ラインハルトから愛の告白? らしきものをされて、皇妃になってしまったよ!
いやー人生ってよく分からないもんだな☆いや、転生してる時点で人生なんてよく分からないものだけどさ。
ん? ラインハルト? わたしの腕枕で寝ているよ。
え? 子供ができるようなことしてますか? するわけないじゃないですか!
はい? お前ら夫婦だろ。一応はね。でもさラインハルトが遠慮してだね、全然手を出してこないわけですよ。
お前から手出せば? そりゃまあ経験者なら上手くリードできるかもしれないが、これに関しては未経験なので分からん。頼り……になるかどうか不明だが、頼れそうな前世の記憶にもないので……笑え! 笑うがいい! 身も心も魂も全て処女だということを! もーなんていうかなー……まあいいや☆考えても仕方ないし、考えた所でどうにもならんし☆
なにより今はやってる場合じゃないからさ。現在イゼルローン要塞を目指して航行中。ワープが胎児へ及ぼす影響云々から、往復の間は夜はナシでも問題ない。
避妊とかすれば? 皇帝の房事に避妊具の出番はないから。出番どころか避妊具のやつは皇帝の閨房に出入り禁止だ。
とにかくそんなワープ事情があるので、イゼルローン要塞の往復だけではなく、フェザーンに遷都してから、やるんじゃないかな☆よく分かんないけど。
……わたしがイゼルローン要塞に向かっている表向きの理由は新婚旅行。結婚して四年ほど経つが、二人で旅行したことがないので ―― リップシュタットの時一緒に行ったよ? と言ったが、あれは内乱なのでカウントされないのだそうだ。
じゃあ二人で行くのなら、先日行ってみたいと言っていた恐竜が住む惑星はどうですか? 近いですよ? と提案したところ、昨今イゼルローン要塞で発生している、失踪事件を打ち明けられた。
事情を聞いてイゼルローン要塞の図面を見たわけだが、我が家にあった図面と違っていた。ラインハルトたちは驚いていたが、我が家にあったイゼルローン要塞の図面ではそこには予備のライフラインプラントが設置されていた。
ライフラインプラントとは、酸素作ったり窒素作ったり水を作ったり、室温を保ったりするプラントのことだ。要塞において一番重要なシステム。そのサブの一つがあるはずだ。
「図面は残っていないのか」
ラインハルトの尤もな問いですが、図面は残ってはいない。祖父が死ぬ前に処分してしまった。もちろん、図面は暗記させられているので、なんら問題はない☆
図面はなく記憶しているのはわたしと下男だけなので ―― 聞けばローゼンリッターの誰かが調査に向かって行方不明になったとのこと。そんな危険なところに、老人である下男を行かせる訳にはいかない。そう強く宣言したところ、
「中央部に行って良いのは、当主のみと聞いております。わたしめもお供は許されるでしょうが」
下男の返事だ。本当にお前は色々なことを知ってるな☆感心するよ☆
「下男はここがどのようなものか、知っているのか?」
「存じません」
他にこの部分に関してなにか知っていることはあるかと尋ねたら【当主のみ】の当主は父さんから継いだ辺境伯のこと。
それと辺境伯爵以外で立ち入って良いのは、公爵夫人が祖父から継いだ公爵の位を持つもののみだって。立ち入れるのわたしだけじゃないですか☆
「お供は大丈夫です」
「では余が付き添おう」
ヤメロー☆ラインハルトォー。お前さんは、尊貴な御身なんだぞ! 傷とかついたら大変じゃないかああ!
