今回の全宇宙三次元チェス王座決定戦はリーグ戦。
ラインハルト直参の部下たちに精神を削られながら挑んだ初戦、相手はヨブ友。
ヨブ友には恨みはないが、ヨブ友ってだけで、暗がりで後ろから殴り付けて、背骨を縦に切り裂いて殺しても良いと思うので、容赦など一切せずに叩きのめした。
ただヨブ友はなんでヨブ友してるんだ? ってくらいいい人で、勝ったわたしを褒め称えてくれた。
別の本当のことだから、照れもしないし、むしろもっと褒め称えろ☆だけどさ。
第二試合はヨブ友とセクシーNo.3。
ここで負けたらヨブ友は三位確定だが、見事にヨブ友は勝った。
ヨブ友はこうして二位に踏みとどまった。
ちなみに見事とは言ってみたものの、技量は完全にヨブ友のほうが上。
ヨブ友が同盟一なのは、超上から目線になるが認められるが、セクシーNo.3は「これがフェザーンで一番?」と疑いたくなるレベルに見えた。
ああ、オッズがアレだったのは、フェザーン人は何かを知っているからか。
元老院の一員の孫って立場でなんかしたのか。
そんなの国内戦の時だけにしておけよ。全宇宙規模の大会で、それすんなよー。
そして残っているのは、わたしとセクシーNo.3の第三試合。
ヨブ友にすら勝てないセクシーNo.3が、わたしの相手になるはずもない。
試合は二日の休憩を挟んで行われ、今日がその第三試合。
試合は午後の五時から。
会場は歩いて行ける距離、そして試合時間が長引くこと想定し、少し遅めに昼食を取ることにし、二時にルームサービスを注文している。
選手に用意されたホテルは、それはそれは高級なホテルのスイート。スイートの前に豪華な形容詞がついている、ホテルで最も高価な部屋。
他の選手も同じ扱いをするということで、ヨブ友もセクシーNo.3も同系列の同グレードの同ランクのホテルに泊まっている ―― セクシーNo.3の祖父が経営しているホテルだそうだ。
ホテルはどれも豪華で手の込んだ造りで。まるで御伽噺のお城のよう……わたしが住んでいた邸も、宮殿の一つに数えられてはいるので、感動はしないが。
内装はゴシック調で、あちらこちらにブロンズ像や武装した西洋甲冑が飾られ、ホームバーとその背後の棚に並べられてる酒の数々。これらは飲み放題とのことなので、兵士たちに飲ませることにした。
ホームバー作っておいてわたし限定ということはないだろうから、兵士たちに気前よく奢る。わたしの金じゃないし☆
このホテルのオーナー、セクシーNo.3の祖父はシンドバッド賞を三回受賞している、なかなかのやり手大富豪だから、この程度はした金だろう。
昨日も非番の兵士たちを招いて、酒を好きなだけ飲ませた。
とはいっても彼らは節度ある飲み方をしていたけれどな。
わたしはその側で、西洋甲冑から取り外した剣を握った。このところ三次元チェスばかりで、体を動かしていなかったので、ウォーミングアップ代わりに室内で剣を振っていた。
実はわたしはかなり剣術が得意だ。ワープが常識なこのご時世に、鋼の剣で戦うことあるんですか? ―― ありません。
では無意味では?
無意味ですが、貴族の嗜みってやつです。
嗜みでは腹はふくれませんが、この嗜みは元手がかからない嗜みなので、貧乏な我が家でも出来たのです。普通は息子にしか教えないらしいけれど、
父さんは特に剣術が強かったなあ。才能があったのもそうだろうが、あの異称が気に入っていたのだと……剣の達人とか
実際剣聖って呼ばれたらしい。恥ずかしくないの?
ちなみにわたしはまともな剣術は当然できるが、父さん考案の
別にこんなもの伝承する必要もないのだが、封印する必要もないので、ストレッチ体操として二刀流している。
酒を飲んでいた兵士たちがそれを見て、二刀流のやり方を教えて欲しいと……いや、二刀流は使えなくてもいいだろ。わたしが二刀流なのは、わたしの剣の師匠が中二病だっただけだ。
お前たちはラインハルトの部下であり、大事な帝国の兵士諸君だ。
わたしのような中二病を父にもっていたわけではない、まっとうな兵士だ。だから中二病に足を突っ込んじゃ駄目だ!
