ラプンツェル   作:朱緒

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第二十五話☆ドレスと爆発となにか

 全力を持って結婚式を挙げる ―― 普通の結婚とは違って、経済効果や出生率の向上を促すとか……色々とあるんですよ。新帝国の指針もさりげなく打ち出したりしなくてはならない。ワイドショーとかで「何とかさまから何とかさまへの想い」みたいなのやってるじゃないか。あれを意図的に、だがさりげなくやらなくてはならないのだ。

 で、なにを差し置いても必要なのが花嫁の戦闘衣装(ウェディングドレス)。この選抜を間違うと悲劇が。

 着用するのがわたしな時点で喜劇が確定していることも悲劇。

 悲劇尽くしで大変だね☆

 有名デザイナーたちのがデザインした花嫁の戦闘衣装(ウェディングドレス)は、大体が同じデザインだった。仕方ないのは分かっている。そもそも皇妃の戦闘衣装というものは、決まりがある。新王朝になったから誰も見たことがない斬新なデザインで! となるわけじゃない。古来より受け継がれる高貴なデザインというものがあってだな。それを踏まえた上で、わたしに似合う戦闘衣装を作らねばならぬのだ。

 基礎部分が同じなので、似通ってしまう。とくにわたしは、色々なデザインを着こなせるモデルのような体型とは縁遠い……デザイナーたちは仕事だし、最高権力者の妻なので、必死におだててくれているが、まあアレだ。身長だけはモデルたちと良い勝負できてたが、骨格がなあ。

 モデルたちを直に観たが細いねえ。あの骨格の細さはなんだ? ちゃんと食事とっているのか? こっちが不安になるくらい細い。そんな彼女たちが着用している時はウェディングドレスだが、わたしが着ると戦闘衣装にしかならん。

 正直な気持ちを言えば「ラインハルトがウェディングドレス着ればモデルたちより遙かに綺麗だから、その方がよくないか?」なのだが、どう考えても不敬罪である。

 それはさておき、公式の挙式で着用するドレスはどれでも問題ないので、最終的にダイスを振って決めた。

 いやね、自分だけでは決められないので、助言を求めてみたのですが、

 

「済まない、髪長姫。俺には全て同じドレスに見える……力になれなくて本当に済まない」と、ラインハルト。ラインハルトだ、仕方ない。

 

「御前さまが決断できぬもの、この下男めが決めることなどできましょうか」と、下男。うん、まあ下男は決めたがらないよね。

 

「新王朝の皇妃のあり方を示すものに、わたしのような者が助言するのは不適切」と、元皇女。そこまで真面目に考えてくれなくていいんだけど☆

 

 最後にアベルに聞いたら、

 

「大丈夫ですよ。陛下はわたしと違って、戦乙女が何を着ても心から似合っていると思ってくださいますから」

 

 それらしい答えが返ってきた。お前の意見に同意するのは悔しいが、多分それは正解だなというわけで、全力でダイスを振ったのである。

 ちなみにデザインは全てアメリカンスリーブでマーメイドライン。調べなくても知っていることだが、アメリカンスリーブは肩幅がしっかりしている人やいかり肩の人にお勧めで、マーメイドラインも骨格や肩幅がしっかりしている人向けだ。

 なんで知っているかって? 母さんが持ってたドレス、ほとんど全部これなんだよ。あとはマーメイドラインじゃなくてスレンダーライン。こっちは背が高い人向け……そりゃあ背高かったもんなー母さん。

 母さんがウェディングドレスをまとった姿だが、誰がどう見ても「万夫不当」軍服や装甲服よりウェディングドレスのほうが強そうという不思議。きっとわたしも戦闘衣装(ウェディングドレス)を着たら万夫不当の豪傑感が出来るに違いない。

 ま、わたし戦闘衣装(ウェディングドレス)なんてどうでもいいんですよ。全臣民は皇帝ラインハルトの可憐にして凜々しき圧倒的な美しさを観たいだけであって、わたしは添え物なんで。出来ることなら豪傑感を控えたいなーくらい。

