ラプンツェル   作:朱緒

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ロイエンタール編・2

「お止めください」

 

 駄目かー。いやね、オスカーに嫁いだジークリンデちゃんが心配なので、二人に同行してもいいかね☆とパウルに聞いたら渋い答えが。でもジークリンデちゃんがハイネセン生活に慣れるまで一緒にいるくらいなら良くない?

 

「良くありません。皇妃陛下には出来るだけ早く、陛下の御子を産んでいただかなくてはなりませんので」

 

 あうーそれかー。仕方ないよね☆じゃあ、速攻子供作って産んでハイネセンへ!

 

「健康面を考えて、最低でも産後一年は惑星間移動は禁止です」

 

 なんだとぅ!

 いやいや、普通の人間なら影響あるかもしれないが、わたしの中にいるネオ・アンティキテイラ共を働かせてだな!

 

「皇妃陛下の母上ですら、産後二年はオーディン勤務に切り替えたそうではありませんか」

 

 母さんは確かに地上勤務に切り替えてましたな。たしかに体の丈夫さなら母さんのほうが上だろうから。でもさあ。

 

「心配してくださってありがとうございます。でも、このジークリンデを信用してください」

 

 ジークリンデちゃんは信用してるよ。信用なんないのは、あっちの色男☆心配しかないけれど、黙って送り出すか。結婚式はこっち(フェザーン)でやるから。式が終わるまでは手出すなよオスカー。ジークリンデちゃんが誘ったとしても耐えろ。激しく誘われたのならば許す。その辺りの裁量は大人の男であるお前に任せ……ていいのかなー。だってオスカーだしー。()()オスカーだよ。かなり顔が良くて大金持ちの息子で、実は伯爵家の血を引いている、艦隊戦させたら宇宙で五指に入る美丈夫……だけど反逆心が全部を駄目にする。

 ジークリンデちゃんの美しさに心蕩けてしまえばいいのに☆蕩けたらきっと天国に逝けるよ☆あー蕩ける心なかったねー。困ったねーオスカー。残念だね☆

 

「娘を嫁に出した気分……なるほどな」

 

 ジークリンデちゃん出立後、深く悩んでいる(ラング処刑方法等)わたしを見て、なにか悩みごとでもあるのかと、ラインハルトが心配して声をかけてきたのだ。

 心配させるのは本意ではないし、ラング抹殺計画を正直に語るわけにもいかないので娘を嫁に出したような気分なんですよと答えたら納得してくれた。

 

「美姫はあなたより年上だが、それでも娘に思えるのか?」

 

 うん、あの庇護欲というか守ってあげたいと思わせる空気が、もう! きゅーっと抱きしめてぐりぐりした……なんかラインハルトに抱きしめられて、ぐりぐりされてる。ぐりぐりが若干どころじゃなく弱くて撫でてる感じだけど。

 

「やっと会えたあなたの親戚を、すぐさま遠くに送り出してしまって悪かった」

 

 いや、いや、いや、ラインハルト。悪くないですよ。こっちとしては願ったりな縁談でしたから。

 移動中のジークリンデちゃんと頻繁に連絡を取り合って、不自由はないかどうかを根掘り葉掘り聞きまくり ―― ジークリンデちゃんは、かなり苦労したようです。

 ジークリンデちゃんって、ガチガチ門閥貴族の姫君なんだ。だから普段着がコルセットで締め上げ……無意味じゃね? と思うんだけどね。

 だってジークリンデちゃんウェストめちゃくちゃ細いよ。50cm台というか50cmだし。締め上げると40cm台になるんだぜ! わたしのウェスト? はいはい粛☆清、粛☆清、大☆粛☆清。第何親等まで粛清して欲しいか言ってごらん☆三親等までは、デフォルトですからね、粛☆清。

 そういうわけで、皇妃のウェストとか興味持っちゃいかんよ! 決して逞しいから言いたくないのではなく! わたしという名のゴリラのウェストというか腰回りはいいとして、ジークリンデちゃんはコルセットに豊かなパニエ入りのドレスを着用する子でしてねえ。…………で、その手のタイプのドレスは、一人じゃあまず着られないわけですよ。洋服を着るのを補助する召使いが必要だったのに、付けるのを忘れてしまった!

 

 わたしの大失態!

 

 幸いというか、何というかジークリンデちゃんの側には、ドレス姿の女を何度も脱がせたことがある男ことオスカー・フォン・ロイエンタールという男がおりましてな☆彼は非常に頭脳明晰ゆえ、脱がせる手順を逆回しして、ジークリンデちゃんのドレス着用補助を行うことができた。

 

 詳しくは知らんが、着せることはしていなかったらしい ―― ホテルに着せるの専門のスタッフがいるらしいよ。ふーん、一つ物知りになった☆要らぬ知識だが。

 

 オスカーは女にドレスを着せた経験ないのに、記憶を手繰っただけで着せられるとか、どん引きです☆ちなみに着ているのを見たことはないんだそうですよ。脱がせてやるまでがオスカーの領域で、ピロートークとか服着せるのは興味の範疇外だとか……顔がいいからってなんでも許されると思うなよ、色男!

