌・日時について・試し読み

帝国軍広報誌:特別版

 

公開生放送終了 ――

 

司:これにて終了となります

閣下:そうか。まだ少し時間はある。聞きたいことがあるのであれば受け付けよう

司:よろしいのですか?

閣下:ああ。あなたの予定は?

 

御前さまも時間に余裕があるとのことで、質問に答えて下さるとのこと

 

閣下:そうそう、公開放送は終わったのだ。あなたはいつも通り話すといい

御前:いつも通りですか?

閣下:そうだ。あなたが平民の言葉を喋る姿が、慣れなくてな。それに固い

御前:下手なのですな

閣下:下手ではない。むしろ美しい。だが完璧すぎて固い

御前:畏まりました

 

以降、御前さまは話しやすい宮廷語にてお答え下さることに。以降の御前さまの言葉は全て翻訳されたものです

 

閣下:質問が多数残っていると言っていたな。答えてやろう。あなたが選んでくれるか

御前:畏まりました。おかしな質問を選んでも、恨まんで下さいよ

閣下:もちろん

 

御前さまが抽選ボタンを押す

 

司:閣下がお使いになっている洗髪剤の銘柄を教えてください

閣下:石鹸で洗っているが

司:どのメーカーのもので?

閣下:以前は軍用であったが、最近は妃の手製だ

司:御前さま、石鹸お作りになられるのですか?

御前:趣味だ

司:どのような石鹸なのかお教えいただけますか?

御前:宰相殿にお渡ししているのは、ローズマリーのハーブ石鹸だ

司:ハーブはどの銘柄をお使いで?

御前:育てておる。乾燥もさせれば精油も自分で行う

司:完全なる手作りでいらっしゃるのですか

御前:そうなるな

司:閣下、使用感はいかがですか?

閣下:もちろん良い。使い始めたころは、市販のものだと思っていたくらいだからな

司:それは凄いですね。小官も使ってみたいものです

御前:くれてやろうか?

軍務:御前さま

御前:大丈夫だぞ、軍務尚書。この手の商品の製作販売に必要な資格は取得した

軍務:そういう意味ではなく

閣下:妃がよいと言っているのだ

軍務:ですが

閣下:では抽選でもするか

軍務:閣下?

閣下:五つくらい作れるか?

御前:五つどころか五百でも作れますが

閣下:さすがにそんなには要らない。五十ほど、希望者にプレゼントでどうだ?

御前:五十人も欲しいという輩がいるかどうか

閣下:無料でもらえるとなれば、送ってくる者もいよう

御前:畏まりました。では五個入りワンセットで五十セットお作りしましょう

閣下:軍務尚書。任せた

軍務:御意

 

応募方法:このページのコードにアクセスしてシリアル番号を取得。軍のホームページに応募欄があるので、シリアル番号と住所氏名を入力してください

後日当選者の名前を掲載します

(応募者多数の場合は抽選になります)

 

司:次の質問は閣下に選んでいただいても?

閣下:分かった。……妃がお気に入りの幕僚は誰ですか? だそうだ

司:答えていただいてもよろしいのでしょうか?

閣下:わたしは構わんが

御前:気に入りと言われてものう。全員尊敬申し上げておりますが

閣下:良かったな軍務尚書

軍務:閣下

御前:ただわたしが幕僚に好かれているかどうかは分からんがな

閣下:みな、あなたのことを気に入っているぞ

御前:本当かのう? 軍務尚書、どうだ? わたしのことを気に入っておるか?

軍務:……

御前:ははは! それで良い。それでこそ、我らが軍務尚書閣下だ!

閣下:本当に軍務尚書らしいな

 

この時わたし(司会者)は、お二人の胆力に感動した ―― 全ては語らないが

 

司:次の質問は小官が選ばせていただきます。御前さまはお料理をなさるとお聞きしました。得意料理はなんですか? 閣下は御前さまが作る料理の中では何が好きですか?

閣下:妃は多種多様な料理を作るし、どれも美味いから、一つに絞るのは難しいな

司:五つくらいあげていただけると

閣下:オムライスとドリア。ナポリタンにエビチリ、あとカレーか。どうした? 司会

司:聞いたことのない料理ばかりでして

閣下:そう言えばそうだな。オムライスはチキンライスに卵がかかっている

司:チキンライスとは?