 そんな公式な結婚式はまだまだ先なのでいいとして、遷都前にキルヒアイスの墓前で身内だけの結婚式をすることに。

 「式の希望はあるか」と聞かれたので、小さめに本当に簡単に済ませたいという希望を込めて適当に呟いたら、ラインハルトが乗り気で。その日のうちに姉上ことアンネローゼに出席して欲しい旨を伝えてしまった ―― アンネローゼは快諾してくれたそうな。

 身内だけで行う式が本決まりになったので、わたしはわたしで準備が必要になる。

 まずは代々のウエディングドレスなのだが……母さんのドレスは大きすぎて着られなかった。詰めるとか裾を上げるとかでどうにかなるようなモンじゃない。

 続いて祖母のドレスなのだが、身長はわたしの方がやや低いが「成長が止まった178cm」と「180cm台の壁を越えられそうな170cm台」の骨格は全く違うのだ。要するになんかキツかった。まあ祖母は頭脳労働が専門だし、金持ち貴族の姫君だから体を動かす必要とかなかったし……いや、言い訳はするまい。単にわたしが厳ついだけで祖母は普通の体格だった。

 曾祖母のドレスもあったんだが、これまた190cm越えなので大きすぎた。

 ただ曾祖母と母さんは十㎝ちょっとしか違わないのだが、母さんのドレスが倍に見えるのは何故だろう……いや、理由は分かってるんだけどさ。

 とにもかくにも手持ちのウェディングドレスは全滅。わざわざ新調するくらいなら、式の真似事しなくてもいいよなーと思っていたところ、今のわたしに合うウェディングドレスが出てきた。身長170cm台で、祖母より厳つい人。自分の体にフィットするドレス着ていた人に対して厳ついもなにもないのだが、これは誰のドレスだろう? 我が家にこんな体格の女性いたか?

 

「伯母上の婚礼衣装だな」

 

 元皇女はオットー・ハインツ二世と皇后の婚礼写真を見せてくれた ―― 間違いなく、わたしの手元にあるドレスを着ていた。そう言えば皇后は母さんと同じ公爵家の出……あそこ、厳つい体格に定評がありそうだ。わたしも同じ万夫不当系列だし。

 そんな厳つい皇后こと曾祖父の母親、わたしからすると高祖母のウェディングドレスは、伊達に銀河帝国の皇后が着用したわけではなく、素人目にもいいもの……だと思うが、他のドレスも中々な逸品に見える。わたしの選定眼など、たかが知れているがね☆

 

「高価というのであれば、皇妃殿の母君のドレスであろうな。たしか三千万帝国マルクはしたと聞いたぞ」

 

 え? ウチにそんなお金ないでしょ。なにを言っているの? 元皇女。

 

「義妹が息子の嫁にとチェス大会の賞金約五年分をつぎ込んだそうだ。フリードリヒ四世()も手出ししたかったようだが、義妹に負けたらしい」

 

 うわ、凄い。大ツークツワンク太っ腹☆元皇女に全財産をぽんと渡せるような人でしたな。多分、いや絶対、母さんのこと気に入ってたんだろうなあ。

 そんな祖母こと大ツークツワンクのドレスが立派なのは分かるよ。祖母は裕福な辺境伯の娘だったし、結婚した頃にはもう三次元チェスの大会で優勝していた……

 

オトフリート五世(父上)が用立てたのだ。父上は義弟を気に入っておったし、義妹のことも気に入っていたからな」

 

 あの吝嗇家が金出してくれたのか。

 もしかして……曾祖母のドレスも貧乏くじ引かされたおっさん(オトフリート五世)が出してくれたんですか?

 

「もちろんだ。養父が身をかためると知ると、喜び勇んで整えたと聞いている」

 

 道理でどれも素晴らしい出来なわけだ。楽しげな元皇女からドレスの由来をさくっと聞いて、着られる高祖母のドレス選び、少し手直ししてクリーニングに出して、ラインハルトの予定を調整して軽い式を挙げることに。

 参列者はラインハルト側はアンネローゼだけ。

 わたしの方は下男と元皇女……誘ったのだが「正式な参列者としては並べませぬ」ということで介添人枠で連れてくることに。

 ちなみにウェディングドレスの手直しは、とても楽しそうにしていた。

 