もちろん兵士はわたしに食い下がるような真似はしなかった。
それはそうだ、わたしはただいま君たちのトップの嫁だもの。教えてもらえたら、ラッキーくらいのものだろう。
ちなみにラインハルトはわたしが剣術を使えることは知らない。石器時代の女勇者とか思われたら、わりと良好な関係が崩れてしまうかもしれないから。
それにしても中二病って、心をくすぐるもんなんだなあ。
ギュンターが側にいるとき、父さんに負けず劣らず中二病に罹患していた
「教えていただけませんでしょうか?」
おい、やめろ。銀河帝国ローエングラム王朝初代皇帝の栄誉ある初代親衛隊隊長が中二病で、その原因がわたしとか、死んだキルヒアイスに申し訳がたたな……そう言えば、キルヒアイスも教えて欲しいっていってたなあ。伝染力も高くて
中二病については語り尽くせないので、ここらで切り上げてホテルに戻るが、随所に凝った内装を施しているのだが、避難口なんかも隠し部屋みたいな造りで、ぱっと見分からない ―― 避難口って直ぐに分からなければ意味がないような気もするが、スイートの客層がそれで良いというなら、わたしには関係がない。
わたしはこんな高級ホテル、自腹じゃ泊まるつもりないし。ちなみに本来この部屋には召使いも付いてたのだが、それはお引き取り願った。
召使いがいないと不自由ですよと言われたが、護衛兵すら遠ざけているわたしにとって、居る方が不自由である。
主催者側がなにか言おうとしたが、もっと大きな部屋なら考えてやってもいい、こんな狭い部屋で召使いが側にいるなどありえない的なことを言ってやったら、引き下がった。
わたしが暮らしていた家は、現ローエングラム元帥府ですからな。
それも最後にはわたしと下男の二人きりで、広くて広くて ―― 家畜はそれなりにいたけどさ。
本を読んでいると、廊下側に控えている護衛の兵士が、
「ルームサービスです」
インターフォンでルームサービスが来たことを教えてくれた。
時計を見ると、午後二時ぴったり。いつもと同じく入り口近くに置くよう指示し、本を閉じて螺旋の中階段を降り……おい、わたしが注文したのはトルコ料理のフルコースだ。
ブチハイエナなんざあ注文していない。
それも生きたブチハイエナ四頭なんて、頼んでねーよ!
ボーイの制服を着たヤツは、廊下に出て……お前の足下にいるの、見張りの兵士じゃねえか! 見張りを撃って入ってきたと。
ボーイが笛を吹くと、ブチハイエナたちが弾かれたように……あ、これ、人間を狩るように躾けられているヤツだ。
ブチハイエナがその体勢に入ったのを確認したボーイは、急いでドアを閉めよう……としたところ倒れて動かなくなった。
誰か来たのか? と思ったが……足音は聞こえなかったから、撃たれて倒れていた兵士が、見張りの任務を遂行してくれたようだ。まだ生きているのなら……ヤバイ。
なにせドアは半開き状態。ブチハイエナたちがそっちに向かったら困る。こっちに向かってきても困るけど、動ける分わたしのほうがいい。
わたしはブチハイエナ四頭と睨みあい。
狙いはどう考えてもわたし。わたしが狙われる理由は、このチェス大会だろうな。それ以外これといって、命の危険に晒される覚えはない。
それにしても、まさかここまで露骨な物理的な盤外戦術を仕掛けてくるとは、やってくれるじゃないかセクシーNo.3。
おじいちゃんのホテルなら、悪いことしても、もみ消せるし、今までももみ消してきたから、今回だって上手くいくはず! って僕ちゃんやっちゃったのか? セクシーNo.3なんだから、チェスの腕前もNo.3でいいだろう。
貴様は今日、三次元チェスで生きているのが辛くなるくらい辱めてやる。首洗って頭丸めて待ってろ! セクシーNo.3。
さて、どうするか。入り口は餌にしてもいいボーイはいるが、ラインハルトからお借りした、どこかの誰かの大切な息子さんがまだ生きている可能性があるから、そちらには行けない。そして彼に応急処置を施し、早急に病院に運ばなくてはならない。
それにはこのブチハイエナ四頭をどうにかしなくては。
広い室内をざっと見回す。
出入り口近くにはボーイが料理を運んできたワゴン。たぶんトルコ料理が並んでいるはず。出入り口には
だから出入り口にはむかえない。となればもう一つの出口……避難口に向かって、この四頭を追い出してドアを閉めてから……。よし! 中階段を駆け上ってから十五メートル先にある避難口のドアのロックを解除。避難用網膜承認だから直ぐにドアは開く。
ドアを閉めるコードは六桁。一秒もあれば打ち込める、暗証番号は完璧だ ―― では、行動開始。
走り慣れている大理石の床を蹴り、中階段を駆け上がる。追ってくるブチハイエナの進行を妨害するために、本を乗せているスタンドを倒し、避難口のロック部分を開いて、目を見開く。
網膜承認システムよ、我が網膜を瞠目せよ☆ よし、開いた! 外に出て誘っ……てぇえ! マト○ックス避け! からの巴投げ! からのエルボードロップによる首折り!