 まあ、お前のスペックならば当然のことなのかもしれないが、過去何度もドレスを脱がせているという事実が明らかになり、ジークリンデちゃんが”しょぼーん”としてしまった。

 便宜上”しょぼーん”と書いているが、実際はそりゃもう婀娜っぽくって、画面越しに見ているだけでどきどきするくらい。

 あれは凄い。魅了の魔法というものを目の当たりにしたよ。さっさとオスカーのお嫁にして良かった。十代初めで嫁に行ったのも分かるってもんだ。

 

 そんな美女を前に耐えているオスカーが面白……じゃなくて、自制心凄いトオモイマース☆…………まあ、子連れで挙式してもいいんじゃない☆そうしても良いとはわたしからは言わないけれど! 苦悩しろ! 苦悩するがいい! 苦悩すればするほど、きっと色男度が増すであろうよ!

「皇妃殿はますます養父に似てきたのう。そうは思わぬか兄弟」

「兄弟ではございませぬ。主さまに似ておられるというのには、同意いたします」

 

 解せぬ! わたしのどこがあいつ(曾祖父)に似ているというのだー!

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ジークリンデちゃんとオスカーは無事ハイネセンに到着。

 道中でいかがわしいことはなかったようです。でも距離が縮まるようなこともなかったようで。色男の本領はどうしたの? オスカー。あーでもオスカーは、自分から口説いたことない系男子(三十路)だったわー。ジークリンデちゃんは……十一歳でお嫁に行ったわけだから口説かないよな。なにより口説く必要ない美貌……あああああ、どちらも異性をほとんど口説いたことないのをくっつけてしまった!

 

 ……ま、どうにかなるだろ。わたしとラインハルトでもどうにかなったんだからな!

 

 もっともわたしは一人、顔面とか体型の種類違うけど。天使と原人くらい差あるけど☆え? 原人に謝れ? 分かった謝るよ、ゴメンねホモ(あらゆる原人に一括で謝らせていただきました)

 

 それにしても偶に届く二人が映っている映像は至福だ。オスカーが大事にしているのが、画面越しに伝わってくる……同時に、すっごくイライラしてるのも伝わってくるんだよね。ジークリンデちゃんが他の人に微笑んだりしていると、苛つくらしい。

 

 お前というお・と・こ・は! それでこそオ・ス・カ・ー!

 

 そんな世間に牽制しまくっている国家の重鎮と、皇妃(わたし)の親戚の結婚式ともなれば、当然フェザーンで、それなりに盛大に執り行われるわけですが、できる限りジークリンデちゃんの希望を取り入れたい訳です。

 オスカーの希望? 一応聞いたけど、あの通りの男なので「希望はございません」だって。時間の無駄ってヤツだな……ちょっと悪戯心が頭をもたげ、オスカーに仮装させてやろうかとも思ったが、ジークリンデちゃんが可哀想なのでやめた。オスカー? 希望がないってことは、どんな仕打ちにも耐えるってことだろう? え? 違うの。まあいいや。

 こうしてジークリンデちゃんと結婚式の打ち合わせをし、様子を聞いていたところ ―― 結局オスカーがヘタレでジークリンデちゃんが泣いたから、

 

「皇妃陛……」

 

 オスカーにジャンピングハイキックを食らわせるために、わたしは躊躇わずハイネセンに行きました☆っていうかもう到着したし、キックも炸裂させた。

 オスカーが黙ってキックくらったのかって? 「動いたら()()()が大怪我するぞ!」と叫んだため、食らうしか道が残されていなかったのだよ。さすがラインハルトへの忠誠心がマックスな男。反逆心もマックスだけどな☆

 そんな心中複雑骨折、リアルでも複雑骨折したオスカーのせいで(骨折原因・わたし)後継者誕生は一年以上遅れることになるが、知ったことではない!

 

 オスカーの怪我を治してから、ジークリンデちゃんに冷たく当たっている理由を問いただしたところ ―― 下らない理由だった。実に下らない理由だった。

 いやね、眠っているジークリンデちゃんをベッドに運ぼうと抱きかかえたら、ジークリンデちゃん夢うつつで「ファーレンハイト……」呟いたんだとか。

 

 え? それだけ? それだけで態度硬化させたの? 三十二歳(国家元勲)にまでなって、十九歳少女の寝言に嫉妬で異国の地で冷たく当たるとか、……………………っとに、面倒くさい男だな!