「皇妃となられた御前さまのお召し物を、こうして手直しすることができるとは感無量にございます」

 

 昔は古着ばかりで、下男が全部手直ししてくれてたからなー☆

 成長することを考慮して、布を切ることはせず、裾上げだけで対応していた。まあ、見事な腕前だったよ……いや過去形ではないな。今回もその見事な腕前を発揮してくれた。なにせリメイクが終わったドレスを見たラインハルトが「手直し前より格段に良いではないか」褒めてくれたくらいだからな。ラインハルト、ドレスとか滅多に褒めないんだぜ☆

 手直し担当下男と、デザイン担当元皇女。この二人はあくまでも使用人の立場を突き通したいというので、それを尊重したら……此方に身内が一人もいないのもなんなのでアベルに出席するよう命じた。招待状じゃなくて出頭命令ってヤツさ☆

 受け取っていないと言われると困るので、直接届にいってきたよ。

 

「喜んで出席させていただきますよ」

 

 ゴリラ(わたし)の結婚式が面白そうだとでも思ったのか、ゴリラ(わたし)が野生に還らないよう阻止しようと思ったか、絶対出席するのでご安心くださいとまで言いおった。

 身内といえば見た目の身内感ならアベルよりロイエンタールの方が上だが(顔面偏差値は除外する)、リアル全く関係ない人なので。それに元帥だから仕事も忙しいだろうし。

 とうわけでわたし側の参列者は、可もなく不可もなくアベルだけだったんだが……お前、言えよ。言ってくれたら無理強いしなかったぜ。

 どうしたかって? アベル、花粉症なんだって。目腫らして、口元ハンカチで抑えながらやってきおったわ。

 秋も深まっているというのにも関わらず花粉症で、涙と鼻水が止まらないのだとか。

 治療してやろうとしたのだが、

 

「薬で治りますし、フェアローレネパラディース(入れ替わり)が起こっても困るので」

 

 失楽園という名の人格入れ替えを警戒して、要らないとのこと。

 そうだな。ラインハルとには長生きしてもらおうと、定期的にネオ・アンティキテイラどもを動かしているから ―― お前とラインハルとが入れ替わったら困るしな。

 そんな若干泣き顔なアベルを身内として、簡素極まりない墓前での式を。

 式を終えてから、外で少し食事をすることにしていたのだが、花粉症を発症している人間に更にガーデンパーティーを強要するなど、鬼畜の所行にも程がある。ゆえに料理を詰めたバッグを持たせて早々に帰らせた。

 アンネローゼが、

 

「花粉症ですね。分かり()()()

 

 素敵な笑顔でハンカチを差し出していた。アンネローゼ、ハンカチ汚れちゃうから差し出さなくていいですよ。勿体ない。

 アベルの鼻水と涙など、このわたしのベールで拭うがいい☆言ったのだが、拒否された。

 それにしてもあいつ、何時花粉症なんて発症したんだ。

 

「直ぐに治るであろうよ、皇妃殿」

 

 早く治って欲しいものである。

 

「陛下。いいえ、ラインハルト。立派になって」

 

 鼻水と涙が止まらない上級大将が去ってから、用意していた椅子に腰を降ろし、アンネローゼはラインハルトの頬に軽く触れて弟の成長を喜んでいた。

 当然ラインハルトもはにかみつつ、アンネローゼに喜びを伝えていたが……わたしと結婚したのが成長になるのかどうかは不明です。

 アンネローゼと下男の手料理を食べて話に花を咲かせていたのですが、ミュラーがやってきました。どうした? ミュラー。

 

「陛下。レンネンカンプ高等弁務官が ――」

 

 新帝国歴一年七月二十三日は当に過ぎていたので安心していたのだが、ミスターレンネン、ヤン拘束からの大失態をしでかしたっぽい。というわけで、結婚式を切り上げて、ミュラーに警護され新無憂宮に帰宅した。

 

 あーこれから同盟軍最後の戦いになるわけですねー。さよなら、ビュコック。まあ別にどうでもいいけど☆

 