「辺境伯爵にして公爵たるあなたと一緒ならば問題はないと、下男も言っているではないか」
いや、まあ、その……下男のことは信用してるけどさ、下男にそれを教えた
「フェザーンが情報を売ることを見越してだそうです」
あ、そうなんだ。
ヤンが言ってたな、内部構造が分かる見取り図みたいなのが手に入ってるから、同盟はイゼルローン要塞を攻略したがるって。
そうか話を聞く分じゃあ、同盟がフェザーンから手に入れた図面も、イゼルローン要塞に残されている図面も、全部偽物ってわけか。
……聞けば聞くほど、ヤバイ感じがしてくる。
イゼルローン要塞の図面すり替えなんて、当然
専制君主国家の皇帝が直接関わってるなんて、完全にパンドラの箱だ。底に希望があれば御の字だが、その前にぶちまけられる厄災が半端ない。
なによりあの五世おっさんは、曾祖父が大のお気に入りだから、かなり無理が利くというか。寵臣とかいうレベルじゃな……祖父が言ってたなあ「
「エネルギーの流れに関して、要塞司令官には口を挟まぬよう勅命が下されるとのこと。委細は教えられぬそうです。先の公爵さまや若さまはご存じだったと思われます」
先の公爵こと祖父は辺境伯の夫で曾祖父の跡を継いでるし、若さまこと父さんは辺境伯だから、事情は知ってるだろうな。……で、なんでわたしには伝わってないのかなあ。
「先の公爵さまが伝え忘れ……」
いいよ下男、無理すんな。あの祖父が、こんな重要なこと伝え忘れるはずがない。これはもう、意図的なもんだろうよ。
で、意図的に断片以外を伝えなかった理由はただ一つ「行ってこい」
これ以外考えられない ――
そこでわたしが乗り込むことにしたのだが、ラインハルトも一緒に行くと言って聞かなくて。オーベルシュタインに危険だと告げてはみたものの「二人で一緒に過ごしてください(要約)」と頼まれた。
あとは「
仕事はいいのかなーと思いつつ、ラインハルトと一緒にイゼルローン要塞へ。もちろん、移動はブリュンヒルトです。
移動中色々と聞いてみたら、内政はヒルダにも任せたそうだ。
それなら安心だね☆
ラインハルトにプロポーズされ、訳が分からぬまま受け、一日してから気付いたんだが、ヒルダとラインハルトが結婚すると帝国の内政に少々問題があるのではないかと。
原作では皇妃になるとヒルダは表舞台から降りる。そしてラインハルトの死後、摂政として復帰するわけですが、わたしがラインハルトの体調を完璧にしてしまったので、下手しなくともヒルダはずっと皇妃のまま。となると内政に関われない。
間接的には関われるかもしれないが、限度がある。
もっともラインハルトが生きているからそれほど問題はないだろうが、二人とも生存し存分にその手腕を振るえば、帝国はよりよい物になるのではないか。……とも考えたわけですよ。全く以て後付け理由ですけどね☆
でもわたしが思った通り、ヒルダに内政の一部を任せたようなので、これは上手く行きそうです。
有能な人材は使うに限る☆
そうそうヒルダとはフェザーンで何回か話をしたんだ。
世間様的には年も近くて同性で、どちらも才女って……ヒルダが才女なのは異論はないが、わたしを才女と呼ぶのは異論しかない☆
馬といえば競馬な貴族業界だったのですが(過去形)ヒルダは原作通り、乗馬を楽しむ闊達なお嬢さんだったようで。「公妃は乗馬が得意とお聞きいたしました」と声を掛けられて一緒に乗馬した。
ヒルダは普通に上手かったよ。
ちなみにわたしの乗馬は、一般的な乗馬と違う。馬というのは飼育等に金がかかる。そして我が公爵家は貧乏。当然馬など飼えない。なので野生の馬に乗っていた。
オーディンの自然には野生の馬がいるのだ☆
集団で生活している野生馬の背に飛び乗り、たてがみを掴んで操る。鐙? あるはずないだろ。鞍なんてものは甘え。手綱? 両手が自由でなければ戦えまい。というわけで、わたしは木に登り気配を消して裸馬の背に飛び乗り、疾走するスタイルである。最初の頃は、母さんに片腕で抱かれたまま ―― 母さん、野生馬と併走して上手く飛び乗れるんだ。あれは凄かった。
ちなみに一時間も乗ってると、野生馬も従順になるけどね☆
ヒルダと一緒に馬を駆るのだから、野生馬に乗っても仕方ない。調教された馬に跨がったわけだが、従順で楽で良いものだった。
あんまりにも従順で思い通りに動くので、ウィリアム・テル風流鏑馬っぽいことをして見せたら、ヒルダや護衛、そしていつの間にかいたギャラリーたちか喝采を貰った。誰の頭に林檎のせたのかって? 下男と元皇女だよ。あの二人、年取ってるけど姿勢がよくて微動だにしないから射貫きやすいんだ。
射た林檎?