閣下:ケチャップで炒めたライス。チキンも入っている……合っているよな?

御前:はい。作り手のわたしが簡単に説明いたしますが、オムライスとドリアは米にアレンジを加えたもの。ナポリタンはパスタをケチャップで和えたもの。エビチリはエビを辛みのあるソースで和えたもの。カレーはスパイスで作ったシチューとでも思えばよろしい。ただ聞いただけでは分からぬか。確か端末に撮影した画像があったはず。軍務尚書

 

御前さまが軍務尚書から端末を受け取り、料理の画像を見せてくださり、掲載することも許してくださった

どれもこれも美味しそうな料理である

 

司:独自のお料理を作られるのですね

御前:米の可能性を探っている

司:米の可能性ですか?

閣下:そういえばあなたは今年は米の酒が完成すると言っていたな。試飲はさせてもらえないのだろうか?

御前:完成したら是非とも試飲をお願いいたします。軍務尚書もな

軍務:なぜ小官を?

御前:卿ならば不味ければ不味いと言ってくれるだろうからな

閣下:確かに軍務尚書であれば、世辞は言わぬであろうな

御前:閣下が卿の下につけた男も連れてくるがいい。あれも正直そうだ

閣下:フェルナーか。たしかにあれならば、正直な感想を言いそうだ

軍務:畏まりました

閣下:今から楽しみだ。あなたの作るワインは絶品だしな

御前:ワインほど上手くいくかどうかは

司:御前さま、ワインを作られているのですか?

御前:幼い頃に曾祖父に教えられた。身内が嗜む分程度は作れる

司:さきほど絶品と閣下は仰いましたが

閣下:絶品だ。妃の作るワイン以上なのは、妃の曾祖母殿が作った410年ものくらいだ。それも、熟成期間の問題だからな

司:売ったりはなさらないのですか?

御前:売る気はさらさらない。欲しいという知り合いにくれてやるくらいだ

司:そうですか。三九二年ベルガフォード以上の希少ワインになりそうですね

御前:三九二年もののベルガフォードなあ。あれは名前が一人歩きしているような気もするが、目標とするのも良いかもしれんな

閣下:あれは幻にして垂涎と言われるだけのことはある

御前:そうですか。では今度、あの味を再現してみせましょう

閣下:作れるのか?

御前:作れます

閣下:これは驚いた

軍務:閣下、お時間です

閣下:そうか

御前:公。わたしはまだ時間がありますので、幾つかの質問に答えようと思いますが、よろしいでございましょうか?

閣下:そうしてくれると助かる。軍務尚書、妃を任せる

軍務:畏まりました

司:閣下、お忙しいなかお時間ありがとうございました

 

閣下退場

軍務尚書待機

 

司:では改めて、よろしくおねがいいたします、御前さま

御前:ふむ。それで他に質問は? 閣下の前では聞けぬような質問でもいいぞ。あ、軍務尚書がいたな

司:御前さま

御前:わたしは全く気にしない。そちが気にするかどうかにかかっている

司:あ、はい。それでは、女性から御前さま宛に多かった質問なのですが、前線に赴く夫や恋人と会えない期間、どのようにして寂しさや不安を解消していらっしゃるのでしょうか? という質問です

御前:適切な答えは返せんな

司:仰いますと?

御前:わたしは戦争の天才にして常勝の英雄たる公の妻ぞ。それが不安がって良いと思うか?

司:仰るとおりで。愚問でございました

御前:不安はない。寂しさもまあ……一緒にいたいのは分かる。だがわたしは、我が儘を通せる身分だからな。三年ほどオーディンで待ったが、待つのは性分に合わぬことがわかったので、無理矢理従卒になって公に付いていった。故にほとんど参考になるまい

司:そう言えば、先の内戦について少々よろしいでしょうか?

御前:軍務尚書

軍務:内容は?

司:御前さまへの質問ではなく、御前さまへの感謝のお言葉です

軍務:よろしい

司:では。御前さま、質問以外にもご夫妻にはお礼のメッセージが多数届いておりました

御前:なれば公もいらっしゃる時に言えば良かったであろうに

司:申し訳ございません

御前:それで、誰からの礼じゃ?