登場して一秒で死んでしまうとは、情けないブチハイエナよ。復活の呪文なんて唱えてやらないから、そのまま死んでろ! そしてブチハイエナが増えたよ、やったね☆
一頭殺したけど、三頭増えた ―― 避難口にも四頭放たれていた。
念入りというよりは、護衛の兵士の数を考えての配置と思われる。
ブチハイエナ七頭とわたし。見張りの兵士が気になるから、貴様らを追い出して救出に向かおうと思っていたが、辞めた。貴様らを殺してから救出に向かう。
ああそうだ、そのほうが確実だ!
貴様ら覚悟はいいか!
大軍鶏の雄、五十羽対一人の対戦で勝ち残ったわたしの実力を見せてやる。さあ、きやがれ! 来ないのか? ならばわたしから行くぞ。母さんの部下直伝の壁ドン(物理)を受けてみろ!
母さんの壁ドンは、わたしのような円形状のヒビじゃなくて向こう側が見えたらしいけど。
首の骨ごと壁にめり込め! ブチハイエナ!
よし、これで残りは六頭。次は二刀流でお相手しよう。それにしても、まさか
ブチハイエナの毛や皮や筋肉がどれほどのものか分からないし、剣の強度も分からないので、目玉を貫くとしよう。
華麗に踏み込んで突き刺す! 突き刺しすぎて頭蓋骨抜けた! 引き抜くの面倒だ、串刺しのままにしておく。
これで残りは五頭。剣は一本だが、拳も蹴りもあるから大丈夫。
さあ、かかってこい、貴様ら!! 気合いを入れるために叫ぶぞ! ……ちょっ! 逃げるな! 叫び声だけで逃げるな! ブチハイエナども! ちょっと怪鳥音ぽいと自分でも思ったが。怪鳥の叫びってあまり聞いたことないが……出入り口には兵士が! 食って良いのはボーイだけ!
追いかけてワゴンに乗っているナイフを掴んで! なんだ? ……あたらしいボーイが二匹現れた。ブチハイエナ五頭は脱兎の如く逃げていった。
逃げたブチハイエナに驚きながら、やつらはこちらに銃を向けやがったが、至近距離ならナイフの方が強い! 我が家の至近距離は三メートルまで!
一人の手首をナイフで貫くとブラスターが床に落ちる。もう一匹が驚いた顔をして……低い位置からレーザー光線が!
倒れた兵士がまだ生きている! 無理すんな! そしてそっちを狙うんじゃねえ! 貴様の相手はこのわたしだ! 全力でワゴンを蹴る。乗っていた食器や料理が床に音を立てて落ちる。すまんな料理たち、貴様らは貴い犠牲だ、貴様らの死は無駄にはしない! 兵士に銃を向けていたやつが、音に驚いている隙にワゴン駆け上り、顔側面に全力でキック! 首があらぬ方向を向いたようにも見えたが、気のせいだろう。
ナイフが手首に刺さっていたボーイが、正気を取り戻し慌てて利き手ではないほうでブラスターを拾おうとしたが、誰が拾わせてやるか!