もちろん美味しくいただきましたとも☆
「おはよう、髪長姫」
腕がもぞもぞとしたと思ったら、ラインハルトが起きたようで。
おはよう、ラインハルト。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
やってきましたイゼルローン要塞。ヤンが残した” 健康と美容のために、食後に一杯の紅茶” ”ロシアン・ティーを一杯。ジャムではなくマーマレードでもなく蜂蜜で”は中心部問題が片付いたあと片付けておきます☆
トラップの存在と解除コードの入手方法? 知ってはいたが、念のために数式使ったら難なく入手できたよ☆動くシャーウッドの森にも、数式は入り込んでいるようで、現在地も判明している。こっちも要塞の問題が片付いたら、ラインハルトに教えるつもり。ラインハルトが許してくれるなら、イゼルローン要塞から直接わたしが討伐に向かってもいいけど。
相手はメルカッツだ、お前なんかが勝てるわけねえだろ?
誰が正々堂々と戦うと言った! 数式たちに手引きしてもらって勝つんだよ! 邪道だよ、邪道! 蛇の道は蛇! ……ちょっと違うか。
「ここは確かに、一番人が来ない場所だな」
ただいまわたしが覚えている中央部への入り口前におります。
いや、ラインハルトさん、まじでお部屋で待ってて下さいよ。
ちなみにわたしの護衛は、母さんが死んだ戦闘で生き残った新人たちの
心に傷を負って退役したと聞いていたのだが、
やる気満々で復帰したのに、わたしの護衛とか可哀想だろとか思ったが、准佐は「大佐のご令嬢をお守りできて光栄です!」とな。まあ、勘を取り戻すのに良いかもしれないなーと護衛させていたわけだが……まだわたしの護衛でいいのか准佐。他に行きたい部署があったら言うと良いよ。
さて中心部への入り口ですが、割と目立つ所にあります。ぶっちゃけると、皇帝が来た時に使われる謁見の間のような会議室。同盟の皆さんあたりは、絶対使わないであろう少々高いところに椅子が一つ設置されている場所。緞帳だとか赤絨毯だとか、綺麗で綺麗で。ここ、誰も使ったことないだ……
「主さまはこの椅子の座り心地を試されたと聞いております」
ヤメロ曾祖父。いや、お前はそういうヤツだけどさ☆
わたしの記憶では玉座(仮)のあたりに、コードを入力する機器が設置されているはず。随分と昔のものだから、壊れている可能性もあるが、そうなったら行方不明になった者たちと同じルートで侵入するまで!
とか思ったら、普通に背もたれの裏面に入力機を発見。覚えているコードを入力すると、玉座(仮)の足下部分が落とし穴的に開いた。
機能は落とし穴ではないので、四角い穴の一面に梯子として使用できる取手が付いている。底に明かりを落としてみると……エライ深いな、おい! え? 230mだと。良い距離じゃないか……。そうだ! ラペリングしよう!
幸い穴は大きいので……これ、間違いなく曾祖父クラスの体の大きい人用だわ。間違っても玉座に腰下ろす人用じゃない。
フリッツのじいいに230m降下は無理だな☆
さて行くとしようか! あ、下男。無理はするなよ。
さあ、では行こうではないか!