司:リッテンハイム基金の恩恵を受けた者たちから、続々と感謝の言葉が

御前:それは感謝されるものではないし、感謝などせずともよい

司:そのように御前さまが明言なさっているので、街中で感謝の言葉を告げるわけにもいかず、こうしてメッセージを送ってきた模様です

御前:軍務尚書や、わたしが感謝されるようなことか?

軍務:恩義を感じて当然のことですが

御前:そうなのか……まあ、なれば固辞するわたしの姿勢にも問題があるか

司:そのようなことはございません

御前:ありがたく受け取っておこう。他には?

司:質問はまだまだたくさんございます

御前:気にせず聞け

司:それでは、御前さまの召使いの方についてなのですが

御前:下男のことか?

司:はい

御前:それは却下だ。わたしに関する質問ならばいくらでも答えてやるが、下男は下男だ。分かるな

司:御意

御前:わたしは暇だが、軍務尚書は他にも仕事があろう。故に次が最後だ。なんなりと申せ

司:それでは、兵士からのお願いでもよろしいでしょうか?

御前:おお、構わんぞ

司:御前さまのご家族の映像を見せていただけませんでしょうか?

御前:画像ならば自由に閲覧できるはずだが

司:静止画像ではなく、音声を含む映像を観たいと言う者が大勢おりまして

御前:父上の?

司:御前さまの父君だけではなく、母君に元憲兵でいらっしゃった先の公爵さま、そして元皇太子殿下であらせられた曾祖父さまの映像を

御前:よくは分からぬが、見たいと申すものがおるのだな?

司:はい。生前お世話になった者が軍には多数おります。御前さまのお姿を拝見すると、どうしてもかつてお世話になった皆様のお姿が思い浮かび……

御前:司会者よ、お前の希望か?

司:わたし()希望も含まれております

御前:正直でよろしい。……わたしがメインで、上記の四名以外が含まれている映像でもよいか?

司:もちろん! むしろ、本懐にございます

御前:本懐な。編集するゆえ、暫し待て。さて、軍務尚書を執務に戻してやるとするか

司:御前さま、本日は本当にありがとうございました

御前:それではな

 

御前さまのご家族の映像放映日時や場所は軍務省の公式サイトにアップしています。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

【よくあるご質問】

F:閲覧希望申し込みに必要なものはなんですか?

A:軍の身分証とIDと勤務表の移し(印付)が必要です

 

F:軍籍がないと視聴できないのですか

A:できません

 

F:一般公開の予定はありますか

A:ありません(訂正:一般放映が決定いたしました)

 

XM/XX/R.C489

 軍特別公報に掲載されていた、公爵夫人のご家族の映像放映に関して・6

 

 日時:XV/XX/R.C489 14:00~17:00(放映二時間三十分)

 場所:軍務省第一会議室(収容人数二十名)

    第一軍公会堂(収容人数五百名)

    元帥府直参各将校所有の娯楽室(収容人数各百名)

    新無憂宮視聴室(収容人数三十名)

 希望者は事前に軍務省公報課に申し込みが必要(軍用メール可)

 抽選終了。当選者には通知済み

 軍の公営放送チャンネルにて放映決定(定員満了)

 宮内放送チャンネルにても放映決定(要事前登録)

 日時は同上

 

XR/XX/R.C489

 軍特別公報に掲載されていた、公爵夫人のご家族の映像放映に関して・5

 

 日時:XV/XX/R.C489 14:00~17:00(三時間程度を予定)

 場所:第一軍公会堂(収容人数五百名)

 希望者は事前に軍務省公報課に申し込みが必要(軍用メール可)

 軍の公営放送チャンネルにて放映決定(要事前登録)

 日時は同上

 

XR/XX/R.C489

 軍特別公報に掲載されていた、公爵夫人のご家族の映像放映に関して・4

 

 日時:XV/XX/R.C489 14:00~17:00(三時間程度を予定)

 場所:第一軍公会堂(収容人数五百名)

 希望者は事前に軍務省公報課に申し込みが必要(軍用メール可)

 放映時間:三時間程度(予定)

 

XR/XX/R.C489

 軍特別公報に掲載されていた、公爵夫人のご家族の映像放映に関して・3

 

 日時:XV/XX/R.C489 14:00~17:00(三時間程度を予定)

 場所:第一軍公会堂(収容人数五百名)