 それにしてもヤンの政治的信念はルドルフに匹敵するよなー。

 ユリアン戦死して、フレデリカも安楽死したというのにも関わらずよく頑張る。

 あ、うん。フレデリカ、安楽死しましたぜ☆

 激しい暴行を受けて、回復の見込みがなくなったフレデリカ。現在の医学ならば、生命維持装置を付けておけば、余裕で半世紀は生きられるのですが、フレデリカの親族が生命維持装置を外したそうな。

 

 ヤンはフレデリカの延命を望みたかったようだが、まだ正式に結婚していなかったから、装置の取り外しや埋葬に関してなにも言えなかったようです。ヤン、カワイソウ……心にも思ってないこと言うなって? いいじゃないか、たまには嘘ついたって☆

 ヤンのことをつらつらと考えているときに思ったのだが、レンネンカンプが直ぐに行動に出なかったのは、二回負けていないからかもしれない。

 二回中一回はわたしが適当に口だしして、ぼろ負け回避できたからな。

 でも結果はこうなってしまったのさ☆

 レンネンカンプ、無事だったらいいなーと思う反面、生還したとしてもラインハルトに叱責された後、自決ルートしかないような。ラインハルトに失望の眼差しを向けられるのは辛いだろうから……自決するしかないのかなあ。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「このことを人に告げれば命はないと」

 

 ヨブがケスラーに芝居がかった喋り方で、自分のことを売り込んでます☆

 台詞はあれだよ、キュンメル男爵が地球教の手先となりラインハルトを暗殺する ―― その情報をケスラーに告げに来た時のものとほぼ同じ。

 でもキュンメル男爵ハインリッヒは、ラインハルトを暗殺するような真似はしないはず。そもそもラインハルトと会う機会ないし。

 

「で、刺客の名は」

「その前に人払いを」

 

 ヨブがもったいぶってますよ☆部屋には当然身辺警護の兵士がいますが……遠ざける意味はなんだろう?

 

「分かった。トリューニヒト氏の身体検査を終えたら、兵士たち()下がれ」

 

 ()()と明言したので、わたしはここに居座ろう。わたしが何処にいるかって? ケスラーの足下だよ。机の下に潜り込み、ヨブの話を聞いております。

 なんでそんなところにいるのかって?

 ことの始まりは ―― アベルが花粉症になったわけですが、花粉症だということを大勢に知られると困るので、出来るだけ口外しないで欲しいとミッターマイヤーに言われたのさ。理由はよく分からんが、吹聴して歩くつもりはないので受け入れたのだが……ちょっと気になってどのような条件で発症するのか調べたところ、ケスラーの発症リスクが高かった。おそらく本人はチェックリストに正直に答えていないだろうから、リスクがあるとは思われていないはず。正直に答えるとうるりっひちゃんの過去ががががが……。

 過去を隠すのは構わんし、知っているわたしとしても暴露するつもりはないが、リスクは遠ざけるべきであろう。

 そう考えて、面会予約なしで憲兵総監の下を訪れるという傍若無人に打って出た。下手に予約をいれると「大丈夫です」でやんわりと断られそうなので。通りがかりにちょっと立ち寄りたくなった的な感じでね。

 よく会ってもらえたな?

 これでもわたし皇妃だし。祖父は憲兵副総監だったこともあり、憲兵の仕事ぶりを見たいといっても、不審がられなかった。こんなに簡単に総監の下へと通していいのか、憲兵。いや、わたしとしてはいいのだが。

 そこでケスラーに花粉症のリスクについて説明し、予防薬になる調合したお茶の葉を渡し、飲み方のレクチャーなどをしていたら、みんなのヨブが来たんだ。

 退出しようかなと思ったのだが、ヨブがなにを話すのか気にもなったので、机の足下に潜んで聞いても良いかと頼んだら、ケスラーは驚いた表情の後、応接セットのクッションを足下に置き、

 

「こちらにお座りください」

 

 居てもいいと言ってくれたので、こうして隠れて話を聞いているのだ。

 

「人払いも済んだ。して再び聞くが。刺客の名は」

 

 ちなみに人払いはしているが、室内の音声は隣室に届いて居る。憲兵総監の執務机には、音声を隣室に届ける装置がついていましてね、先ほどポチッとケスラーが押しているのこの目ではっきりと見ております。