全員無事に着地いたしました。空調も確りしており、温度も22℃と設備部分標準設定です。
で、到着したら今度は東側に通路が見えます。准佐が先行して安全確認、後わたしたちが付いて行く感じで。しばらく進むと、突然通路に明かりが付きました。中々の天井高だと思ってはいましたが……准佐は元帥府にはあまり馴染みがないから分からないようだが、この天井は
似てるなとは思ったが、壁紙も床材も全部同じだ。
曾祖父はなんでこんなモンを作ろうと思ったんだ。こんなモン作らせるから、費用が嵩んでリューディッツ腹切るはめになったんじゃねーの。
嫌な予感しかしないまま歩いていたら唐突に
たしかに我が家の東館の北通路は、こういう仕組みになってますが☆イゼルローン要塞の中心部近くまで、そんな仕組みにする必要はないのでは☆
「待て、髪長姫」
ふい? なんですか、ラインハル……って、向こうからなにかが近づいてくる足音が!! この足音は完全に人間ですがな☆
護衛二名が銃を構え顔が見えたあたりで、
「止まれ!」
怒鳴りつけると、素直に足を止めました。どこからともなく現れたのは見覚えのある野郎でした。
なぜ見覚えある野郎が向こうから歩いてくるのか、意味不明なんですが。なんでお前が? 似たヤツなのか? それにしてもおかしいだろ。
両手を挙げてた降伏スタイルで近づいてきた野郎は、
「辺境伯……辺境伯爵夫人か」
わたしの顔を見るなり、予想通りの台詞を吐きやがった。そしてわたしが何者か、当ててくるな。それにしても大ツークツワンクに似てるな頭髪の色。髪質は全く違うけどさ。さらさらしてムカつく!
「頭髪の色合いは、辺境伯特有のものだからな……あれが言った通り、瓜二つだな。ああ、あれとはあなたの父親のことだ、辺境伯爵夫人」
「卿は一体何者だ?」
ラインハルト、話見えてきませんよね。どこか座ってお話しましょう。わたしも話はしていますが、こいつが
ちなみに皆さん、この人幾つに見えます?
「余よりは年上ではないか」
二十三歳のラインハルトよりは年上に見える。まあ正しいな。
「小官たちよりは年下かと」
三十歳手前のギュンターと准佐よりは年下ね。HAHAHAHAHAHAHA!! そいつは正真正銘大ツークツワンクの兄ですよ! いま皆さんが考えている年齢に、軽く五十才足して下さいな!
「なっ!」
ラインハルト驚いてます。そりゃ驚くよな☆護衛の二人も驚いてます。下男? ああ、顔みた瞬間に誰か分かったみたいで驚いてないわー。いや誰か分かっても驚こうよ、下男。
さてさてソファーのある部屋に通されたので腰を降ろした……のはわたしだけ。他の皆さんは立ったまま。警戒することは良いことです、ラインハルト。
「辺境伯爵夫人が言った通り、わたしは大ツークツワンクの兄だ」
「嘘をつくな」
ラインハルトが即座に否定。そりゃそうだろうな☆見た目が若すぎる。
だがnull型ネオ・アンティキテイラの最終目的がなにか分かっていると ―― これがなんなのか分かるはず。
「不老不死なのか?」
「残念。金髪の……ではなく皇帝陛下。わたしは不死ではありません。不老に関してはある程度」
あー、大体分かった。なるほどな☆
「辺境伯爵夫人の仰る通り、ここは不老不死の研究機関です。場所柄、人体実験用の素材は手に入れやすいので」
行方不明者は全部戦死者になるから……うん、まあ。ところで人体実験本当にしてるの? いや確かに、大ツークツワンクの兄は結構頭は良かったと曾祖父は言ってた。
「それなりに。
”
頭の出来や血筋は分かってる。で、お前は
「
「ご存じでしたか」
いやいや、知らんよ。ただnull型ネオ・アンティキテイラで吸血鬼
吸血鬼化はそんなに難しいことじゃない ―― 特定対象に限りですがな☆
「null型ネオ・アンティキテイラを変異させる? あなたのように?」
わたしのようにその形まで変えるものじゃないよ。機能をちょっと弄るんですわ。そうすると、やたらと長命になる。機能を弄られて長命になるのはnull型のみ。通常のネオ・アンティキテイラはそこまで変異はしない。ただしその機能を備えたnull型ネオ・アンティキテイラを所持していても、年はそのまま取ると言われている。
そういう意味では、コイツは新種ですな☆