銃にかけた手のひらを踏みつける。骨が折れたのはご愛敬。苦痛に顔を歪めている……かどうかは不明。膝を折って拾おうとしていたので、体勢がかなり低くて立っているわたしからは見えない。一体どんな顔をしているのか? まあ、彼の顔を見ることはないだろう。
まあこれから、頭を両手で固定して、顔に膝をくれてやるので、間違いなく顔の形変わるから。
膝を三回顔にめり込ませたら、体から力が抜けた。
ブチハイエナは何処に行った? 近くにいないならいい。剣を拾って兵士の元へと戻り、ケープを外して傷口にあてながら、救援を要請する。
そしてどうなったか? 帝国軍の兵士は優秀でした☆
まず見張りの兵士は一命を取り留めた。後遺症もないだろうとのこと。良かった良かった。
撃たれながらも応戦してくれた兵士なのだが、最初に撃たれたのは仕方ないとおもう。襲撃犯はドアを開けさせるための料理を運ぶワゴン、その後ろについてきた廊下清掃員たちもグルだった。清掃用のワゴンは大きいのが三台ほど ―― スイートルーム前の廊下って、広々としてホールみたいなのがあたったりと、掃除するの結構大変なんだ。
そのワゴンの一つに武装した奴らが潜んでいて、死角から見張りを撃った。
ブチハイエナ四頭も残りの清掃用品が積まれているワゴンにのせられてやってきたのだそうだ。
開かれた扉からブチハイエナがやってくる ―― わたしは兵士が食われるのではないかと思ったのだが、それは杞憂の可能性がある。
まだはっきりとは分からないが、どうもあのブチハイエナは女性だけを襲うように躾けられているものらしい。
事実、援軍が来た際、女性兵士にだけ襲いかかっていたとか。
一体なにをどう躾けてるんだよ。
さて護衛の皆さんだが、見張りが撃たれて直ぐに異常を察知 ―― 心拍数が乱れたり、呼吸が激しくなると直ぐに分隊長と隊長に連絡が届く仕組みになっているのだそうだ。
トイレにはいっても心拍数乱れるよなーと思ったが、見張りはトイレに行く時間だって決まってるから特に問題はないのかもしれない。
とにかく異常を察知した彼らは、オペレーションを開始し、残りのブチハイエナを全て殺害し、生き残りボーイ二名を確保した。
見張りが苦しい息の下から撃ったボーイは死亡。軍人の鏡だな。わたしが蹴った二名は、儚くなられたそうだ。嗚呼諸行無常也 ――
自分の襲撃犯が死んだところで「ざまあみなさい☆」くらいしか思わないけどね☆
ちなみに生き残りボーイ二名は、監視室にいたよ。監視カメラに惨事が映っても知らない顔をする簡単なお仕事……だった筈なのに、こうして不機嫌なわたしの前に引き出されるとは運がないことだ。
わたしが不機嫌な理由の大半は兵士たちが被害を被ったことだが、三割くらいは腹が減っているためである。
お腹すいた……すべてセクシーNo.3のせいだ! 証拠はないが、そうに違いない! 今日の試合で地獄を見せてやるからな! さてこのカメラを監視していた二名だが、不貞不貞しい態度が気に触る。
なんというか、俺たちは危ない橋を何度も渡ってきたんだぜ、
わたしの祖父は憲兵隊に所属していた。
聞くところによると、非常にエレガンスで、元皇太子と第三皇女家長女の間に生まれたと言われるのに相応しい男だったと ―― 拷問しているときもエレガンスだった。
どのようにエレガンスだったかというと、一撃で相手が泣いて許しを請い、何でも喋らせることができる類いのエレガンスさ。
その一撃なのだが、えぐい一撃で、それ一打で穴から全部出てくる。
なにが出てくるの? 上から眼球、耳だれ、鼻水鼻血、胆汁混じりの嘔吐、失禁に脱糞。女性の場合は子宮まで。男性は失禁後に精液も出尽くすらしい。
これ地獄の苦しみらしく、二三日後、ある程度痛みが引いたところで、喋らないともう一回と笑顔で近づくと、誰でも何でも喋り出したそうだ。その尋問の際の笑顔もエレガンスであったと。
聞いただけでは眉唾物としか思えない拷問技だが、祖父が不法侵入者に何度か決めているのを見たことがある。自宅で行うのは、泥棒を追い返すためなので、エレガンスな笑顔はセットではないので見たことはない。
わたしも偶に肉を