 希望者は事前に軍務省公報課に直接申し込みが必要

 

XW/XX/R.C489

 軍特別公報に掲載されていた、公爵夫人のご家族の映像放映に関して・2

 

 日時:XV/XX/R.C489 14:00~17:00(三時間程度を予定)

 場所:軍務省第三会議室(収容人数五十名)

 希望者は事前に軍務省公報課に直接申し込みが必要

 

XX/XX/R.C489

 軍特別公報に掲載されていた、公爵夫人のご家族の映像放映に関して

 

 日時:XV/XX/R.C489 14:00~17:00(三時間程度を予定)

 場所:軍務省第一会議室(収容人数二十名)

 希望者は事前に軍務省公報課に直接申し込みが必要

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

ラプンツェル【試し読み】

 

プロローグ

 

 

「そろそろ教えていただきたいのですが」

「もう十年も経ったのか。忙しさにかまけて、蔑ろにして悪かったな」

 

 

 わたしのような一記者が獅子の泉宮殿を訪問し、皇妃陛下に謁見する機会を得ることができたのは、今から十年前の連続猟奇殺人事件が切っ掛けである。

 旧帝国歴の四八九年のこと ―― 激動の時代の幕開けであったこともあり、当事者や関係者以外の記憶にすら残っていないことだろうが、この年フェザーンでは三人の猟奇殺人犯が逮捕された。

 そのうちの一人をわたしは追っていた。

 かなり危険な人物で、真相に近づくにつれてわたしは身の危険を感じていた。

 そしてついにわたしの元に、おぞましい()()()が届けられる ―― 女性のものと思しき人差し指。

 アクリルケースに入れられていた指は皮膚は変色し、弾力が失われているのが触らなくても一目で分かる。爪は犯人に抵抗した際に欠け、マニキュアも禿げおちていた。

 届いた品はこれだけではなく、手紙が同封されていた。

 紙は何処でも買える量産品で、文字は切り抜かれたものが一文字ずつ張られていた。

 その性質もあってか、内容は簡潔で「この指を月食の木に届けろ」と書かれていた。「月食の木」とは皇妃陛下が継がれていた爵位のお一つの異称である。この異称だが、聞いたことがある人も多いだろう。

 猟奇殺人犯を逮捕していた帝国貴族の仮名として、関連の書籍にはよく用いられていたもので ―― 現在も猟奇殺人犯を追う部門のことを「月食の草原」と呼ぶのは、この名に由来している。

 

 わたしは届けられた指を持ち、ミッターマイヤー筆頭元帥(当時の階級は上級大将)の本営へと向かい、届けられた指と手紙を受付で見せ ―― 皇妃陛下(当時の階級は中佐)の元へと通された。

 

 わたしが訪ねた時には、すでに皇妃陛下はこの殺人鬼から挑戦状を送りつけられていることに気付いており、候補を三人まで絞っていた。

 三人のうちの一人は殺人鬼で、あとの二人も別の同じような殺人犯で逮捕される。

 わたしが手渡した指を見た皇妃陛下は、すぐに断面の生体反応を調べるよう指示を出し、同封されていた手紙に目を通した。

 皇妃陛下は、二三回頷くと、

 

「故地行かざるは――(以降は聞き取れず覚えていない)」

 

 わたしには聞き取ることができない言葉で話し掛けてきた。

 驚いた顔のわたしを見て、皇妃陛下はわたしが分かる、平民の言葉で話し掛けてくださった ―― 「この手紙は、こちらで保管していいか?」もちろんわたしに異存はなかった。

 皇妃陛下にとってはあまり使い慣れない言葉らしく、所々聞いたことのない単語が混ざることもあったが、皇妃陛下はわたしが分からないことに直ぐに気付き言い直して下さった。

 皇妃陛下と話をさせていただいている間に検査は終わり、指に生体反応が見られたとの報告が届く。

 皇妃陛下は「生存の可能性がある以上、時間はかけん」すぐに行動に移られ ―― 絞り込んでいた三名全員を即逮捕するよう指示をだされた。

 

「わたしはこれを捕まえに行く」

 

 皇妃陛下が捕らえた男こそ指を送ってきた張本人であった。

 逮捕後、皇妃陛下になぜその男だと分かったのか、わたしは尋ねる。

 

「あとで教えてやろう」

 