「だが、何故吸血鬼と呼ばれるのだ?」
ラインハルトの問いに吸血鬼もどきが、食糧プラントを見せてくれました☆禍々しい赤黒い液体がシリンダー内をぎゅるぎゅると動き回っております。
「我々の食糧はこの血液です」
いまは簡単に血液は作れるのですよ。材料? 人間だよ☆これは一般的なことだから驚くところじゃないよ。
イゼルローン要塞で死亡した人は、よほどの要人でもない限り、要塞で埋葬されるわけですが、要塞なんで地面に埋めるわけではなく、さっくりと専門の溶液に溶かして処理してしまうのですよ。その死体が溶けた溶液がここに来て血液にかわるわけですよ。水と酸素から血液をつくるというわけには行かないのさ☆
「吸血鬼と言われるだけのことはある。ところで……」
ラインハルトは調査しにきた帝国の兵士たちについて尋ねた。
すると、
「ご安心を。彼ら
かなりたくさんタンクベッドが並んでいるし、随分と埋まっているようだが……実験材料か。見なかったことにしておこう。
そうだ、ここを探ろうとした同盟のやつらもタンクベッドで凍らせてるの?
「三名ほど実験材料に。二名に逃げられ、あとは全員ばらして楽しみました」
猟奇殺人系マッドサイエンティスト吸血鬼なのかー。
「何故逃がした?」
「なんのことかな?
「……」
おいおい新皇帝に喧嘩売る……ちょっと待て! なんでお前、スカートの中の大将的なその単語知ってるんだ?
「主要な部屋を監視しているのか?」
「敵と触れることが多い場所では、裏切りが横行するので、監視が必要なのだよ」
う☆わ。覗き趣味まで持ち合わせてるのかよ。
「質問に答えていないぞ吸血鬼」
ラインハルトさん、吸血鬼呼びはどうかと。
「吸血鬼ですか? 色気のない呼び方ですな」
「辺境伯爵家に連なるものなどと名乗るなよ」
「おお、恐い。……答えですか?」
「そうだ」
「ここから見ているうちに、気に入りましてな」
はあ?
「手に入れようと、少々趣向を凝らしすぎまして、逃げられてしまったのです」
は☆あ?
「亜麻色の髪の少年が欲しくて欲しくて」
はあー?
「もちろん、性的な意味で。あの女を知らない少年を……」
は……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! それ以上喋るな!
祖母の兄が
逃げ延びられた亜麻色の髪の少年、良かったな!
どこかで死ぬかもしれないが、ここで捕まらなかったことを泣いて喜べ! マジで!
「陛下も結構好みです」
おい、殺すぞ。
マジでやるぞ、引きこもり歴半世紀以上のカスパー二世。
「当主の夫に手を出すような真似はいたしませんよ。……本気でしたら、もっと前に手を出しております。わたしが最も好む十五歳から十八歳くらいまでの間に。よく言っておられましたな”ルドルフに出来たことが、俺にできないはずがない”と。楽しく聞かせていただきましたよ、ラインハルトさま」
吸血鬼がどんなもんかは知らないが、牙がないのが不思議なくらい吸血鬼だわ。白銀の頭髪が、気持ち悪いくらいに似合ってる。んー。殺したいのは山々なんだが、生かしておくと、いろんなこと知ってそうな気配が。なんつーのかなー。
護衛の二名が呆気にとられている感が凄い。むしろ食いついていけるラインハルトが凄いというべきだな。さすが皇帝陛下だ。
「最も愛していたのは
要らんことを言いやがった。お前、殺されたいのならば言え。さっくり殺してやるから。わたしの
「本当にあの男は、わたしの気持ちを知りながら……」
知らねーよ☆
祖父に対する祖母の兄の愛の告白とか聞いても
わたしとラインハルトは人体実験に使われた、同盟兵士と会うことに ―― 護衛を伴わなくて大丈夫なの? まあ大丈夫だろ。
「一体は完全に自我が失われているので、更なる高みを目指す研究材料に。あとの二体は意識がはっきりしているので、今のところは手伝いとして使っている」
好きな男が妹の夫になったため、世を儚み宇宙最強の引きこもりになりやがった男はそう説明してくれた。
「……で、こっちがライナー・ブルームハルト。どちらもローゼンリッターとかいう、惨めな亡命者が身を寄せ合い、傷をなめ合って無様に生きている集団に属しているものだ」
口の悪さに関してはなにも言うまい!