わたしも習って一応できるのだが、できることならあまり使いたくない技だ。後片付けが面倒だから。いや、邸でこれを食らった相手は、自分で片付けて帰っていってはいたが、やっぱりなんかねえ。
だが、ここはセクシーNo.3関連の建物。
ホテルだって嫌なら出ればいいだけ。
というわけで、一撃☆必殺。うーむ、酷い有様だ。だが周囲の兵士たちは、動揺していないし眉を顰めることもない。
まあ、軍隊にいたらこの手のことは日常茶飯事。人死と隣り合わせだと、中身ぶちまけがおおいから。
おや? もう一人どうした? 今からお前もこうなるんだぞ。なに? 全部喋るから、それだけは止めて? 貴様はなにを言っているのだ。わたしはお前から証言を引きだそうなんて思っていない。貴様程度の下っ端が口を割ったところでなんになる? それよりなら、情報士官たちに集めさせたほうがマシだ。もちろん彼らはラインハルトからの命令を受けて、重要な仕事をしているので依頼などしないが。
知りたくないのか? だから、要らないと。むしろ言うな、喋るな、口を開くな。そして良いこと教えてやろう。三日後にもう一度
地獄の苦しみを味わいながら、つぎの地獄が近づいてくる恐怖に怯えろ! 戦け! 腹減った!
「公爵夫人、そろそろ会場に向かわれたほうが」
分かったよギュンター。おーなーかーすーいーたー!
だがセクシーNo.3に負けるのは嫌だ。会場入りしたら、セクシーNo.3がわたしのことを見て、怯えだした。
なにを怯えているのやら。そして試合開始 ―― 地獄を見せるのは簡単だが、それにしても腹が減った。
この空腹を忘れさせてくれるほどの対戦相手でもなし……なにか別のことを考えてみよう。エルウィン絡みのモルト中将、死亡回避したいが、努力したキルヒアイスでも駄目だったしなあ。エルウィンは実父の
あの中将、ラインハルトに見捨てられ? 死ぬ時に「ヴァルハラではこっちが先輩だ。こき使ってやるから、覚えてろラインハルト・フォン・ローエングラム!」的なことを叫んで死んだ人だが、なあカルナップ中将さんよ、あんたこの世界でもラインハルトの先輩だよね。ラインハルトよりかなり早く生まれてきてたよね。ぶっちゃけ、ミュラーより年上だよね。でも家臣なんだよね。だからきっとあんたは、ヴァルハラでも後からきたラインハルトに易々と抜かれて越されて終わると思うよ。ふっ、それが現実さ ―― ヴァルハラでの出来事が現実に含めていいのかと問われると困るが。
はい、チェックメイト! 終・わ・り。
下男と元皇女は祖母の名誉が守られたと喜んでいることだろう。お土産なにを買って帰ろうかな。発つ前に欲しいものを聞いたら「御前さま・公爵殿の優勝を」としか言われなかったからな。何を買って帰っても喜ぶとはおもう……貴族の身分なんかを買わない限りは。あ、そうだ応援メッセージを書いてくれた元帥府の皆様方にも、買っていくか……。
優勝から二夜明けて ―― 昨日は優勝者インタビューとか、対戦相手と対談とか色々やって、ホテルを変えて一眠りして目を覚ましたら、わたし宛に冷凍耳朶(右)が届いた。
ただの冷凍耳朶(右)ならわたしに報告などしなかっただろうが、パッケージにちょっと問題があった。冷凍耳朶(右)が入れられていたのは、内側に天鵞絨が張られた大理石の箱で、蓋に
なので、わたしにも聞いてみなくてはならないとなったんだとか。わたしが見なかったことにしろと言ったら、それに従わなければならない ―― たしかにあの紋章がついてたら、あんまり触りたくないだろう。悪趣味な贈り物にうんざりだが、冷凍耳朶(右)のDNAを調べたところ、行方不明になっている情報士官のものだと判明。
いつのまに行方不明者が出てたんだ。
「勝負の邪魔になると考え、ご報告いたしませんでした」
勝負の邪魔にはならないが、報告もしてくれなくていいよ。別にわたしは指揮官じゃないから。司令官はエルンストだろ。喋ってるのは副官だが。
冷凍耳朶(右)は保存状態がいいので、情報士官の本体が見つかれば手術で元に戻るそうだ。本体が冷凍耳朶(左)とか人差し指(右)等ばらばらになっていない限りは。
送られてきた冷凍耳朶(右)が入れられていたケースに、番号が書かれたメモが入っていた。