 ところでハインリッヒ以外で刺客になりそうな…………。

 

「皇妃陛下にございます」

 

 皇妃? 皇妃って……えええ! 殺さないよ! 皇妃がラインハルトのことを殺すことはない! 自信を持って言える! 断言できる。

 

「間違いであった場合どうなるか? 分かっての発言であろうな」

「勿論にございます。ただ皇妃陛下はご自身の意思で陛下への刺客になるのではなく、意図せずに陛下を殺傷する役割を負わされるものにございます」

 

 ヨブが言うには、皇妃に爆弾を仕込んで、皇帝と会っている時に爆発させると ―― ヤバイ、自分でも知らないうちに自爆装置埋め込まれてるみたい☆そんなもの、埋め込まれた覚えないけどなあ。

 ポケットの中とか靴の底とかに爆弾らしきもの仕込まれてるのか?

 自らの体を調べている間にも、ケスラーとヨブの会話は続き ―― わたしに爆弾を仕込むのは、どうもヨブ友らしい。たしかにこれからヨブ友と会う約束をしていたが……。ヨブもヨブ友がラインハルトを殺害しようと考えている理由は分からないのだそうで。これは生かしてヨブ友をとっ捕まえて、二時間サスペンスの断崖絶壁追い詰め告白ルート的なことをせねば!

 

「トリューニヒト氏を第二応接室にお連れしろ。一件が落ち着くまで、そこにいていただく」

 

 ケスラーの号令に、別室から部下たちが集まりヨブを連れていった。

 わたしは机の下から這い出して、

 

「お体を調べさせてもらってもよろしいでしょうか」

 

 それは構わん☆好きなだけ調べるがいい☆ケスラーよ! 憲兵お得意の女性容疑者への拷問(ごうかんりょうじょくりんかんそのた)しても構わんぞ! ……がっつりお断りされた☆いや、まあわたしも嫌だし、されそうになったら拒否するし、相手がケスラーだからたちの悪い冗談としてだな……まあいいや。調査の結果、わたしの体に爆発物は仕込まれてはおらず、持ち物にも異常はなし。ということは、これからわたしがヨブ友に会うことで知らず知らずのうちに爆弾を持ち帰り、ラインハルトに近づいたところでスイッチを入れられ夫婦もろとも爆死ということか。この使い方があってるのかどうかは分からないが、なかなかにロックだな。

 

「なりませぬ!」

 

 そのまま帰って下さいと言われたのだが、折角犯人が分かっているのだから、ここは一つわたしが囮になって確証を……と申し出たのだが断られてしまった。

 皇妃パワーで押し切ろうかと思ったのだが、ラインハルトに連絡が入り ―― 皇帝陛下には勝てないので、事態が終わるまで憲兵総監に守られることになりました。

 というわけで、わたしの知らないところで事態は終わり。事件の概要だが、ヨブ友はラインハルトやわたしに直接的な恨みがあったわけではなく、地球教の誰か(ド・ヴィリエ)に軽く薬を盛られ洗脳された模様。

 ちなみに地球教の誰か(ド・ヴィリエ)に選ばれた理由だが、ヨブの友達だったから ―― ヨブ友に地球教を近づけたのはヨブらしいがな。ヨブが何を考えているのか、本当に分からん。いや立憲君主制を打ち立てようとしているらしいことは分かるのだが……。

 ヨブ友は捕まって尋問されているうちに正気を取り戻したが、時既に遅し。ラインハルトの怒りが半端ない。「武器に罪はない」で、地球教のみに怒りを差し向けるかと思いきや、武器もがっつり潰す所存(実行犯も処刑)とか。

 なんでラインハルトさん、そんなに怒ってるんですか。

 

「あなたを危険な目に遭わせてしまって、本当に済まない」

 

 いや、危険な目には遭っていませんよ。大丈夫だってば☆

 それにしても嫌らしいタイミングでの暗殺計画だよね。キュンメル事件暗殺の場合は、大親征とは全く関係しなかったが、今回は再宣戦後にコレですから。後方で蠢く輩を放っておくわけにはいかないので、地球にも旧同盟領にも軍を差し向けなければならないようで。