 誰もが知っているだろうが、皇妃陛下はその後ランテマリオ星域会戦、バーミリオン星域会戦などに参加し勝利に貢献、陛下の即位とともに皇妃の位を授かり、シャーウッドの残党狩りを指揮。そしてご懐妊なさり ―― この十年で三人の御子さまにも恵まれるなど、たかが一惑星で三百人殺害した()()の犯人に構っている暇などなかった。

 

「あれはまだ生きているのか?」

「逮捕されただけですので」

「取り調べは?」

「皇妃陛下が行うと命じられたので、行われておりません」

「……なんと」

 

 皇妃陛下はご自身で取り調べを行うゆえ、拘束しておくよう当時の部下である憲兵に命じ慌ただしくフェザーンを発たれた。

 

「軍の実直さに感動を覚える」

 

 憲兵は憲兵総監のケスラー元帥(当時の階級は大将)に皇妃陛下からそのように言いつかったと報告し、受けたケスラー元帥は皇妃陛下の御心に沿うよう指示を出し、以来十年、あの犯人は厳重な監視の下、生かされ続けていた。

 

「憲兵総監め。忘れていると気付いているのならば、教えてくれてもよかろうに」

「忘れていらっしゃったのですか?」

「忘れていたにきまっておろう。なんだ、わたしに深い考えがあって、殺人犯を放置しているとでも考えたのか」

「はい」

「わたしのことを買いかぶり過ぎだ。では取り調べをするとするか。ところで()()の名はなんというのだ?」

 

▼△▼△▼△▼△▼

 

 取り調べが行われていないと聞き、疑問に思った人もいるだろう。

 実は()()に対する尋問は行われていないが、()()が起こした殺人事件に関しては調査が行われ、被害者遺族には報告がなされている。

 これは皇妃陛下の命令を実行するため()()を拘禁し続ける理由が必要となり、外に出してはいけない殺人犯としての証拠を憲兵などが集めたのだ。

 よって()()の自白はなくとも既に死刑は決定している ―― 要は皇妃陛下が尋問を受けるために生かされている状態。

 皇妃陛下は()()と十年ぶりに再会し、

 

「入れ歯の調子はどうだ」

 

 話し掛けられた。

 わたしは皇妃陛下の斜め後ろに立っていたので表情は分からなかったが、三百四十二人を殺害した()()は震えだした。

 わたしは皇妃陛下の斜め後ろに立っていたので表情は分からなかったが、わたしも()()と同じように震えた。

 

▼△▼△▼△▼△▼

 

第一章:旧帝国歴四八九年十二月二十三日~同年十二月三十一日

 

 わたしが届けた指に生体反応があることを確認した公妃は(敬称省略の許可をいただいております)直ぐに行動に移られた。

 まずは部隊に指示を出し、候補のうちの二名を逮捕するよう命ずる。

 

()()は既に見張りをつけている。下男、どうだ?」

『こちらが標的の映像になります』

 

 まるで無害な一般人のような顔で大通りを歩いている姿が映し出される。

 

「よろしい。では狩る」

『わざわざ御前さまが狩られるほどの犯人では』

「多分な。だがわたしがやる」

『畏まりました』

「同行は許可してやるぞ」

 

 公妃はそう言うと、心得ておりましたとばかりに老従卒が用意していた、赤い大型の軍用バイクにタイトスカートのまま跨がった。

 

「用意はできているか?」

「此方にありますが。これで本当によろしいのですかな? 公爵殿」

 

 老従卒が手渡したのは飲料水ボトルが入ったストッキング。

 公爵夫人はそれを少しばかり振り回し、

 

「丁度良い。次に用意するものは犯人用の医者、地上偵察機能を備えた軍用ヘリ、パイロット、医療器具、生存者を運び込む医療機関の確保。行け」

 

 返事を聞くことなく公爵夫人は、バイクを発進させた。

 老従卒は見えなくなるまで敬礼し、わたしとカメラマンのほうを向き、兵士が乗っている車を指さす。

 

「公爵殿を追うのではないのか?」

 

 わたしとカメラマンが軍用車に乗り込むや否や、兵士はアクセルを踏み飛び出した ―― 公妃に追いついた時には既に犯人は捕らえられていた。

 後に現場に居合わせた人々に聞いたところ、公妃はバイクを走行させたまま、手に持っていた重り入りのストッキングを投げつけ見事に両足を狩り、倒れた犯人の背中を片足で踏みつけ「ツークツワンク」と勝ちどきを上げられた。