どこの番号なのかなど確かめるのも面倒なので、そのままダイヤルさせたところ、セクシーNo.3の祖父の個人番号だった。
もちろんセクシーNo.3の祖父は直接出なかったが、
「ご足労願います」
ヴィジホンで秘書らしき男にそう言われたので ―― 断ったよ☆
なんでわたしが、セクシーNo.3の祖父に会うために、出向かねばならぬのだ。
秘書はわたしが断るなどとは思っていなかったらしく驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、冷凍耳朶(右)本体の安全が云々とほざいたが、知るか☆で、通信を切った。
冷凍耳朶(右)本体を見捨てるわけではない。
ただ交渉事は、自分の領地で行えと、曾祖父が常々言っていた。
相手の領域で、相手のペースに飲まれるようなことは避けろと。相手もそれを警戒しているから、自分の領域に引きずり込むことがもっとも難しい。それが出来たら、勝ったも同然だと。
それには納得したのだが、交渉の仕方については教えてもらえなかった。
意地悪だとか、見て覚えろだとかいうのではなく、教えて貰う前に曾祖父が死んだだけ。祖父は生前言っていた「親父さまの交渉力は凄かった。ほとんど魔術の域だった」とね。銀河帝国の門閥貴族全員を煙に巻いて皇太子の座を降りたくらいだから、そうとうなものだろう。
祖父は通常の交渉術はあまり得意ではなかったそうだ。だが暴力込みだと上手かったらしいよ。ただ比較対象が曾祖父だからであって、一般的には暴力を使わずともかなり上手かったらしいけどね。
そんな祖父から「交渉能力に関して、お前は親父さまによく似ている」とありがたくない褒め言葉をいただいたわたしが、祖父譲りのはったりと暴力でなんとかしよう☆
……というわけで、相手の誘いには乗らなかった。
ただでさえここはフェザーン、相手の庭のようなもの。その中で、相手の陣地に飛び込むなど ―― さて誘い出すために手を打つか。そのために箱を打つんだけどね。
冷凍耳朶(右)を大事に保管させ、箱は紋章の部分を叩き砕いてセクシーNo.3の祖父のところに届けさせた。
もちろん紋章はわたしが自ら砕いたよ。みんなゴールデンバウムに
お前は紋章壊していいのか? いいんじゃないかなー。一応、あの紋章を持つ家の末裔だから。逮捕されるような身内もいないしね。誰がラインハルト逮捕するんだよ。
ホテルに手術室を用意し、何時でも手術ができるよう軍医も用意。
そんなことをしていたら、セクシーNo.3の祖父が現れた☆足腰が弱っているらしく、電動の車いすを押されながら。先ほどの秘書にキャリアウーマン風の女性、あとは黒服護衛も付いている。
ギュンターは黒服護衛の武器を確認して没収しようとしていたが、それはしなくてもいいと指示をし、代わりにわたしの護衛兵たちに安全装置を外した銃口を向けるよう命令した。ギュンターは、
「公妃閣下のご命令に従え」
すげー良い表情で、安全装置を外して銃を構える。
黒服護衛たちも銃を構えようとしたが、セクシーNo.3の祖父がやめるよう命じた。こっちの武装? 解除してないよ。わたしなんか、無意味に剣を持って椅子に座ってるからね。剣はどこから? セクシーNo.3の祖父のホテルから持ち出しです☆
とりあえず偉そうに、超上から目線で「呼び出してやったことを感謝しろ、跪いてもいいぞ、でも年寄りだから座ることを許してやるよ。優しいわたしに感謝しろ☆」的なことを、それっぽい言葉使いで言ったら、セクシーNo.3の祖父、椅子から降りて頭下げた。
よし☆これで勝てる。
「お初にお目にかかります、第三皇女家当主閣下」
それは継いでないから、関係ない。
爵位を蔑ろにすることにかけて定評があったフリッツのじじい……じゃなくて、フリードリヒ四世が、わたしの誕生祝いにくれかけたらしいが、曾祖父が断ったそうだ。それに関しては良い仕事した、曾祖父G☆J。
シンドバッド賞に三回輝いた、セクシーNo.3の祖父が何か言おうとしたので、まずは手土産を寄こせ。早く治療したいんだ。本体を返せ、さっさと返せ、今すぐ返せ。ハリー、ハリー! ハリー! ハリィィー!