 

 ジークリンデちゃんに事情を聞いたところ、居眠りしたジークリンデちゃんをベッドまで運ぶのは、ファーレンハイトさんとフェルナーさんの仕事たったんだそうだ。

 じゃあ勘違いされても仕方ないよね☆

 寝言の一つや二つでグダグダ言うな。おそらくファーレンハイトさんだって、運んでいる最中に「フェルナー」って言われたことあっただろうし、逆も又然り。でも彼らは態度を変えることなく、ジークリンデちゃんに接していただろう。

 

「皇妃さまのファーレンハイトさまにご迷惑が……」

 

 そしてこともあろうに、ジークリンデちゃんから聞かされたオスカーの勘違い。まさか「ファーレンハイト」を我が家のアベル(ファンタスマゴリ)だと。

 確かにアベルは我が家に縁はあるが、ジークリンデちゃんとは会ったことねーし。

 それにだな……オスカー。その形の良い耳、かっぽじってよく聞け。

 我が公爵家の者はアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトのことをファーレンハイトなどと呼ばぬわ! 我が家ではアレはファーレンハイトじゃありません! ん? 顎しゃくるぞ、おい! いや実際はやらないけどな。なにせオスカープライド馬鹿高いから。

 で、気づいていなかったとか言う馬鹿な台詞吐くなよ。その台詞吐いたら、ラインハルトにも失望されるぞ☆

 

「……申し訳ございませんでした」

 

 よろしい。謝罪は受け取っておこう。

 

「ではファーレンハイトとは?」

 

 え? まだ追求すんの? ファーレンハイトのこと。面倒くさい男だなあ。いやいや、知ってたけどね。お前が面倒極まりない男であることは、よーく知ってるけど、本当に面倒くさい。もうね、反逆起こして死んでくれねえかなーと思っちゃうくらい面倒くさい。五百万人犠牲にして殺したくなる……思えばこいつが起こした反逆による死者って、ヴェスターラントの虐殺以上なんだな……オスカー! 怖ろしい()!。

 それはさておき、面倒だからファーレンハイトというのはフラウ・ファーレンハイトっていう乳母ってことにした。

 抱き上げられてついつい子供時代を思い出してしまった、また思い出すこともあるだろうから、その時は慈愛の心を持って接するんだぞ ―― と。

 

 心を作り損ねた眉目秀麗冷笑家色男には難しいことだろうが、その程度の苦労はしろ。別の世界から吹っ飛ばされてきた前世持ちの上に、お前というややこしい男と結婚することになったジークリンデちゃんに、これ以上苦労をかけるな!

 

「皇妃さま、本当に申し訳ございません……」

 

 疑いを力業で解消したわたしは、ジークリンデちゃんが淹れてくれた紅茶を飲み、話を聞いている。ジークリンデちゃん、紅茶淹れるの上手い。美女が淹れてくれるから美味く感じるのかと最初思ったのだが、そうではない。本当に美味しいんだ。

 いや、凄いわ。

 わたしは紅茶の味の善し悪しなんて分からないけどな☆

 ほら紅茶って貴族の飲み物。我が家のような極貧家庭で飲むのは、ハーブティーという名の雑草茶。自分で摘み取って乾燥させて煮出すんだ☆

 

「貴族の飲み物……そうでした。皇妃さまは皇族でいらっしゃいましたね」

 

 あれ? なんかジークリンデちゃん、勘違いしてる……ような気がする。いやいや、ウチは貧乏とかいうレベルではなくてね…………ま、いっか!

 せっかく新領土に来たのだから、心ゆくまでお話するためにリラックスが必要だ! ということでパジャマパーティーに。

 

「皇妃さま、寒くありませんか?」

 

 パジャマパーティー誘っておきながらなんだが、わたしパジャマ持ってないことに気づいた。寝る時はほぼ裸。偶にショーツとカップ付きタンクトップ。

 そんな色気とかそういうものが何一つないわたしとは対照的に、ジークリンデちゃんのパジャマ姿の可愛いこと。色はとても薄いピンクで縁は全綿レース。引きずるほどのロング丈で、体を締め付けないゆったりとしたデザイン。華奢なジークリンデちゃんが着用しているので「ふんわり」だが、わたしが着たら「着るものがなくて、シーツ巻き付けました」になること請け合い。

 

 美女のしどけない姿を堪能しながら、フライドポテトをむさぼり(わたしだけ)自作唐揚げをむさぼり(わたしだけ)マフィンをむさぼり(わたしだけ)ながら、ラインハルトについて語り合う。

 ジークリンデちゃんも、ラインハルトのことは気になるらしい……気になって当然だろう。

 ラインハルトが何故死亡しなかったのか、わたしが持つ特殊技能についてとか。

 ついでに気になっていたことを尋ねた。いやね、ジークリンデちゃんもわたしと同じ手段を用いて破滅回避ができたのではないか ―― 要するになんでラインハルトと結婚しなかったの? ということ。

 

「陛下にお会いする前に、結婚することになったので」

 

 美女は子供の頃から美しかったようで ―― 間違いなく美幼女だったことだろう。ちょっと……いや、凄く見てみたい。この世界に幼少期のジークリンデちゃんの記録がないとか、苦しすぎる!