 わたしたちが到着したのを確認なさったかどうかは分からないが、公妃はバイクに積んでいたケースから自白剤を取り出し、一切のためらいなく犯人に投与した。

 そして自白剤が入っていたケースからわたしの元に届いた指を見せ、指の持ち主は生きているのか? どこにいるのか? を聞き出す。

 

「生きている」

「それは僥倖。どこにいる?」

 

 公妃は指をケースに戻すと、再び自白剤を手に取り打ち込んだ。―― 後日知ったのだが、打った自白剤は種類が違うもので、作用や効果にも差があり、打つ順番により人体にあまりダメージを与えずに最大の情報を引き出すことができる。詳しいことは新帝国である現在でも謎だが、公妃はこの薬の使い方を熟知しており、犯人は自白剤によるダメージは皆無だった

 

 ダメージを与えなかったのは、これから順に犯行を聞き出すため ――

 

 公妃は場所を聞き、地図で確認するや否や、犯人の顔面を路面に叩きつける。

 白と赤が混ざった歯が辺りに飛び散るが公妃は動じることなく、犯人の足を刈ったストッキングを裂き中の飲料水のボトルを取り出し前歯が欠けている口内に押し込む。

 そして左右一回ずつ地面に叩きつけ、ペットボトルを引き抜いた。

 残っていた奥歯も全て折られ、

 

「……二十六、二十七、二十八。全部だな」

 

 公妃は道路に散らばった白い歯を数えられ、犯人の歯が全部失われたことを確認する。

 

「これで自殺は不可能だな」

 

 犯人は自白剤の影響で、痛みをほとんど感じておらず ―― 自分の身になにが起こったのか全く付いて行けない状態であった。

 

「標的をいかに殺さないようにするか、それが()()()()()()

 

 手と足を縛り上げわたしとカメラマンが乗る車の足下に犯人を放り込むと、

 

「戻るぞ」

 

 公妃が先導し本営へ引き返し、部下の憲兵に「死なぬよう見張れ。それ以外は必要ない」と命じられ、ヘリコプターが待機しているポートへと向かわれる。

 そこには準備が整ったヘリコプターと老従卒にいつの間にか戻っていた下男、そして武装した十五名ほどの兵士が待機していた。

 

「人員は必要とはしていなかったはずだが」

「司令官閣下の条件が小隊の同行でしたので」

「ならば仕方あるまい。悲惨な現場に向かうゆえ、無理はするな」

 

 公妃はヘリコプターに乗り込み、わたしとカメラマンも同行する。

 

「降下の経験は」

 

 下男が差し出す装備を身につけながら、公妃はわたしとカメラマンにヘリコプターからロープを使っての降下の経験を尋ねる。

 カメラマンは過去に何度か経験したことがあると申告し、わたしは正直に未経験であることを申し出た。

 

「よろしい。ではわたしが補佐しよう」

 

 公妃はそのように言ってくださったが、公妃にそのような負担を掛けるわけにはいかない。小隊の隊長が補佐を申し出てくれたので、わたしはそちらに頼むことにした。

 

「結構上手いと思うのだが」

 

 山深く周りには全く人の気配はなく、クマなども出る原生林の中の山荘。犯人は普段は街中のアパートに住み、捕らえた人は所持している別荘へとつれて行き、残忍な殺人を繰り返していた。

 わたしは初めて降下を経験し ――

 

「熱反応があると。ならば即刻助けねば」

 

 公妃は直ぐにでも建物に入ろうとしていたが、下男がそれを押しとどめた。

 

「御前さまが正面から打ち破れぬ罠などございませんし、あの程度の知能の者が御前さまの裏をかくような罠など設置できぬことは分かります。ですが、罠が捕らえられている者に向いている可能性もございます。弱っているであろう者は、罠を回避することは不可能かと」

「……そっちか。あの男がわたしではなく、捕らえた者に罠を張っている確率は」

「15%前後かと」

「慎重には慎重を期せということか。分かった」

 

 公妃は些か不服そうではあったが下男の言葉に従われ ――

 

【試し読みここまで。続きはこちらで】

 

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