無事に情報士官(右耳朶喪失中)を手に入れた。
さあ治療してこい。感謝しなくていい情報士官、気にするな。困った時はお互い様だ。まあ、あまりキミのような任務についている者とお互い様したくはないが。
さて、あとはどうでもいい。セクシーNo.3の祖父ことシンドバッド(3)の昔話を、適当に聞いてやる。手土産の分は聞いてあげないとね☆
シンドバッド(3)の言ったことで知っていたのは、曾祖父と曾祖母の出会いと、第三皇女家の没落から血統が途絶えたことに関して。知らなかったのは、第三皇女家が所有していた領地を手に入れたのが、目の前にいるシンドバッド(3)だったということ。
「第三皇女家の領地をお返しいたします」
無料で領地をくれると言っているのだが、無料より高いものはないことくらい、世間知らずなわたしでも知っている。
なので居丈高にお断りした。丁重にお断りするんじゃなくて、居丈高に断って
「
そして感動のあまり、わたしに喧嘩売ってきやがった。
アレに似ているとか、宣戦布告してきたと解釈するぞ! ふざけるな! 覚えてろ、フェザーンの命数はあと僅かだからな! ラインハルトが滅ぼすからな! 元老院なんて解体してやるからな!
こうしてシンドバッド(3)との会談を終え、翌日から精力的に遊びに出た。わたしがこうして遊んでいる間に、情報士官たちは情報を集めるのだ。
わたしは奢られたり、貢がれたり、献上されたり、貢がれたり、奢られたり、貢がれたりを繰り返し、ラインハルトや下男から貰った小遣いを使うことなく、優勝賞金を使うこともなく豪遊した。
ここに至って、初めてわたしは我が公爵家の男たちが言っていた「俺は貢がれ体質だ」というのが分かったような気がした。
曾祖父も祖父も父さんも、なんか知らんが人に奢られるらしい。ものすごい貢がれる体質だったんだって。
曾祖父と祖父に貢いだヤツの一人が、フリッツ……じゃなくてフリードリヒ四世。彼が大公時代に作った飲みのツケの三分の一は曾祖父、もう三分の一は祖父のものだったとか。
もっともこれは、フリードリヒ四世が勘当を希望していたので、二人は協力しただけだとのこと。良いところまでいったのに、
本当かどうかは知らないけどね。
父さんは年代が違うので、フリードリヒ四世に奢られたことはないそうだ。
そう言えば前線で、父さんによく奢ってくれていた、年下の士官がいたと言っていた。
なかなかに見目麗しい青年士官で、実家は大金持ちで、少々人嫌いな感があり、取っ付きにくい鋭利な見た目だったが、話してみると面白かったそうだ。
そんな気むずかしそうな青年士官は貴族なのだが、平民の親友がいたのだとか。
別艦隊に所属しているので、会えないことも多かったそうだ。
青年士官の話を聞く分には、平民の親友は好漢で、一度は会ってみたいと父さんは言っていった。結局は会えなかったらしいけど。
青年士官が誰なのか? 生きているのかすら分からないが、平民の親友と仲良くしているといいな。そして今度わたしに奢ってくれないか? 現世じゃなくてもいい、ヴァルハラでもいいから、是非! そんなことを考えながら、帰国の途に就いた。