で、こいつらローゼンリッターか。
そうかー。ブルームハルトなあ。えっと、こいつらnull型ネオ・アンティキテイラじゃないよね……童貞だから吸血鬼っぽいものになれたの? いや、まさかね。
「わたしの研究の一つに、null型ネオ・アンティキテイラを所有していない者の吸血鬼化があるのです。若いまま長生きしたいという輩は、大勢いますからな。陛下もいかがですか?」
「下らん」
「その美貌が失われるの、怖ろしくありませんか?」
「くどいぞ、吸血鬼」
さすがの一刀両断。ラインハルトがいつも以上にキラキラして見える。
「つれないお方だ。辺境伯爵夫人はいかがですか?」
興味はないし、お前の能力じゃあわたしを吸血鬼化することはできないよ。わたしはお前以上の新種だからな。祖父でも扱えなかった代物だぜ☆祖父以下の脳みそなお前に、何ができるというのだ!
「血液を少々いただいてもよろしいでしょうか?」
研究したいとな? ……まあ、条件付きで、くれてやってもいい。
「なんでしょう」
あそこのローゼンリッター二体、殺させろ。
当たり前の話なのだが、母さんを殺害したのは陸戦部隊。誰なのか知らないが、ローゼンリッターなのは間違いない。
いつか全員血祭りに上げてやる。その前祝いとしてこいつらを殺させろ。
「そういうことでしたら、殺すのは止めませんが、こいつらは生きているほうが辛い状態ですよ。むしろ死は安らぎです。ええ、自殺はできません。このわたしが機能を停止させない限り」
そう言われると……仇を討ちたい気持ちと、苦しめたい気持ちが二律背反。
なんだ? ブルームハルトじゃない方の隊員が、話したいと。命乞い? しても無駄だよ。でもすることは許可する。
「聖下にこうしてお目にかかれるとは」
わたしのことを聖下と。聖下と言ったな! わたしのことを聖下と呼ぶということはお前、数式の一人か! なに一族四代、みな数式だと。
「聖下がイゼルローン要塞の返却を命じられた際、即座に対応できるよう動いておりました」
そしてここに来て吸血鬼にされてしまったと。
えっと……こいつは復讐対象から外しましょうか。わたしのせいで、要らないことに首突っ込んで吸血鬼になったんだから。
カスパー二世の言っていることが正しいとするなら、殺してやったほうが楽になれると。よし、ブルームハルトは痛めつけるだけにして生かしておく☆
「ところで辺境伯爵夫人、三次元チェスのお相手をしていただけないでしょうかな」
兵士たちを救出してからなら、相手になってやってもいい。いいですよね、ラインハルト。
「ああ。ただしわたしの立ち会いが条件だ」
いやいや、ラインハルトさん。大丈夫だから。
とりあえず、行動の自由が利かないらしいブルームハルトに
この位なら死なないだろう。
「死にはしませんが、治りもしませんよ」
はい?
「説明しておりませんでしたが、通常のネオ・アンティキテイラ体を吸血鬼化しますと、治癒能力というものがなくなるのです。まあ、所詮雑魚ですからな」
へーそうなんだ。……ちょっと興味が。吸血鬼化した一般体治せるかな?