 わたしの欲望はともかく、ジークリンデちゃんはただの美幼女ではなく、フリッツのじじいから政を一手に任されているリヒテンラーデ侯の大姪。

 ともなれば、引く手あまたどころじゃないだろうよ。ラインハルトと同い年だったジークリンデちゃんなので、ラインハルトがまだ幼年学校の頃にブラウンシュヴァイク家を代表するフレーゲル男爵と結婚という運びに……そりゃそうか。ウチみたいな貧乏公爵家ならいざ知らず大金持ちで、権力持ちで、いい家柄のお姫さま。更に誰もが欲する美貌の主となれば、手に入れたら即結婚するよなー。

 

「…………」

 

 どうしたの? ジークリンデちゃん? ぽかーんとして。可愛いけど。

 

「皇妃さまに比べたら、名家などと言うのも烏滸がましい、ただの伯爵家の娘なもので」

 

 あ、そこ。いや……そっか、名家だったな、我が家☆すっかり忘れてた。いや覚える気もない。我が家が名家で役に立ったのはラインハルトに結婚申し込んだ時くらいだなー。我が家を狙う者たちに襲われそうって……今になって思ってみると、誰がわたしを襲うんだろうって気も。

 契約結婚がバレたあと、アベルに「契約とはいえどうやって陛下との結婚にこぎ着けたんですか?」聞かれて「身の危険を感じていたので、正直に言って助けを求めた」と答えたら「それ、馬鹿貴族に対する冤罪ですがな。五十近くまで独身のへっぽこが、豪腕(物理)戦乙女に手を出せるはずないじゃないですか」……言われてみるとそんな気がした。多分そんな気がする。もしかしたら、ある日♪森の中♬ベアさんに♫出会って♩な歌的な邂逅だったのかもしれない。そうだとしても反省や懺悔はしないがな。なんか代わりにアベルがお詫びしてくれるらしいので、そいつ等の指名は教えておいた。

 アベルは今や高級将校だから、色々してくれるんじゃないかな! 良かったな! 

 まあアベルのことなんていいんです。ジークリンデちゃんとお話ですよ、お話。話すこと一杯あるじゃない。この世界に生まれ変わる以前にも興味津々☆

 色々と話して二人でそのままベッドに潜り込み、朝を迎え二人で欠伸しながら洗面所に向かったところ、

 

「よく眠れたか、髪長姫」

 

 銀河の偉大なる皇帝、わたしの夫ラインハルトが何故かハイネセンに!

 ジークリンデちゃん、急いで寝室に戻って……着替え終えて朝食を取りながら話を聞いたところ、

 

「たまには新領土も視察せねばな」

 

 わたしが飛び出した三日後に、ラインハルトもフェザーンを出立して追いかけてきたそうな。おいおい、我らが皇帝陛下、なにしてらっしゃるんですか☆

 そう思いましたが、

 

「陛下とこうして朝食をとるのは、初めてですな」

「そうだな。卿との付き合いは長いが、新鮮なものだな」

 

 オスカーとラインハルトがそりゃ楽しげにお話しているので、これはこれで良かったようです。

 とくにオスカーがすっごく楽しそう。女にそんな表情見せたことねーだろって感じの表情。どんだけお前、ラインハルトのこと好きなんだよ!

 

「ロイエンタールさま、楽しそう」

 

 そうだねー、ジークリンデちゃん。そうだよねー。誰がどう見ても楽しそう。おい、冷笑は何処行った? 家出したのか。そのまま家出しててもいんだぜ、冷笑。

 あ、でも冷笑が家出したところで、反逆が残っていたら意味ないか。

 新領土にラインハルトが居る間、オスカーはとても楽しそうでした。そう言えばコイツが反乱したのって、パウルがラインハルトの側にいるのが気にくわないが一割くらいありそうな……きっとあった。

 そんな楽しげなオスカーからラインハルトを取り上げるのは可哀想な気もしたが、疲れ切った表情のパウルからの通信により帰ることに ―― オスカー「ちっ」って顔すんな。

 お前、銀河帝国国家元勲だろうが!

 

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