 ……義手のワーレンも格好いいが、同行したら毒の回りを防いで義手を装着しなくていいかも☆一度地球に行ってみたいし。ほらかつて(前世)の故郷に ―― 極東の島国はスルーですけれども、肉眼で見たいじゃないですか。

 幸いというか冗談みたいだが、わたしは博物学とか詳しいと思われているので、学者魂が疼いてとかいう理由で……駄目だった。

 そうだよね。皇帝を暗殺しようとした奴らの本拠地だもんね。くっ! だが生きている間に一回は観に行こう。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「皇妃!」

「皇妃陛下はいずこに」

 

 レンネンカンプが生きて帰ってきましたよ☆どんなバタフライ効果なのか分かりませんが、悪いものではないような。まあ当然、叱責と謹慎が言い渡されましたが、降格はしないんじゃないかな? と思っていたら、地球教討伐命令がレンネンカンプに下されました。名誉挽回の機会を与えるのがラインハルトの手法だもんね☆

 いいんじゃないかな。戦いはレンネンカンプの専門だしねー……これで義手にならなければ完璧なのだけれども。

 

「皇妃陛下!」

「皇妃陛下の発見が最優先だ」

 

 そうこうしている間に、大本営がフェザーンに移動することが布告されました。わたしも一緒に移動なので、王立博物館(元新無憂宮)の責任者の地位をキュンメル男爵に譲り、下男と元皇女と今度は飼い犬も連れてオーディンを発ちました。

 次に戻って来るのは何時の日……一年に一回恐竜が住む惑星の生態調査しなきゃならんから、その際に立ち寄ろう。そしてアンネローゼの手料理食べるんだ☆

 もちろんアンネローゼの手料理を食べるだけではなく、教えてもらってその味を再現してラインハルトに作ろうかなーとか。料理人がいるから、作る必要なんてないのだが。わたしに出来ることといったら。

 

「皇妃、お返事を下さい」

「皇妃陛下! 皇妃陛下!」

 

 ちなみにマル・アデッタ会戦の時、わたしはフェザーン待機だそうです。一緒に行きたかったのですが、行ったところで何もできないので、こうして大人しくフェザーン待機で、獅子の泉宮殿造りに励んでおります!

 ラインハルトは順当に勝ち進み、ビュコック爺さんさようなら!

 ヤンはイゼルローン要塞に来たが、コードが解除されていたので再奪取ならず。無理せず去ってゆき、今はエル・ファシル星系にいるそうだ。ヤンのハードに固執しない感半端ないのが恐いよね。

 普通の人間はよりどころが欲しいものですが。彼のよりどころは民主主義なんでしょうかね。住む場所よりも民主主義……民主主義恐い、超恐い。

 

 ……って何時の話してるんだよ! いまは新帝国歴二年の……何月だっけ? あれ?

 

「皇妃陛下!」

 

 ちょっと最近に戻ってた……。周囲が爆撃でもくらったかのように、凄い有様。お決まりのように手のひらを見ると、血まみれである。

 首筋が結構ヌルヌルしているし……

 

「皇妃陛下はご無事だ」

 

 耳がぐわんぐわん……叫ぶなよ。皇妃陛下がどうしたって? 皇妃陛下とやらを、早く連れ出せ……わたしか! 皇妃はわたしだったような気が……ショックかなにかで、記憶が混乱しているようだな。

 

「急げ!」

 

 えっとわたしは皇妃でフェザーンにいて、フェザーンで……オーベルシュタイン! オーベルシュタインは無事か! どこだオーベルシュタインにシルヴァーベルヒにルッツ! まさかテロに巻き込まれるとは! いや知ってたけど、フェザーンでテロが発生するのは知ってたけどさ。ちょっと日時が早……そんなことはいい! とにかくシルヴァーベルヒは全力で助ける! こいつが生き延びさえすれば、ラインハルトがかなり楽になるから。ルッツとワーレンは軽傷だったな、たしか。

 

「皇妃陛下を早く病院へ」

 

 待て待て、病院なんて行けないっての。わたしは特異体質で傷治るの早いんだから……ルッツかワーレン! 助けろ! 軽傷コンビ! 早く来い!

 

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