…………簡単に治ったぞ、おい。
「素晴らしい! 是非
分かった、くれてやるから黙れ。そしてブルームハルトはもう一回。先ほどよりは酷くなく、でも生活に若干支障を来すように……してもいい?
「お好きになさってください」
もう一人のローゼンリッターこと数式も兵士の運び出しを手伝ってくれるとのこと。運び出しが終わったら息の根を止めてやろう。
血液は肉体労働が終わってからな☆
意識を失った兵士たちの侵入口まで運び、最後に数式の吸血鬼化を解く ―― まあ殺すだけなんですけどね☆
「聖下、ご武運を」
ありがとう。でもわたしは戦わないよ☆た・ぶ・ん。
「御前さま、吸血鬼に慈悲を与えるのでしたら、脾臓を壊されるのが良いかと」
そうなんだー……何故知っている、下男よ。詳しいことは後で聞かせてもらうとするか☆下男の言う通り、脾臓を壊したところ、ぱたりと倒れて息が止まった。そう言えば吸血鬼なのに呼吸してるんだなあ。でも、脾臓破裂したら普通の人間も死ぬよね。
「null型吸血鬼でしたら、そのようなことは起こりません」
そうなのか。カスパー二世の野郎はこれでは殺せんのか。いや、まあ殺すつもりはないが。
数式の遺体はあとでひっそりと運び出し、宇宙葬にする予定です。処理プラントに突っ込んだら、カスパー二世の餌になっちゃうからさ。
なんか知らんが生きていた親族はともかく、帝国の兵士たちが生きていて良かった☆
侵入口からギュンターが出て救助を呼び、皆で助け出して(吸血鬼は隠してます)医療施設へと運び、彼らの部隊の管理責任者にラインハルト直々に報告を。もちろん、口から出任せですよ☆
誤魔化すというか、彼らはコールドスリープされていたので、あの場所には巨大なタンクベッドルームがあると説明。設置理由? 要塞の中心部を作る際の生活スペースとしておいた。
普通に眠らせないで、雑魚寝タンクベッドで作業させるとかパーフェクトブラック企業ですな☆だがここは帝国、信じられてしまう恐ろしさ☆歴代の門閥貴族が積み上げた傍若無人極悪非道が良い仕事をしました。
目を覚ました兵士たちに、ラインハルトはまず労りの言葉をかけてから、
「見ました!」
「たしかにこの方です!」
「これは公には出来ぬことなのだが、この人物は皇妃の大伯父で、イゼルローン要塞建設の際、人柱にされたのだ」
特殊なカプセルの中で眠っていると説明することに。
最初人柱がなにか分からなかった兵士もいたので、簡単に説明する。
兵士たちは信じてくれたようだ。
「他にも人がいたような」
「名門辺境伯爵の当主たり得る男だけを人柱にする筈がない。他にも人柱にされたものが大勢居たようだ。昔のことで皇妃は知らなかったようだが」
実際は当人喜んで辺境伯爵の位捨てて、最強の引きこもりになったんだけどな。
でも兵士たちは信じてくれたらしい。
調査の際に使われた侵入口を塞いだ。他にも幾つかあるけれど、そこは開けておく。偶に中から出てきて、実験体を持ち帰ったりしてるっぽいんで。
ところでラインハルトさん、あれ生かしておいていいんですか? ご命令とあらば、さくっと殺しますよ。身内だとか気にしなくて結構です。だってアレじゃないですか。
「言いたいことは色々あるが、それ以上に聞きたいことがたくさんある。だが答えてくれるかどうか」
性格、あんまり良くなさそうですもんな☆
結果どうなったかって? ヨブやハイドリッヒをも許容できちゃうラインハルトの度量の広さがここでも遺憾なく発揮されて、
それと三次元チェスを打ちに行ったら「すごいでしょう」と見せてくれた吸血鬼が、フリッツのじじいの弟クレメンツだった。なんか結構若返ってて……それこそ、十五、六歳っぽくなって、鎖につながれた首輪を装着し……見なかったことにしたよ☆
本当に亜麻色の髪の少年、捕まらなくて良かったな。それにしても